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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3673話 殺し屋ギルド編 ――呪具――

 かつて『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の一件にて捕らえた殺し屋ギルドの幹部リトス。彼女は謂わば現地の司令官という感じではあったが、それを捕らえた事によりカイトは殺し屋ギルドの襲撃を受ける事になる。

 そうして訪れた殺し屋達を軒並み拿捕したカイトであったが、その中に居た殺し屋の少年の別人格より彼は暗殺者ギルドの大幹部達が使う暗号の情報を入手。それと現在進行中の冒険者ユニオンのシステム大改修を利用する事で殺し屋ギルドへの大打撃を狙う事になっていた。

 というわけでその第一歩となる大幹部達が使う暗号を一度きりだが解読出来るデュイアの求める対価を手に入れるべく、カイトは瞬を連れて中津国に向かう事になっていた。そうして中津国に瞬を連れてくるべく一足先に中津国に入国したカイトは、少しの事情から瞬を呼ぶ前に『榊原(さかきはら)』にてひと仕事を行っていた。


「相変わらずというかなんと言いますか……まぁ、自然を活用するのは中津国では一般的ではありますが」

「はははは。まぁ、地下を使うのはさして珍しい事ではありませんからな」


 カイトの言葉に剛拳が笑う。そんな二人が見ていたのは、榊原家の屋敷の一角。最奥にも近い一角で、この屋敷の中で家人達が暮らす一角に並んで警備が厳重な一角に設けられた小さな建屋だ。

 しかもこちらの厳重さは家人や客人達が居るからこそある程度気が抜けているそちらと異なり、完全に物々しい雰囲気があった。というわけで物々しい警戒態勢が敷かれているわけだが、流石にカイトと当主である剛拳が一緒だ。誰もが一礼して通してくれていた。


「剛拳様」

「開いてくれ。カイト殿と共に中に入る」

「「「はっ!」」」


 剛拳の指示を受けて、三人の戦士達が建物の扉を開く。その扉は見た目に反してかなり重厚なのか、戦士達が二人がかりで押し開けていた。


「っ……相変わらず中は禍々しいですね」

「はははは。禍々しい、と言いつつ身一つでは我らは立つ瀬がありませんぞ」

「あっはははは。大抵の呪いはこの身には通用しませんからね」


 ぽんぽん。カイトは剛拳の言葉に笑いながら、周囲を満たす呪いをまるで羽虫でも払うように軽く振り払う。というわけで僅かに晴れた禍々しい気配を通り抜けて、建物の中へと入る。中には地下へ続く階段だけで、それ以外には何枚もの御札が貼られているだけであった。


「活性化したとは聞いたし、定期的に『鎮め石』は送りましたが……それでこれですか」

「ええ……ははは。まぁ、こう言うべき立場ではありませんが、言うなればこの倉庫は我らも半ば放置しているようなものですからな。逆に言えば良くぞ今まで活性化もせず鎮まってくれていたものです」

「あはは……っと、若干晴れましたね」

「ですな」


 ようやくたどり着いたか。カイトは少しだけため息を吐く。そうしてたどり着いた倉庫の奥は呪具で覆われているにも関わらず、どうしてか清浄な気配が満ちていた。その中心には、小柄なゴシックドレスの少女が座って彼女ほどの大きさの白い石に向けて祈りを捧げていた。


「……あ、カイト様!」

「待った待った待った待った待った! 流石に『鎮め石』調整の最中に振り向くな!」

「あ! ご」

「頼むから、な? 来たオレも悪いが、そっち頼むわ。意識と作業を切り離すぐらい出来んだろ?」

「……」


 こくこくこく。こちらを振り向こうとしたピュルテを後ろから抱き抱えるような格好で拘束し、カイトは胸を撫で下ろす。そうして彼女が頷いて再び作業に戻ったのを見て、カイトは彼女を抱きとめていた手を離した。


「悪い。作業中に来たのはオレが悪い……んだが、流石に呪具が大量にある場では注意してくれ」

「申し訳ありません……」

「ピュルテ殿。申し訳ない」

「いえ……お役に立てたなら何よりです」


 カイトと剛拳の謝罪に一切振り向く事なく白い石に意識を集中させるピュルテだが、彼女が意識を集中させると周囲に満ちあふれていた呪いとでも言うべき禍々しい気配が白い石へと集まりだす。


「どれぐらい保ちそうだ? そいつ一つで」

「300年……ぐらいでしょうか。ごめんなさい。これがカシェお姉様ならもっと長持ちさせられるんですが……」

「いや、流石に禁足地を封じている奴を呼ぶわけにもいかんだろ。しかもカシェは封印特化の神官だ。それに次ぐ実力者で300年なんだから、それ以上は誰でも無理だ」

「でもカシェお姉様なら500年はいけますから……」

「だから特化型と自分を比べるな……」


 神官団の中でも群を抜く実力者の名前を出されて、カイトはがっくりと肩を落とす。まぁ、こういう性格がピュルテだというのはわかるし、彼が言う通り本来は300年でも無理なのだ。そしてそんな彼を横目に、剛拳が首を振った。


「いえ、我らからしてみれば300年でも有り難い。それだけあればある程度鎮まりますし、対策のしようもある。ひとまずは暴走を抑えられればそれで良いのですが……それをそこまで耐えきれる物をご用意頂いてはどう御恩を返せば良いことやら」

「いえ……この程度しか出来ませんので……」

「はぁ……まぁ、良い。とりあえずこれ一つで300年か。まぁ、追加は色々と考えるとするが……呪具ってのは本当に面倒くさいな」


 カイトは最深部でもはや実体化するほどに禍々しい気配を放つ様々な物品を見て、ただただため息を吐く。そんな彼の言葉に剛拳もまた同意した。


「ですな……安易に壊そうものならそれだけで何人も死人が出る。壊すにも壊せない」

「呪具とはそういうものですので……物に恨み辛み、憎しみ、怒り……そういった良くない感情が蓄積し、ついにはそれそのものがまるで持ち主と同等かそれ以上の感情を保有してしまったもの。ある意味では付喪神とも言えます」

「負の側面を得た付喪神か」

「そうです」


 カイトの言葉にピュルテは一つ頷いた。本来付喪神とは持ち主が長く愛用した事により魔力が宿り、それが実体を得て人のように行動するようになったものだ。だがそれは決して、冒険部の付喪神達のように良い感情だけとは限らない。恨みや憎しみなどが物に宿る事もまた、あるのであった。


「やれやれ……善性の象徴たる英雄も多いが逆もまた多い……って、オレが言えたこっちゃねぇな」

「あ、あははは……」


 そもそもカイト当人が復讐者だったのだ。そして呪具とは謂わば復讐者達が使った道具と言って過言ではない。なので自嘲気味に笑うカイトに、ピュルテは乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。


「まぁ、だからオレは呪具をいなせるって所もあるが」

「カイト殿」

「あはは。ご安心を。以前にもお伝えしましたが、かつて堕族に堕ちた身です。大精霊達の庇護があろうがなかろうが、この程度の呪いは通用しない」


 呪具の一つに手を伸ばそうとした事に掣肘した剛拳の言葉に、カイトは笑いながら問題ない事を明言する。そしてその言葉で、彼にはこの程度が通用しない事を剛拳も思い出して苦笑いを浮かべた。


「そうでしたな……善性も悪性も経験されたのでしたな」

「ええ。幼き日の苦い思い出です。ま、苦い思い出の中にも輝くものがあり、そのおかげで彼女らとの出会いがあるわけですが」

「この地に籠もり、稽古に明け暮れる身では到底想像も出来ませんな」

「あははは。ま、そこらはまたいつか、酒飲み話にでも」


 剛拳の言葉に笑いながら、カイトは手を伸ばした呪具に触れてみる。それは血塗られた布に包まれた棒状の何かだ。その何かは禍々しい気配を放ち、カイトを呪い殺そうと闇色の力を伸ばす。


「……ふっ」


 伸びてくる禍々しい力に向けて、カイトは気合一つでそれを封殺する。そうしてそれと共に放たれる禍々しい力に、呪具は一気に大人しくなる。それを見て、剛拳はため息を吐いた。


「所詮呪具もまた道具ですか」

「ええ。どれだけ強かろうと所詮は持ち主達の残り香。より強い感情には押し負ける。堕族や半堕族に呪いが効かない理由ですね……ま、そのおかげでこうやって逆に鎮める事も出来るわけですが」

「まぁ、そうですな」


 そこまで強い感情を抱けることがまずないのだが。剛拳はカイトの言葉を認めつつも、それは常人には到底不可能であるとも理解していた。というわけで身一つで呪具を鎮めてみせたカイトが、再び呪具を元あった場所へと立て掛ける。


「ふぅ……ピュルテ。作業はどれぐらい掛かりそうだ?」

「あと一日あればなんとか……」

「そうか……オレも鎮めて回る。それで作業の短縮が出来るだろう。半日ぐらいで大丈夫か?」

「カイト様にお力添えいただけるのならそれぐらいあれば十分過ぎますけど……お時間などは大丈夫ですか?」

「ああ、問題ないよ。剛拳殿。私はここでもうしばらく作業を手伝って参ります」

「かたじけない。こちらは湯浴みなどの支度を整えさせて頂いておきます」


 カイトの言葉に剛拳が一つ深々と頭を下げる。カイトと剛拳は一緒に来たわけだが、別に剛拳一人でここに来れないわけではない。特に今は一番活性化していた頃よりもかなり鎮まってはいるので、短時間の逗留ならば問題はなかった。というわけでカイトは瞬を呼ぶ前にピュルテの作業を手伝う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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マスコット妖精学園長の出番が久しく無くて寂しい。
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