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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3670話 殺し屋ギルド編 ――交渉――

 冒険者ユニオンから非合法の殺し屋ギルドへの情報の流出。それに対応するべくバルフレアら冒険者ユニオンのトップは、三百年前の大改修に協力したマクダウェル家に協力を依頼。その依頼を受けたカイト達は三百年ぶりの大改修に向けて新しい規格を構築し、それをエネフィア全土のユニオン支部へと展開するべく準備を進めていた。

 その最中。カイトは最近殺し屋ギルドとの交戦で手に入れた保護した殺し屋を取り返す、もしくは情報を盗まれないように殺そうとした殺し屋ギルドの暗躍を受けて孤児院に赴くと、かつて自身を狙ったジェレミーという少年と再会。彼の幾つかある人格の一つ――ジェレミーもその一つであるが――にして、主に他者との関わりを担当するデュイアという少女の人格との交渉に臨む事になっていた。


「また人が増えたのね」

「久しぶりというべきか、こうして話すのははじめましてというべきか……どっちかしら」

「どちらもそうとは言えるでしょう」


 リトスの言葉にデュイアが苦笑する。元々は仕事仲間だが、それ以上でもなければそれ以下でもない。そして二人共元々の職場は非合法の殺し屋だ。仲良し小好しなぞ存在するわけもなかった。


「室長が来る前に聞いておきたいんだけど、ジェレミーの記憶はあるんだって?」

「ええ。あの子は何も隠さないから……隠す意味も感じていないようだし。まぁ、だから私以外は彼と関わらないんだけど」

「殺しを生業とする分にはそれで良いんでしょうけどね」

「そうね。数年前から考えれば、私がこうして前面に出ている時間がここまで増えるなんて思ってもいなかったわ」

「仕事、そんなに与えてないでしょう。いくら曲者揃いのあそこでも、あんたほど腕が立って扱いづらいガキなんて早々居ないわよ。まぁ、逆にだから使われた感もあるけど」

「そうね」


 子ども相手というのはいつだって、どこの世界だってターゲットを油断させる。デュイアは自分達に出された暗殺指示を思い出しながら、リトスの言葉に苦笑いで応ずる。


「まぁ、あんな所の話はどうでも良いわ。とりあえず今重要なのはお互いなんの因果かこんな所に居るという所」

「私はそうだけど……貴方は貴方で随分と楽しんでいるみたいね。表に出ようとは思ってないみたいだけどジェレミーが爆笑しているわ」

「……」


 そういえばそうだった。完全に古馴染みと話している感で居てしまったが、リトスは自分が現在進行系でメイド服を着ている事を思い出して顔を顰める。とはいえ、流石にもう諦めもしていた。


「仕事服よ、仕事服。あんたが男を誘惑する時にネグリジェ着てるのと一緒」

「あ?」

「うおっ……そんな器用な事出来るの……ジェレミー?」

「言ったでしょう? 一応話は聞いてるって」


 やれやれ。デュイアは唐突に性格だけ自分と取って代わったジェレミーにため息混じりに苦笑いだ。とはいえ、そういう人を馬鹿にしたり怒ったりするのは良いが、デュイアのように他人に媚びへつらう事は出来ないのが彼でもある。次の瞬間にはデュイアに戻っていた。というわけでそんな様子に、カイトが意外そうに問いかける。


「一応聞いてはいるのか」

「一応、聞いているだけね」

「本当に一応か」

「あの子は殺しにしか興味ないから」


 呆れるように、それでいて仕方がないと諦めるように。デュイアは自らの内面で嗤うジェレミーに対して苦笑いを深める。


「そうか……まぁ、それなら交渉担当のお嬢ちゃんに話はお願いするか」

「ええ……それでリトスが来ているということは、交渉は継続と考えて良いかしら?」

「ああ……まぁ、彼女についてはただ来たいというからこさせただけだ。特に気にしなくて良い」

「あら……共謀して脱走しようとか考えてないの?」

「無理は二人共わかっているだろう? マクダウェル家は甘い家だが、そこまで楽な家じゃない。共謀した所で脱走なんて無理だ」

「「……」」


 甘いではなく楽か。確かにそうとしか言いえないマクダウェル家に、デュイアのみならずリトスまで苦笑いを浮かべる。そうしてその認識を得ている事を理解した所で、もう一つ声が響いた。


「ま、私のお説教されたいなら頑張ってみても良いわよ。やれるもんなら、だけど」

「し、室長……」

「ごめんなさいね、遅れて。すこーしお話が長引いてて」

「い、いえ……」


 後にリトス曰く、マクダウェル家で一番苦手なのがアルミナであるのなら次に苦手なのはルーナ。そう言うぐらいには厳しく叩き込まれていたようだ。今までのどこかだらけた態度が鳴りを潜め、メイドとして正しく背筋を伸ばしていた。


「それで? 話はどこまで進んだの?」

「まだ全然。こっちも数分前に来た所だしな」

「そ……それじゃ交渉をどうぞ」

「あはは……」


 来るなり場を取り仕切り出したルーナに、カイトは僅かに笑う。だがそうして笑った次の瞬間、彼の顔つきが公爵としてのそれに変わる。


「さて、まずはお嬢ちゃん。メモについては確認させて貰った。だが一つ聞きたい。これをどうやって君が知ったか、だ」

「自分で調べた、といえば良いかしら」

「調べられるようなもんじゃないだろう? 君……というかジェレミーはあくまで殺し屋の一人だ。ギルドの幹部じゃない。幹部が使う暗号を教えてもらえるとは思えない。調べさせてもらえるとも」


 リトスは盗み見たと言ったが、それもあくまで推測だ。情報の出所を確認しておく必要はあるだろう。というわけでカイトの問いかけに、デュイアは笑う。


「そうね……だからそれは盗み見て覚えて、自力で解読したの。時々居るのよ。私を抱きに来る馬鹿な男が……男だけじゃないけど」

「そうか……まぁ、それについては聞く気はない。今関係する事でもないしな」


 人様がどういう趣味を持とうと勝手だし、カイトとしても今ここでそんな胸糞悪い話を聞くつもりはない。というわけで軽く流す彼に、デュイアもまた同意する。


「そうね。今は関係ないし、話すつもりもない……ただその中に居るのよ。ジェレミーの方が好み、っていう変態が。そういう奴は油断しているから、暗号で書かれた指令書をジェレミーに見える場所においている事があるのよ。それこそ何度かは自慢げに指示書を見せびらかした事さえある」

「油断している、か」

「ええ。油断でしょう? 私が中で情事を覗き見ているなんて思いもしていないのだから」

「なるほど。本当に盗み見たのか。ジェレミーの中から」


 もしかしたらさっきのジェレミーが見ているという発言は意図的に彼に見せているのかもしれない。カイトはデュイアが思った以上に油断ならない相手であると内心で認識する。


「そういうこと……だから彼らは私に見られたと気付いていない。まぁ、私の行動をジェレミーが見ている事はギルドも知っていたけど、逆は考えてもいなかったみたいね」

「考えなかったのか?」

「それはそうでしょう? なにせ暗殺から逃げたくて別の人格を次々生み出していた子どもの人格の一つが、まさかその暗殺に特化した子どもの行動を知っているなんて」

「……たしかに」


 言われてみればおかしいな。カイトはデュイアの指摘に思わず目を丸くする。彼はこうして事実としてデュイアから語られているから相互に記憶と視界を共有していると理解しているが、普通に考えればみたくないはずだ。


「だが確かにそれなら良く行動を把握しようと思ったな。君自身したくないから、ジェレミーを生み出したんだろう?」

「私はそういう人格だから。それに、私はしたくないからではなく出来なかった。非力な少女を演じるように作られた人格。そこからは逸脱出来ない……ただある意味では私こそがこの身体の人格を統合する人格と言って良いでしょうね。私の身体の行動全部を知っているから」


 本体が自分の中に逃げてしまっているから。デュイアは今日一番の苦笑を浮かべる。そしてこれに、カイトも納得を浮かべた。これが演技でない事は彼には理解できたし、せっかく地獄から逃げられているのにここから逃げる事なぞデュイアは考えていない事は明白だった。だからこそ、カイト達に手札を明かしているのである。


「そうか……それで。お嬢ちゃんはこちらに何を提供してくれる?」

「知識よ。ジェレミーに得意げに披露してきた馬鹿な大人達がわかるはずもない、と高を括った情報」

「……一つ聞いて良いか?」

「何?」

「お嬢ちゃん……もしかして完全記憶能力持ってる?」

「……ええ」


 にたり。カイトの問いかけに、デュイアは妖艶に笑う。


「今まで私の前で肌を晒してきた殿方全員の男根の大きさから、ほくろの位置まで把握しているわ。もちろん、ジェレミー相手に脱いだターゲットの身体もね」

「それで良く気が狂わないもんだ」

「そういう人格、と言ったでしょう? さ、改めて交渉を始めましょう」


 デュイアは殺し屋達の幹部の中でも更に上位しか知り得ないだろう情報を握っている。カイトはそう理解し、そしてデュイアもそうカイトが認識した事を理解したようだ。そうして、改めて交渉がスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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