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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3650話 禁足地編 ――無駄足――

 禁足地ノクタリア。そこは南部諸国と皇都を繋ぐ交通の要衝でありながらも、精神に甚大な影響をもたらす謎の黒いモヤが吹き出し続けるという危険な場所であった。

 そんな所での異変の報告を受けた皇帝レオンハルトの要請によりその調査が唯一出来る存在として要請を受けたカイトは様々な可能性を検討し、調査隊を組織。自身を中心として調査を重ねていた。

 そうして調査を重ねる中でユーディトからの情報提供で発見されたマルス帝国の秘密研究所であったが、その更に地下にはユーディトさえ知らなかった古代文明の遺跡が存在していることが判明。そここそが黒いモヤの元凶と判断すると調査に乗り出していた。

 というわけで数日に及んだ調査の末、古代遺跡に関係のあるエテルノとその主人ルークと共に古代遺跡の最深部の調査に乗り出すことになるのだが、そこで彼は<<星神(ズヴィズダー)>>の一柱『黒き者(アートルム)』と遭遇。ここが<<星神(ズヴィズダー)>>に関係する遺跡であると理解することとなっていた。


「はっ。雑魚だな。異界に接続する必要さえないか。神の血だか眷属の血だかは知らんが、それを受けてもこの程度とはな」


 闇の巨人の最後の一体を手のひらに生み出した光球で包みこんで完全に消滅させ、カイトは吐き捨てるようにそう告げる。これにアル・アジフが応じつつも、一応の言及を行った。


「そうだが……おそらくこいつらの神が目覚めていれば度合いは変わってきただろう。決めつけは厳禁だ」

「そりゃわかってる」

「私達にとってこの程度なのも事実。この程度で負けるほど私達は弱くない」

「そうだな」


 ナコトの言葉をアル・アジフもまた認める。油断して良い相手でないこともまた事実ならば、この程度で苦戦出来るほど自分達が弱くないというのもまた事実だ。魔導書達を含めたカイト単独であれば、星星を渡り歩く神々とだって十分に戦うことが出来た。

 というわけでそんなことを言い合った三人だが、すでに戦いは終わったのだ。いつまでも浪費が馬鹿にならない『神』を顕現させておく必要はなかった。『神』の顕現を解除すると、そのまま再び魔導書に身を包んだ状態に戻る。


「よいしょっと……ルーク! 無事か!?」

「な、なんとかね……」


 カイトの問いかけに、こちらもまた『神』の召喚を解除してエテルノに身を包んだルークが半笑いで応ずる。これにカイトは首を傾げた。


「どうした?」

「いやぁ……完全に晴れてしまったな、と」

「あー……まぁ、派手に暴れはしたからな」


 ルークの問いかけにカイトは一度目に掛けていた魔術を解除して、肉眼で周囲を見回す。ルークの指摘の通り、黒いモヤは完全に消し飛んでいた。といっても復活の予兆がないかと言うと、そんなわけもなかった。


「だが……モヤがまたあふれかえるのは時間の問題だろう」

「うん? あれは……」

「下からモヤがまた溢れてきているな。しかも結構な勢いで……まぁ、そりゃあいつらは単にモヤが集まって出来ただけの連中だ。下に居るだろう何かが本命で、封じられているからさっきのあいつらもあの程度だったってだけだな」

「とどのつまり封印はされているけど封印も完璧じゃなくて漏れ出た力で出来た、というわけか……」


 おそらく古代文明の技術力は今の技術力を上回っているだろう。その封印を受けながらもあれだけの力なのだから、復活した暁にはどうなるかルークは少しだけ空恐ろしい物を感じていた。というわけで二人は再びモヤがこの大空洞を埋め尽くし、闇の巨人が復活する前に更に下へ進むことにする。


「また同じぐらい深くないと良いんだが」

「それは行ってみないとだね」


 兎にも角にもここからまた十数分地下に降下し続けるのは少し御免被りたい。カイトもルークもそう思いながらも笑い合い、更に地下への階段に足を踏み入れる。

 そしてどうやら、今回は幸いなことに何も無いまま十数分というわけではなかったようだ。黒いモヤで満たされた螺旋階段を数分降りた所で、一つの少し大きめの空間にたどり着いた。そこには一つの巨大な石で出来た扉があり、二人の立ち入りを拒んでいた。


「……明らか封印の扉って感が」

「封印のような紋様はあるけど……だがこれは……」

「機能してないな」


 どういうことだ。カイトもルークもおそらくこれが封印のために設けられた扉なのだと理解しつつも、それが機能を停止していることに首を傾げる。


「機能停止ということはまさか中の何かは目覚めている……ということかな?」

「それだったら数千年もここにとどまり続けている意味がない。モヤが吹き出しているのがこの部屋だから、中に何かが居るということは確定だ」


 ルークの推測に対して、カイトは石の扉の接続部から漏れ出すモヤを見ながら訝しむ。ルークの言う通り目覚めているのなら、カイトの言う通りなぜ数千年も何もせずここに留まっているのか。意味がわからなかった。とはいえ、こうなるとも取れる手は一つしかなかった。


「行く……しかないな、これは」

「だろうね。幸い封印そのものはなぜか停止しているみたいだ」

「『黒き者(アートルム)』が目覚めさせたとかっていうオチがなけりゃよいんだが」

「どうだろうね。無駄足と言っていたから、入ったことは確実そうだけど」


 おそらく自分達が古代遺跡に入ったことを察したからか、それともこういう事態において有効活用するためにこの数千年のどこかで入ったかは定かではないが、上の螺旋階段で出会った『黒き者(アートルム)』はこの最深部について、行くだけ無駄と発言していた。

 先に入り、何かをしていた可能性は非常に高かった。前者なら何か自分達に向けた厄介事を仕掛けた可能性は高かったが、後者であれば先の発言の意図を吟味するためにも更に先に進むしかなかった。


「だな……良し。ルーク。お前はマジで一番うしろまで下がってろ。流石にマジの神が相手なら厳しすぎるし、眷属でも距離は取ったほうが良い」

「そうさせてもらうよ。ただ支援だけは出来るように準備しておくから、万が一は手を出すからね」

「ああ、そうしてくれ」


 何が起きているか調べるためには、中の状態を知らなければならない。ならばと気合を入れて、カイトは石の扉の前に立つ。そうしてルークが部屋の一番手前まで戻ったことを確認。それと共にカイトの髪が蠢いて手の形を形作ると、石の扉を押し開ける。


「……これは……」


 石の扉を押し開けて中の光景が明らかになり、その光景にカイトは思わず息を呑む。石の扉の先はこれまた上の闇の巨人達が居た巨大な空洞にも匹敵するだろう巨大な空間だ。

 だがこちらには無数の剣やらの武器が突き立てられ、非常に巨大な鎖で雁字搦めにされた無数の触手が身体の至る所から生えた、人型でも獣型でもない肉の塊のような形容しがたい形状の正しく化け物というしかない巨大な『何か』が一体だけ拘束されていた。そうしてそんな数百メートル規模の巨大な肉の塊を見据えるカイトに、声が掛けられた。


『無駄足だっただろう?』

「『黒き者(アートルム)』か」

「ああ……おっと。攻撃はしないでくれ。私は無駄足を踏んだ君達を笑いに来ただけなんだ」

「それで攻撃しないでくれ、とは良い性格してやがる」


 黒いモヤの中に更に深い闇で出来た人型の姿を取っておどけて見せる『黒き者(アートルム)』に、カイトは半ば呆れるように肩を竦めながら手にしていた<<バルザイの偃月刀>>を消滅させる。そうしてそんな光景で、ルークはひとまずの安全を理解。こちらに近寄ってきた。


「カイト。何が……」

「見ての通りだ」

「寝ている……のか?」


 カイトが見ていた光景を目の当たりにして絶句したルークが、見たままを告げる。それは確かに拘束され、深い眠りに就いているかのようにも見えた。だがこれに、カイトははっきりと首を降る。


「いや、オレも死神の神使だからわかる……こいつはもう死んでる。単なる死体だ。死体からこぼれ落ちた血……それが黒いモヤの正体だ。それは悶死も精神に異常も来すだろうよ」


 人として考えるとぽたぽたぽた、と滴り落ちる程度ではあるのだろう。だが巨大な肉の塊だ。その滴り落ちる程度でも相当な量で、数千年を掛けてこの遺跡全体に満ちあふれて外に漏れ出していたのであった。


「シャル……この死体を消し飛ばせるか?」

『出来る……は出来るわ。多分。この星の命でないこいつに私の力が通用するかは未知数。それに……』

「ま、今はやるべきじゃねぇわね」

「何もしていないよ」


 敵意に満ちたカイトとシャルロットの視線を受けて、『黒き者(アートルム)』は苦笑いを浮かべる。どうやら本当にここで戦うつもりはないらしかった。


「まぁ、これで無駄足だったとわかってもらえたかと思う。多分もう数千年もすると干からびると思うから、君達も放置で良いんじゃないかな」

「さすがは神様。気の長い話だ」

『あははははは』


 カイトの言葉に『黒き者(アートルム)』は再びどこかへと消えながら笑う。そうして『黒き者(アートルム)』が消え去ると共に、カイト達は拘束された神の死体だけがある部屋の中へと入っていくのだった。

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