第3694話 殺し屋ギルド編 ――更新――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけでユニオンマスターのバルフレアを筆頭に各所の足並みを揃えるようにカイトもまた暗躍を重ねていたわけだが、その甲斐もありある程度の準備が整う事になっていた。
そうして準備を整えデータ送信が開始された一方で、カイトは公的な冒険部ギルドマスターとしての立場から、その手伝いの依頼を受領。中支部と小支部を回る事になる。
というわけで彼はエドナを横に乗せて、バイクをかっ飛ばして数日。彼はマクスウェルから100キロほどにある村にあるユニオンの支部にて最初の作業を終えてティナと連絡を取り合っていた。
「やっぱりオレで半日プラスちょっとだ。こりゃ、他は一日掛かりの作業になりそうだぞ」
『むぅ……やはりそうならざるを得んかのう。まぁ、最短半日は掛かると見ておったのは間違いない。システムチェックにどうしても待ちが生ずるのは道理じゃしのう』
「そうだな……まぁ、こっちとしても夕方出発は避けたい。それらを考えりゃ、逆に一日掛かる方が有り難いは有り難いか」
『そうか……それで作業そのものはどうじゃ? 他の所より一日早く作業出来るようにやっておったが』
「そっちは手順書通りで問題はなさそうだ。まぁ、ホコリまみれ程度はあり得るだろうが、サーバー紛失はないだろう。コピられてる、って可能性はあるだろうがな」
今回は実際の作業という事で、カイトは念を入れて自身の経験ではなく手順書に完全に従う形で作業を進めた。まぁ、テストの時にもやったが、今回はテスト環境ではなく実際に使用している環境だ。想定にない状況は十分にありえたので、手順書通りで対応出来るか試していたのであった。
『そうじゃのう……そこいらを調べるための今回、という所でもあるし』
「まぁな……で、そっちは逆にどうだ? 九分九厘本物だろうが、偽物やらコピー品もどこかに混ざっているだろうからな」
『解析中じゃ。データ量が莫大過ぎるからのう……とはいえ、数日先行して作業を開始した大支部、中支部も有名な場所は確定で大丈夫っぽいかのう』
「まぁ、そこに手を出されりゃこっちも気付くか」
やはり後になればなるほど調べる量は増えてしまい、時間は掛かる。というわけで今回優先してマクスウェルの支部などの重要拠点と位置付けられている支部をアップデートしていた。余裕も時間もある間に問題ない事を確定させ、その他に余力を回すためだ。
『そうじゃな。手を出されて困る所に関してはこっちも目を光らせる。殺し屋ギルドのスパイは入り込むかもしれんが、情報を抜くために端末にちょっかいは出さんじゃろう』
「そうか……あ、そうだ。ふと思ったんだけど良いか?」
『なんじゃ?』
「端末に何か変な装置を外付けして、そこから抜くとかって出来ないのか?」
『それか。それは当然じゃが対処しておるよ。そも、今回情報端末をサーバーに外付けするようにしたのはそこらもある。まぁ、なくても良かったがのう。そこらは万が一データが届いていなかった場合も含め、必要じゃったからという所じゃが』
カイトの問いかけに、ティナは今回の準備の一端を語る。
『どうしてもデータを抜くとなると、端末に何かしらの装置を接続はせねばならん。非接触でデータを抜けるのならどこかにアンテナやらを立てておる事になるから、逆にシステムが変更になった事で抜けんようになる。そこらの小規模なアップデートは元々やっておったとの事じゃから、向こうもそれはやっておるまい、という判断じゃ』
「何かしらは繋げないとアンテナを立てても抜けないようにはなっている、というわけか」
『そういうことじゃ。で、そこらの送信のログも今回送らせておるし、外付けで接続された装置のログも送らせておる。よしんば今回の作業に合わせて回収されておったとて、年内に接続しておったら手遅れじゃ……ま、ここらは余が三百年前の時点で組み込んでおったから、対処は出来んじゃろう』
「話も出ていないのに外すわけもない、か」
『そういうことじゃ』
今回の大改修が決まったのは数ヶ月前だが、最低でもその時点からログは取れているというわけか。カイトはティナの言葉からそれを察して、少しだけ笑った。
「まー、向こうさんの誤算としゃ、こんなペースで大改修が出来るようになるとは露にも思っちゃいないって所か」
『そりゃそうじゃろ。本来こんな大改修、総会で話し合って決めねばならん事じゃ。それを殺し屋ギルドに横槍入れられた、と遠征に対する準備でゴリ押ししたというのはバルフレアの手腕の見事さという所ではあろうな』
おそらく総会で話し合っていれば殺し屋ギルドも万全の準備をして、居場所を察知されないように出来ただろうな。カイトは今回の拙速とも言えるほどの速度で決まり、作業に及んだ大改修に対してそう考えていた。だがその結果、殺し屋ギルドは大改修に対して禄に情報も抜けず、調査もままなっていなかったわけだ。
「まぁ、八大の長達は全部承諾してたし、ユリィの承諾もあった。中堅規模のギルドも幾つか同意を取ったって話だし、過半数は同意を得れたという所か……バーンタインも協力したって話だし」
『あそこは最大規模のギルドじゃし、同盟や傘下に収めたギルドも多い。頭が同意すりゃ下も同意する。八大が承認した時点で道理じゃったんじゃろう。工房やらは今回改修作業に協力しておる側じゃしのう』
「だな……その結果、殺し屋ギルドは無理と無茶は承知で動かにゃならんようになったわけだ」
『そっち、どうじゃ? こっちじゃやはり他の所でも動きが報告されておる』
「あ、やっぱり?」
『当然じゃろう。今頃上は戦々恐々状態かもしれんな』
楽しげなカイトの問いかけに、ティナもまた楽しげに笑う。ここまで大規模に殺し屋ギルドが暗躍しているのは非常に珍しい。そう言われるぐらいには、かなり大規模な動員が掛けられているとの事であった。
「そうか……だがこれなら大幹部レベルが主導していそうだな」
『じゃろう。おそらく今回の一件、彼奴らは場当たり的な対処を綱渡りでやらねばなるまい。どこかで情報が抜かれる事は承知の上。それでもやらねばなるまい』
冒険者ユニオンと殺し屋ギルドは完全に敵対関係だ。しかも殺し屋ギルドはその性質上非合法組織だ。敵対組織の情報が数ヶ月、下手をすると年単位で手に入れられなくなる、というのは非常に困るだろう。動かねばならなかったし、動くしかなかった。
「ま、情報は血液も一緒だ。ないと身動きは取れん……ああ、それでオレの方だな。ばーっちり監視来てるぞ。こりゃまた来るな。完全に憂さ晴らしのパターンになってるかもしれん」
『それはそれは……ご愁傷様じゃな』
「どっちに向けて言ってる?」
『そりゃ憂さ晴らししようとしてる側じゃ。お主がその程度でなんとかなる奴ではあるまいて』
なにせ勇者カイトだ。その前提で進めるのならまだしも、多少の捨て駒ならば意味なぞなかった。
「ま、明日は野営だし草原で一泊予定だからそこらかな。捕まえるかどうか、とかは適当に考えるわ」
『そうか……まぁ、今日の所はこんな所じゃろう。どちらかと言えば明日からがこっちも本番という所じゃからのう』
「それもそうか……ああ、そうだ。アイギスの方はなんて?」
『ああ、そちらか。そちらは今のところ問題ないという事じゃ。護衛としてホタルも出しておるから、姉妹仲良くしておるみたいじゃぞ』
「そうか。そりゃ結構」
データの解析はマクスウェルのマクダウェル公爵邸地下の研究所で。データの送信そのものはリーナイトから。少し面倒ではあるが、今回設備などの関係でこういう形を取っていた。なのでデータ送信やら受信に関してはアイギスがリーナイトで作業を行っていたのであった。
というわけで、その後も少しティナとの間で情報共有と報告を交わして、カイトはこの日はゆっくり休んで明日からの旅路に備える事にするのだった。
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