第3693話 殺し屋ギルド編 ――更新――
各国の暗部に蔓延り、各所で暗躍を重ねていた殺し屋ギルドという闇ギルド。それに対して昔から何度となく暗闘を繰り広げていたカイトであるが、そんな彼は自身を狙う暗殺者を捕縛した事。それに端を発する冒険者ユニオンの大改修を利用して、殺し屋ギルドへの一大攻撃を計画する。
というわけでユニオンマスターのバルフレアを筆頭に各所の足並みを揃えるようにカイトもまた暗躍を重ねていたわけだが、その甲斐もありある程度の準備が整う事になっていた。
そうして準備を整えデータ送信が開始された一方で、カイトは公的な冒険部ギルドマスターとしての立場から、その手伝いの依頼を受領。中支部と小支部を回る事になる。というわけで彼はエドナを横に乗せて、バイクをかっ飛ばしていた。それから数日。彼はマクスウェルから100キロほどにある村にあるユニオンの支部を訪れていた。
「……」
カタカタカタ。カイトは手順書に従って冒険者ユニオンの受付にあるコンソールを叩いていた。そんな様子を見て、受付の女の子が問いかける。
「大丈夫そう……ですか?」
「そうですね。アップデートそのものは昨夜の間に正常に完了しているみたいです。コンソールの操作についても問題なさそうですし、使用そのものについては問題ないかと。後のシステムチェックについては今確認中です」
「そうですか……いやー、それあんまり使わないんですよ。一応先任の人から言われた通りそこに置きっぱなしにしてますけど……そういうものだったんですね」
あははは。受付の女の子が恥ずかしげに笑う。どうやらこのサーバーのような端末がなんのためにある物かわかっていなかったらしい。そんな彼女の言葉に、カイトもまた笑う。
「あはは。そうですよね。普通は使わないし、使わないための受付ですからね」
「あははは。そうなんですよー。だから誰も教えてくれなくて。何なのかなー、ってみんな思ってたりするんです」
やはりこういういい加減な所は冒険者の組織だな。カイトは恥ずかしげに何処かで情報の失伝が起きてしまっていた様子の受付の女の子の様子からそう思う。というわけで彼女の見守る中、カイトは手順書の作業を更に進めて自分の登録証を専用の認証端末にかざす。
「……良し。現在地更新問題なし。次は……依頼の完了報告確認か。ああ、後は中途報告もだな」
ユニオンにとって重要なのは現在地の更新より依頼の受領と完了報告だ。あくまで現在地の更新はユニオン側が万が一何かが起きた場合に探すための手段に過ぎない。
ちなみに依頼の完了報告と現在位置の登録情報の更新は本来同時に行えるものだし行うものなのだが、今回はテストとチェックという事で別々にチェック出来るようになっていた。
「居場所更新無しで依頼の完了報告って出来るんですか?」
「出来るみたいですね。手順書にそう書いてるので……良し。登録証情報確認……パッケージでデータ送信……良し。後は待つだけか」
「へー……」
カイトの返答に受付の女の子が少しだけ驚いたような表情を浮かべる。どうやら普通の手順ではなかったらしい。というわけで、そんな彼女にカイトは中支部へ送った情報の応答待ちで待ちが生じたので答えた。
「まぁ、でもだから普通の手順じゃないらしくて。それでオレ達みたいなのが各所を回って、そこらの基本的な機能が問題ないかチェックして回ってるんですよ」
「はぁ……私達も知っておいた方が良いんですかね」
「必要ないと思いますよ。そもそも依頼の完了報告と現在位置の更新は同時に行えるようになっていますからね。それに依頼の完了報告において誰が依頼を完了させ、どこでそれが報告されたかは必須の事項だ。なのでシステム的にも一緒に報告されるようになっている……と聞いています」
「ですよね」
良かった。カイトの返答に受付の女の子はどこか安堵するように胸を撫で下ろす。そうして話している間に、中支部からの応答が帰ってきた。
「よし……全システムオールグリーン。中支部からの応答確認……これで最後は新機能のチェックと」
「新機能?」
「ええ。ああ、そうだ。そういえば……今回のアップデートで変更された箇所に関する資料です。明日の再開に備えて、一読をお願いします」
「あ、わかりました。結構多いんです?」
「私もそこまでは知らないです。単に言われた通り操作してるだけなので」
「あー……そうですよねー。私もそうですし」
様々な仕事が舞い込む冒険者ユニオンだが、依頼の受発注に関してやっていることは同じだ。なのでこういう小支部にまでなるとただ教わった通りにやるだけで、その作業が何を意味するかわかっていない者も少なくなかった。なお、当然だがカイトはわかっていないわけではなく、単に一般的な冒険者を装うために知らぬふりをしているだけである。
「よし。緊急プロトコルの送受信完了……神殿都市担当者どうぞ」
『こちら神殿都市。送受信確認しました。システム終了して大丈夫です』
「え?」
「よし……ああ、出力の関係で短時間だけですが、通信可能になったみたいです。専用のヘッドセットを接続しているので、万が一緊急事態があればこれを使って付近の中支部へ連携出来るようになっています」
「はー……」
そんな新機能が追加されたのか。受付の女の子はカイトから指し示された小型のヘッドセットを見て驚いた様子を露わにする。出力の関係、というのは魔導炉の関係だ。
どうしてもこういう小支部に設置されている魔導炉は小型の物だ。なので付近の大支部や中支部に向けて大きなデータを送信するには出力が足りないのだが、一時的なら出来る程度にはある。なので一時的に緊急連絡が可能なようなシステムを整えたのであった。というわけで新機能やらアップデートされた機能やらをチェックして、およそ半日。おおよその検査は完了する事になる。
「……良し。これで全体的なシステムチェックは完了です。一応問題ないはずですけど、もし万が一問題があったらこの緊急通信のシステムを使って連絡をください。それも無理な状況にはならないとは思いますけど……一応再来週、再度ユニオンが人を派遣すると聞いてます。それに報告してください。それで問題なければ、もう問題なしと考えて良いかと」
「わかりました。ありがとうございます。あと、作業お疲れ様です」
「あ、ありがとうございます」
どうやらお茶を用意してくれていたらしい。カイトは差し出された紅茶をありがたくいただく事にする。そうして彼は最初の更新作業を終えて、小支部を後にするのだった。
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