第3643話 禁足地編 ――再調査――
皇帝レオンハルトの要請を受けて禁足地の調査に訪れていたカイト。そんな彼は禁足地の調査の前に禁足地にマルス帝国の秘密研究所の調査を行う事になるのだが、その結果として秘密研究所の更に地下に古代文明の遺跡がある事が発覚。そこが禁足地の最深部より更に深部にあると判断された事により予定を変更し、その調査に乗り出す事になる。
そうして二度目の調査も一日目を終えて一旦現状の見直しを行うことになったわけだが、明けて翌日。カイトはルークと共に再び古代遺跡に戻ってきていたのだが、今日も今日とて別行動だった。というわけで彼は今日は外周部の石碑の翻訳作業を行うべく外周部を進むルークに対して、今まで手つかずだった大空洞の上層部の調査を行うことにしていた。
「……」
『やはり停止していそうね』
「ああ……この中がどうなっているかは考えたくもないな。いや、流石に数千年も経過してりゃ存外中身は空っぽの可能性もあるんだろうが」
シャルロットの明言に対して、カイトは肩を竦めつつも再度注意深く八面体を確認する。今日一日彼はこの大空洞の調査になっていたのだが、やはり現時点でいちばん重要と考えられたのはこの八面体だ。なので最初はその調査となっていた。
「にしても本当に大きいな。技術的な洗練がされていないことが見てわかる」
『そんな余裕はなかった、のでしょうね。いつだって死は唐突。予期出来ないものよ』
「そうだな……そうかな?」
『下僕のようなバカは除いてよ』
「あはは」
オレは色々と予期出来たよな。そういって冗談っぽく笑うカイトに、シャルロットも楽しげに笑う。そしてそれにカイトも楽しげに笑うわけだが、すぐに気を取り直した。
「だがこれだけのサイズだ。上が埋没していることを考えると流石に持ち込んだわけじゃないんだろうな」
『そういえばそうね。それとも昔は天井が開いて外から搬入出来るようになっていたのかしら』
「なるほど……たしかにその可能性はありそうだな……」
『でしょう……でもそれはそれとしてどこかに通風孔もあると思うのだけど』
地下にあるから通風孔のようなものは絶対にあるだろう。そうカイトもティナも考えていたし、実際にあるのだろう。そしてそこからモヤが漏れ出して外に溢れかえっているのだろうと考えていた。というわけで周囲を見回して通風孔がどこかにないか探すシャルロットだが、そんな彼女が何かに気がついたようだ。ある一点を見詰めて停止する。
「どうした?」
『あれよ……相当な何かがあったようね』
「あれは……」
シャルロットの指さした方角を見て、カイトが思わず顔を顰める。
「戦闘が起きたことは間違いなさそうだな」
『ええ……それもかなり大規模な』
「そりゃでかい戦いにもなったんだろうさ」
<<星神>>の何を封じたかはわからないが、当然もし仲間がいれば開放しようとするだろう。それを巡って起きたのだろう戦いで付いたらしい大きな傷跡が壁面に刻まれていたのであった。
「とはいえ、勝者は人類側か。でなけりゃこの遺跡が無事に今まで機能しているわけがない」
『そうね……あら?』
「次はどうした?」
『あそこ……部屋みたいになってないかしら』
「あ、本当だ」
シャルロットの指摘に戦闘で付いただろう傷跡を見ていたカイトだが、そのすぐ近くにおそらく大空洞を見れる部屋があることに気が付いた。というわけで彼は停止した八面体をこれ以上見ても意味がない、とそちらに近付いていく。
「……なんだろ、この素材。ガラス……じゃないな」
『わからないわ。透明な何か……で覆われているわね。強化ガラスにも近いかもしれないけれど』
「……」
こんこん。カイトは小部屋と大空洞を隔てるガラスに似た何かを軽く小突く。小突いてみた感じではアクリル板よりもガラスのような質感が強かった。そうして軽く小突いてみてひとまずは壊れることがなさそうだと確認すると、彼は更に周囲を確認する。
「上下……左右共にちょうど中央に……いや、中央より少し上か?」
『そう……ね。少し高めにはありそう』
「監視所や指揮所……とかかな。ここから中の様子を確認しよう、というところか」
ガラスに似た素材で隔てられていることと良い、設置されている場所と良い。おそらくこれはこの大空洞の中の状況を確認し指示などを出すための場所なのだろう。カイトは設置場所と形状からそう判断する。と、そんな彼であったが再び中を覗いてみて、顔を顰めることになる。
「こりゃ……かなり攻め込まれてたみたいだな」
『……あら』
「壁面に何かの白骨とおそらくあれは両手剣か。ついに武器まで……中もひどそうだな」
カイトが見つけたのは大空洞から見て右横の壁面に突き立てられた何か人型に似た、しかし決して人間ではないだろう白骨死体だ。その頭蓋骨には両手剣が突き立てられており、ここで戦闘が起きたことが如実に露わになっていた。
『……下僕。逆側にも』
「……なるほど。こりゃ相打ちかな」
『でしょうね……おそらくこの遺跡。限界ギリギリまで持ちこたえて封印したのでしょう。どうする?』
「どうするもこうするもない。とりあえず部屋があるのなら見に行く。それだけだ」
今日は大空洞の調査だが、同時に八面体以外に何もなければ短時間で終わる。そしてなにもないとは思っていなかったので、追加で調査を行うつもりだった。そして調査が目的である以上、ここに入って更に詳細を確認しなければならなかった。というわけで彼は周囲を見回して、崩れた壁面の一部に通路があったことを理解する。
「なるほど。ありゃ下へ降りるスロープか階段だったか。壊して下への進撃を阻止するつもりだったか……」
『どうなのでしょうね……とはいえ、中層階? の外側に出れる出入り口は見付かったわね』
「自動ドアじゃなくてよかった……まぁ、魔導炉に侵食が生ずる可能性があるならなるべくは自動化はしないか」
シャルロットの言葉に応じながら、カイトは監視所に繋がるだろう通路への扉を押し開く。そうして見た中に、彼は盛大に顔をしかめた。
「……ここもここで戦いが起きた……んだろうな。ん?」
『ゴーレムね。死体がないのは彼らが片付けたから……かしら』
「おそらく、だが……まぁ、とりあえず行ってみますかね」
今日の予定は終日大空洞の最深部以外の調査だ。いかないという選択肢はなかった。というわけで彼らは中層階以上に残る古代の戦いの痕跡を横目に、各所の調査を進めていくことになるのだった。
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