第3648話 禁足地編 ――番人――
皇帝レオンハルトの要請を受けて禁足地の調査に訪れていたカイト。そんな彼は禁足地の調査の前に禁足地にマルス帝国の秘密研究所の調査を行う事になるのだが、その結果として秘密研究所の更に地下に古代文明の遺跡がある事が発覚。
そこが禁足地の最深部より更に深部にあると判断された事により予定を変更し、その調査に乗り出す事になる。というわけで二回目の調査の最終日。カイトは皇帝レオンハルトの指示を受けて、ルークと共に最深部に封じられている者の確認に乗り出すことになっていた。
「「……」」
思った以上にかなり深い。飛空術を行使して更に地下へと降りていく二人だが、中々地面には到達していなかった。
「空間……が、歪んでいるみたいだね」
「まー、こんなヤバそうな場所だ。まともに空間を構築してたらどんな被害が起きても不思議じゃない」
「確かにね……私達なんて一握り出来そうだ」
「二人まとめてな」
ルークの冗談にも似た言葉にカイトもまた楽しげに笑ってそう告げる。実際、今二人が降りている空間の周囲で沈黙する闇の人型は数十メートル級で、二人なぞまるで比較になっていなかった。というわけで笑ったカイトだが、すぐに気を取り直して問いかけた。
「で、どう思う?」
「さっきの彼かい?」
「あの『黒き者』、男なのか?」
「さぁ? そもそも生き物の姿をしていたのかもさっぱりだ」
カイトの問いかけにルークはいい加減だ。そもそも『黒き者』は地球で言う所の『這い寄る混沌』と一緒。姿形を自由自在に変えられて、そしてどこにでも現れる存在だ。
「さっきの個体がそもそもここに居たのか、それとも私達に密かに同行していたのか……それはわからない。ただ居るだろうとは思っていたけどね。君もだろう?」
「それはオレも同意見だ。どうせ潜んでるだろうとは思っていた。姿を見せないから存外興味ないのかなー、とか思っていたが」
「そういうことじゃなかったんだろうね。単にタイミングを見定めていただけかな」
なぜあのタイミングで姿を見せたのかは定かではないが、少なくとも悪意無しではないのだろうな。二人は案の定で出てきた『黒き者』に対してそう思っていた。それだけのことをしてきているのだから当然ではあっただろう。
「で、そうなるとだけど」
「まー、多分そういうことにはなるんでしょうね。準備は?」
「大丈夫だよ。ある程度は信頼してもらいたいね」
「で、やるのやらないの? どうせ道を譲ったフリしてるだけなんだろ?」
『なんだ。つまらないな』
「「……」」
ほら居たよ。二人はカイトの問いかけに応ずるように黒いモヤの中に響く更に深い闇の声にただただため息を吐く。奇襲するつもりでもあったのだろうが、年単位で翻弄され続けている二人だ。『黒き者』の横槍なぞ最初からわかっており、奇襲なぞ到底不可能と悟ったのであった。というわけで響いた言葉に
「やれやれ……」
「エテルノ」
どうやら戦いは避けられないようだ。カイトもルークも同時に、そして言われるまでもなくそれを理解していた。それは当然、魔導書達も一緒だった。ルークがエテルノに声を掛けると同時。動き出し猛烈な速度で拳を振るってきた闇の巨人の拳に、エテルノの呼び出した金属の拳が顕現する。
そうして食い止められた拳に、カイトは<<バルザイの偃月刀>>をすべて投射。輪切りにして更に粉微塵に切り捨てる。
「ほらよ」
『まぁ、君達もすんなり最下層へたどり着けるなんて思っていなかったんだ。こいつらは単なる昔の人々が倒しそこねた……倒せなかった? だけのものだが、君たちなら出来る。頑張ってくれ』
「また古代文明の後始末か……ナコト」
『鏡面世界展開?』
「そそ」
幸いこいつは神々でもなければ眷属や奉仕者ではない様子だが、それでも戦闘なのだ。一応はカイトも周囲にバレないようにしておくかと考えたようだ。とはいえ、そんな彼の言葉にナコトが首を降る。
『必要ない。この空間は多分緩衝地帯。万が一この更に下に居る何かが目覚めた場合にここで食い止めるための空間。といってもこの下に居るのが神だった場合、こんな空間は無意味だけど』
「はっ。古代文明も粋なことしてくれるじゃねぇの」
どうやらここの闇の巨人達と戦う分には問題ないらしい。カイトは自身に向けて振るわれる拳を髪の自動防御で防ぎつつ、獰猛に牙を剥く。そうして振るわれた拳を<<バルザイの偃月刀>>で縦に両断すると、彼は即座に周囲を確認。敵の数と広さをおおよそ把握する。
「敵の数は5。広さはおよそ……半径3キロって所か。上は……1キロぐらいかね」
『空間の歪曲と強度は割と。『神』を呼ぶには十分……な程度。父様の全力には到底耐えられないけど』
「十分だ」
力で対処出来ないのなら技で対処するまで。カイトはナコトの言葉にそう笑う。そうして彼が笑うと共に、こちらの背後からも金属の拳が顕現。自身に近付いてきていた闇の巨人の横っ面を殴り付ける。
「おらよ! ルーク! 支援してやる! 『神』の召喚が出来るならやっておけ!」
「感謝する!」
流石に今のルークでは<<星神>>に関連する何かと戦いながら『神』を召喚するのは厳しい。というわけでカイトは先にルークの支援に入ることにしたようだ。というわけで一転天井付近まで急上昇して距離を取って『神』の召喚の準備に入る彼を見送ると、カイトはルークへの追撃を防ぐかのように立ちふさがる。
「さて……」
こうやって上に距離を取ればこれないなんてことはないだろうな。カイトは両手に<<バルザイの偃月刀>>を一本ずつ手に取りながら、闇の巨人達の次の行動を見守る。どうやらこの闇の巨人達にとって欠損はさほど意味がないらしい。切り捨てた部位は周囲の闇が収束して再び元の部位を形成していた。
「やり切るなら一撃で完全消滅か……こりゃ出力もそこそこ要求されそうだな」
『『神』の顕現が一番手札としては安牌だろう。それとも父よ。出力調整、自分でやるか?』
「お願いするわ。お前らを介した方が更に繊細な調整が出来るからな」
ぶんっ。虚空を蹴ってこちらへと肉薄してきた闇の巨人の一体に向けて、カイトは<<バルザイの偃月刀>>を投げ放ち、その巨体に突き刺さると同時に爆発させて地面へと叩き落とす。
そうして一体を叩き落としたことで肉薄は難しいと悟ったのか、残る闇の巨人達は拳をこちらへと突き出して一斉に闇の紐をカイトへと伸ばす。
「ま、そういうこともしてくるわな」
伸びてきた闇の紐に対して、カイトは特段驚きも感慨もなく二振りの<<バルザイの偃月刀>>で切り捨てる。そしてこれも通用しないと見るや、今度は起き上がってきた一体を含めて無数の闇の光球を発射する。
「撃ち合いは得意だぞ」
十数台にも及ぶガトリング砲もかくや、という勢いで放たれる闇の光球はどれも一つ一つがそれだけで中型の飛空艇なら撃墜出来ただろう威力だ。
だがそんなものがカイトに通用するはずもなく、無数の武器の投射により相殺される。そうしてそれからしばらくの間カイトはルークの時間を稼ぐため、そして敵の情報をなるべく手に入れるため、時間稼ぎに徹することにするのだった。
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