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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3645話 禁足地編 ――第二次中間報告――

 皇帝レオンハルトの要請を受けて禁足地の調査に訪れていたカイト。そんな彼は禁足地の調査の前に禁足地にマルス帝国の秘密研究所の調査を行う事になるのだが、その結果として秘密研究所の更に地下に古代文明の遺跡がある事が発覚。そこが禁足地の最深部より更に深部にあると判断された事により予定を変更し、その調査に乗り出す事になる。

 そうして延べ5日の調査を終えて、二回目の調査日程の最終日。カイトは皇帝レオンハルトからの指示を受けていた。


『わかった。古代遺跡の調査はこちらで追加調査への検討を進めよう。だがどうしたものか……封じられていたか』

「調査そのものは秘密裏に進めていますが……封鎖はやはり困難と」

『ああ。先にも告げたが、あの一帯は皇国……それも皇都と南部諸国を繋ぐ要衝だ。あそこが閉ざされることがあっては経済的な損失は計り知れん』


 カイトと皇帝レオンハルトは頭を抱え込む。ここら為政者として厄介な所だ。ただ敵を倒せば良いではない。如何にして民衆に恐怖を与えないように倒すのか。それが何より肝要だった。


『いっそ公が公になれば楽なのだがな。それなら明日にでも討伐に取り掛かれる』

「<<星神(ズヴィズダー)>>の一件が終わってからにした方が良いかと」

『終わるのか? そして明日やれと言われて出来るか?』

「終わらないでしょうし、やれとおっしゃるのならですね」

『「あははははは」』


 カイトと皇帝レオンハルトは揃って半ばやけっぱちな様子で笑う。そうでもなければやってられなかったようだ。


『本当に時限爆弾も良い所だ。公よ。あまり公のような者に言いたいことではないが、寝ている所を一撃で葬れるか?』

「わかりません。眷属や奉仕者程度ならまだやれるかもしれませんが……眷属でも上位の神の眷属になるとちょっと無理ですね。奉仕者程度なら多分やりきれますが」

『はぁ……』


 無理というのは外の一般市民達にバレないように、ということだろうが。皇帝レオンハルトは現状にただただため息を吐く。


『寝ている子を起こさぬようにするか、癇癪を起こされ対応に慌てふためくことになるか……うぅむ……』

「……」


 頭を抱え込む皇帝レオンハルトに、カイトはただ黙して結論を待つ。そうしてしばらくの後、皇帝レオンハルトが何かを思い出したかのように顔を上げた。


『公よ。ふと思い出したのだが、偽装用の大規模結界はどうなっている?』

「あれですか」


 そういえばそんなものがあったな。カイトは皇帝レオンハルトの指摘に思わず目を見開く。そうしてそんな様子で、皇帝レオンハルトはカイトもまたその存在を失念していたことを理解する。


『確かあれは公が万が一出ねばならん事態になった場合に用意したものだったはずだ。あれを使うことはできんか?』

「可能……かどうかは少し判断出来かねます。あのモヤが……」

『どうした?』

「少々失礼します」


 どうやら今度はこちらが何かに気付く番だったらしい。訝しんだ様子の皇帝レオンハルトに、カイトは一つ断りを入れて懐から魔導書を取り出した。


「……アル・アジフ、ナコト。どっちでも良い。こっちの世界でも鏡面世界を作ることは出来るか? <<ニトクリスの鏡>>を用いて鏡面世界から鏡像を生み出しているから出来ると思うんだが」

『あれはあくまでも異界化の一つなので出来るが……何を考えている?』


 鏡面世界というのは異界化の一種なのだが、そういう魔術があるわけではない。これはカイト達が鏡を利用した異界であることから鏡面世界と呼んでいるのであった。


「鏡面世界を多重作成、最深部に移送して更にそこから結界を展開する」

『不可能ではないが……』

『多分一重二重程度だと壊されるのが関の山』


 苦い様子のアル・アジフの言葉の先をナコトがはっきりと告げる。これにカイトが問いかけた。


「何重必要だ?」

『多ければ多いほど。奴らが居ると考えればそもそも無理という話は横にして』

「あははは。ま、そりゃそうだがな」


 ここに居るのが<<星神(ズヴィズダー)>>の一柱であるのなら、おそらくこんな偽装工作なぞ意味を為さないだろう。こんな偽装工作が出来るのは眷属や奉仕者程度。小細工が神に通用するわけがなかった。というわけで少し笑った所で、皇帝レオンハルトが口を挟んだ。


『魔導書か……何か策を思いついたか?』

「ある程度の防御策……という所かと。やはり結界は必要かと考えますが」

『だろうな……あれの準備、確認にどれだけ時間が必要だ?』

「悩ましい所です。正直あれは本来、平地やある程度対応が出来る場所での使用が前提です。あの地のように何か良くわからない現象が起きている場所での使用は考えていない」

『だったな……』


 カイトを出陣させる上で用意していた結界を思い出して、皇帝レオンハルトは今日何度目かのため息を吐く。当然だがこの準備にも時間は必要だし、軍も出さねばならないだろう。

 そしてそうなれば必然として偽装工作として観光客達にも何か体の良い、されど疑問をさほど抱かれない言い訳を用意する必要がある。諸々を考えれば、明日いきなりの討伐はどだい無理なのであった。


『……公よ。これ以上は考えてもさほど意味はあるまい。明日はとりあえず最深部の調査を頼む。そこを確認せねばならん、という公の報告はその通りだ。その上でどの程度の対応が必要か考えねばなるまい』

「かしこまりました。では明日は最深部の調査を行います……万が一の準備は?」

『すでに軍は皇都を出た。万が一の万が一、その場での覚醒が確認された場合は即座に討伐戦に移行せよ』

「はっ!」


 これはあくまでも準備の上で戦うという場合の話で、突発的な覚醒に対応する話ではない。そうなれば彼としても現場の判断で討伐に移行してもらわねばならなかったし、それが出来るようにカイトにはすべての権限を委任している。問題はないはずだった。というわけでカイトの応諾に、皇帝レオンハルトは一つ頷いた。


『うむ……はぁ。目覚めねば良いのだが』

「そう言われると覚醒する気がしてならんのですが」

『はははは……兎にも角にも最低限の準備は出来ている。ああ、そうだ。それで明日は俺も万が一に備え終日待機している。調査の時間は確か11時だったな?』

「定刻通りたどり着けるのであれば、その時間になるはずです。軍は?」

『こちらは明朝そちらに到着する。だが各方面に散らす。観光客達にバレぬようにな』

「南部へも?」

『無論だ……南部諸国の連中にバレぬようにするのにえらく情報部が気を遣ったが……』


 本当に今回の一件では色々と気を遣わねばならないことが多すぎる。カイトも皇帝レオンハルトも内心で盛大にため息を吐いていた。これがまだ僻地なら何も気にせず戦って、周囲にも少し強大な魔物が出た程度で良いのだ。なのに今回はよりにもよって観光地のど真ん中だ。偽装工作にも限度があったし、打てる手も限度があった。


「情報部は大変そうですね、今頃」

『大変だろうな。まぁ、それでも情報部の連中も公と変わりたいかと聞けば全員が首を振るだろうがな』

「あはははは」


 そりゃそうだ。カイトは皇帝レオンハルトの冗談に笑う。なにせ勇者カイトが地球のこととはいえ瀕死の重体に追いやられているのだ。その系譜に連なる神と戦うぐらいなら喜んで偽装工作に注力するだろう。


「はぁ……陛下。万が一の万が一は私が本気で出ます。それで良いですね?」

『構わん。それはそれで手を考える』

「ありがとうございます」


 <<死魔将(しましょう)>>も厄介だが、<<星神(ズヴィズダー)>>も同じぐらい厄介だ。この二つを相手にするのならば、皇帝レオンハルトとてカイトの正体の露呈は最悪は仕方がないと諦められていた。というわけでその後もしばらくの間、カイトは明日の調査の流れにおける不測の事態を可能な限り予見することに費やすことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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