第3663話 殺し屋ギルド編 ――打ち合わせ――
禁足地ノクタリアの調査と並行して行われていたマクダウェル領を北上する商隊の護衛。それはおおよそ半月と少しの旅路で終わりを迎える事になる。というわけでマクスウェルに戻り公爵邸の執務室にて今回の禁足地の報告書を作成していたカイトであったが、それが終わった頃。
暗殺者ギルドにより情報が盗まれている事が判明した事により冒険者ユニオンの依頼や冒険者の登録情報の保護システムの大改修に向けて、ティナからの要請で改修作業の実作業に関する手順化に協力する事になっていた。
「という塩梅じゃ。まぁ、ポチポチポチと指定したボタンを押していくだけじゃから、難しい事は何もあるまいて」
「まぁな……そういえばさ。このコンソールって冒険者達って使った事ないだろ。そこはどうするんだ?」
「そこは依頼の受諾時に実際に一度操作はさせる。そこらが理解出来る冒険者に向けて依頼を出すからのう。ま、依頼を受ける大半はそこらが理解できて、更には暗殺者ギルドの横槍も良く思わん連中という事じゃ。ある程度の知性はあろうて」
「それもそうか」
一言で冒険者と言っても、知性はピンキリだ。それこそルナリア文明の遺跡を筆頭にして古代文明の遺跡を中心に活動する冒険者だとパソコンに似たコンソールを操る事もあるので、パソコンに似た冒険者ユニオンのコンソールも即座に習得出来るだろう。
それ以外にも魔術師の中にはやはり学術的な物を中心とするからかコンソールの使い方もすぐに理解してくれそうな者も少なくなく、後は移動力などとの兼ね合いでパーティに依頼するなど色々と冒険者ユニオンも考えているのであった。
「うむ……というわけで一度使い方を練習させ、資料さえ与えておけば大丈夫じゃろう。それにアップデートプログラムそのものは渡さんから、万が一道具が盗まれても問題はない。あくまでもアップデートが入らなかった場合にその問題をチェックして、そのログを確保。その上で再受信を試みるように指示するものじゃ」
「なるほどな。流石にデータを盗まれても面倒か」
「うむ。更にこうする事により、双方向に情報も受け取れるしのう」
「なるほどな。ある程度は送信側でもわかるようにはしているのか」
「うむ」
「ふむ……」
「何を考えておる?」
自身の言葉を聞いて何かを考え出したカイトに、ティナが訝しんで問いかける。これにカイトは一つ問いかけた。
「なぁ、一つ思ったんだが、それを利用してもしユニオンが把握していない装置があったらそれを追跡する事とかは出来ないのか?」
「ああ、それか。ま、お主もそれを考えるわな」
「ああ、ということはお前も考えはしたのか」
得意げな様子のティナの返答に、カイトはすでに自身の考えをティナもまた考えて何か対応を考えているのだと理解する。そして案の定、彼女ははっきりと頷いた。
「無論じゃ。それについてじゃが、当然逆探知が出来るようにしておる。一方方向の送信はできんようにな」
「というと?」
「つまり一度別の情報を送信し、正常に受信している事を確認。それを送り返させるようにしておる」
「建前はハードウェア側のトラブルを事前に把握する、という所か」
「そういうことじゃ。ただここからは一般には伏せておる情報がある」
カイトの理解に一つ頷いたティナは、ここまでは一般の事務員にも軽く教えている範疇だと告げる。そうして彼女は笑いながら、更に裏を語った。
「その送り返された情報の中には支部の登録情報が入っておる。そこで送り返された登録情報を確認させ、問題なければ情報を送信する、という塩梅じゃな」
「なるほど……で、誤った情報、もしくは二重に情報が返ってくるなどすれば」
「それは盗まれたかコピられたか、のどちらかじゃな。後はその信号を経由地から逆算して場所を割り出せるというわけじゃ」
なるほど。カイトはティナの言葉に僅かに牙を剥く。そしてそういうことならば、と一つわかっていた事もあった。
「一戦交える事になりそうだな」
「なるじゃろう……ユニオン側の推測が正しければ、じゃが」
「どうだろうな……まぁ、正しいとは思うがな」
ユニオン側の推測と言うが、実際にはレヴィの推測だ。彼女が預言者と言われる理由は情報を集め、そこから推測を立てているからだ。なのでその彼女がそうだろうと推測するのであれば、非常に高い確率で正解であるだろうとカイトは考えていた。というわけでそんな彼が続けた。
「向こうも備えはしていそうだな」
「しておるじゃろ。こんなもん、技術やっとるやつならやってくると普通に考える話じゃ。じゃが向こうとしても今回のアップデートのデータは欲しいはずじゃ。そうせねば今後ユニオンからの情報が手に入らんようになってしまうからのう。何かしらの策は打ってくるじゃろうて」
「お手並み拝見、って所か」
「然り。天才と言われる余にどう歯向かってくるか。見てやろうではないか」
楽しげだな。カイトは自信満々のティナの様子からそれを察して笑う。どうやら、彼女はそれさえ踏まえて色々と策を打っている様子だった。そしてそうならば、とカイトは告げた。
「ま、そこらは任せるよ。オレの領分じゃないしな」
「うむ。ああ、そうじゃ。それで一つ預言者殿より言われておった事があった」
「ん?」
ここしばらくカイトは言うまでもなく禁足地ノクタリアの一件での報告書や軍部との調整に掛り切りになっていたし、それ以外にもやる事は多い。レヴィとの折衝は基本ティナに任せていた。というわけで何かあったか、と小首を傾げる彼にレヴィからの依頼をティナが語る。
「エドナを使い、遠方まで出られるかとの事じゃ」
「なるほどね。オレが出向くわけか」
「お主じゃのうて現地の冒険者でも良かろうに」
「ま、それは否定はせんが……一度ぐらい面は拝んでおきたいもんだね。人様に莫大な懸賞金を掛けてる連中の顔は」
「どっちのお主にじゃ」
「どっちも」
ティナの問いかけに、カイトは非常に楽しそうな顔を浮かべる。そんな彼が見るのは、先日サリアが送りつけてきた一つの手配書だ。それは暗殺者ギルドが配布しているもので、そこに掲載されていたのは言うまでもなかった。
「また跳ね上がったなー。まぁ、暗殺者ギルドの切り札とも言えるお嬢様に腕利きのガキ。リトス……こんだけ人材を奪えば怒りもするか。いやー、良い贈り物をありがとうございます」
「楽しそうじゃのー」
「前から喧嘩しまくってる相手だぞ。何も気付かず二重に手配書やってきてりゃ楽しくてしゃーない」
間抜けな連中だ。カイトは自分と戦っている事なぞ気付いてもいない様子の暗殺者ギルドの面々を嘲笑うかのように笑っていた。
「それにお前だって先天性の異界化を使う少女なんて垂涎ものだっただろうに」
「それは否定せん。編み出された魔術と天然の魔術は全く違う。パイロキネシスのような単純に火を生み出す魔術の天然物でさえ調べられる機会なぞ滅多にないのに、それが異界化ともなれば下手すりゃ今後数百年機会に恵まれるかどうかの領域じゃぞ。いや、まったく暗殺者ギルドの情報網には恐れ入ったわ」
本当に有り難い。ティナはティナでカイトと同じように非常に珍しい才能を有する少女を保護出来た事については非常に喜んでいた。無論だからと人体実験をするつもりは毛頭ないし、人体実験をされなくて本当に良かったと安堵してさえいた。
「よっしゃ。ま、そういうことならお嬢様らの安全のため、骨を折る事にしますか」
「じゃのう。あの子が奪われでもすれば魔術の歴史上最大の汚点にもなりかねん。うむ。そう思えば余、更にやる気出た」
「そうか……じゃ、ま、伝説の勇者と天才魔王様に喧嘩を売った連中に楽しい末路をくれてやる事しますか」
「うむ」
どうやら図らずもティナもやる気になったらしい。というわけで二人は来たるべき暗殺者ギルドとの戦いに向けて、入念な準備を行う事にするのだった。
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