第3661話 幕間 ――終わり――
話が飛んでいるように見えますが、あくまで幕間なのでソラと長政についてはまた本筋の中でとなります。
浅井新九郎長政。自らの過去世が戦国時代最大の謎の一つとされる織田信長を裏切った男であると話すソラ。そんな彼が自らの内面に潜り込んだ一方その頃。外ではというと、事態の急変に備えた瞬が居てくれていたわけだが、こちらもこちらで酒呑童子と話をしていた。とはいえ、そんな彼の様子はというとどこか呑気さがあった。
「訓練風景を外から見る事はなかったんだが……外からだとこういう風に見えていたんだな。俺の時はやはり甲冑やら着物だったんだろうか」
『ふむ……確かに俺も外からは見たことがなかったが。なるほど』
瞬と酒呑童子が見るのは当然ソラだ。だがその格好はいつもの普段着と異なっており、目を閉じた状態で着物姿に変わっていた。長政の心象世界に入ってしばらくして、勝手に衣服が書き換わったのだ。そんな様子に酒呑童子も流石に興味深い様子で考察していた。
『衣服が変わるのはなぜか、と考えた事はあったが……なるほど。内界と外界は常に影響しあっている。内界が過去世に繋がる事で外界……即ち肉体側にも影響が出ていたわけか』
「とどのつまり?」
『肉体が僅かにだが再構築されている、と考えよ。まぁ、お前が槍を魔力で編んでいるのと一緒だ。衣服が魔力で編まれたわけだ』
「だがお前にせよ豊久さんにせよ呼び出した際、俺の防具は消えている様子だったが」
『ふむ……たしかにな』
瞬の指摘に酒呑童子は確かに、とその言葉に道理を見る。そうして彼が衣服の変貌理由を推測する。
『それを踏まえて考えると、おそらく衣服は再構築されているのかもしれん。もしくは情報が一時的な上書きを受けているか』
「上書き……よくはわからんが、自分の防具を媒体にお前が着ていた防具を召喚しているようなものか?」
『……存外賢いな。それが一番適した言い方だろう。確かに上書きというよりも自らの防具と過去世を媒体とした一時的な内界からの召喚と捉える方が良いかもしれん』
「そうか」
自分が言い方を思いつかなかったからだろう。得心がいった、と言わんばかりに珍しく称賛する酒呑童子の言葉に瞬は少し嬉しげだ。とはいえ、それならばと瞬も現状を理解した。
「ということは……ソラは今しがた、過去世の某に遭遇したというわけか。えらく時間が掛かったな」
『お前や俺や豊久が接触したからな。お前はあちらへ行ったのではなく、こちらから呼び出された形だ。時間がかかるのはそこらの差だな』
「自分の心象世界だと現実世界では一瞬、とかではないのか」
『やろうとすれば出来るが、やる必要性もない。何よりあれはごく短時間という制約もある。いつも訓練が終われば一時間ぐらい掛かっているだろう。あれはそういうことだ』
「あ」
そういえばそうだった。瞬は自身が思い出していたのがかつて豊久に呼び出された時の事だった事があり、すっかり一瞬で会合と話し合いを終わらせられるのだと勘違いしてしまったようだ。
だが実際には酒呑童子の指摘する通り、あれは戦闘の最中の非常事態だったからこそ一瞬で終わらせただけで、酒呑童子曰く短時間という制約もあるらしい。理解するという目的には合致せず、あくまでも助力の申し出を行うための場と言って良かった。
「まぁ、後は待つだけか」
『そうだな……さて、猛者であれば良いが』
「どうなんだろうな。一端の武将の風格は俺でも感じられるが」
おそらく名のある武将だろう。瞬は着物姿へと変貌を遂げたソラを見て、僅かに目を細める。強いか弱いかはわからないが、少なくとも一角の人物である事だけは間違いなさそうだった。というわけで彼はそれからしばらく、ソラが長政との会合を終わらせるまで適当に腰掛けて酒呑童子と適当な雑談を行って時間を費やす事にするのだった。
さてそれからしばらく。長政の心象世界での長政との会合を終わらせて、ソラが元の世界へと戻って来る。が、そうして目を開けた彼は開口一番大声を上げる事になった。
「……ふぅ。なんだこりゃぁ!?」
「うおっ……びっくりした」
「あ、すんません……え、これなんすか」
まぁ、ソラからしてみれば目を開ければいきなり着物姿だ。何事かと仰天するのも無理はないだろう。というわけで目を開けて開口一番の大声に思わず目を白黒させてびっくりしていた瞬が、少し笑いながら先の酒呑童子との話をソラへと語る。
「なるほど……そういや先輩も衣服変わってましたもんね」
「そういう原理じゃないか、という事らしい。まぁ、そういっても戦闘中とは違うから、平時の服になっているんじゃないかという事でもあったがな」
「なるほど……」
瞬と酒呑童子の推測は理に適っている。ソラは今まだ戻っていないのは長政に接触した際の名残りがまだ残っているのだと察する。というわけでそんな変貌を遂げた彼へと、瞬が問いかけた。
「それでその様子だと接触は成功したのか?」
「……まぁ、接触には」
「その様子だと本当に接触は、というレベルか」
少しだけ苦々しい様子のソラに、瞬は少しだけ残念そうに問いかける。これにソラは少しだけ申し訳無さそうに謝罪する。
「まぁ、そんなレベルっす。力を借り受けるのはあんま……あ、でも収穫がなかったわけじゃないっす」
「そうなのか?」
「うっす」
何も収穫なしではあまりに申し訳ない。そんな様子でソラは立ち上がる。そうして、彼はその後しばらく瞬に自らが手に入れた力の解説と、遠征の間は長政の抑制について学ぶと共に、先ほど<<偉大なる太陽>>に教えてもらったこの力のさらなる使い方の習得に向けた訓練に励む事になるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




