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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3639話 禁足地編 ――再調査――

 皇帝レオンハルトの要請を受けて禁足地の調査に訪れていたカイト。そんな彼は禁足地の調査の前に禁足地にマルス帝国の秘密研究所の調査を行う事になるのだが、その結果として秘密研究所の更に地下に古代文明の遺跡がある事が発覚。そこが禁足地の最深部より更に深部にあると判断された事により予定を変更し、その調査に乗り出す事になる。

 そうしてルークと共に古代遺跡に乗り込んだカイトだが、そんな彼はかつてエテルノを著した魔術師について聞かされることになるも更に奥へと進んでいた。というわけで途中からゴーレムに沿って進むことしばらく。二人は最深部の一角へとたどり着いていた。


「ここが最深部だ。モヤが晴れたおかげで色々と見えるのは有り難いな……で、あっちがこのモヤを吸収している謎の真っ黒な構造体なんだが……」

『あれは……ルーク。書体化は出来ますね』

「もちろん」


 エテルノの言葉を受けて、ルークはまるで書物でも手にしているかのように左手を胸のあたりまで持ち上げる。そうして彼の左手の上に、書物が顕現する。顕現した書物はまるで風に煽られるかのようにひとりでにページがめくれていき、エテルノの探していたページで停止した。


『こちらを』

「これは……あれか……?」

『はい。闇素(あんそ)吸収のための八面体です』

「『闇素(あんそ)浄化結晶石』……? てか闇素(あんそ)?」

闇素(あんそ)はかつて起きた戦いで<<星神(ズヴィズダー)>>が使った力です。この影響を受けた者は変質し、最終的には奴らの奉仕者となるか、適性があれば……』

「眷属を呼び込む門になっちまう、ってわけか。内側から成り代わられりゃ儲けもの、って塩梅の」


 奴らのやりそうな手だ。カイトは地球で見てきた<<外なる神>>達のことを思い出して盛大にため息を吐く。そしてならば、と上で起きた異変も理解が出来た。


「つまり精神に異常を来すのは精神を弱らせて眷属を呼込むための前準備ってわけですか」

『そういうことです。そのモヤを吸収し、浄化するためのものです』

「浄化はどのように?」

『浄化……というよりもモヤの影響により生まれる門を逆利用して送り返す。あれの根本的な浄化は母らには無理だったようです』

「なるほど」


 聞けば聞くほどそんなものを研究利用しようとしていたマルス帝国は狂っているとしか言えないな。カイトは自分達も現状無理なものをどう利用するつもりだったのか、とただただ呆れ返っていた。とはいえ、集めることは出来たのだ。つまりそれは広く広まることを阻止できるということでもあった。


「あれを量産することって出来ます?」

『出来はします。素材とその術式も記されていますので……』

「あるのかい?」

『ええ』

「なんでルークが驚いてるんだよ」

「いやぁ、そこらは興味なくてね。何より目的ははるか天の彼方へ向かうことだから、どっちかっていうとそれを邪魔する奴らと戦う力の方が欲しかったからね」


 カイトの指摘にルークが恥ずかしげにそっぽを向く。まぁ、確かに隠れて行動していた彼が数十メートル級の八面体を作れたかというと不可能に近い。それにモヤをどうこうする必要もなかった以上、本当に興味もなかったのだろう。


「そうか……まぁ、とりあえず。後で教えて下さい。こいつがなぜここで吹き出しているのかは後で考えますが、このままを維持してくれるかも定かではない。万が一に備えてはおきたい」

『正しい判断かと』

「はい……で、も一つ良いですか?」

『どうぞ』


 すっとカイトの目が細められ、それにエテルノは少しだけ警戒する。そしてその彼女の促しを受けて、カイトは一つ問いかけた。


「ここ以外にそういうところってないんですか? オレもいろいろな禁足地は知ってますし踏破してきてますが、こういうモヤが吹き出す地はここ以外知らない。モヤでなくても<<星神(ズヴィズダー)>>の痕跡はどこかしらに眠っていそうだと思うんですが」

『……ありはします。ただ現時点でそこにたどり着けるか、というとそういうことはないでしょう』


 カイトの問いかけにエテルノはやはり、と思いながらも隠すべきではないと考えたようだ。自分の知るところを明かしてくれた。それに、カイトが再度問いかけた。


「というと?」

『<<星神(ズヴィズダー)>>の尖兵を封じる時は例えば深い海の底などの人の手の及ばぬ極地か、異空間に封じ込めたようです。異空間への痕跡が禁足地となってしまっているところはありますが……ここのようにこちら側に封印がある場所いくつかは現在のマクダウェル家でもたどり着けるかどうか、という領域です。ここは例外中の例外です……おそらくは』

「おそらく?」

『わからないのです。戦いはこの大陸だけではなく他大陸でも戦いは繰り広げられた。母も各地を転戦しましたが、それでも全ての大きな戦いに参戦したわけではない。倒せた戦いには何度か参加しましたし、ここのように封ずるしかなかった戦いにも何度も参戦しています。どれだけ封じ、どれだけ残ったのか……私にそれを記す余裕はなかったようです』


 カイトの問いかけにエテルノは少しだけ苦い顔で首を振る。そんな彼女の言葉に、カイトはなるほどと理解を示した。


「なるほど……そりゃそうだ。そしてその様子だとその古代文明はこの星全域を支配したと」

『はい』

「こりゃ面倒なことになりそうだ……ま、それは後で考えることにして。とりあえず今は目先のことを考えることにしよう。あれが石碑だ」


 どうせこのエネフィア全土の禁足地や深い海の底などに行くとなると今からというわけにもいかないし、カイトとしても忙しい今調査に乗り出せる余裕はない。

 何より、すでに<<星神(ズヴィズダー)>>には目をつけられたのだ。放っておいても向こうからくるのは明白なので、放置でも特に良いと判断したのであった。

 というわけで話を切り上げると、ルークが幻の書物を消して二人は飛空術で最深部へと舞い降りる。そうして最深部が見えるようになって、ルークは盛大に顔をしかめた。


「……聞いてはいたし覚悟もしていたけれど。最悪の気分だね」

「これに気付かず足を突っ込まないだけまだマシだろ」

「同情するよ」


 モヤの影響なく周囲の状況が見れるようになったことで、最深部の惨状がはっきりと見れるようになっていた。そうして見えたのは正しく白骨の山で、カタコンベでもここまで多くはないだろうというほどの白骨の数であった。


「こっちはオレが来た方だな。もう一個向こうがオレが見ていない方。なにかわかりますか?」

『……』


 カイトの問いかけに、エテルノは無言で石碑を見る。そうして数秒後、彼女は一つ頷いた。


『やはり思った通りです。ここに封じるための魔術を記しています。といっても上半分は説明文と言いますか、触れないように告げる警告文のようなものですが……』

「上と下で記載が別なのか……だが下も文章に思えるんだが」

『祝詞……というところです。この石碑は非常に特殊な石碑で、魔力によりこの内部で音が響いています。それが常に魔術を詠唱し続けている……というところでしょうか』

「なるほど……つまり石碑の数だけ複数人で詠唱している、というわけか」

『そう考えて頂いて大丈夫です』


 そうすることで<<星神(ズヴィズダー)>>の尖兵のような強大な力を持つ相手だろうと半永久的に封じられるようにしている、というわけか。


「すごいな。これ、ティナでも出来るか……?」

『……難しいかもしれません。素材の精錬から始めねばなりませんから……』

「この素材について記載は?」

『残念ながら……母は魔術に長けていましたが、錬金術まではさほど』

「そうか……」


 となるとつまり、これが崩壊した瞬間戦わねばならないというわけか。カイトは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてため息を吐く。


「まぁ、良い。とりあえず警告文にはなんて?」

『その前にすべての石碑を確認させてください。なにか変な記載があった場合、後で言われても困るでしょう? それとどうやら、石碑はあの一つ以外にもあるようです。おそらくここが中心で、外側にもいくつかあるのではないかと。祝詞の部分があの一つ以外にも伸びるような形で刻まれています』

「なるほど……そりゃこんだけ死んでようやく封じられたような相手だ。二つだけで賄えるわけがなかった、ってわけか」


 エテルノの指摘にカイトはなるほどと納得する。そうしてそれなら、とカイトは道の先にあった扉を指し示した。


「あの扉の先にありそうか?」

『方角はあの方向です。ただおそらくまだいくつかあるかと』

「わかった……ルーク。お前はあの石碑を頼む。オレは少しあの扉の先を見てみる」

「わかった」


 カイトの言葉にルークが一つ頷いて、ジャンプで跳躍。その後飛空術を展開して、もう一つの石碑へと向かうことにする。そうしてカイトはルークが行動を開始すると共に、自身は別の石碑を探すべく扉の先の調査を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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