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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3627話 禁足地編 ――採掘場――

 カイトの生誕祭の最中にもたらされた天領ノクタリアで起きている異変の情報。そこは天領とは名ばかりで、実際は交通の要衝でありながらも禁足地と呼ばれる危険地帯を含むがゆえに国が直接管理するという曰く付きの場所だった。

 ユーディトからもたらされたマルス帝国時代末期の秘密研究所にまでたどり着いたカイトとユーディトであったが、道中不老不死の研究の一環で生み出された魂だけの怨念達を死神の権能で強制的に浄化させると、最深部一歩手前の所長室に到着。安全の確保が完了した事により本格的な復旧と、秘密研究所の前線基地化を進める事になる。

 そうして前線基地化を進めていたカイト達であったが、それも終わりかけになった頃。カイトへともたらされたのは、最下層にある通路から更に先に続く隔壁があるという報告であった。

 というわけで二日の調査が終わり、本格的に禁足地の調査を行う前にカイトは採掘場なるエリアの調査に赴くことにしていた。ここの安全が確認されなければ前線基地の安全が確保出来ないからだ。


「こちらカイト。最下層隔壁前に到着した。ティナ、聞こえるか?」

『聞こえておるぞ。うむ。調整は完璧じゃな』

「考えたもんだ。いや、普通は出来ないのか」

『うむ。この点、地球の技術は非常に有益じゃ。エネフィアでそんな事をしようとすると数百年あっても全く足りぬじゃろうからのう』


 カイトが現在居るのは彼の言う通り、地下の最下層。昨日見付かった採掘場なる場所へ続く隔壁の前だ。そこは当然のように周囲を『吸魔石』で覆われており、本来は一切の魔術による通信を通さないはずだった。だが何故か今、平然とカイトとティナは通信を行っていた。その肝となる機械を見て、カイトは笑う。


「光通信か。確かに純粋科学の産物は『吸魔石』の阻害も通用しないな……まぁ、分厚い上に地下だから中継局何個設置したか、って話だが」

『しゃーなかろう。そこばかりはのう……まぁ、問題はそこから先に意味はない事かのう』

「隔壁か……どの程度の分厚さかにもよると思うが……」

『薄くはなかろう。とはいえ、万が一何かがあってもすぐにこちらに連絡が取れるようになったのは大きいじゃろう』

「オレには意味ないがね」


 何度か言われているが、カイトとシャルロットの間には神使の契約がかわされている。故に念話が使えなかろうと彼女との間でだけは会話が可能で、採掘場の中からでも連絡可能だった。


『そういうな。これは前線基地でそこらで待機する必要が出た場合に使うためのものじゃ。それを流用して話しておるだけじゃからのう』

「そうだな……それにおかげでホタルとも直にやり取り出来る。ホタル、隔壁のシステム隔離はまだか?」

『もう少しお待ち下さい』


 隔壁の前に到着して何故駄弁っていたかというと、理由はこの通りホタルが作業中のためだ。というわけで作業を待つ間、カイトは周囲を再確認する。


「高さ3メートルほど。幅も同様……円形の通路。外側は『吸魔石』……隔壁に取っ手は無し。出入りはできそうにないな」

『万が一は外に出ておる奴らを見捨てるためなんじゃろうな。おそらく外側にも取っ手はあるまい』

「最高だな」


 ティナの推測にカイトは半ばやけっぽく笑う。とはいえ、彼にとってそれはさほど意味のあるものでもなかった。


「シャル、万が一は強引で良いから回収を頼む」

『ええ……まぁ、月はいつも貴方の後ろにあるから安心なさいな』

「おうさ……ティナ。万が一の場合は隔壁の開閉システムを完全抹消出来るようにはしているな?」

『無論じゃ』

『マスター』


 ティナの返答とほぼ時同じくしてホタルから連絡が入る。元々終わりそうなタイミングで着けるように移動していたので、さほど時間は掛からなかったようだ。単にシステムの隔離と即座の消去が出来るように準備をしていた所、時間が掛かってしまっただけであった。


『マスター。隔壁のシステム隔離、完了しました。物理的に隔離も可能です』

「おっしゃ」


 カイトはホタルの返答に牙を剥いて笑いながら首を鳴らして屈伸する。そうして数度の屈伸の後、彼はホタルに命じた。


「開けてくれ」

『了解。第一隔壁開きます』


 ホタルの応答とともに、カイトの眼の前にあった大きな隔壁ががこんっ、という音と共にわずかに動いてゆっくりと内側に開かれる。第一隔壁の厚みはかなりのもので、カイトの腕の長さほどはあろうかというほどであった。

 そうしてその先にあったのは、もう一つ同じような円形の隔壁だ。だがこちらには回せそうな大きなハンドルが取り付けられており、これで隔壁を開閉しているのだと察せられた。


『マスター。先にお伝えした通り、第二隔壁は手動でしか動かせません。また第一隔壁は第二隔壁の解錠を確認した時点で自動で閉鎖されます。ご注意を』

「あいよ」


 カイトはホタルの言葉を聞きながら、隔壁の間へと入る。そうして彼が入ると同時に、後ろの第一隔壁がゆっくりと閉じていく。それを尻目に、カイトは第二隔壁のハンドルに手を掛ける。


「さて……鬼が出るか蛇が出るか。はたまた邪が出るか」

『どれも同じよ。本来蛇とは邪。邪なるものを言うのだから』

「だな……よいっしょっ!」


 どうやらこのハンドルそのものは『吸魔石』じゃないらしいな。カイトは触った感触からそれを理解する。そうしてハンドルを何度か回して第二隔壁を開くわけだが、すると当然のように一気に黒いモヤが流れ込んできた。


「っ……やはり外より濃度が高いな……」

『この程度で私の下僕が音を上げるとは思わないわ』

「もちろん。ただあんまり良い心地というわけでもないからな」


 シャルロットの挑発的な言葉に、カイトは笑って問題ない事を明言する。そうして更に隔壁を引いて開いて外に出るわけだが、そこはやはり地下だからか非常に薄暗く、地面も壁も天井も土で覆われており舗装はあまりされていない様子だった。


「……完全に外か。まぁ、採掘場なんだから当然か……」

『長居はするべきものじゃないわね』

「だな……さて照明を、と」


 本当に地球の装備は色々と便利だな。カイトは翻訳用のイヤリングとは別側の耳に装着した耳掛け式のライトを点灯させる。そうして周囲が照らし出されて、彼は思わず目を見開く事になる。


「これは……遺跡?」

『遺跡?』


 カイトの零した言葉を受けて、半透明のシャルロットが彼の後ろに顕現する。そうして顕現した彼女もまた、思わず目を丸くした。


『確かに……古い文明の遺跡ね。ただこれは……』

「どうした?」

『ルナリアのじゃないわ。第1期ルナリア文明……古ルナリア文明の遺跡を私は知っている。でもこれはそれではないわ』


 ふわふわと浮かびながら、シャルロットは現れた遺跡の壁に手を当てる。そこは苔で覆われているものの幾何学的な模様が確かに見て取れ、確かな文明の痕跡が認められた。


「古ルナリア文明……ルナリア文明初期の事か」

『ええ。マルス帝国におけるマルス王国時代。ルナリアにおける統一歴採用前。その頃の遺跡とは違うわ』

「……」


 一気にきな臭くなって来たぞ。カイトはシャルロットの返答に険しい表情を浮かべる。そうしてそんな状況を受けて、カイトはカメラを取り出した。


「シャル。少しどいてくれ。画像を撮影しておく」

『ええ……十分気を付けなさい』

「ああ」


 シャルロットの言葉にカイトは一つ頷くと、持ち込んだデジタルカメラで古代文明の壁を何枚か撮影する。


「……良し。だがどういう意図でここを採掘場なんて名前にしたんだ……?」


 ルナリア文明とも異なる古代文明の遺跡を採掘場と呼んでいたのだ。その意図が掴めず、カイトは警戒感を滲ませる。そうして撮影を終えた彼は改めて周囲を確認する。


(この壁に沿うような形で一本道……か。とりあえずまっすぐ行ってみるか)


 幸いなことに出て早々に即座に魔物に襲われるというような事はなかったが、本来ここは魔物が何時出てもおかしくない施設の外だ。なのでカイトは刀を片手に警戒しつつ、壁を目印に先へと進んでいく。そうして無言で少し進んだ所で、シャルロットが話しかけた。


『下僕』

「なんだ?」

『さっきティナにこの遺跡の特徴を伝えたのだけど、サンドラの小倅を呼んでくるとのことよ。小倅の魔導書はルナリアより更に古い時代のもの。何かわかるかも、って』

「なるほど……」


 そう言えばエテルノさんは魔導書で、古くから<<星神(ズヴィズダー)>>達と戦ってきたんだったか。カイトはシャルロットからの連絡でそれを思い出す。


「わかった。道中で何か目ぼしい絵柄か何かがあればそれも撮影しておく」

『そうして頂戴』

「あ、そうだ。そう言えばシャルって<<星神(ズヴィズダー)>>と遭遇した事はあるのか?」

『ないわ。そういう神が居る事は私も神の知識でわかる程度』


 やはり世界から知識を引き出せる神でもその知識は必要な程度にしか引き出せないか。カイトは自身が現れた事により活動を本格化させる事になった<<星神(ズヴィズダー)>>についてそう思う。


「ルナリアでもマルスでもない不明な文明、か……はてさて」


 おそらくマルス帝国の研究者達はこの遺跡も目的の一つではあったのだろうな。カイトは明らかに発掘された形跡のある遺跡の壁面を見ながらそう考える。と、そうしてしばらく進んだ所で、カイトが足を止めた。


「……」

『下僕?』

「何か居るな……どうしたもんかね」


 ただでさえ暗い上に黒いモヤはライトの光もあまり通さず、見通しが悪い空間だ。しかもこのモヤのせいで気配もかき乱してしまっており、気配を読み抜けるカイトが如何に凄まじい感覚を有しているという所でしかない。だがその彼でも何かが居る事を理解するのがせいぜいだった。とはいえ、やることは決まっている。


「ま、やるしかないか。シャル、話は後で」

『気を付けなさい』

「あいよ」


 シャルロットの気配が消えたのを受けて、カイトは地面を蹴る。そうして彼はこの地下で最初の戦いを開始する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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