第3676話 殺し屋ギルド編 ――光闇山――
かつて『子鬼の王国』の一件にて捕らえた殺し屋ギルドの幹部リトス。彼女は謂わば現地の司令官という感じではあったが、それを捕らえた事によりカイトは殺し屋ギルドの襲撃を受ける事になる。
そうして訪れた殺し屋達を軒並み拿捕したカイトであったが、その中に居た殺し屋の少年の別人格より彼は暗殺者ギルドの大幹部達が使う暗号の情報を入手。それと現在進行中の冒険者ユニオンのシステム大改修を利用する事で殺し屋ギルドへの大打撃を狙う事にする。
というわけでその手立てを有するデュイアの求めに応じて中津国へとやってきたカイトは、『光闇山』という空間そのものが白に染まったような場所へと到着。小休止を挟むと、再び行動を開始する。
「エドナー。お前はどうするー?」
「私はこのままここで待機しているわ。誰かがこの子を見ておいてあげないといけないし」
「別に寝てるから問題ないと思うが」
二人が見るのは瞬が乗ってきた飛竜だ。ここに飛竜を停めておける場所があるように、ここから先に飛竜は連れて行けない。とはいえここまで町から遠いので何かしらの移動手段は必要になるわけで、馬にせよ竜にせよ置いておける場所が必要になるのであった。
「そうだけど……いつまで寝ているかわからないし。何より後から人が来るとそれはそれで面倒でしょう?」
「ま、それもそうか」
エドナの返答にカイトも納得する。一応ここまで来る人は滅多にいないが、決していないわけではない。瞬のように特殊な物を持っている場合はここに来れるわけで、様々な理由からここに来る者は居る。その後から来た者に飛竜を逃されたりしても面倒だ。誰かが見張れるのなら見張った方が良かった。
ちなみに、逃げても一応居場所を探すための魔道具が飛竜の首輪に取り付けられているので一応探す事は出来る。そしてカイトはここらを普通に行動する事が出来るのだ。探す事は特に問題があるわけではない。ただそういう問題ではないという事も事実だったし、何よりエドナが言う通り面倒なのは間違いないだろう。
「じゃ、こっちは頼むわ。特に問題はないだろうが」
「まぁ、そうね。もし何かがあったらいつもどおり呼んでね。すぐに駆け付けるから」
「あいよ」
一応転生した事もあり過去世で交わした契約は一度解除されているが、主従揃って再契約を望んだのですでに再契約を交わしている。なのでエドナを召喚する事は容易く、そして彼女は次元と空間を引き裂いて飛べる天馬だ。どこにいようと駆けつける事は容易だった。というわけで外に出たカイトだが、外ではすでに準備を終えた瞬が興味深い様子で周囲を確認していた。
「なんというか……本当に空間そのものが白いんだな」
「そうだ……まだここは周囲が見れるぐらいには薄いが、ここから先。『光闇山』に近付くと自分の手も見えないぐらいに周囲の空間が白く覆われる。原因が何か、とは聞いてくれるなよ。オレも知らん。光属性の力が満ちていて、そうなっているとは聞いているが」
「火属性じゃないのか」
「らしい。まぁ、完全に無関係かと言われるとそういうわけでもないらしいが……詳しい話は聞いてくれるな。オレも知らん」
屈伸を繰り返して準備を整えながら、カイトは瞬の問いかけに首を振る。というわけで二人は小屋を出て、改めて外に出る。そうして外に出て、瞬はすぐに顔を顰めた。
「っぅ……やはり身体に負担が掛かるな。これについてもわからないのか?」
「いや、それはこの間説明した通り、生命力が過剰に与えられているからだ。謂わば回復力が過剰に作用している……みたいな所か」
「つまりはどういうことなんだ?」
「失った以上に回復してしまって身体に負担が生じている……って所か。今のところは、だが」
「今のところは、か」
つまりこの『光闇山』から遠い時点でこうなのだ。更に近付いてどうなるかはまだわからなかった。というわけで瞬の言葉にカイトは一つ頷いた。
「ああ……まぁ、回復力が向上しているから戦闘後の回復は当然早まる。生命力が失われても、その回復も早まるからな。他にも怪我を負った際の治癒力も当然向上する」
「……何かそう聞くとすごい良い空間に思えるが」
「今掛かっている負担を考えてもか?」
「ああ……まぁ、そんなわけがないんだろうが」
そんな良い事だらけの空間ならわざわざカイトが自ら赴くなんてことはないだろう。瞬はそれを察しながらも、ここまでの話ではいまいち危険性が理解出来なかったようだ。とはいえ、それはカイトも同じだった。故に彼も笑って同意する。
「まぁな。確かに身体の負担を考えても、ここまでならさほど危険は感じないだろう。実際、この近辺には榊原家が運営する特殊な療養所もある。オレ達が居るのは単に榊原家が更に奥に向かうために設けた小屋ってだけだ」
「なるほど……確かに怪我の治療に役立ちそうな場所だな」
「ま、薬も毒も一緒って話だ。用法用量を守って使いましょうってな」
「なるほど……つまりはそういうことか」
ここまでなら薬の範疇だからこそ有用に思えるだけで、更に進めば毒になってしまう。カイトの言わんとする所を理解して、瞬が納得したような顔を浮かべる。
「そういうこと……生命力も過剰に付与されると毒だ。早い話、過剰な自己再生は肉体の異常活性に繋がり、碌なことにならん。先輩の場合は常時槍を手放すなよ。そいつに生命力を食わせてコントロールして、適正量を確保しろ」
「こいつは水というわけか」
瞬が自らの得物を取り出すとそれだけで周囲には濃密な死の気配が漂いだし、周囲の生命力を一気にか相殺してかき消していく。そしてそれと共に周囲を覆っていた白が一気に薄れて、本来の色彩を取り戻した。
「すごいな。まるで風でホコリを吹き飛ばしたように色付いた」
「あははは。そういうわけで、ここだとそいつを使いこなす事が肝要になる。逆にそいつも本来の力を十全には発揮出来ん。修行には良いだろうな」
「わかった……そもそも手放す気もないが、なるべくここだと弾き飛ばされないように注意しよう」
「それが一番重要だな」
瞬の言葉に頷くと、カイト自らもまた死神の鎌を取り出して更に黒いローブにすっぽりと包まれる。こちらはローブで過剰な生命力を打ち消しつつ、更に大鎌で打ち消す二段構えの格好だった。というわけで準備が整った所で、
「さて、行くか」
「どれぐらい掛かるんだ、ここから『光闇山』まで」
「ここからだと順当に行ければ1時間ぐらいだが……」
「順当に、というのは魔物に出会わなければ、か」
「そういうことだな……ま、無理だろう」
「見通しは……良い、と言えるか」
「良いな、一応」
瞬の言葉にカイトは苦笑いに近い笑みを浮かべて頷いた。まだ周囲が白くなっているという程度で、離れた場所を見通せないわけではない。それで見えた限りでも遮蔽物はあまり見受けられず、隠れられそうになかった。というわけで二人は戦闘を前提として警戒しながら、『光闇山』を目指して出発する事にするのだった。
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