第3683話 殺し屋ギルド編 ――黒い建物――
かつてカイトが拿捕した殺し屋の一人ジェレミーという少年の別人格デュイアが殺し屋ギルドの暗号を知っている事を掴んだカイト。彼はデュイアへの対価として『陰陽石』という特殊な魔石を求めて、瞬を連れて中津国にある『光闇山』という特殊な山へと訪れていた。
そうして『光闇山』にたどり着いた二人だが、目指すのは山頂ではなく麓にある迷宮だった。というわけで迷宮の中を進む二人は数度の戦いを経て草原エリアを脱出する事になっていた。
「そうか。太陽じゃなかったのか」
「まぁ、そういうことだな」
太陽を目指して進め。そう告げたカイトだが、どうやら太陽というのはそう見えるから太陽と口下ようだ。近付くにつれ段々と大きくなっていく太陽に瞬は少し困惑するも、カイトが楽しげだったのでこれが正解と理解。完全に近付いた所で何かを理解するに至っていた。
「こいつが次の階層への出口ってわけだ。ある意味優しくはあるかもな。どこからでも見えるから」
「確かにな……逆に気付かなかったら延々うろちょろと歩き回るから、危険だったかもしれんな。かなり歩いたような気もするし」
「そうだな……だから冒険者達の間じゃ、道に迷えば朝日を目指して進め、っていう格言がある」
「ウルカでも言われたな。もし迷ったら朝日を目指せって。で、川にたどり着いたら下流を目指せ。上流は絶対に目指すなって」
「そうだな。上流は山になっている事が多い。山麓に村や町がある可能性は確かにあるが……山にたどり着いちまったら悲惨だ。下流を目指せってのはそういう所がある」
ウルカでもそう言われたな。瞬はカイトの語る冒険者の鉄則を聞いて、そんな事を思い出す。というわけで二人は改めて目の前に落ちてきた太陽ならぬ白い穴を見る。
「おしゃべりはこのぐらいにして、次に行くか。まだ先は長いからな」
「ああ」
カイトの提案に瞬は一つ頷いて、彼と共に白い穴に向けて歩きだす。そうして数歩歩けば、再び周囲が真っ白に包まれた。
「っ……ここは……」
「白の次は黒か……まぁ、半々の確率だから当然か」
「ああ、別に白黒白と交互になるわけじゃないのか。目が痛くなくて助かるが」
「あはは……そうだな。白い草原の後に真っ白な建物に出る事もある。今回は真っ黒な建物だったが……ああ、それと。別に草原、建物の順番というわけでもない。草原草原、建物建物と連続する事もあるし、洞窟という事もある。そこらは曖昧だな」
草原を抜けた先にあったのは、少し前にカイトが語ったどこかの建物の中だ。ただし二人が話すように真っ白ではなく真っ黒で、延々と通路が続いているような場所であった。
「それで。ここは部屋を虱潰しに開けていけば良いんだな?」
「まぁ、概ねそうだな……ただ注意しないといけないのは、不正解の部屋も幾つかパターンがあってな」
「不正解のパターン? 何もない、というわけじゃないのか?」
「そうだ……まぁ、こんなに部屋があってなにもない部屋が延々というのも不思議な話だろ。それはそれでホラゲーっぽくて面白いかもしれないけど」
「現実にホラーゲームの要素を求めても、か」
少し楽しげなカイトの言葉に、瞬も確かにそんなゲームのような要素を取り入れられても反応に困るとしか言えなかったようだ。というわけで少しだけ肩を震わせた二人だが、気を取り直してカイトが告げた。
「不正解の部屋は悪い所だと魔物との交戦、良い所だと宝部屋。なにもない部屋もある」
「……それはそれでゲームじゃないか?」
「まぁ、考える事は一緒、という所なんだろ。まぁ、それは良いんだ。兎にも角にもそういう事だから、不意打ちは食らわんだろうが下手を打つと痛い目に遭う。開ける前にしっかり準備は整えろ」
「わかった……あ、そうだ。逃げる事は出来ないのか?」
「逃げた所で追われながら次の部屋を開けるのか?」
「あ……」
カイトの指摘に瞬がはっとなって目を見開く。確かに彼の言う通り、正解を見つけ出さない限り扉を開けてを繰り返さねばならないのだ。何度目に正解にたどり着くかわからない以上、運悪く不正解を引き続ければ最悪魔物の群れに取り囲まれるという事態さえ引き起こしかねなかった。
「ということは不正解で魔物が居る部屋を引き当てた時点で戦わないと駄目なのか」
「一つ一つ倒した方が確実だろうな」
「だな……良し。じゃあ、開けてみるか」
おおよそのルールがわかった事もあるし、一度開けてみて後は考えるか。瞬はそう考えてドアノブに手を伸ばす。と、そんな彼がドアノブに触れる直前、ふと止まってカイトの方を振り返った。
「……なぁ」
「なんだ?」
「まさかデストラップとかはない……よな?」
「ああ、流石にそれはない。開けたら即死は流石にこの難易度の迷宮では見た事はない……聞いた事もない。いや、ぶち当たった奴は死んじまうから聞けることはないんだろうけど。極小の可能性を引き当てればあり得るかもしれないけどな」
「どちらにせよお前は見た事も聞いた事もないほどの極小の確率というわけか」
流石にそうなると不安視するだけ無駄か。瞬はカイトの言葉に安心して、改めてドアノブにてを伸ばす。
「……」
一瞬だけ呼吸を整えて、瞬はぐっと扉を引いて開ける。
「……ふぅ。なにもない部屋か」
「不正解だな」
「ああ……扉は閉めた方が良いのか?」
「そこ気にする?」
「いや……まぁ、なんとなく」
迷宮だ。別に開けっ放しでも何ら問題ないが、何が起きるかわからない事もあり瞬は気になったらしい。が、カイトの反応に少し恥ずかしげで、確かに聞く事でもなかったかと今更自分でも思ったようだ。
「まぁ、どっちでも良いんじゃないか? オレは癖で閉めてたけど……急いでいる時だと開けっ放しとか魔糸で一気に開けてという事もするから、どちらでも良いと思う。倒しそこねた部屋から魔物が出てくる事はあっても、なにもない部屋から後から魔物が湧いて出る、という話は聞いた事がないしな」
「お前だから出来る事だな……とはいえ、確かにこれだと一つ一つやっていると時間が掛かりすぎるか」
一つ開けて中を確認、というのは当然だが時間を要する。なのでカイトのように何体でも相手に出来る戦闘力を持っているのなら、魔糸で一気に複数の扉を開けて中を確認するのが一番手早くはあっただろう。
「別々に行動した方が良いか? ちょうど両側にあるわけだし」
「それだともしオレが見付けられなかったら延々オレは進み続ける事にならんか?」
「あ」
カイトの指摘に瞬は思わず目を見開く。先に言われている通り、カイトの方が圧倒的に速いのだ。どちら側に正解があるかわからない以上、迂闊に片側だけを開けていく事も難しかった。というわけでカイトは少し笑いながら、瞬へと告げた。
「まぁ、時間に関しては気にするな。どちらにせよここは一日に一回しか挑めん」
「そうなのか? 二度目は……いや、戻りも考えればかなり厳しいか」
「まぁ、そこらもあるな」
小屋からここに来るまでにも一時間ほど要しているのだ。戻りも同じだけ時間を掛けねばならない事を考えると、長居は出来ない。更にそこから榊原へ帰る事も考えれば、確かに一日に一度が限界だった。
「とはいえ、そう言ってもちまちま一つずつやる意味もない。もう片方はオレも手で開けていくから、同時に両方を調べていく形で良いだろう」
「わかった」
同時であればどちらかに正解があった場合はそこで合流がすぐに出来るわけで、それならカイトが延々無駄骨をという事にもならないだろう。というわけで瞬はカイトの提案に同意すると、二人はそこから一つずつ部屋を虱潰しに調べていく事にするのだった。
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