第3656話 幕間 ――教示――
禁足地ノクタリアにてカイトが古代文明の遺跡で東奔西走していた一方その頃。マクダウェル領を北上する年内最後の大規模な商隊の護衛として遠征に出ていたソラは、その道中。自身の過去世の目覚めを知った千代女の接触を受け、過去世の抑制について書かれた<<死魔将>>達の書物を受け取る事になる。
というわけでそれをひとまず読み込んでいたソラであったが、そんな彼に<<偉大なる太陽>>が問いかける。
『奴らの言葉を素直に信じるのか?』
「信じる信じないで言われれば信じるよ」
『そうなのか……奴が何者なのかわかったのか?』
「……ああ。正直に言えばなんで、って所はちょっとある。信じられないって所もちょっと。ただそうなんだろうなぁ、とは漠然と思ってる」
答え合わせが行われたわけではない。だが両者口に出さずとも、まるで古い友にでも出会ったかのような印象があったのだ。そこからおそらくこいつなのだろう、と両者共に直感的に理解しているだけであった。
「多分、果心居士はまぁ、もう吉乃って人で間違いないと思う」
『誰だ、それは』
「カイトの過去世……織田信長の妻の一人だよ」
『なっ……それがなぜ奴らに』
「わかんね。でもカイトのためなんだろう、ってのはわかる。それは間違いない」
絶句して問いかける<<偉大なる太陽>>の問いかけに、ソラは苦笑混じりに断言する。そしてだからこそ、とはっきりと明言した。
「でもだからだよ。吉乃さんには間違いなくあいつは忠誠心を捧げてる。そこに嘘偽りはない。それはお前もわかっただろ?」
『……そうだな』
「だから多分、カイトのためってのも間違いない。でもだからなんで、ってのはちょっとあるけど……」
『どういうことだ?』
「……色々とあるんだよ、俺達にも」
おそらく千代女の正体はそうなのだろう、とは思う。だが同時に幾つもわからない事があったし、何より一つ解せない事があった。
「でもそうだとするとなんであいつが千代女なんだ……?」
『どういうことだ? 千代女という名の女は居たのだろう?』
「え? ああ、いや……まぁ、そうなんだけど。いや、でも……」
もしかして自分が考えていた事が間違えていたかも。ふとソラはそんな疑問があったらしい。だが同時に向けられる殺意には身に覚えしかなく、それが千代女の正体をソラに知らしめていた。
「……まぁ、あいつにゃそこらどうでも良いのか……? わっかんねー……」
『……そうか。まぁ、とりあえずその本を読んで、神使殿に迷惑を掛けんようにな』
「おーう」
本を読みながら話していたからだろう。思考がとっ散らかってしまったようだ。<<偉大なる太陽>>は自分が変な横槍をしてしまった、と少し反省していた。というわけでその日はその後、ソラは受け取った本を読み込む事に費やす事になるのだった。
さてそれから数日。予定された行程は順調に進みミナド村に到着し村長らと久しぶりに会うと早めの年越しの挨拶を交わし、一両日の休息となっていた。
この休息は当初から計画されていたもので、やはり商隊も休みなしでは動けない。なので比較的大きめの村に立ち寄ったタイミングで一日休みを設けていたのであった。というわけでソラは瞬に頼み、過去世の目覚めさせ方について教えてもらっていた。
「なるほど……わかった。そういうことなら俺が役に立てるとは思うが」
「すんません。今のところ先輩ぐらいしか頼める相手が居ないんで……」
「カイトも居るだろう?」
「いや、あいつの場合はなんっつーか……もうその領域にないような気もしなくもないんっすよね」
瞬の問いかけに対して、ソラは半ば苦笑気味にそううそぶく。しかしこれに、瞬は笑った。
「なるほど。確かにな。あいつの場合はもうすでに一体化の領域にも到達していそうだな」
「でしょ? そうなるともう常時目覚めてても……」
「どうした?」
「いや、そうなるともしかして俺達がこの間会ったあのカイトも目覚めてるんっすよね。どの程度目覚めてるんでしょう」
「そういえば……そうだな。どうなんだろう」
時折そういう話が出ているので目覚めてはいるのだろうが、どこまでなのかは話を聞いた事はなかった。ソラも瞬もそもそもあの時まで自分達が関わるなぞ思っても居なかったことから、特に気にした事はなかったのだ。とはいえ、ああして関わった今ならばどうなのだろうかと思う所もあったようだ。
「……ああ、いや。すんません。そんな事どうでも良いですね。とりあえず過去世の目覚めさせ方についての話に入りましょう」
「っと、それもそうだな」
ソラの謝罪に瞬も考え込んでいた思考を切り上げて、過去世の目覚めさせ方に話を戻す。というわけで彼は村から少し離れた所で結界を展開する事にする。
当然だが戦闘時ではないとはいえ目覚めさせるのだ。しかも瞬の場合、酒呑童子が出てくる事は明白だ。なので問題にならないようにある程度距離を取った上で、結界を張って魔力を遮断しておこうと考えたのであった。
「ここらで良いか」
「うっす。とりあえず準備しちまいますね」
「ああ、手伝おう」
「いや、良いっすよ。頼んだん俺なんで……それより先輩の場合、目覚めさせるのに準備して貰いたいんで」
「……そうか。わかった。じゃあ、頼む」
ソラの申し出に、瞬は自らの内面に潜り込むべく意識を集中させる。確かに戦闘中ならまだしも、平時に過去世を呼び起こせるほど彼も力を使いこなせているわけではない。
というわけで準備をソラにまかせて瞬は自らの内面に潜り込んで呼びかけるわけだが、その呼びかけに酒呑童子が応えた。だがそこにはどこか笑っているような雰囲気があった。
『お前が教示をしてやるのか』
「俺以外出来る奴が居ないのも事実だろう」
『それはそうだがな』
「……」
むすっ。どこかバカにしたような雰囲気のある酒呑童子に、瞬は少しだけむっとなる。とはいえ、ソラのためだ。ここは素直に頭を下げる事にした。
「すまんが、力を貸してくれ」
『……よいだろう。素直に頭を下げられて応ぜぬようでは俺も頭の名が廃るからな』
「ありがとう」
そもそも自分が勝手に出てきているあたり、酒呑童子も元々力を貸すつもりではあったのだろう。というわけで彼が酒呑童子に助力を求めたとほぼ同時にソラもまた準備を終えて改めて過去世の目覚めについての話を行う事になるのだった。
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