第3651話 禁足地編 ――死体――
禁足地ノクタリア。そこは南部諸国と皇都を繋ぐ交通の要衝でありながらも、精神に甚大な影響をもたらす謎の黒いモヤが吹き出し続けるという危険な場所であった。
そんな所での異変の報告を受けた皇帝レオンハルトの要請によりその調査が唯一出来る存在として要請を受けたカイトは様々な可能性を検討し、調査隊を組織。自身を中心として調査を重ねていた。
そうして調査を重ねる中でユーディトからの情報提供で発見されたマルス帝国の秘密研究所であったが、その更に地下にはユーディトさえ知らなかった古代文明の遺跡が存在していることが判明。そここそが黒いモヤの元凶と判断すると調査に乗り出していた。
というわけで数日に及んだ調査の末、古代遺跡に関係のあるエテルノとその主人ルークと共に古代遺跡の最深部の調査に乗り出すことになるのだが、そこで彼は<<星神>>の一柱『黒き者』と遭遇。闇の巨人との戦いに及んだものの、これを軽く撃破。最深部へと到達していた。
そうしてたどり着いた最深部で目の当たりにしたのは、無数の武具が突き立てられ重厚な鎖により拘束された、形容詞難い容姿の神の死体であった。
「『黒き者』が無駄足、と言う意味はわかったが……これは本当に死んでいるのかい?」
「死んでるよ。確実に」
曲がりなりにもカイトは死神の神使だし、死神であるシャルロットもまた同じ見立てなのだ。この時点で神の死は確定的であった。だがそんな彼の言葉にルークはやはり訝しむ。
「だが神の死とは本来、文明の終焉にも近しいはずだ。それに対して<<星神>>が滅んではいないはずだし、そうなればこの神が死んだとは到底思えない」
「良く知っていたな、神の本当の意味での死について……」
ルークの言葉にカイトは感心したように頷いて、その言葉を認める。これはあまり知られていないことではあったのだが、太古の昔から暗躍し幾つもの文明を滅ぼしてきた<<星神>>達と関わり続けた彼が理解するには十分だったようだ。
「まぁね……とはいえ、そうである以上この神が死んでいるというのは話がおかしくなる。死を偽装していたりはしないのか?」
「……」
ルークの問いかけに、カイトはかなり警戒しながらも神の死体へと近付いていく。そうしてじっくりと観察していると、シャルロットが首を振った。
『無駄よ。下僕もわかっているでしょう? この神の死はそういう観念的な死とはまた違う。肉体はここにあれど、すでに魂がない状態』
「……だな。これには魂がない。そうだな……死んでいるという言い方は少し間違っていたかもしれない。魂の入っていない抜け殻なんだ」
「なるほど……たしかにそうであるのなら、死とはまた違う。そしてそうであるのなら、これがある意味では死体ということも筋が通っている……」
カイトの噛み砕いた説明に、ルークはようやく納得できたようだ。確かに元々魂が入っていたが、今は魂がない単なる肉の塊なのだから死体と考えたほうが良いだろう。だが同時に魂が抜けた、と死んだはまた少し意味合いが違っていた。
「魂が抜けただけなら、魂だけで逃げた可能性もある……か。それはあり得る話ではありそうかな」
「そこはわからん。だが確かに、魂だけで逃げた可能性は十分にありえるだろう。なにせこんな状態だ。封印解除でも出来なけりゃ肉体の再生も厳しい。こりゃ、相当な魔術がとんでもない量で組み込まれているな」
肉体の再生を阻害する術式に、逃走を阻止するための術式。それも同じ効果を持つ術式でも全く違う魔術式を組み込んだり、と可能な限り封印を維持出来るように構築していた。
「この術式を編んだ魔術師は間違いなくティナレベルの天才だ。異なる文化圏の魔術を一つの封印として機能するように構築している。神だとて逃げるのは容易じゃないだろう。だが……」
「何か気になる点が?」
「……ないではない。まぁ、足掻いたこともまた事実なんだろうが……だが、これは……」
ルークの問いかけにカイトは顔をしかめながら何かを考える。そんな彼が見ていたのは天井付近と、更に神の血が滴り落ちている床付近だ。そんな彼の視線に、ルークもまた滴り落ちる血を見る。
「神の血は地面にふれると気化するのか」
「ん? ああ、そうみたいだな。まぁ、こりゃおそらく自らの血を気化させて遺跡を侵食するつもりだったんだろう。それか仲間を、眷属や奉仕者を呼び寄せるためだったのかもしれんが」
どうやらカイトが考えていたのはそういうことではなかったらしい。ルークの指摘にカイトもおそらく、という形で推測を重ねる。というわけで神の死体とその周辺をしばらく確認する二人だが、何かを考えていたカイトが苦い顔で問いかける。
「シャル」
『わからないわ。それこそそこらはティナに聞いて頂戴』
「……正解だとしたら盛大に厄介事が更に厄介になるぞ」
『私だって考えたくはないわ。でもそうだとするのなら、一つの情報にはなるでしょう。色々と謎もあったのだし』
「はぁ……」
これはいよいよ厄介に更に輪を掛けて厄介が加速するかもしれん。カイトはこちらも苦い顔のシャルロットも同じ推測にたどり着いていることを理解して、盛大にため息を吐いた。
「ルーク! 戻れるか!?」
「大丈夫だけど……どうしたんだい!?」
「少しティナと……後はもうひとり専門家に話を聞きたくなった! 早めに戻りたい!」
「わかった!」
どうやらカイトは現状が非常に厄介と判断し、ティナ達に意見を聞くことにしたようだ。というわけでカイトとルークは一旦神の死体に関する調査を切り上げて、飛空艇に戻ることにするのだった。
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