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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3624話 禁足地編 ――研究所跡――

 カイトの生誕祭の最中にもたらされた天領ノクタリアで起きている異変の情報。そこは天領とは名ばかりで、実際は交通の要衝でありながらも禁足地と呼ばれる危険地帯を含むがゆえに国が直接管理するという曰く付きの場所だった。

 そんなノクタリアの調査に赴いていたカイトは到着早々に『監視所』で起きた異変の対応に追われる事になったものの、翌日には調査を開始。ひとまずユーディトの情報を頼りに、マルス帝国時代の秘密研究所の調査に乗り出していた。というわけで秘密研究所にまでたどり着いたカイトとユーディトはひとまず所長室を目指す事にして、真っ暗闇に包まれる地下を進んでいた。そうして進むこと半時ほど。カイトの眼の前には凄惨たる有り様が広がっていた。


「こりゃまた酷い有様だ……ワンフロアぶち抜きの改装工事でもやりたかったんですかね」

「どうせなら全階層ぶち抜きでもして頂ければ楽だったのですが」

「あはは。いや、全くです……こりゃ経年劣化による崩落じゃなく戦闘による破壊ですね」


 二人の眼の前に広がっていたのは数メートルにも及ぶ巨大な穴だ。ただそれも経年劣化によって崩落したのではなく、天井も外側に向けて歪み床も燃えたような痕跡があるなど明らかに戦闘の痕跡が見て取れた。ここで大きな戦闘が行われたのだと考えるには十分だった。

 というわけで少し確認しておくか、とカイトは穴の下へと飛び降りる。だがその瞬間だ。ぱきんっ、という乾いた音が鳴り響いた。


「なんだ? あぁあぁ……こいつ骨か。こりゃ掃除は諦めたと見える」

「それが正しい判断ではあったかと……何より敗戦も明確になった時点で修繕するだけの余裕なぞないでしょう」

「あはは……とはいえ、どうしたものでしょうかね。この研究所で研究されていたのは確か不老不死の研究……という事でしたね」

「ええ。ただ私も何をしていたかまでは存じ上げておりません。私が命ぜられたのは研究の結果を受け取り、それを帝都に持ち帰る事でしたので……ただ碌でもない研究ではあったことは事実でしょう」


 言ってしまえば使い走りだが、内容が内容だ。迂闊に運ぶ事も出来ない以上、隊長格のユーディトに任されたのは道理ではあっただろう。


「でしょうね……さて、その実験結果が動いてないと良いんですが」

「さて……そこは保証致しかねます。とりあえずまだ先です。幸い、と言って良いかはわかりませんが実験エリアよりも上にありますので最深部の影響はないかと。後は……まぁ、当時の研究者達が立つ鳥跡を濁さず、とされたかどうかなのではないかと」

「期待薄ですかね……」


 敗戦の中で撤収したのだ。おそらく持っていけた物は限られるだろうし、廃棄出来る余裕があったかと言われればカイトも少し首を傾げる。というわけで彼は呆れるように首を振って、拾い上げた何かの骨の破片を投げ捨てた。


「やれやれ……こりゃ色々と面倒な事になりそうですね」

「かと……とりあえず一階スキップ出来ましたので更に先に進みましょう。丁度この階層に所長室があったはずです」

「りょーかいです」


 とりあえず何か異変が起きさえしなければカイトとしてはそれで良かった。だが勿論、そんな簡単に事が運ぶわけもなかった。


「……不老不死の研究ってどういう事をしてたんでしょうね」

「碌でもない事は間違いないかと」

「やれやれ……」


 本当に死神の神使で助かった。カイトは呆れた様子で死神の鎌を取り出す。


「せめてもの慈悲だ。一撃で送ってやるから安心して消し飛んでおけ」


 所長室に繋がる通路を塞いでいたのは、外の黒いモヤとはまた少し違う赤黒いモヤだ。それは言ってしまえば恨み辛みなどを抱えた怨念のようなもので、触れれば碌でもないことが起きる事は間違いなかった。というわけで彼は漂う怨念に向け、大鎌を一閃。跡形もなく消し飛ばす。


「はぁ……まじで碌でもない事してそうですね……おい、シャル」

『私とてマルス帝国時代のそれも末期は手一杯だったのよ』

「はぁ……この様子だとお前の権能にいらんことしてるぞ、こいつら」


 こういう死んだにも関わらず現世に留まる魂やら怨念やらを消し飛ばすために出てくるのが死神だ。だが、三百年前の戦争時代と同様、マルス帝国の末期も相当荒れていた。シャルロットの仕事も大忙しだったことは間違いないだろう。

 というわけである意味では自身の職務怠慢を指弾されているようなものなので、シャルロットは唇を尖らせていた。とはいえ、流石に何もしませんは少し座り心地が悪かったようだ。彼女が告げた。


『下僕』

「ん?」

『次、似たのが出てきたら私に繋いで頂戴な。魂に細工をしたとて、死神()の目はごまかせないわ』

「あいよ……と、言ってる間に、か」


 シャルロットの要請を受け入れたとほぼ同時だ。カイトは通路の先の暗闇から先程同様に生者に害を為そうとする怨念が近付いてくる事を理解する。


「シャル」

『居るわ』

「どうする? 消してやる事は容易だが」


 くるくるくる。カイトは大鎌を回転させて、いつでも怨念を切り裂けるように準備する。別にこの程度なら問題ないし、なんだったら死神の神使として迫りくる怨念より危険な怨念達に遭遇した事とて一度や二度ではない。


『少し待ちなさい』


 ふぅ。カイトの問いかけに応ずると同時に、シャルロットの吐息が風となり怨念へと浴びせかけられる。それだけで、今までゆっくりとカイトへと近付いてきていた怨念はわずかも動けなくなってしまっていた。


「死神の吐息……怨念にとっては地獄の業風も同然か。オレは毎日でも浴びたいんだがねぇ」

『ふぅ』

「ひゃあ!」

『ふふ……浴びたいんでしょう? 貴方だけの特権よ』

「あのね……」


 確かにそうは言ったけど時と場合は選んでくれ。カイトはシャルロットの戯れに呆れながらも笑っていた。とはいえ、死神とその寵愛を一身に受ける神使が居るのだ。この時点で更に近寄ってきていた周囲の無数の怨念達は一切動くことも出来なくなってしまっていた。


「で、冗談出来るぐらいなんだ。仕事は終わったか?」

『ええ。月が満ちるよりも。太陽が昇るよりも。私にとって死者が死ねない理由を見切るのは簡単だわ』

「流石。答えをどうぞ」

『魂をこの場に縛り付けてるわ。謂わば地縛霊や付喪神。そういった類へと変化させてるのよ。酷いことを』


 わずかに声に怒りが乗っているのは、やはり死神だからなのだろう。カイトは死への冒涜であり、同時に生への冒涜でもある出来事に怒りを隠せぬシャルロットに対してそう思う。

 そしてカイトは彼女に認められた神使。その気持ちはわかるが、同時に為政者でもある。怒りだけで動ける立場でもなかった。


「帝国は何をやったんだ?」

『おそらく肉体から魂だけを取り出して、何かしらに縛り付けたのでしょう。考えられる策としてはこの場に縛り付けること。地縛霊。第二案はなにかの物に縛り付けること。付喪神ね。第三案としては……生者への恨み辛みを増幅させて強引に成仏出来ないようにしてしまうこと』

「なるほど。それでこんな熱烈歓迎を受けている、というわけか」


 そろそろ数えるのも嫌になってきた。カイトは自分達の周囲を取り囲む無数の怨念達を見ながらそう告げる。


「ユーディトさん……大丈夫っすね。この怨念の山に囲まれて平然と出来るのは貴方ぐらいなものかと」

「一応攻撃手段は乏しいので可能であればカイト様にお願いしたい所ではございます」

「持ってる事にびっくりっす……」


 本当になんでも出来るしなんでも持ってるな、この人。カイトは霊体に対しての攻撃手段さえ持ち合わせるというユーディトにがっくりと肩を落とす。

 ちなみに、別にカイトはそんな事を気にしていない。無数の怨念に取り囲まれて精神的に参っていないかと思ったのだが、要らぬ心配だったようだ。と、そんな彼の背でユーディトの状況を同じく見ていたシャルロットは彼女にも問題がない事を確認して、カイトへと指示を下した。


『下僕……我が寵愛を一身に受けし神の使いよ。女神より指示を授けましょう』

「拝聴致しましょう」

『この研究所全ての死ぬべき命を一つ残らず刈り取りなさい。女神の名において、神器の解放を許可しましょう』

「イエス・マイ・ゴッデス」


 やはりそう言うよな。シャルロットの許可を受けると同時に、カイトの髪が白銀に。その両目が真紅に染め上がる。そうして彼が持っていた大鎌だけでなく、もう一振りの大鎌が闇の中から彼の真横に飛来する。


「ユーディトさん。一瞬で消し飛ばしますが、問題は?」

「このような帝国の悪行、残しておく意味がございません……陛下にはもとより何もなかったと報告すれば良いだけの話です」

「りょーかい」


 全く以てその通りでしかないな。カイトはユーディトの返答に笑うと、飛来した大鎌と自身が持っていた大鎌を同時に地面に突き立てる。


「さ、久しぶりの出番だ。思う存分やってくれよ……命令だ、この怨念渦巻く地に眠る全ての死なき死者達を……殺せ」


 かっ。カイトの命令と同時に、大鎌から月の光にも似た白銀の光が溢れ出して、研究所全域を飲み込んでいく。そうして数秒後に光が消え去ったと同時に、彼らの周囲を漂っていた全ての怨念達もまたあの世へと消え去ってしまっていた。


「ふぅ……こんなもんか」

『上出来よ』

「お褒めに預かり光栄の極み……さてユーディトさん。あれが所長室で?」

「はい……ただおそらく全電源喪失状態の上、ホタルが居なければ中には入れないかと」

「流石にロックは厳しいですか」


 やろうと思えば壊せなくもないだろうが、折角鍵があるのに使わない道理もない。カイトはユーディトの言葉にそう判断する。というわけで二人は怨念も全て消し飛ばした事である程度安全性は確保出来たと判断。一旦調査を切り上げて、ホタルら後続の者たちと合流する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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