第3640話 禁足地編 ――再調査――
皇帝レオンハルトの要請を受けて禁足地の調査に訪れていたカイト。そんな彼は禁足地の調査の前に禁足地にマルス帝国の秘密研究所の調査を行う事になるのだが、その結果として秘密研究所の更に地下に古代文明の遺跡がある事が発覚。そこが禁足地の最深部より更に深部にあると判断された事により予定を変更し、その調査に乗り出す事になる。
そうして2日の休養を経て再調査に乗り出したカイトであるが、彼は今回の遺跡に関係があると思われるエテルノを使うことの出来る唯一の存在であるルークと共に最深部に戻ってきたわけだが、そこで彼がエテルノから聞かされたのは石碑が二つだけではないということであった。
というわけで石碑の調査をルークとエテルノの主従に任せた彼は最深部に設けられていた扉を通って遺跡の最下層の外周部へとたどり着いていた。
「思った以上にこの区画は侵食されていないな……あの八面体の効果か……?」
『本来、この遺跡の封印はほぼ完璧だったのでしょう。気付いて?』
「何に?」
『八面体がいくつか機能停止していたことに、よ』
「それか。そりゃまぁ、な。まぁ、おそらくあれは破壊じゃなくて自然停止だろうけどな」
特に言及する必要がなかったのでカイトもルークも言及していなかったが、八面体のいくつかは機能停止したのかその表面に浮かぶ魔術的な紋様の輝きを失っていた。
だがそんなものはそもそも数千年から数万年前の文明の遺跡なのだから当然の話でしかなく、逆に数個の停止で済んでいるだけすごいと称賛するべき話でしかなかった。というわけでカイトの見立てに、シャルロットもまた同意する。
『そうね……停止しているものは外に運び出せない?』
「それなぁ……たしかにオレも考えちゃぁしたんだがなぁ……多分あの中、まだ高濃度のモヤがそのままになってるんじゃないか、ってのを考えててな。そうなるとまぁ、どうしましょというところでな。良くて悶死のモヤだと思っていたわけだが……エテルノさんから話を聞く限り、悪けりゃ<<星神>>の眷属が大爆誕だ。死ぬならまだ良いが、死なず成り代わられるのは正直最悪にも度が過ぎる話だ」
『……そこまで?』
カイトの指摘にはある一定の道理があるだろう。先に話の出ていた奉仕者や眷属だが、これがもし地球と同等の特異な能力を持っているとなると非常に厄介だ。故にそれを思い出しながら、カイトはシャルロットの問いかけにはっきりと頷いた。
「当たり前だ。おそらく戦闘力ベースで見りゃオレ達なら軽く一捻り出来るだろう。<<星神>>は別にして、だがな。だがどっちにしろ奉仕者にせよ眷属にせよピンキリも良いところだ。それこそ自らを生贄に神を呼び出す奴やらなんやら大量に居るらしい」
『考えたくもないわね』
「ああ、オレもだ」
地球でどれだけ奴らに苦しめられたことやら。カイトは非常に苦い顔でシャルロットの言葉に応ずる。というわけで応じた彼は頭を掻きながら、はっきりと明言した。
「ま、そんな感じだからな。あれを外に出すのはやめておいた方が良いだろう」
『そう。出して解析して、が一番安牌だと思ったのだけれど』
「安牌は安牌だろうな……横槍を想定しなければ、だけど」
<<死魔将>>達もそうだが、<<星神>>もまたどこでどういう形で潜んでいるかわからない連中だ。特に<<星神>>は敵対的な行動――当人たちが敵対的と思うかどうかは別にして――は取っても他者と足並みを揃えてくるようなものではないことだけが幸いだが、足並みを揃えなくても情報を流したりはしてくる。下手な手は打てなかった。
『やれやれ……<<星神>>の案件は面倒くさそうね』
「面倒この上ないな……てかここらに潜んでるオチがねぇことを祈りたい」
この黒いモヤだ。最初に出会った黒い<<星神>>が隠れ潜んでいても不思議はなかった。しかもこのモヤのせいで気配を読み抜くことも難しく、隠れ潜まれでもしたら対処のしようがなかった。
『あり得ないとは言い切れないわね』
「なのよねぇ……まぁ、封印が解かれないことを祈りたいし、古代文明の奴らもそこは軽快していただろうからな。簡単には解けないはずだ」
『数千年放置されているのだけど』
「……」
それだけの時間があって解析されていないと思うのかしら。言外の問いかけに、カイトは無言で笑うだけだ。古代文明の戦士や学者達とて自分達の滅びを前提として動くわけがない。必然的に滅んで数千年も放置されて解析されない、と思うわけがなかった。というわけでもうそこらまで至ると目を背けて今は眼の前のことに取り掛かるしかなかった。なのでカイトはそうすることにする。
「ま、そこらは考えないでおこう……そうなったらもう何が来ても戦うだけだしな。それに存外、封印されたら放置というパターンもあり得る。奴らだけは本当に考えが読めん」
『そう』
知識量や経験であれば間違いなくカイトの方が上なのだ。シャルロットは彼の考えに従うことにしたようだ。というわけでそこからもしばらく雑談混じりに歩いていくわけだが、十数分も歩いた頃。ようやくひとつの部屋にたどり着いた。
「やっとか……だがわかりやすくて助かる」
『石碑ね』
「ああ……しかもこの部屋だけモヤがない。石像はあるけど」
カイトは石像の前の足場を取り囲むように設置されたゴーレムだろう石像を見て苦笑いする。おそらく壊そうとしたりすると起動して、侵入者を撃退するのだろう。そしてカイト達にこの石碑を壊すつもりはないし、壊したくもない。なので彼はひとまずこの情報を残すべく、マッピングを行う魔道具を取り出した。
「……次は……あっちか。少し弧を描くような形なのか」
『おそらくこの様子だと四方に一つずつかしらね。それか三つか』
「なるほど。最深部をぐるりと一周する形か」
自らの肩越しにマッピングを行う魔道具でマッピングされた情報を覗き込んだシャルロットの言葉に、カイトもおおよその外形を理解する。実際今たどり着いたのは数メートル四方の円形の部屋なのだが、その先にある次の部屋への扉は入ってきた扉から見て少しだけ斜め横にずれていた。かなり広い空間で上層階より更に長いだろうから、通路が弧を描いていたことに気付けなかった可能性は高そうだった。
「ま、とりあえず行ってみますかね」
兎にも角にも何個どこにあるかを見つけて、エテルノに伝えること。それが今の彼の仕事だ。というわけで彼は再び気合を入れて、調査を再開させるのだった。
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