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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3631話 禁足地編 ――深部――

 皇帝レオンハルトより禁足地ノクタリアにて起きていた異変の調査を依頼され、禁足地へとやって来たカイト。そんな彼はふとしたことからフロイライン家最古参のメイドであるユーディトが元マルス帝国の帝王直属部隊所属である事を知る事になり、同時に禁足地にかつてマルス帝国が秘密研究所を設けていた事を知る事になる。

 というわけで秘密研究所を前線基地として活用してしまおうとその調査に乗り出したわけであるが、その最中。彼は最下層に増設された採掘場なるエリアを見付けるわけだが、そこはなんとルナリア文明とは異なる古代文明の遺跡であった。

 そうして今度は古代文明の遺跡の調査に乗り出したわけだが、いくつかの発見の後。卵型の古代遺跡の内部へと足を進めると、いくつかの構造体と共に最下層に<<闇結晶(ダーク・クリスタル)>>と古代文明が遺したと思しき石碑を見付けるに至っていた。


「……よっと。酷いな、これは……」


 古代遺跡の最下層に飛空術で緩やかに降下しながら、カイトは盛大に顔を顰める。遺跡の内部は上部に浮かぶ謎の構造体により黒いモヤがある程度吸収されて晴れて見通しは確保出来ているのだが、最下層はそれでも吸収しきれていないらしい。

 もはや濃度が高すぎてモヤが泥のように沈殿しており、上の構造体がどれだけ引っ張っても引っ張りきれない様子だった。というわけで最下層へと舞い降りるカイトだが、まずは周囲の確認に徹する事にする。


「石碑は……どうやら少し高めの台座というか足場の上に設けられているのか。下まで読めそうだな」

『逆説的に言えば、この石碑が設けられた当時からこの状況になる可能性は想定されていた、もしくは元々こうだったから足場を設けた、ね』

「どっちでもそれなら最初から対応しておいてくれよ、って話だな」


 なんで後世の自分達がこんなわけのわからない事態に対応せにゃならん。カイトは古代文明の誰かしらかに向けて呆れ顔で肩を竦める。そうして石碑の前の足場に降り立って、改めて周囲を確認する。だがそうして一番最初に目に付いたそれに、カイトは盛大に苦笑いを浮かべる事になった。


「……なぁ、シャル。すっげー最悪の想像してるんだけど、どう思う?」

『……流石私の下僕ね。私の考えている事がわかっているわ』

「ですよね……あの石像、まさかまさかじゃないよな……」


 おそらく同じ事を考えているのだろうな。そんな様子で応ずるシャルロットの言葉に、カイトは引きつった笑いを浮かべる。そんな彼らが見ていたのは、最下層の四方に設けられた十数メートル級の人形の石像だ。

 それは一見すると単なるモニュメントでしかないが、ここまでの事を鑑みればこの石像もまたゴーレムという可能性がないと考えている方がおかしいだろう。

 しかもそれが四方に複数体ずつ設置されているのだ。これが一斉に動き出せば、と考えたくもなかった。というわけでカイトは最悪の想定から目を背けるように、物理的にも四方の石像から目を背ける。


「動き出さない事を願おう」

『そうね』


 あの高性能なゴーレムよりも更に大きく、明らかに一番危険な場所に置かれているのだ。性能は巡回のゴーレム達と比較にならないだろう事は明らかだった。というわけで目を背けた彼は眼の前にある石碑へと目を向ける。


「で、この石碑はなんなんだ、と……」

『……だめね。私も読めそうにないわ』

「オレも無理だな。こりゃ翻訳の魔術がかき乱されちまってるか。というより、これは……」


 この近辺に魔術をかき乱す力が放たれているな。カイトは周囲を改めて見回して、この最下層全域に魔術を阻害する力が張り巡らされている事を理解する。


「この全体に魔術を阻害する力が放たれているか。古代文明の連中、よほどこの最下層にある何かは触れられたくなかったらしい」

『おそらく……と言う必要もなく良いものではないのでしょう。月で良かったわ』

「確かに」


 シャムロックさんなら太陽でこの場を晴らしてしまいそうだ。カイトはシャルロットの冗談に笑いながら応ずる。とはいえ、手がないわけではなかった。故に彼はここまでの道中と同じくデジタルカメラを取り出すと、それを石碑に向ける。


「ま、無理なら無理で写真を撮影してエテルノさんに聞いてみるだけか」


 元々が何人も主人を変えながら<<星神(ズヴィズダー)>>と数千年単位で戦い続けているというエテルノだ。知っている可能性は十分にありえた。というわけで数枚撮影した後、彼はデジタルカメラを異空間に収納し補完する。


「よし……で、ここには何があるんだ?」

『見たところ……何もないわね』

「巨大な<<闇結晶(ダーク・クリスタル)>>はあるが、だな……」


 妙な光景と言えば妙な光景だ。カイトは改めて周囲を見回してみて、十数メートル級の巨大<<闇結晶(ダーク・クリスタル)>>はあるもののこのモヤを生み出しているだろう元凶が見当たらない状況に小首を傾げる。というわけで何か情報が掴めれば、と彼は石碑から離れる事にする。


「このモヤがどこから生み出されていて、が分かればこのモヤを止められるかもしれないんだが……」

『それがない、というのもおかしな話ね』

「ああ……ん?」

『どうしたの?』

「今何か踏んだ……」


 石碑の前にあった足場から降りたと同時に、ぱきっという小さな音と共に何かを踏み砕いた感触があったらしい。カイトは怪訝な様子で足元を見る。そうして目を凝らして足元を見て、彼はぎょっとなって思わず飛空術で飛び上がる。


「うわぁ!? なんだこりゃ!?」

『どうしたの?』

「ここは地獄かよ……いや、ウチの地獄はそんな地獄じゃないけどさ」

『環境には気を遣っているもの……っ』


 カイトの言及に応ずるシャルロットであったが、彼が飛び退いた事でわずかだが沈殿していたモヤが巻き上げられ、床の光景がわかるようになっていた。そうして生まれた隙間からカイトが先程まで立っていた場所を見て、彼女も思わずぎょっとなった。


『これは……この白骨の数は一人二人じゃないわね』

「ああ……まさかここ、地下墓地とか遺体を捨てる場所ってオチはねぇよな……」


 鳥肌が立った。カイトは石碑の周辺以外を埋め尽くさんほどに大量の骨に盛大に顔を顰めていた。そんな彼のボヤキに、シャルロットは首を振る。


『それはあるかもしれないけれど、それでもこのモヤには説明はつかないわ。それこそ相当な禁呪や呪術を使用しない限り、だけども』

「この古代遺跡がどの時代のどの文明の遺跡かは知らんが、それを死神が許すか?」

『許すとは思えないわね。何よりこの地には上の研究所のような怨念は見えない。この死体達が何か影響を与えているわけではなさそうね』


 やはりシャルロットは死神だ。この場に死者の怨念やら魂の残滓が残っているか否かは写し身の状態でも見ればわかるらしい。この白骨達は安全であると明言する。というわけでそんな彼女の言葉にカイトはほっと胸を撫で下ろす。


「そうか……それは何よりだ。だが、うーん……降りたくはないなぁ」

『そうね。流石に許可しかねるわ』


 なんの目的でこの白骨死体がそのままにされているかなどはわからないものの、死者である事には変わりない。なのでシャルロットは死神として、いたずらに死者を傷付けるような事は承諾しかねたようだ。そしてカイトもまた死神の神使だ。その言葉に同意する。


「そうだな……それに浮いて動いた方が早いし色々と見やすい事もまた確かか」


 どちらが楽かと言われれば広い空間であれば広い空間であるほど、飛空術で一気に移動した方が楽なのだ。なのでカイトはこのまま飛空術を使って少し高い所から確認する事を良しとしたらしい。というわけで少し高い位置から、彼は改めて周囲を確認する。


「大きさとしては大体……直径1キロはありそうか……? 高さは……100メートルほど。ドーム型か思ったより上の方に居たのか」

『そして上にはいくつかの構造体があって、黒いモヤを吸収している、と。出来きっている様子はないけれど』

「それでもまだマシはマシだけどな……だがそんな巨大な構造物の最下層全域を埋め尽くすかもしれない白骨死体って……一体全体何があったんだ……?」


 もし埋め尽くしているのなら何千人、下手をすれば何万人規模だぞ。カイトは流石にそういうことは無いとは思いながらも、巨大な古代遺跡の地下で起きた何かしらの想像が出来ず、険しい顔でそうボヤく。そして険しい顔はシャルロットも一緒だった。


『わからないわ……戦争……かしらね』

「ここで? まぁ、確かに武器はどこかに転がっていそうではあるが」

『あり得ない事はわかっているわ。でもそれぐらいじゃないとこんな状況にはならないもの……そうだ。下僕』

「ん?」

『足場がある、ということはおそらく道もあるんじゃないかしら。そうなると最下層に別の道があってもおかしくないわ』

「なるほど……たしかに最下層がこれだけってのも変な話ではあるか……」


 足場があり石碑がある以上、ここには正規の方法でどうにかして来る手段はありそうだ。そうなるとモヤに隠されているだけで道がどこかに続いている可能性は確かにないではなさそうであった。というわけでシャルロットの指摘で二人は再び周囲を確認してみて、一つ頷いた。


「あった。あそこに扉らしきものがある」

『やはりそうだったみたいね……ああ、反対側にも扉が……それにあれは……石碑? あら?』

「……ん?」

『時間切れみたいね』


 丁度二人が扉を見付けた――シャルロットはもう一つの石碑らしきものもだが――と同時だ。カイトのスマホ型通信機からアラート音が鳴り響いていた。流石にこの未知の領域の探索だ。一日で全てが終わるとは誰も考えておらず、かなり早期に帰還するように設定していたのであった。というわけでカイトはスマホ型の通信機を取り出して、アラームをオフにする。


「今日はここまでか。まぁ、流石にこれ以上調べた所で今日中に終わらない事は間違いない。明日は休みだから無理をしても良いが……今日はこれで終わらせておくか」

『そうなさい。戻すわ』

「ああ。サンキュ」


 シャルロットが告げると同時。カイトとの間で繋がれている魔力の流路(パス)を利用して、シャルロットは神が神使を呼び出す魔術が行使する。そうして、カイトは古代遺跡から一気に帰還を果たす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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