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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3622話 禁足地編 ――外周部――

 天領ノクタリア。それは古代文明さえ解き明かせなかった謎の闇に似た物質が吹き上げる謎の場所。そんな所に特異性から何度か調査に訪れた事のあったカイトであったが、自身の生誕祭の最中に皇帝レオンハルトより異変が起きている事を知らされる事になる。

 というわけで彼からの要請を受けて再調査に赴いたカイトであったが、やって来たノクタリアは禁足地を観光名所として活用する活気あふれる街と化していた。そんな状況に呆れながらも禁足地を監視する『監視所』に足を伸ばしたカイトであったが、そんな彼が目の当たりにしたのは不可視の漆黒のモヤに侵食された『監視所』であった。

 そんな『監視所』を侵食した漆黒のモヤが魔導炉のエネルギー生成の理論を流用して異界から流入しているのではという推測が立てられる事になったわけだが、結果は案の定という所であった。そうして魔導炉を停止させて流入を停止させたカイトは、深夜になった頃にようやく状況を皇帝レオンハルトへと報告していた。


『『『……』』』


 皇帝レオンハルト以下、今回の案件を知っている軍の高官達はカイトからの報告に盛大に苦い顔だった。なにせ魔導炉を利用されて侵食されていた、だ。その不可能さを理解していればこそ、それが実際に起きているという事実に苦い顔が隠せなかった。というわけで皇帝レオンハルトは同席していた技術士官に問いかける。


『不可能ではなかったのか?』

『ふ、不可能なはずです。現実的に考えて、無限のエネルギーに自らの力を上乗せしようものなら吹き飛ばされます。自らを門として、無限熱量に接続するようなものです。自壊するしかない』

『はぁ……』


 どう聞いても出来るわけがない。皇帝レオンハルトは技術士官の返答にため息を吐く。彼からしても無理としか言いえないのだ。なのに、出来ている。理解不能だった。というわけで彼はカイトへと問いかけてみた。


『マクダウェル公……まさか公は無限に接続してそれを操る事が出来る、なぞと言う事はないな?』

「まさか……陛下。私とて人です。無限に接続すれば一秒も保たず消し飛ぶだけでしょう」

『公にも常識はあったか』

「陛下」


 くだらない冗談はよしてくれ。カイトは笑いながら皇帝レオンハルトの返答を嗜める。


『ははは……すまん。だが理解してくれ。俺も理解が出来ん。だが現実として、魔導炉を介して侵食が行われたという。これはどういうことだ?』

『マクダウェル公。一つお伺いしたのですが、ノクタリアは間違いなく旧文明時代から存在していたのですね?』

「それは間違いない。月の女神にも太陽神にも確認している。この両者が間違いないというのだから、間違いないだろう」

『むぅ……』


 自身の問いかけに対するカイトの返答に、技術士官は顔を顰める。そんな彼を横目に、皇帝レオンハルトが問いかける。


『唯一の例外は邪神の関係か。邪神は出来た、のだな?』

「は……ただそれも非常に例外的な要素が大きかったと思われます。邪神が神……それも異世界の神であったこと。本来神と世界は繋がっていなければなりません。その繋がりが強制的に絶たれた事により、邪神は魔導炉の異界に繋がろうとする力に自らの力を上乗せさせる事が出来るようになったのかと」

『道理ではある、か。例が邪神一つしかないのがあれだが』


 どちらも別の世界に繋がろうとする力だ。ならばどこかの異界に接続する前に自らを一瞬だけ魔導炉に接続させる事は不可能ではないのだろう。皇帝レオンハルトは魔導炉の理論や邪神の神としての現状を鑑みてそう判断する。そして判断して、彼はため息混じりに指示を下した。


『マクダウェル公。すまないが、最深部まで行って貰えるか? 何が起きているか理解せんことには対策も立てられん。だが公以外に頼めない事もこれではっきりとした。それともう一つすまないのだが……』

「承知致しました。魔導炉のアップグレードですね?」

『うむ。公の飛空艇に搭載された魔導炉は無事だったと聞いている。元来は邪神対策で組み込んだものだったのだろうが……まさかそうなるか』


 また対策を練らねばならないか。皇帝レオンハルトは苦い顔だ。だがやらねば『監視所』のように知らない間に侵食されてしまうのだ。やるしかなかった。というわけで彼は頭を振って、話を前に進めた。


『ユスティーナ殿にアップグレードに必要な作業と時間等を教えてもらえるように頼んでくれ。最低軍の基地、万人規模の街の魔導炉にはその改修を急ぎ施さねば何が起きるかわかったものではない。皇都の魔導炉を最優先で出来るか?』

『技師の一団を急ぎマクダウェル領に向かわせます。後はユスティーナ様次第かと』

『頼む。ああ、それと会議後即座に他の大公、公爵達にも同様の指示を出すように』


 皇都には言うまでもなく皇帝レオンハルトが居るのだ。そこが侵食されるような事があれば国が終わる。最優先で対処せねばならないし、二大公五公爵の領地はどれもこれもが皇国でも重要拠点ばかりだ。どれか一つでも乗っ取られる事があれば皇国が被る被害は甚大だった。というわけでカイトはそれから少しの間対策会議に参加する事になり、夜遅くにこの日は眠りに就く事になるのだった。




 さて会議が終わって翌日の朝。会議が夜遅くに終わったわけであるが、カイトはいつも通りの状態だった。


『お主も大変じゃのう。昨日も夜遅くまで対策会議。今日は朝から外縁部の調査か』

「オレ以外出来りゃぁ楽になるんだがな。この状況になっちゃオレ以外が安易に近付けばどうなるかわかったもんじゃない」

『良くて悶死、悪けりゃ闇に飲まれてそのまま、か……ぞっとせんのう』


 今でこそ皇国が管理して『監視所』を設けて立ち入りを禁止しているが、その昔は無策に立ち入って戻ってこなかった者は少なくなかったそうだ。良くて悶死というのは戻って来たが、というだけの話で戻ってこれなかった者がどうなったかは何度か立ち入ったカイトにさえわからなかった。というわけでそんな危険地帯を見ながら、カイトは一つ気合を入れた。


「さて、行きますかね」

『わかっておると思うが、今日の調査は外縁部のみ。腕利きの冒険者であればまだ立ち入れるエリアまでじゃ。そこの安全が確保出来るかどうか。それを調べんと前線基地を設ける事も出来ん』

「あいよ……じゃ、行ってきま」


 とりあえず自分が中で活動するためにも拠点は設けなければどうにもならない。というわけでカイトは今度は禁足地の影響が出ないギリギリに着地すると、状況を報告する。


「少し前に黒いモヤを確認……まだ影響の出る領域じゃないが」

『了解した……前と比べてどうじゃ?』

「さほど変わらんとは思うが……わからん。流石に」


 なにせ来た回数も片手の指で足りる程度で、前回は三百年も昔の事なのだ。木々でさえ変わり果てており、目印になりそうなものはほとんどなかった。というわけで周囲を見回したカイトは、ついでに正面の吹き出す漆黒のモヤを見る。


「山の谷間から吹き出る闇……か。まだこの辺りは大丈夫か。不思議な事に木々や草花にはほとんど影響がないんだよな、これ……流石に最奥まで行くと太陽の光も届かないから草一本生えてないけど」

『おそらく闇そのものは精神汚染を行うものなのじゃろう。故に木々や草花には影響が出んと思われる』

「どっちにしろ人体には有害か」

『それは変わらんな……良し。こちらからの計器の測定も完了。今のところ異常な数値は出ておらん』


 別にカイトとて駄弁って進んでいなかったわけではない。今回様々な計器を飛空艇に積んでおり、それらの検査結果が出るのを待っていたのであった。というわけでティナからの報告を聞いて獣道にも似た道を歩き出すカイトだが、そこでふと思い出した。


「りょーかい……ああ、そうだ。そう言えばユーディトさん」

「なんでしょう」

「マルス帝国時代の秘密研究所ってどうやって行けば良いんですか? というかどうやって行ったんですか? オレも何度かしか来た事がないんで見付けた事はないんですが……」

「は……それでしたらこの特殊な魔道具がなければたどり着けぬようになっております」

「持ち出したんっすね……え?」

『『『え?』』』


 相変わらずというかなんというか。カイトは自らの横でコンパスに似た魔道具をかざすユーディトに笑うが、その次の瞬間思わず仰天する。言うまでもなくここに来るのはカイトだけのはずだった。


「なにか?」

「いや、なにか? じゃなくて。なんで居るんですか」

「道案内が必要かと思いましたので……御不要でしたか?」

「いえ、欲しいんですけど……」

「私の事でしたらご安心ください。先にご報告致しましたがここにも来た事がありますので、そこまででしたら問題ございません」

「……たしかに」


 流石に最深部ともなればユーディトも避けるのだが、外周部のどこかに隠されているという秘密研究所までは来た事があることは事実だ。そして外周部であればギリギリ調査は可能だし、だからこそカイト達もそこに調査拠点を設けようと判断したのである。というわけでカイトは現状時間を無駄にしたくなかったこともあり、ユーディトの提案を受け入れる事にした。


「わかりました。お願いします」

「かしこまりました。ではこちらへ」

『良いのか?』

「ユーディトさんなら問題ないだろうし、問題ないと判断したから来ているんだろう。ここらへんのミスをやらかす人じゃない」


 ユーディトにとって一番重要なのは自らがメイドである事だ。主人の手を掛けさせるでは本末転倒、と不足を起こすとはカイトには思えなかった。


「じゃあ、行きましょう。あ、研究所の中って大丈夫なんっすかね」

「それがわからぬ事もありましたので同行致します」

「なるほど……」


 確かに現状何が起きても不思議ではなく、万が一カイト一人で不足が生じればどうしようもない。特に今回は状況が状況ゆえに近接戦闘が出来る者は限られてしまっており、手が欲しかった事もまた事実であった。というわけでカイトはまずはユーディトの案内に従って、マルス帝国の秘密研究所を目指す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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