第3658話 幕間 ――城下町――
カイトが禁足地ノクタリアにて古代文明の遺跡の調査に四苦八苦していた一方その頃。過去世の目覚めとその侵食により、かつて酒呑童子が目覚めた時の瞬同様に暴走の危険が湧き出してしまったソラ。そんな彼は自身の過去世の危険性を認識すると共に、それが千代女や吉乃達に関わりがあるものであると理解すると、ならばこそ自らを監視しているだろうと千代女に助力を申し出る。
それに対して千代女もまたソラの過去世が目覚め暴走する事は望んでおらず、それを封ずる事を望むのであればと特例的に力を貸してくれる事になる。というわけで彼女から<<死魔将>>達の用意した過去世に関する書物の写本を受け取ったソラは瞬に協力を求めると、彼に自らの内面への潜り方を教えてもらっていた。
「要は自らの内部に潜り込むというよりも、自らを律しながら自らの過去世を他覚的に見るんだ。過去世にはその心象世界とも言うべき世界を保有しているようでな。そこを見つけ出して、自分をその中に置くようなイメージか。ただそいつの過去を見るのと違うのは、あくまで他人の過去として見なければならないという所だ」
「……」
それで他覚的にというわけか。ソラは目を閉ざして自らの心そのものに強固な防壁を纏わせながら、瞬の言葉をただただ受け入れる。だが魔力とは心の力でもある。
こうして心に強固な防壁を纏わせるということは即ち、膨大な魔力を内包せねばならず、最初の内は膨大な魔力を周囲に撒き散らしてしまう事になるのであった。結界が必要なのはそういうことである。というわけで膨大な魔力が放たれるのを見て、瞬はソラが自らを強固に律した事を理解する。
「心象世界が見えてくれば、後はそこに過去世の某も居るはずだ。まぁ、お前が本来居るはずのない場所、知るはずのない場所なんだから当然だが」
「……」
瞬の言葉を聞きながら、内面に潜り心象世界とやらを考える。だがしばらくして、ソラは目を開ける事になった。
「……どうした?」
「探すって……どうやってっすか」
「ん……んー……何かないのか? その過去世の某は。戦国武将なんだろう? 有名な戦場やらお城やら……多分そいつが一番印象に残った場所だと思うが。そういうのじゃないのか?」
「は、はぁ……」
とどのつまり死んだそいつが眠る上で一番印象に残っていた場所みたいな感じなのだろうか。ソラは瞬の困ったような返答にとりあえずはこれを前提に考える事にする。
ちなみに瞬はソラの前世が誰か聞いていない。戦国時代ということは有象無象の戦国武将達が相争ったのだ。これでカイトの織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の俗に三英傑と呼ばれる者たちや島津家など三英傑には劣るが歴史好きの者たちには知名度のある武将、猛将達なら良いのだが、地域の歴史にしか名を残さなかったようなマイナーな武将だと瞬も反応に困るし、流石に当人の前で失礼ではなかろうかと思い聞けなかったのだ。
「ま、まぁ……とりあえず過去世の歴史というか事は夢とかで見たんだろう? ならそこで一番印象に残っていそうな場所を思い浮かべてみるのが良いんじゃないか?」
「なるほど……わかりました。やってみます」
瞬の助言に、ソラは一つ頷いた。そうして彼は思い出したくはないが抑制する上で仕方がない、と改めて自らの過去世について思い出し、見た中で一番印象に残っていそうな場所を思い浮かべてみる事にするのだった。
さて自らの過去世を見てその印象深い場所を思い浮かべたソラ。そんな彼は心に強固な防壁を貼りながら、自らの内面へと潜り込む。そうしてたどり着いたのは、彼が思い浮かべたのとは少し異なる場所だった。
「ここは……」
敢えて言えば戦国時代の城下町。といってもお城は現代の天守閣があるようなお城ではなく、戦国時代に主流だった平城や平山城――平地や山を利用して作られたお城――に近かった。
まぁ、そもそもあの天守閣があるようなお城は松永久秀が考え出したものと言われている。同時代ではあるが、ある意味無関係――無関係ではないだろうが――なお城だ。違うのは当然だろう。
「変な場所に出ちまったけど……ここは多分……」
あそこだろうな。ソラは過去世を体験していればこそ、ここが自分の過去世にあるのだと理解する。と言ってもそこは記憶と違って人気はなく、がらんどうだ。それがかなり物悲しい雰囲気を醸し出していた。とはいえ同時に人気がないだけで、そこには人が居ただろう痕跡がまるで影法師のように映り込んでいた。
「……てっきり焼け落ちた後とかを思い浮かべてたかと思ったけど。お前もこの光景が好きだったんじゃねぇかよ」
『ここがお前の過去世の世界か』
「うぉ!?」
響いた声に、ソラが思わず仰天する。そうして響いた声と共に、彼の腰に帯びていた剣から<<偉大なる太陽>>が姿を現した。
「お、お前居たのかよ」
『時々起きるのだ。こうして過去世に潜り込んだ際に共に呼ばれてしまう事がな』
「最初に言っておいてくれ……」
『すまんとは思うが、まさかお前で起きるとは思っていなかった。本来はシャムロック様と契約を果たした神使だから起きる事なのだが……存外お前と相性が良かったらしいな。後は何度となく力を行使していたから、という所もあるかもしれん』
「へー……」
かなり後に<<偉大なる太陽>>曰く、本来はシャムロックの神使となって更に自分と契約した結果起こる事で今のソラでは本来起こりようのない事らしい。
ただ<<偉大なる太陽>>の言う通り相性が良かった、というべきか元々<<偉大なる太陽>>自身ソラはまだまだ育てねばならない英雄の卵と思っていた事――本人には言わないが――で普通より強固なつながりが生じ、こうして内面世界へも連れて行かれてしまったのではないかとの事だった。とはいえ、そんな<<偉大なる太陽>>の言葉にソラは納得しつつも、同時に有り難かったようだ。
「でもまぁ、有り難いよ。俺一人だと何が起きるかわかんなかったし」
『そうか。まぁ、それならお目付け役の面目躍如という所か』
「お目付け役かよ……まぁ、良いや」
ソラ自身が言う通り、ソラは自らの過去世の某を非常に気に入らなく思っている。なので最悪は初手から喧嘩になりかねず、こうして第三者が居てくれる事は非常に有り難かった。
「にしてもフル武装か……先輩もこうなんかな」
『いや、これはお前がまだ向こうを警戒しているからだろう。ここは心の中。武装とは警戒心の現れだ。そしてだからこうして直接その某が居る場所ではなく、離れた場所に顕現してしまったのだと思われる。加えてそいつを理解しようとした結果、広い空間が生まれたんだろう』
「なるほど……先輩は確かすでにそこに豊久さんが居た、という事だったけど……そういうことか」
そういえばそもそも先輩の場合は向こうが最初から認めてくれていたから、向こうから接触してくれたという所もあるのかも。ソラは自分が接触しようとしているのか、相手が接触しようとしているのかの違いかもしれないと考えたようだ。そして事実、そういう事だった。
「よし。とりあえずこの城下町を歩いていくか」
『道はわかるのか?』
「ありがたくない事に、なんとなくだけどな」
瞬はあくまで他人と思う事と言ったが、実際には他人でもあるが自分自身でもあるのだ。なので一度心象世界に入ってしまえば、その影響は受けてしまうようだ。というわけでソラは見たことのない見慣れた城下町を歩き、そこに残る影法師達の生活風景を見ながらお城を目指して進んでいくのだった。
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