第3629話 禁足地編 ――謎の遺跡――
カイトの生誕祭の最中にもたらされた天領ノクタリアで起きている異変の情報。そこは天領とは名ばかりで、実際は交通の要衝でありながらも禁足地と呼ばれる危険地帯を含むがゆえに国が直接管理するという曰く付きの場所だった。
そうしてユーディトの案内でマルス帝国の秘密研究所にやってきていたカイトであるが、調査の末その秘密研究所の更に奥に採掘場と呼ばれるエリアがある事が発覚。禁足地の影響を受けていると考えたカイトは単身採掘場へと乗り込むのであるが、そこで彼が目の当たりにしたものはルナリア文明とも異なる古代文明の遺跡であった。
というわけで遺跡の壁面に沿って奥を目指していた彼であったが、彼はその道中に自分以外に蠢く何かの存在を察知。交戦に及ぶ事になる。
「……」
謎のゴーレムを追跡するように進み続けて暫く。謎の遺跡はかなり広いようで、何度か巡回の謎のゴーレムの同型と思われるゴーレム達に遭遇。だがそのどれもがカイトを一瞥するかのように認識すると彼を無視。再び巡回に戻っていった。
『またハズレね。間違いなくこれは巡回……と言って良いでしょう』
「だな……また行き止まり、と。いったいこいつらは何を警戒しているんだ……?」
一応、このゴーレム達は全てが同じではなく巡回の経路によってサイズは違うらしい。カイトは自身の前を歩く程度の速度で巡回する謎のゴーレムの一体を見ながら、そう思う。
今しがた彼が追っているのは先ほどの2メートルの個体の倍ほどのサイズのゴーレムだ。ただサイズ違いのだけでなく大剣ではなく巨大な大槌を持っており、しかしこの個体もカイトが見た個体同様に敵が出現するや遺跡を一切傷付ける事なく性能の高さが見て取れた。
「ほらよ。また乗せてくれ」
ぴょい。カイトは謎のゴーレムにそう告げると、その肩の上に腰掛ける。こうやって腰掛けようと謎のゴーレムは無反応。彼を特に気にする事もなく再び遺跡の中へと戻っていく。
「うーん……この遺跡がここにある、ということは古代文明はこのモヤが何かを理解していた……のか?」
『おそらくそうなのでしょうね……そういえば下僕。貴方は最下層をどこと考えていたの?』
「ああ、それか」
おそらくここは今回辿り着こうとした場所より更に地下だろうな。カイトはシャルロットの問いかけに対して、自分が行こうとしていた場所の事を思い出す。
「禁足地の谷の最深部だ。そこからこの黒いモヤが吹き出していた。荒れ果てた谷の最深部で、そこまで降りるのに飛空術を使ってと色々と準備してきたんだけどなぁ……まさかその更に地下にこんな構造体があったとはな」
『楽しげね』
「ああ。ちょっと楽しい。ユリィを連れてこなかったのが悪いぐらいだ」
シャルロットの指摘に対して、カイトは笑いながらはっきりとそれを認める。元々冒険者として世界中を旅するのが好きだったのだ。久しぶりの未知との遭遇、しかも彼でも危険性が読み解けない冒険に心が踊っている様子だった。
そうして楽しげに謎のゴーレムに運ばれること十数分。謎のゴーレムは曲がり角に差し掛かり停止する。合流するのを待っているのであった。
「……よし。元の道。そして向こうからは次の個体、と。この通路、えらく長いな」
ひとまずは遺跡の壁面に沿って動いていたのだが、どうやらカイトが見たのは外壁に相当する部分だったらしい。壁面に走った亀裂から中に入っていた。なので両側が奇妙な石材で出来た通路で、天井や床も同じ石材で舗装されていた。
『そうね……で、下僕。気付いて?』
「なにに?」
『この壁面よ。わずかに傾斜があって、上の方に行くに従って奥側へと広がっている』
「ああ、それか……多分この遺跡の内部の構造は卵型か球状なんだろう。嫌になるね」
『ああ、わかりはしているのね』
嫌になる。それは構造からそれが何を意味するかわかっているからこその発言というわけか。シャルロットはカイトの返答に楽しげに笑う。
「当たり前だ。嫌になるほどいろんな封印を解かされてきたからな。こういうヤバい場所でこういう構造をしている時、それが何を意味するかわかってる……正直御免被りたいね」
『月が見ていてあげるから、頑張りなさい』
「頑張ります」
シャルロットの言葉に、カイトはため息混じりに一つ気合を入れ直す。と、そうして彼が気合を入れ直すとほぼ同時に、もう一体のゴーレムが現れた。サイズとしては少し小さく、肩に座れるほどではなさそうだった。
「とりあえず更に先に進むとして、だ。何時になったら中に入れるのやら」
おそらく中への入口はあるのだろうが、この調子だと多分その入口と亀裂はかなり離れた所にあったのだろうな。カイトはため息を吐きながら首を振る。兎にも角にも調査を進めるためにも中に入りたいわけだが、その入口がわからないではどうにもならなかった。というわけでカイトはそれから更に暫くの間、ゴーレム達に従って移動を続ける事になるのだった。
さてゴーレム達に従って移動を続けて一時間ほど。幸いゴーレム達はあのモヤの塊のような存在が出現しない限りは決まった経路を巡回し続けているらしく、遭遇したゴーレムに目印さえ付けておけば道に迷うという事はなかった。
というわけで一時間ほど色々と移動し続けた末。彼は異質な場所にたどり着くことになる。それはまた別の壁面の亀裂で、外に続いている様子だった。ゴーレム達が何故かそちらに向かわないので不思議に思って覗いてみたのである。
「……」
『……』
その部屋に到達した瞬間、カイトもシャルロットも思わず顔を顰めて口を噤む。そうして無言のまま中に入って奥の方に積み上げられたいくつかの白骨を見て、カイトが口を開いた。
「ここが採掘場……ってわけか。多分、だけど……あの黒いクリスタルを発掘してた……のか?」
『<<闇結晶>>よ。でもまさかこんなところにあるなんて……』
「知ってるのか?」
崩れた壁面の先に見える黒い輝きを放つクリスタルを見ながら、カイトはシャルロットへと問いかける。これに彼女は頷いた。
『ええ。邪神の影響の強い地の中でも更にその力が集まった場所に生じる特殊な結晶よ。でもこれまであるなんて……』
「シャル……本当にここが何なのかわからないのか? 明らかに邪神に関係する場所だぞ」
『わからないわ。私が聞きたいぐらいよ』
数千年の時を経て見付かったルナリア文明より更に古い文明と邪神の繋がりだ。何千年と後始末に奔走したシャルロットの顔にも困惑と共に苦々しい物が浮かび上がっていた。
「そうか……で、<<闇結晶>>ってのはなんだ? 一見すると周囲のモヤを吸収しているようにも見えるが……」
『邪神の力を増幅するためのもので、邪神が生み出しているのだと思っていたわ。吸収しているように見える、ではなくて吸収しているわ。<<闇結晶>>自体が存在を維持するためにね』
「なるほど。吸収した力を放出させることで力を増幅もさせられるわけか」
『ええ……ここはモヤが吹き溜まりのように集まって、でも出ていかない。その状態で長年経過する事で凝縮されて黒いモヤが結晶化してしまったのでしょう』
あれで何度も兵隊達を強化されて痛い目に遭った。シャルロットは闇色に輝く結晶体を加工して作られた魔道具を思い出して盛大に顔を顰める。そんな彼女に、カイトは問いかけた。
「調べなかったのか?」
『調べられるのなら調べているわ。でもわかるでしょう? あんなもの直に触れれば一発アウトよ。神使だって直接触れれば無事じゃ済まないわ。下僕だから平然としていられるだけで、ここだって常人が無策に入れば数秒と経たず悶死している場所よ?』
あれを採掘していたのか。シャルロットは<<闇結晶>>の横に置かれた採掘用の魔道具を見て苦い顔だ。邪神に無関係だとしても、この黒いモヤは間違いなく良いものではない。それを採掘しようなぞ狂気の沙汰でしかなかった。
「そうか……さて、どうしましょう」
『……』
「わかってるよ。流石にあれを持って帰るとか馬鹿はしない。上が死人で溢れ返るし、やるにしてもしっかり準備した上でやる。それこそ皇国を動かした作戦になるだろうし、綿密に計画した上だ」
シャルロットの視線が痛かったらしい。カイトは彼女へと迂闊な行動はしない事をはっきりと明言する。これにシャルロットも同意した。
『そうね。それが良いでしょう……それにしても気になるのはそうなるとここで採掘された資源はどこへ持っていかれたか、という所だけど……』
「倉庫の荷物やらは大凡運び出されていたという事だが」
『どこへ消えたのか、という所ね……』
「教国にある中央研究所にはなかったと思うがね……ティナに六番機の復元作業、急がせるようにするか……」
ノクタリアに隠されていたマルス帝国の秘密研究所はクーデターが起きたもののなんとかそれを鎮圧し復旧したものの、被害の大きさと終焉帝敗死の報告により研究所を放棄したのだ。
では放棄した後にどこに行ったかというと、普通に考えれば帝都だろう。だがその程度も極度の人間不信に陥っていた終焉帝の敗死、後継者問題による内紛と持ち出された資材が研究所に来ていなくても不思議はなかった。なのでその情報を持っている可能性があるだろう六番機に賭けるしか今のところ手はなかった。
「まぁ、良い。とりあえずここに<<闇結晶>>まである事はわかった。いっそマルス帝国が採掘していたとかどうでも良いんだが、何故それがあるかが問題だ」
『そうね……もう少し先に進んでみましょう。中に入れる道がどこかにはあるはずよ』
「りょーかい」
シャルロットの言う通り、まだここは遺跡の外郭――しかもそこから出た外側――でしかないのだ。何故モヤが吹き出しているのか、などを含めこの遺跡の最深部にまでたどり着かない事には何もわからなかった。というわけでカイトは亀裂から外に出て、再び本来の順路を進んでいく。だがその歩みは、ほんの十数分で終わりを迎える事になる。
「……すぐそこだったのか」
『のようね。でも、これは……』
「死体がたくさん……か」
元々黒いモヤで視界は悪く気付けなかっただけで、少し歩いた先には中へ入るための通路があったらしい。だがそこには何個もの白骨死体が散乱し、明らかに尋常な光景ではなかった。というわけでカイトは止めていた歩みを進めて、散乱する白骨死体へと近付いていく。
「これは……多分マルス帝国時代の兵士の装備だな。後でユーディトさんに聞いてみないとわからんが……だが片付けもされなていないのか」
『そういえばそうね。さっきの採掘場だかの遺体は積み上げられていたのに』
「あっちのはおそらく鉱夫やらだか何かだとは思うが……」
とりあえず調べてみない事には何もわからない。カイトはそう考えて、落ちている白骨の一つへと歩み寄る。そうしてその一つを見て、彼は顔を険しくした。
『どうしたの?』
「こいつら全員、叩き潰されているな。それも相当な力で。おそらく一撃だっただろう」
『……』
それを何が成し遂げたのかと問われれば、現状容疑者は一人もとい一つしかないだろう。
『ゴーレムに襲われた、と』
「だろうな。相変わらず見事なもので、地面には一切陥没が生じていない。おそらく構造へのダメージを最小限に抑えたんだろう……ん?」
『次は何?』
「……あれだ」
怪訝な様子のシャルロットの問いかけに、カイトはまた別の白骨死体を指さした。こちらも同じく重量物により骨はバラバラに砕け散っているが、その上半身はまだ比較的無事だった。そんな白骨死体にカイトは近付いていく。そうして彼が拾い上げたのは、一冊の手帳だった。
「手帳……か。装備から見て彼は兵士じゃなさそうだな」
おそらく研究員の類か。カイトは手記をパラパラと開いて中を確認。一部血で汚れてはいるものの、どうやら読めないほどではなかったようだ。一つ頷いた。
「まだ行けそうだ。少しこいつを読んでみてから先に進もう」
『大丈夫?』
「ま、流石に今まで襲われなくてここから先で一気に、というパターンはあるだろうが……ここまでで大丈夫だからな……それに月が見ていてくれるんだろう?」
『調子の良い事ね。勿論よ』
カイトの問いかけにシャルロットが笑う。というわけでカイトは一旦シャルロットに周囲の警戒を任せると、通路の端に腰掛けて暫くの間過去の手記を流し読みする事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




