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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3686話 殺し屋ギルド編 ――突破――

 かつてカイトが拿捕した殺し屋の一人ジェレミーという少年の別人格デュイアが殺し屋ギルドの暗号を知っている事を掴んだカイト。彼はデュイアへの対価として『陰陽石(いんようせき)』という特殊な魔石を求めて、瞬を連れて中津国にある『光闇山(こうあんさん)』という特殊な山へと訪れていた。

 というわけで幾つかのエリアを踏破した後。二人は『黄泉白人(よもつしらひと)』という迷宮(ダンジョン)のボスとの戦いに臨んでいた。


「っぅ」

「ほらよ!」

「すまん!」


 戦闘の主体はやってみろ。そう告げたカイトの言葉通り、基本的な戦闘は瞬が行っていた。だがこの『黄泉白人(よもつしらひと)』の厄介な点の一つとして、霊体にも似た直前まで触れられないほぼ不可視かつ逃げようのない透明な手があり、瞬はそれにより攻めきれず苦戦を強いられていた。というわけで今も掴まれ防御に失敗しそうになった所でカイトが矢で彼の身体を吹き飛ばして、その直撃を防いでいた。


「ふぅ……どうすれば良い」


 どうにか手はあるはずだ。乱れた呼吸を整える瞬はカイトが先程から『黄泉白人(よもつしらひと)』の攻撃を防ぐではなく、意図的に自身を射つ理由が何かあるはずだと考えていた。


(そもそもあいつの攻撃を受けた瞬間、奴の腕の拘束も途切れている。つまりカイトは何かしらの技で腕の拘束を無力化しているということだ)


 ならばその何かを見つけ出す事が『黄泉白人(よもつしらひと)』を攻略する上で肝要な事なのだろう。瞬はカイトの行動からそう推測。呼吸が整うまでの数瞬で更に考えを巡らせる。


(流石に退魔師や除霊師という特殊な力は使っていないはずだ……使っていない……よな?)


 自身の攻撃への妨害にいきり立っているらしい『黄泉白人(よもつしらひと)』の攻撃をぴょんぴょんと舞うように跳び跳ねながら回避するカイトに、瞬は内心で僅かにドン引きする。自身は対処に苦慮している霊体の腕はまるで彼に触れるだけで掻き消えており、どういう原理かさっぱり不明だった。


「むぅ……」


 一体全体どういう原理であんな簡単に逃げているのだろうか。瞬はカイトの軽業に顔を顰める。と、そんな彼の脳内に声が響いた。


『ヒントやろうか?』

「……すまん。貰えると非常に助かる」

『あはは……そうだな。基本の対処法は二つ。片方は霊体と言えど触れる瞬間には実体化する事から対処する対処法。この難点はほぼほぼ限界ギリギリのタイミングで対処した上で敵の攻撃、ないし敵の離脱を防がにゃならんという事』

「なんとか俺でも出来そうではあるが……」

『それに失敗してるのが現状だろ?』

「そうなんだよなぁ……」


 カイトの指摘に瞬ががっくりと肩を落とす。確かに原理的にはカイトの言う通り実体化する瞬間に対処して、その上で敵の攻撃や離脱に対処出来れば問題ない。だがそんなものが出来るのはカイトのように圧倒的に格上ぐらいだ。


「……まさかそうやっているのか?」

『まさか。勉強にもならん手をやって何になるよ』

「そりゃそうだ」

『だからもう一つの対処法だ。霊体そのものを弾き飛ばすやり方だな』

「だがそれこそそんなものはアリスやソーニャなんかの特殊能力に類する者ぐらいしか出来んだろう」


 だからこそソーニャは対処に困っているわけだし、アリスは学生の身分でありながらも時折その才能を見込まれて公務を与えられていたというのだ。現に今だってそこらがあって準騎士という身分が与えられてこちらに出向してきている。というわけでの瞬の問いかけに、カイトは笑った。


『切ったりダメージを与えようとすれば、確かにアリスとかみたく霊体にも力を与えられる才能が必要になる。だが霊体を弾く程度なら別に不可能じゃない』

「そうなのか?」

『そうだ……さて、ここからがヒントだ。霊体は魂だ。魂とは形がない。だから普通は触れられない。だが先輩も知っての通り、クー・フーリンを筆頭にした英雄達は一度死んで肉体を失っている。だが今もまた生きている。何故か』

「は?」


 全く変な問いかけが出てきたぞ。瞬はカイトの問いかけに思わず目を見開く。


「ま、待ってくれ。流石にコーチに何故再誕を選ばれたか、なんて聞いてないぞ」

『……すまん。聞き方が悪かった。どういう原理で今も生きているか、という話だ』

「あ、あぁ、そういうことか……それならあれだろう? 生前に得た魔力があまりに強すぎて、魂に宿った魔力が魂に肉付けしてしまう、とかなんとか。そしてそういう人たちは死神達も基本は手を出さず、逆にしっかり保護するとかなんとか」

『後半は必要なかったが……そういうわけだな。ま、つまりはそういうことだ』


 そのまま死ぬか生き直すかは、その人の自由。かつてカイトからそう聞いた事を瞬は思い出す。とはいえ、そんなことは今は関係ないらしい。なので彼は困惑気味にカイトへと問いかける。


「……いや、だからなんなんだ?」

『奴がやっていることはそれと似たようなものだ、ってわけだ。もちろん、英雄達のやっていることに比べりゃ比べ物にならんほどにお粗末なもんだがな』

「それは……まぁ、そうだろうが」


 自身が苦戦を強いられている『黄泉白人(よもつしらひと)』だが、対処が困難な霊体の手を除けばせいぜい自身と同等か少し下ぐらいだろう。瞬は改めて『黄泉白人(よもつしらひと)』を見つめ直し、そう判断する。


『だからそういうわけだ。ま、後は考えろ』

「あ、あぁ……」


 とりあえずそこに対処法が存在しているらしい。瞬はカイトの助言に僅かな時間、思考の海に沈み込む。


(そもそも何だ? 何故カイトはあんな事を言いだしたんだ?)


 何故あんなヒントを出したのか。瞬はまずそこを考える。だがその意味はすぐに理解出来た。


(……そうか。霊体の腕だと触れられないから実体化させているわけで、その実体化は当然だが魔力で受肉しているわけか。だが攻撃した所で本体は霊体だから、本体を撃破しない限りはすぐに元通りになるわけか)


 実のところ、瞬は何度か霊体の手への攻撃を試していた。ここらは実は瞬が魔力で槍を編める利点の一つで、自身の魔力で編んだ槍を器用に操れば自分には命中させず敵だけ突き刺す事が出来た。

 そして実際突き刺す事は出来て一度は難を逃れられたが、結局はまた霊体の手が現れて足首を掴まれてまた妨害を受ける事になっていた。と、それを思い出して瞬が僅かに目を見開く。


(……ん? そうだ。もし実体化の瞬間に槍を先に置いておければ……いや、そういうことか!)


 カイトの助言の意味を理解して、瞬の顔に笑みが浮かぶ。そしてそれを見ていたのだろう。それとほぼ同時に、カイトが彼の真横に舞い降りる。


「理解したか?」

「正解なら、良いんだがな」

「ならやってみろ」

「おう!」


 カイトの言葉に瞬が再び槍を構えて応ずる。そうして、カイト目掛けて突き進む『黄泉白人(よもつしらひと)』に向けて彼の方が激突する。


「はぁ!」


 自身とカイトの間に割り込んだ瞬に、『黄泉白人(よもつしらひと)』は再度標的を改める。そうして振るわれる爪に対して、瞬は即座に槍を合わせて迎撃。数度のやり取りの後、自身の不利を悟った『黄泉白人(よもつしらひと)』がその場を離れようとした。


「っ」


 来る。瞬は霊体の手が自身に向けて放たれると今までの経験から推測する。そしてその瞬間、彼は総身に魔力を纏わせて、高密度の魔力の膜を生み出した。


「はぁ!」


 どんっ。瞬が高密度の魔力の膜を展開して、地面を強く踏みしめる。いつもならこの瞬間に霊体の手が現れて彼の足首を掴み、行動不能にするはずだった。だがしかし今度は魔力の膜に阻まれたのか霊体は実体化出来ず、瞬は動きを阻害される事なく一歩を踏み出せた。


「はぁああああ!」


 一気に決めきる。瞬は霊体の手に阻まれる事なく突き進めた事に獰猛に笑いながら、一気に決めきるべく逃げようとする『黄泉白人(よもつしらひと)』へと突っ込んでいく。そうして、彼は一切の容赦なく真紅の槍を手元に呼び寄せ、その純白の肉体へと突き立てた。


「奪い尽くせ!」


 瞬の命令を受けるやいなや、槍の穂先から禍々しい真紅の輝きが放たれる。そうして数秒にも渡って真紅の輝きが放たれて、『黄泉白人(よもつしらひと)』を完全に飲み込んでその姿を完全に消し去った。


「……ふぅ」

「正解だ。まぁ、流石に英雄達ほどの強度があったら無理だが、あの程度の雑魚なら高濃度の魔力の中には霊体のままは突っ込めない。実体化した状態なら行けるが、実体化していない状態だからこうなっているというわけだな」

「なるほどな……更にタイミングがわからないでも破れかぶれで高濃度の魔力を膜のように纏えば、運が良ければ実体化前にも弾けるか……まぁ、常時纏うには厳しいが」

「だろうな。流石に魔力を使い過ぎる」


 瞬の述べたデメリットにカイトも一つ頷いて同意する。というわけでやってくるとわかった場合の対処法の一つではあった。と、そんな事を話していると二人の眼の前に渦のように『転移門(ゲート)』が現れる。


「さて、少し休んだら行くぞ」

「いや、大丈夫だ。幸い何度か休憩は挟ませて貰ったからな」

「そうか……じゃあ、行くか」


 確かに思ったより呼吸は乱れていないな。カイトは瞬の様子から空元気などではないと判断。先へ進む事にする。とはいえ、最後のボスも倒したのだ。最後に残っているのは、宝物庫だけであった。


「……ふぅ。ん? あれは……」

「お。初手であたりを引いたか。ラッキーだな」

「太極図……? いや、石だから……なんだ?」

「あれが『陰陽石(いんようせき)』だ」


 宝物庫の中央にあったのは、5センチほどの大きさの球体だ。それが二人が求めている『陰陽石(いんようせき)』だったらしい。


「人工物っぽいが……違うのか?」

「多分人工物じゃない……が、流石にわからんよ」

「そうか」


 中央の台座に乗っていた『陰陽石』を専用の小袋に収めて、カイトが瞬の問いかけに笑う。そうして『陰陽石(いんようせき)』とその他幾つかの宝物を手に、二人は迷宮(ダンジョン)を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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