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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3632話 禁足地編 ――中間報告――

 自身の生誕祭の最中にもたらされた禁足地ノクタリアと呼ばれる地での異変。その調査及び解決を皇帝レオンハルトより直接依頼されたカイトは冬に入り早々、調査隊を率いて禁足地ノクタリアへと入っていた。

 その調査に乗り出す前段階としてユーディトの案内でマルス帝国の秘密研究所を発見するカイトであったが、その調査の中で更に地下にルナリア文明ではない謎の古代文明の遺跡が見付かっていた。

 というわけで今度はその古代文明の遺跡の調査に乗り出す事になったカイトであるが、一日掛けての調査の結果古代遺跡がドーム型の構造をした巨大な地下施設である事が判明。その調査の途中ではあるものの流石にタイムアップとなり帰還を果たしていた。

 そうして帰還したカイトだが、そのままおやすみとなるわけもなく調査の結果を皇帝レオンハルトに報告する事になっていた。


『むぅ……そうか。謎の古代遺跡か』

「はい……ユーディトさんに聞く限り、どうやら彼女も知らなかったようです。おそらく後から設計として組み込んでいる事から、後から見付かったかもしくは設計図にも乗せず完全に秘匿していたのではないかと」

『むぅ……朗報なのか悲報なのか判断に困るな……』


 元々カイトへの依頼は禁足地ノクタリアで起きていた異変の調査とその解決だ。なので調査の結果今まで最深部と思われていた場所の更に地下に謎の古代遺跡が見付かった、というのは調査に進捗があったという朗報と考えても良いだろう。

 だが同時にそうなってくると今度はこれが自然現象などではなく超古代に起きた何かしらの問題により生じているという可能性が高くなり、対応は非常に厄介なものにならざるを得なかった。


『公よ。ひとまずの危険性についてはどう思う』

「ひとまず危険度は中程度で良いかと。禁足地の更に地下なのでモヤの濃度は比較になりませんが……ただ魔物にせよ何にせよ、古代文明が遺した高性能なゴーレムのおかげでそういう面での危険性はない」

『ただし環境そのものは危険の一言で良い、か。更に言えばその謎のゴーレムが襲いかかってくる基準か条件が分かれば良いのだが……こちらは公では厳しいかもしれんか』

「はい。推測の一つとして、モヤによる侵蝕率が可能性として上げられています。おそらくマルス帝国はその閾値あたりを導き出して、作業員を送り込んだのではないかと」

『そして同時に失敗したのが公が見たという兵士や研究員の死体、か』


 マクダウェル公が襲われない事などを鑑みると、おそらくこの侵蝕率こそがゴーレムに襲われないための鍵なのだろうな。皇帝レオンハルトはこめかみを揉みほぐしながら、そう口にする。そして彼は一つ頷いた。


『おそらく我らも調査員を送るなどはしない方が良いのだろう。送れてもおそらく……か』

「ええ……おそらくあんな事が出来るのは人道を顧みない終焉帝だったから出来たこと。マルス帝国でも有数の暴君と呼ばれた終焉帝以外が出来たかと言われれば、私も素直に首を傾げます」

『だな。俺も自分の首は惜しい。終焉帝の二の舞いを演じたくはないな』


 こんな人命を顧みない事をして首を絞めるのは自分。皇帝レオンハルトはそれを理解していればこそ、どう考えても悪手にしかならない指示に肩を震わせて笑う。


『だがそうか。更に地下に構造体、か……やはりあのモヤの原因はその古代遺跡と見るか?』

「おそらくそうでしょう。当時の文明が何を考え、そして何故こんな物を遺したのかは定かではありませんが……そしてモヤの発生原因と当時の文明に関係があるかはわかりませんが、少なくともモヤの発生とその対応をしようとした事は間違いないでしょう」

『少なくとも始末はしようとした事は認めるか……はははは。公に投げておいて俺が言う事でもないがな』


 どうせなら完璧に処理してくれれば良いものを。カイトも皇帝レオンハルトもそんな事を考えていた。だがそれでも実際に対処せねばならないカイトに対して、まだそれを指示すれば良いだけの自分は楽だと皇帝レオンハルトは考えていたようだ。そうして少しやけっぱちに笑い、彼は一つ問いかける。


『公よ。その内部の上層部に浮かんでいたという謎の構造体。これを更に詳しく調べる事は出来るか?』

「外に出せ、という事ですか?」

『まさか。そんな愚は犯さぬよ。そんな事をして周辺にモヤが蔓延するような事があってしまえば南部との陸路を封鎖せねばならん。それが困るから公に依頼したというのに、それではなんの意味もない』


 流石にそんな無茶を言う事はないか。皇帝レオンハルトの苦笑しながらの返答にカイトは内心で胸を撫で下ろす。というわけでそんな彼に皇帝レオンハルトは続けた。


『可能であればその構造体は増やしたい。観光名所と化している所に悪いが、俺としてはあんな危険物を観光名所にしているのはどうかと常々考えていた。抑えられるのであればいっそ抑えたい』

「正しいお考えかと。私も三百年ぶりに訪れましたが、あの有り様になっており仰天致しました」

『だろう。俺も何度か視察に行かねばならなかったが……流石にあの横を通る時はいつもヒヤヒヤする。っと、これはオフレコで頼む』

「あははは……かしこまりました」


 やはり皇帝レオンハルトからすれば全く未知の黒色のモヤが吹き出し続けているのだ。しかも近付けば悶死しかねないような危険なモヤだ。

 観光名所と化したこと、南部の国々を歴訪する際にはあの近辺を通るのが近道である事などがあり立ち寄らねばならない事も少なくなかったが、内心いつ暴発するかとヒヤヒヤしていたらしい。というわけでそんな彼の言葉に笑ったカイトであったが、すぐに気を取り直す。


「とはいえ、ノクタリアの名物と化した封印具などについては有用は有用。産業としてはそのまま活かされる方が良いかと存じます。また観光資源を一つ潰すのもあまり。コントロール出来るか、という点で探ってまいります」

『すまんな。そうして貰えれば一番有り難い』


 皇帝レオンハルトが一番懸念しているのは、あのモヤがコントロール不能であることだ。だが地下で古代遺跡が見つかり、そこにあのモヤを吸収している様子の構造体があったのであれば古代文明はある程度のコントロールを出来たのだと考える事が出来た。そしてコントロール出来るのであれば、観光資源としての活用は十分に彼としても許容範囲であった。


『……公よ。そう言えば確か明日と明後日は休暇だったな』

「ええ……あのモヤの影響は私は問題ないと思いますが……それでも他の者に影響が出ないわけではない。休ませねばなりませんので」

『そうだな。特に公の部隊に支障を来す事があれば皇国のみならず他国にも影響が出かねん。ゆっくり休んでくれ……っと、そういう話ではないのだ』


 そもそもあそこが禁足地であり、まだ猛者であれば侵入可能な外縁部であれ影響がないわけではない。一応これまでの調査により数日しっかり休めば影響が抜ける事はわかっていた。

 そしてカイト達ほどの戦力が洗脳される事態は何が何でも避けねばならなかった以上、安全第一で進めるのは皇帝レオンハルトとしても本意であった。


『確かそのままノクタリアに滞在するのだったな』

「ええ。流石にマクダウェルに戻り休む意味なぞありませんし、幸いな事にノクタリアが観光地化した際に禁足地の毒気を抜くためなぞと銘打って温泉なども用意した様子ですので……休むには丁度よいかと考えております」

『そうだな。その点に関してはうまくやっているとは俺も認めている……まぁ、温泉で抜けるものではないとは思うが。こんなものはそれっぽく言って信じさせた者の勝ちのような所はあるからな』


 誰にもコントロール出来ないという一番の懸念点が解決していない事を除けば、皇帝レオンハルトとしてもあの要所を観光資源化して活用している事については高評価を与えていた。というわけで街の運営については笑ってよしとしていた彼が続ける。


『ノクタリアの博物館の保管庫を開けさせる。必要であればそれも使うようにしてくれ』

「博物館……ですか?」

『なんだ。話は通っていなかったのか』


 どうやら皇帝レオンハルトはカイトにこの話が通っているものだと思っていたらしい。少し驚いた様子を見せていた。とはいえ、無理もないとも考えたらしい。


『いや、そうか。よくよく考えれば到着直後から『監視所』にてトラブル。その後もその後でこの有り様……伝達が漏れても不思議はないか。すまん。改めて情報共有を徹底させよう』

「有り難きお言葉……それで博物館というのは」

『中心部以外は流石に公以外手は出せんが、外縁部ならばある程度は調査可能だ。なので何度か歴代の皇帝が調査隊を派遣していたらしい。そこで見付かった物を展示する博物館の設立を何代か前の皇帝が許可されてな……まぁ今思えばあれが観光地化の突端だったかもしれんか』


 話していて皇帝レオンハルトはふとそんな事を思ったらしい。苦笑いながらも博物館の事を語る。


『いや、話を戻そう。そういうわけなのでな。いくつかの遺物は見付かっている。なにか手がかりになれば、とな』

「ありがとうございます。必要性については聞いてみましょう」

『うむ。必要とあれば学芸員にも全面的な協力をするように指示している。俺の指示が通っているのであれば、倉庫の遺物なども開示出来るようにしているはずだ。役立ててくれ』

「ありがとうございます」


 皇帝レオンハルトの言葉に、カイトは再度礼を述べる。これに皇帝レオンハルトは一つ頷いた。


『うむ……そうだ。マルス帝国の研究所についてだが、その古代遺跡への装備などは見付かっていないのか? いくら末期のマルス帝国だからと言えどあんな領域に使い捨てるように人員を派遣しては流石に研究所の人員がすぐに枯渇しよう。何かあると思うのだが』

「そちらは現在確認中です。全ての部屋はまだ終わっておりませんので……」

『わかった。であれば……』


 カイトの報告に皇帝レオンハルトは更に確認や指示を飛ばしていく。そうしてこの日はこの後、一時間ほどをカイトは皇帝レオンハルトへの報告に費やす事になるのだった。


 

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