第3647話 禁足地編 ――螺旋階段――
皇帝レオンハルトの要請を受けて禁足地の調査に訪れていたカイト。そんな彼は禁足地の調査の前に禁足地にマルス帝国の秘密研究所の調査を行う事になるのだが、その結果として秘密研究所の更に地下に古代文明の遺跡がある事が発覚。
そこが禁足地の最深部より更に深部にあると判断された事により予定を変更し、その調査に乗り出す事になる。というわけで二回目の調査の最終日。カイトは皇帝レオンハルトの指示を受けて、ルークと共に最深部に封じられている者の確認に乗り出すことになっていた。
「「……」」
コツコツコツコツ。螺旋階段を下る道中。二人の足音だけが響き渡る。一体どれだけの月日が流れたのかは誰にもわからないが、少なくとも数千年もの間誰一人としてここに入ることはなかったのだろう。そして戦いもここでは起きなかったようだ。目立った戦闘の痕跡はなく、ここに居る何者かが数千年もの月日封ぜられたままだったのだと察せられた。
「お仲間もひどいもんだな。数千年置き去りのまま、封印解除はするつもりなしか」
「彼らにとっては所詮、封印解除が試練として使えるかどうか。封印させることが使えるかどうかが問題なのだろうね。私が見てきた痕跡も大半が終わった後に何かをしようとした形跡はなかった」
「奴ららしいといえば奴ららしいかもしれんなぁ……」
何千年何万年の月日を昨日かのように語る者たちだからだろう。数千年の月日を放置ということはざらだったし、まるで忘れていたとばかりに思い出すこともままあった。気にするだけ無駄。それが二人の共通認識のようだった。というわけでそんな二人は更に地下深くへと進んでいくわけだが、そうして歩くこと十数分。終わらない螺旋階段にカイトが訝しむ。
「ナコトでもどっちでも良い。幻惑か何かを展開されている様子は?」
『特段問題は感じんが……』
『構造側にも問題なし。単に本当に深いだけ』
「これだけ進んでもまだ底にたどり着かないってのか……」
流石に終わらない螺旋階段を訝しんだカイトだが、どうやら魔導書達の意見としては本当にここは何も仕掛けは施されておらず、ただ単純に深いだけらしい。そうして顔を顰める彼に、ルークもまた肩を竦める。
「私の方でも一緒だ。これはどうやら本当にただただ深いらしい」
「最高だな。こりゃ相当だぞ……」
螺旋階段なので普通よりもゆっくり進んでいることは間違いないが、それでも十数分だ。もともとが地下深くの古代遺跡からなので、かなりの深度に到達していることは間違いないだろう。というわけで再び黙して進み続けるわけだが、そこでふとカイトが足を止めた。
「……おいおい。オレ達が来たからって数千年ぶりにお仲間を目覚めさせようって腹づもりか?」
「っ」
『いやいや。そういうつもりはないのですがね』
カイトの問いかけに応ずるように、黒いモヤの中に更に深い闇が生じてその問いかけに答える。そんな深い闇はまるで丁寧な口調ながらも、どこか慇懃無礼な様子だった。
『単なる助言ですよ。これから先に進む意味はありません。引き換えしたほうが良いですよ』
「おいおい。そう言われて戻ります、とか言える立場と思うのか?」
『でしょうね。ですのでこれはあくまでも助言です。これから先に進んだとしても何ら得られるものはない、というだけの話です』
「でもお仲間は眠ってるんだろう?」
『それも否定はいたしませんがね』
カイトの問いかけに深い闇が笑いながらそう告げる。そんな闇に、カイトは重ねて問いかけた。
「それともなんだ? もしかしてここから先の奴はあまり触れられたくないとか?」
『いやいや。別にどうということはありません。行きたいならどうぞ』
カイトの問いかけを否定するように、深い闇は彼らへと道を譲る。そうしてそれを受けて、カイトは遠慮なくその横を通り抜ける。
『行くんですね。無駄なのに』
「無駄かどうかはオレが決めるし、何より行って確かめろが上の命令だ。どうせお前にも上は居るんだろう?」
『なるほど。これは失礼いたしました』
やはり案の定か。カイトの問いかけに上司の命令と言われれば素直に応じるしかなかったらしい深い闇はそれを最後に、気配が消え去る。とはいえ、完全に消えたとはカイトには思えなかった。
「……まだどこかにはいそうだな」
「居るだろうね。奴らはいつもそうだ」
「ま、今回は横槍はしそうにないか。なら、放置で良いか」
ここで厄介なことはああいった手合は時として本当のことを言っていることもあることだろう。そしてどうやらあの様子だと本当に何かしてくるつもりはなさそうで、この先が無駄足になる可能性は十分にありえた。だがカイトとしては先に言った通り、皇帝レオンハルトに行けと言われているのだ。行くしかなかった。と、そうして再び進み出してすぐ。あっという間に闇で満ち溢れた巨大な空洞の天井へとたどり着いた。
「これは……」
「闇の人型……が何体もだね」
「……そして更に下へ続く道も、か」
どうやらここまではたどり着けても更に奥深くに行くには飛空術やらで一旦降りて、更に進まねばならないらしい。カイトとルークはそんな現実に少しだけ顔を顰める。とはいえ、行かないという選択肢はないのだ。二人は諦めて飛空術を行使して、上の大空洞とは比較にならない巨大な空洞を降りていくのだった。
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