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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3652話 禁足地編 ――推測――

 禁足地ノクタリア。そこは南部諸国と皇都を繋ぐ交通の要衝でありながらも、精神に甚大な影響をもたらす謎の黒いモヤが吹き出し続けるという危険な場所であった。

 そんな地下に設けられていたマルス帝国の秘密研究所の調査をきっかけとして見付かった古代文明の遺跡を探索していたカイトであるが、そこには古代文明の者たちが封じた<<星神(ズヴィズダー)>>の死体があり、それこそが禁足地に吹き出すモヤの原因であると判明。しかしそんな死体とそれが安置された封印の間を確認したカイトは剣呑な顔で、飛空艇に帰還していた。


「で、急いで戻ってきおってからに。何があった」

「ちょいとお前に聞きたいことがな。それ次第じゃ、更に専門家に話を聞かにゃならん羽目になる」

「お主が聞きたい、ということは即ち魔術絡みか」


 基本的にどれだけ戦闘力が圧倒的になろうと、カイトの知識量と見識はティナには遠く及ばない。なのであの場で自分の推測を述べず、彼女に助言を求めたのは正しい判断だろう。というわけでカイトはあの封印の間で見た物を彼女へと語る。


「なるほど……これは確かに見事じゃ。お主の読み通り、様々な文明圏の魔術が複雑に絡み合っておる。余が直に見ればある程度の解析もできようが……こりゃ、神でも相当難儀しような。全ての文明圏のすべての魔術の系統というか、その文明圏が拵えてきた歴史を読み解いてようやく解呪できよう。しかもこれが封印に関するものだけでこれと来た。力を奪い、封印の解呪を難しくする術式も同じように数多の文明圏の魔術を多重に組み込んでいる。しかも特定条件下で強化される仕組みと来た。面白いのう」

「そんなに難しいのですか?」

「うむ。これは……まぁ、何年も掛けられんのであればこやつ(カイト)のように力技でぶち破るぐらいしか手はないかもしれんな」


 ルークの問いかけに、ティナは楽しげに笑いながら古代文明が仕掛けた封印とそれを維持するための魔術を称賛する。なお、ルークが彼女に丁寧な言葉づかいなのは流石に正体を知った後にはるか格上の、しかも年上の魔術師にタメ口なぞ出来るわけがなかったからであった。


「余でも解呪するなら年単位は掛けよう。それにおそらくここまでやっておるんじゃ。おそらく内部の時間を極限まで遅くする遅延の術式もどこかに仕組まれていような。まぁ、これは良くも悪くも効果してしまう術式じゃが」

「なるほど……本当にどの状況かによりけりで良くも悪くも作用しちまうわけか」

「そういうことじゃ。こちらの時間稼ぎは一歩間違えば敵への延命措置にもなってしまう、というわけじゃ。まぁ、すべてを見ねばわからんが、うまくやればそのまま殺しきれる。失敗すれば問題を先送りにしただけになってしまうわけじゃのう」


 カイトの理解に対して、ティナがその言葉を認めて要約する。そしてこの言葉を聞いて、ルークが問いかけた。


「では古代文明の試みは成功した、と。時間はかかりはしたものの殺しきれたのですから……殺せたとは違うかもしれませんが」

「そこが今回カイトが余に話を持ってきた理由に繋がる……シャル。お主の見立てで、この神はどの程度までは確実に生きておった」

「……ルナリア文明崩壊の頃までは、確実に生きていたわ」

「……」


 やはりその結論に到達するか。カイトはシャルロットの明言が自分の得た答えと一緒であったことから、かなり苦い顔だ。そうでなければ、と思っていたのだ。というわけで苦い顔を浮かべて沈黙した彼に、シャルロットが問いかけた。


「下僕。私から今度は聞くわ。あの封印の間にあった大きな異常。あれはおそらく全く想定されていない、未知の魔術により崩壊させられたと見たのだけど」

「……そうだな。オレも同じ結論だ」

「あの封印に穴が?」

「……その確証は得られていない。今はまだ、な。だからティナに聞きに来た」


 驚いた様子のルークに、カイトは改めてティナを見る。正直に言えばこの四人の中で一番魔術の腕が劣るカイトが気づけたのは完全に運命に近かった。そしてなぜシャルロットが聞いたのかも、そこに起因していた。


「ティナ。あの封印の一部に、後付でこんな術式があったんだ。おそらくこいつが効力を発したのは一瞬だけ。だがその一瞬で十分だろう」

「……やはりか」

「これはいったい……あそこには私も見たことのない術式が山のようにありました。なのにそれだけなぜ、気になるのですか?」


 ルークの言う通り、そして先程ティナが語った通り、あの封印の間の魔術は完全に未知のものだ。なにせ現代文明、更に一つ前のルナリア文明が興るよりも更に前。<<星神(ズヴィズダー)>>達によって痕跡もほとんど消された文明の魔術だ。故にルナリア文明と異なり現代の魔術とは大半が技術的、歴史的な断絶が存在しており、エテルノのようにごく僅かに残る痕跡の中にしかないのだから当然だろう。

 一応それでも天才たるティナならば全体からおおよその推測が出来る、という程度で、細かな部分についての解析は彼女でも数年を要する。なのにカイトもティナも、その浮かべられた術式を見るなり盛大に苦い顔をしていたのである。というわけで、カイトがその正体について言及する。


「こいつは風を……概念的な意味での風を起こすための魔術だ。まぁ、有り体に言えば魔術をかき乱して一時的に効力を失わせる魔術だ」

「ということは……あの封印の間にやはり<<星神(ズヴィズダー)>>が?」

「いや、違う。それならオレがわかってティナに聞こう、なんて発想になるわけがない」


 ルークの問いかけに、カイトは少し混乱しているなと笑う。そもそも<<星神(ズヴィズダー)>>との付き合いであればカイトの方が短いのだ。その彼が気付けてルークが気付けない道理がなかった。


「こいつは地球の術式だ。しかも現代の地球じゃほとんど使われていない、これまたもう滅んだ……いや、完全に滅んだわけじゃないが、一般的には滅んだとされている文明の神が扱った魔術だ」

「地球の? だが地球の魔術なんて誰が……しかもあそこは私が入れるとわかった以外、君以外誰一人として入れなかったはず」

「神様なら後先考えなけりゃ入れるだろうし、こいつなら不可能じゃなかったんだろう。シャル、レガドに通信は?」

「用意は出来ているわ」

『なんでしょうか』


 カイトの問いかけにシャルロットが応じると、即座にレガドが応ずる。そうして応じたレガドに、カイトが問いかけた。


「航行システムのログの復旧作業と現代の地図との照らし合わせはどの程度完了している?」

『おおよそは。ただ自動航行システムの運用中のログは異常発生時以外すべて抹消済みですので、そちらは期待しないでください』

「構わんよ……聞きたいのは絶対に残っていないとおかしいタイミングのログだ。邪神エンデ・ニルがこちらの世界に呼ばれた時の位置を教えてくれ」

『ログの確認を開始……検索完了。現在の地図に照らし合わせると、ちょうど今貴方方がいらっしゃるノクタリア近郊です。その後邪神は顕現後、レガドでの復活を不可能と判断すると研究所の外へと逃亡しています。その後の動きは不明ですが、尖兵を繰り出しつつ数カ月後に本格的に侵攻を開始。世界中に混乱が起きることとなります』

「「「……」」」


 やはりか。カイト以下、この展開を推測していた三人は全員が苦い顔で押し黙る。そしてここまで来れば、ルークも理解したらしい。


「ということは……例の邪神が外からあの封印を?」

「だろうな。奴はここらで呼ばれ死にかけの神の気配を感じる取ると、それを利用して復活することを目論んだんだろう」

「出来るのかい、そんなことが?」

「無理だ。普通ならな……だが奴は普通の状態じゃなかった。そもそも世界との接続を断ち切られている神としては瀕死の状態でこちらに呼ばれ、しかもその時の状況もあり怒り狂っていた。正常な判断が出来る状態じゃない上に、あまりにイレギュラーが重なりすぎている。死にかけの<<星神(ズヴィズダー)>>を取り込もうと考えたとしても不思議はないのかもしれん。いや、もしかすると逆かもしれんが」

「逆……というとあの<<星神(ズヴィズダー)>>が呼んだ、と?」

「ああ……どちらが正解かはオレにもわからんがな」


 どちらが接触しようと試みたのか。それはカイトにもわからないし、この場の誰にもわからない。知るとすると当人だけだろう。


「とりあえず邪神はこの地の真上で呼ばれると、即座に瀕死の<<星神(ズヴィズダー)>>の存在に気付いて接触を試みる。んで、どうやったか融合か何かに成功したんだろう。で、奴はこちらでの神としての地盤を手に入れて、<<星神(ズヴィズダー)>>は封印の厳密な条件から除外されてはい、さよなら。地脈に逃れたってわけだ。そして数ヶ月復活に費やして、反抗したってわけなんだろう」

「やれやれ……この様子だと本当にここが地球ではないと理解した上で私達に喧嘩を売っていそうね」

「売ったんだろうな。だがどうでも良かったんだろうよ、そんなことは。最初の『人』に喧嘩を売って、そしてそれに絆された神々により撃破された奴にとっては人と一緒にある神なんぞ殺害対象だ。そいつがどこのどいつか、なんて関係ない。神だろうと人間だろうと獣人だろうとなんだろうと、自分に歯向かった奴の同類だ。ぶち殺すしかないんだろう」


 シャルロットの呆れた様子に、カイトもまた盛大に呆れながら首を振る。だがその身に宿る闘気は、尋常ではなかった。故に彼はまるで唾棄するように、しかし獰猛な笑みと共に断言する。


「ま、確かに結論としちゃ無駄足か。どっちでも変わらんからな」

「む、無駄足? 結構な収穫があったと思うんだけど」

「いや、奴がどうやってこっちの世界に根を張ったか、なんて極論どうでも良いからな。オレはただ奴をぶちのめす。それだけはオレの役目で、これを誰かに譲るつもりだけは毛頭ない。そして奴も何が何でもオレをぶち殺したい。な? 無駄足だろう?」


 確かに学術的な意味であればかなりの収穫があったのだろうが、カイト個人からしてみればそれだからなんなのだ、というだけだ。彼自身がすでに敵と見定めている以上、倒すだけだった。というわけでそんな彼に、ルークは苦笑気味だ。


「そ、そうかい……でもそういえばなぜそんな君は邪神に目の敵にされているんだい? 君はせいぜい三百年前の英雄だ。月の女神の神使であることを差っ引いても、あまりに目の敵にされすぎている」

「ああ、それか。ま、当然やつからすりゃ自分を一度倒した月の女神の神使で寵愛を受けている存在だ。眼の前で縊り殺してやりたいだろうよ。そして、もう一つ」


 ルークのもっともな疑問に、カイトは笑いながら答える。そもそもこの程度であれば有名税と彼とて取るに足らないと考え取り合わない。ここに更にもう一つ理由が加わるからこそ、彼もまた戦う気を見せているのだ。そしてその理由であり、彼が招いたもう一人の専門家が彼の言葉を引き継いだ。


「オレの教え子だからだ」

「あなたは……」

「ギルガメッシュという者だ。そして地球において、かつて邪神となる前の神に敗れ、そして同時に打ち勝ったものでもある」

「先生。すいません、ご足労頂きまして」


 ギルガメッシュ。古代ウルクの王にして、様々な神話が入り乱れる時代にありて実在したと言われる最古の英雄王。そして同時に、カイトの先生でもあった。そんな彼の来訪に、カイトは立ち上がって深々と頭を下げる。


「ああ、良い。奴の話だろう。オレ以上の専門家はいないはずだ……にしても、また面倒なことをしているな、奴も」

「心躍るでしょう?」

「少しだけな」


 カイトの問いかけに、ギルガメッシュもまた獰猛に牙を剥く。そうしてそんな彼が口を開いた。


「だが面白い。オレの前に立ちふさがり神話の時代の終焉の始まりとなった奴が、今度はお前の前に立ちふさがり次の時代への福音を告げる者となるか」

「……」


 次の時代の担い手となることはまっぴらごめん。いつものカイトであればそう言う所であるが、今回ばかりはその大役を担えることが嬉しかったようだ。ギルガメッシュの言葉に無言で同意する。


「親子二代、師弟二代で面倒な奴に絡まれたものだな」

「全くです……まぁ、それでも原初のあの王様達に比べりゃマシですけど」

「ははははは! 違いない。いや、あれはオレ達もまだまだ未熟だっただけではあったがな」


 今思い返せば対応策なぞ山のようにあった。だのにそこから遠ざかり田舎でのんびりとスローライフなぞしていたから、策略に巻き込まれてカイトが原初の魔王になぞなってしまったのだ。無論その結果こうして世界達の願い通り、善性の精神を養えたのだから悪い事ばかりではなかったのだが。というわけでひとしきり笑ったギルガメッシュであったが、すぐに気を取り直して緩んだ顔を引き締める。


「では詳しく教えてくれ……ああ、そうだ。黄金の鎧も持ってきた。こちらで<<外なる神(アウターゴッズ)>>の精神汚染にも対応するようにアップデートしているやつだ。いざとなれば現地入りも出来るだろう」

「わかりました。ではここしばらくの報告から」


 ギルガメッシュの求めを受けて、カイトが現状の報告を開始する。そうしてこの日はしばらくの間、邪神と<<星神(ズヴィズダー)>>の間に起きたことや遺跡についての話し合いに徹することになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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