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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3628話 禁足地編 ――謎の遺跡――

 カイトの生誕祭の最中にもたらされた天領ノクタリアで起きている異変の情報。そこは天領とは名ばかりで、実際は交通の要衝でありながらも禁足地と呼ばれる危険地帯を含むがゆえに国が直接管理するという曰く付きの場所だった。

 そうしてユーディトの案内でマルス帝国の秘密研究所にやってきていたカイトであるが、調査の末その秘密研究所の更に奥に採掘場と呼ばれるエリアがある事が発覚。禁足地の影響を受けていると考えたカイトは単身採掘場へと乗り込むのであるが、そこで彼が目の当たりにしたものはルナリア文明とも異なる古代文明の遺跡であった。というわけで遺跡の壁面に沿って奥を目指していた彼であったが、彼はその道中に自分以外に蠢く何かの存在を察知。交戦に及ぶ事になる。


「……」


 カイトは戦闘態勢を整えると同時に地面を蹴ると、完全に無音で着地。距離は敵の状況を把握出来る限界として設定していた。


(敵の反応無し。まだ気付かれていないか)


 神陰流を学んでいるカイトの探知能力は言うまでもなくこの世界でも最高クラスだ。並の魔物や戦士では到底及ばない。それがこんな極限環境下では尚更だろう。更に続けざま一歩蹴って、敵との間合いを正確に把握する。


(距離およそ15。大きさはおよそ2。形状は流石に不明)


 耳掛け式のライトの光が届くのはおよそ5メートル。その3倍という所で、まだ目視不可能だ。そして流石にこの周囲の何もかもを乱すモヤの中ではいくら彼とて気配だけで敵の形状を見抜く事は出来ず、大きな何かがそこに居るという事しかわからなかった。とはいえ、それは敵も一緒だ。だからカイトはこの優位を捨てる道理はない、と判断する。


(スイッチ・オフ)


 魔糸を利用して、カイトは耳掛け式のライトの電源をオフにする。そうして一瞬で彼の周囲が完全に闇に包まれ、再度地面を蹴る。


(一撃で仕留める)


 刀を腰に帯びて、呼吸を整え。カイトは先程より数瞬だけ長く地面を踏みしめる。接敵と同時に一撃で敵を仕留めるつもりだった。だが、だ。それこそが誤りだった。そうして彼が地面を蹴って間合いに届かんとしたと全く同時。敵もまた動いた。


「!?」


 唐突な方向転換。気付かれた様子はない。気まぐれか、偶然更に先に何かを見付けて方向転換せざるを得なかったのか。それもわからない。だが一つだけカイトにはわかった事があった。


「ちぃ!」


 カイトが敵が棒状の何かを持っていた事に気が付いたのは神陰流を学べばこそだ。流石にここまで近付けばこのモヤの中でも神陰流を使う事は出来た。

 敵の持つ何かが偶然、彼の進路上に立ちふさがったのだ。このままでは自爆するだけ。そう判断した彼は盛大に舌打ちしながら魔力を前面に放射して急制動を仕掛け、その場に停止する。


『バッドラックね』

「うるせぇ……ちっ」


 流石にこれは運が悪すぎる。カイトは楽しげなシャルロットの言葉を聞いて再度舌打ちする。とまぁ、そんなこんながありつつも前面への魔力の放出でモヤが大きく晴れるわけだが、カイトは放出と同時に耳掛け式のライトの電源を再度オンにする。だがそうして見えた敵の姿に、カイトは思わず困惑を露わにした。


「こいつは……」

『ゴーレム……? 原始的な? でもこれは……』


 形状としては岩で出来たゴーレム。『岩巨人(ストーン・ゴーレム)』と呼ばれるゴーレムの類だ。ただ素材は明らかに普通の岩ではなく、使われている技術も全くの別物。それに酷似した何かだった。そうして困惑を露わにした彼であったが、どういうわけかそんな彼に対して謎のゴーレムは全く動かなかった。


「……こちらを認識はしているようだが……」

『無視……しているわけではなさそうね。こちらはきっちり認識しているわ……私を含め』

「……みたいだな」


 シャルロットの言葉にカイトはおそらく目に相当するだろう部分の光がこちらを見ている事を理解するも、だからこそどうするべきか反応に困っていた。これが戦闘態勢を整えてくれるのなら一息に斬り伏せるだけだ。というわけで反応に困るカイトであったが、その次の瞬間。謎のゴーレムが唐突に動き出した。


「っ!?」


 土塊にしちゃ良い動きをしやがる。カイトは内心で称賛を浮かべながら、唐突に動き出した謎のゴーレムに警戒しつつ構えを取る。だがそうして構えを取った彼を一切無視して、謎のゴーレムはモヤを弾き飛ばしながら奥へとスライドするように突き進んでいく。


「ちっ! なんだってんだ!?」


 モヤはこの謎のゴーレムがどういう原理でかで吹き飛ばしてくれているし、耳掛け式のライトはそのままなので視界の確保も出来ている。

 なのでこの行動が何を意味するか、カイトは確認する事を選んだ。というわけで謎のゴーレムが向かう先へと必死で突き進むわけだが、謎のゴーレムは到底ゴーレムとは思えぬ機敏な動きで壁面を沿うルートとは別の道へと進んでいく。


「どこへ行く……っ!」


 自分でもない、この謎のゴーレムでもない何かがいる。カイトは謎のゴーレムの向かう先に何かが蠢いている事を察知する。そうして彼がそれに気付いた数秒の後。謎のゴーレムが停止して、それと共に手にしていた巨大な岩の剣を振り下ろした。


「っ」


 嘘だろう。カイトは振り下ろされた大剣が叩き潰したものではなく、ゴーレムの動きの繊細さにこそ舌を巻く。謎のゴーレムが振り下ろした大剣は地上スレスレの所で停止して、一切地面を揺らす事なく敵だけを叩き潰していた。と、そんな感心を抱いた彼だが、その彼の背後にも敵が忍び寄っていた。


「ふっ」


 流石にカイトが自らの間合いに入られて気付けないわけがない。故に彼は背後に忍び寄る影に気付くや否や、死神の大鎌を振り抜いた。


「これは……」

『あいつの邪兵? でもそれにしても……』

「ああ」


 自分達に対する過剰なまでの敵意を感じない。シャルロットの困惑にカイトもまた同じ困惑を抱く。彼が切り裂いたのは、邪神の影響に侵された生命と同じく漆黒のモヤで侵食された存在だ。だからこそ、二人は訝しむしかなかったのだ。

 だがそんな困惑する彼を当然敵は待ってくれない。故に彼は困惑を飲み下し、大鎌を振るって自身を取り囲もうとする数体の黒いモヤの集合体を斬り伏せる。


「ふっ!」

『中身は?』

「空っぽだ。モヤだけの集合体だな」


 この程度の相手なら特に苦戦はしないだろう。カイトは黒いモヤの集合体のような何かを斬り伏せて、ただひたすらに数を減らしていく。だが戦えば戦うほど、その疑念は深まっていく。


『下僕。気付いて?』

「ああ……なんだ、こいつらは。基本、邪神の力なり影響を受けた存在なりはオレとシャルに対して強い敵意を向ける。だがこいつらにはそれがない」


 基本的にシャルロット達が戦った邪神は地球に縁があり、特にカイトの事を目の敵にしている。それも邪神の正体を知ったカイトはさもありなん、来るなら来やがれと彼にしてはかなり珍しい好戦的な様子だが、邪神側もカイトに対しては非常に好戦的だ。なので邪神の影響を受けたのならあるはずのカイトへの過剰なまでの攻撃性が見られないのだ。


「ちっ……今更だがソラを連れてきても良かったか……?」

『だめよ。あの子は神使もどきだから、そちらの影響で活性化したかわからないわ』

「それもそうか……日本人に対しての敵意がどうか、というのを見極めたい所ではあるんだがなぁ」


 カイトは自分個人に敵意が向けられている風に話しているし、実際彼は日本人関係なく敵意を向けられていただろう。だが実際には日本人に流れる血そのものにも邪神は反応しているようで、カイトほどではないが敵意を向けられる。

 まぁ、そんな事を言ってしまえばエネフィアの民も一緒なので――シャルロット達の庇護の対象なので――何ら意味はないのだが、わずかに敵意の強度が強いという程度には差はある。なのでそこでの活性化の有無を見たかったようだ。


「まぁ、雑魚いから楽に始末出来るのは有り難いんだが」

『どの程度?』

「うーん……良く出てくる雑兵程度」

『私が出るまでもない程度、というわけね』


 幸い雑談しながらでも倒せる程度――カイトだからという所は大きいだろうが――にこの黒いモヤの塊は強くはない。なのでただ近寄ってくる敵を倒せば良いというだけだった。

 というわけで彼が大鎌で斬撃を放ち周囲のモヤが薄れていくに従って、敵の出現頻度も下がっていく。そうして周囲のモヤがほぼほぼ消え去った頃には、何も出現しなくなる。


「……終わったか。シャル、サンキュ」

『どういたしまして』


 カイトが大鎌で戦っていたのはひとえにこのモヤを晴らすのに有用だからでもあった。というわけでモヤが晴れて敵が出なくなったと共に再び沈黙した謎のゴーレムをカイトは見る。


「こいつの技術、かなりのものだな。持ち帰れればティナが喜びそうだ……持ち帰れれば、そしてこっちに来れれば、だが」

『こっちで丁度臍を噛んでいるわ』

「あはは……にしても一切揺らさずか」


 先ほどまで大暴れしていた謎のゴーレムの動きを思い出し、カイトはこの創造主に対して掛け値なしの称賛を浮かべる。この謎のゴーレムは系統としては一番簡単な部類だ。繊細な動きは本来望むべくもない。だがそれで攻撃を一切壁にも地面にも命中させる事なく、敵だけを完璧に処理しているのだ。相当高度な技術を費やしている事が察せられた。


「おそらくこの空間を揺らさないようにして、崩落を防いでいるんだとは思うが……」


 パシャパシャ。カイトはモヤが晴れた事でなんとか撮影出来そうな謎のゴーレムの写真を何枚か撮影しておく。そうして撮影が終わったわけだが、相変わらず謎のゴーレムはカイトには敵意を向ける様子が見られなかった。


「何なんだ、こいつは。ルナリアのゴーレムとは違うんだよな?」

『違うわ。第一、刻まれている刻印も違う。ルナリアのものではない事は確実よ』

「うーん……」


 確かにここまで高度なゴーレムだ。おそらく設計者はかなり有名で間違いなく、神々にも名が知られていて不思議はなかった。それなのにシャルロットが知らないということはおおよそルナリア文明の技術者達ではないのだと察せられた。というわけで考え込むカイトだが、そんな彼を横目に謎のゴーレムが再び動き出した。


「あ……また移動していく……戻っていくルートか」

『迷う前に戻りなさい。いくら月が導くとはいえ、ここでは月の光も照らさない』

「そうだな。オレもここで迷子になりたくはない」


 かなりの速度で駆け抜けた謎のゴーレムを追ってカイトもかなりの速度で駆け抜けたのだ。もしかしたら道中で分かれ道の見落としなどがあっても不思議はなかった。というわけでカイトは再びゴーレムを追って、今度は遺跡の壁面まで戻る事になる。


「よし……なんとか戻ってこれた」

『よろしい。調査を続行なさい』

「あいよ……ん?」

『どうしたの?』

「あれ……もう一体だ」

『あら……』


 カイトの指さした方向をシャルロットも見て、そちらからまた別の謎のゴーレムがやって来ている事に気が付いた。どうやら先にゴーレムがモヤを吹き飛ばして進んでいた事で少し視界が開けたようで、見付けられたようだ。


「……この遺跡を巡回している……のか」

『の、ようね。でもそれで考えるとこの遺跡、少し大きそうね』

「みたいだな……はぁ。謎の遺跡で謎の敵、謎のゴーレム。そんな場所に一人で調査か。人気者は辛いね」

『私が居てあげているでしょう』

「それはいつもの事だな。いつだって月はオレの味方だからな」


 シャルロットの言葉にカイトは楽しげに嘯いた。そうして、彼は今度は更に奥からやって来た謎のゴーレムを追跡するように、更に奥へと進んでいくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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