第3699話 殺し屋ギルド編 ――進展――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけで若干幸先悪い状況でのスタートになった改修作業の訪問調査だが、その後も幾つかの支部を回る事になるわけだが特に問題もなくという感じであった。そうして幾つかの町や町と町の間でトラブルに巻き込まれながらも順調に作業を進めていたカイトだが、ある大きな町の支部での作業を終えた後。おそらく殺し屋ギルドに雇われたと思しきゴロツキ達の嫌がらせに遭う事になるのだが、その騒動を終えた所でティナから連絡が入る事になり、彼はホテルで詳細を聞く事になっていた。
「よいしょっと……ティナ」
『うむ。ホテルに入ったな』
「おう……それで? もう一つの案件について進捗があった、という話だが」
『うむ……現在確定させるべくデータの解析作業は進めておるが、八割方確定として良いじゃろう』
「それはそれは」
おそらくどこかでサーバーをコピーされて情報を手に入れられているのだろう。カイトもティナもそう読んでいたのであるが、どうやら案の定だったようだ。
「受信からダウンロード、解凍指示まで逐一別信号でやった甲斐があるか。しかもいつ信号が送られるかも不定にしておいた。可能な限り向こうさんには妨害出来ないようにしたが」
『うむ……まぁ、どっちにしろダウンロードやらをやらねばデータは入手出来ん以上、向こうも拒めはせんな……とまぁ、それはさておき。そういうわけじゃから解析頑張っとったわけじゃが』
「もう全部の解析は終わったのか?」
『まーだじゃ。流石に数が多いし、全部の精査をやらねばならん。さりとて余がそっちに掛り切りになるわけにもいかんからのう。どーしても時間は掛かる。まぁ、それでも向こうの想定以上の速度で解析は出来ておるじゃろう』
言う必要もないが、ティナの技術力はエネフィアでも比較にならないレベルだ。それに追い付く事はまず無理だし、カイトの帰還を想定していても彼女の帰還まで想定出来ている事は可能性として低い。必然として対応は出来ないだろう、と考えられていた。というわけで少し時間は掛かっていたものの想定通りの結果を受けて、カイトは本題に入る事にする。
「それで? 今まで掛かったって事は小支部からパクられてたパターンか?」
『そうじゃな。大支部、中支部は流石にパクれんかった思われる……そこらは基本、ユニオン本部直轄の連中による立入検査も多いからのう』
「支部に入るか支部を拠点とするかは違うが、か」
『まぁの。そこで下手に偽物やらを置いてしまえばバレる可能性は高い。ならば色々と緩い小支部に白羽の矢が立つのは必然じゃろう』
「だな」
カイトが思い出すのは一番最初に訪れた小さな村のユニオン支部だ。先にも言われているが、冒険者ユニオンの活動はほぼほぼインフラにも等しい。
なのでよほどの僻地にならない限りはどんな小さな村でも支部があるわけだが、やはりそういった村ほど職員の間での引き継ぎは上手く行われないようになっていく。
更にはそういう僻地にユニオン本部直轄の冒険者や職員が来る事は稀で、良く似た偽物を置いても発覚は遅れる事になっていた。というわけでそんな中の一つに、今回コピーされた偽物があったようだ。
「で、どこなんだ? 奴らの偽物が設置されたってのは」
『グルヴァンという村は知っておるか?』
「知らんな。ウチ……いや、皇国か?」
『違うわな。皇国やらの小支部は珍しいとはいえ僻地でも腕利きの冒険者が訪れる可能性は高い。彼奴らも流石に避けたようじゃ。一応、エネシア大陸ではあるがかなりの僻地の小支部じゃ……ま、それはどうでも良い。偽物であれ本物であれ、そこにサーバーが置かれている事に間違いはないからのう』
「後でサーバーそのものが本物か偽物か調べるとしても、とりあえず使える事に間違いはないか」
とりあえず使えるのなら問題はないし、偽物が置かれている可能性を鑑みてティナは一応偽物でも使えるようにしている。
そしてカイトが一番最初の支部で言っていた数週間後にもう一度訪問がある、というのは本物か偽物か調べる事が真の目的であり、そこで偽物と判断されれば色々と取り繕って本物を手配させる事にしていたのであった。もちろん、それが再度盗まれたりしないようにきちんと対策を施した上で、だが。
『そういうことじゃ……なので重要なのは、もう一つのデータがどこから発信されたか、という点じゃ。とどのつまりコピーにせよ本物にせよ、もう一台分のグルヴァン支部のデータが発信された場所じゃな』
「どこかでデータの混同が生じた可能性は?」
『それはあり得るので今解析を行っておる、というわけじゃ』
「だろうな……で、もう一つのデータの発信場所は?」
『ラグナ連邦北部。ドゥリムという地方じゃ』
「ドゥリム? 僻地も僻地。ど僻地じゃねぇか。国境沿いではあるが、山林が多すぎて開発の目処も立たないような場所だ。それこそコレットの地元より僻地だろ、あそこは。コレットの地元はまだ平地でのどかな、という所だからな」
確かに隠れ家を置くのならうってつけの場所ではあるが、それにしたって色々と不便だろう。カイトは ラグナ連邦の地図を頭に浮かべながら、顔を顰めていた。ちなみに現在俎上に載せられている秘書室のコレットの地元だが、ドゥリムという地方からは少し遠いらしい。
『じゃが隠れ家には丁度良かろう? 今三角測量などを用いて場所の特定は急いでおるが、おそらく僻地の中でもなにもない場所に施設を拵えた可能性が高い』
「飛空艇が接近すりゃ気付けるし、馬車やらが通りかかる可能性もまずない。調査が入りゃ速攻でバレるか……しかもあの僻地だ。どこかが本気で何か調査はやらんだろう。形ばかりの調査やらだろうから軍部やらの情報も抜きやすいだろうな」
『そういうことじゃな……おそらくラグナ連邦を筆頭に近隣諸国のデータも色々とぶっこ抜いてる可能性は高い。ここを潰せれば色々と各国に感謝されるじゃろう』
「表向きはな……さて、そうなりますと」
『うむ……お主の出番じゃ。おそらく明後日には詳細な場所が掴める。頼めるな?』
「あいよ」
カイト自身が言っている通り、僻地過ぎて馬車やら飛空艇やらが通りかかる事はまずない。そんな中で秘密基地だかに一直線に近付く飛空艇があれば即座に気づかれるだろう。
ならばカイトがエドナ単騎で接近し、潜入。ソレイユ達の支援で一気に攻め落とすのが最善だった。というわけでカイトはここからが本当の本番と楽しげに笑いながら、今日は休む事にするのだった。
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