第3617話 生誕祭編 ――誕生会――
カイトの生誕祭の夜中に行われた誕生日会。そこでは多くの貴族や要人達が集まる場になっていた。そんな中で発表された御前試合の開催はその賞品の珍しさもあり大いに盛り上がる事になり、多くの貴族、要人達がそれに注目する事になっていた。
と、そんな形でスタートする事になった御前試合だが、そこからしばらくして彼は幾らかの要人達との話し合いを経て少し離れた場に居た。
「うーん……」
やはり少し気恥ずかしいな。カイトは少しだけしまったという様子を見せながら、遠くで自身が手掛けたネックレスを見る。と、そんな彼にセレスティアが話しかけた。
「何かお考えが?」
「ん? ああ、いや……あはは。流石にな」
「あぁ……」
なるほど。それで恥ずかしげだったのか。セレスティアは開幕の一幕を思い出して苦笑いを浮かべる。自分が彼の立場だったとしてもそうだったろう、と思うからだ。
「勇者カイト杯……ですか。ご存知なかったのですか?」
「御前試合は聞いてたよ。あのネックレス出したのはオレだしな……ただ名前までは聞いてなかった。御前試合は御前試合でしかないし。まぁ、突発的な開催だと名前を付ける事は知ってはいたが……」
「あぁ……」
基本皇帝が主催する御前試合は御前試合とだけ言われる事が多いが、今回の御前試合のように特例的な開催になると別に名前を付ける事は珍しくなかった。
とはいえそんな事はカイトからしても知った話なので聞かなかったが、まさか自分の名前の御前試合を開くとは思っていなかったらしい。最後の最後に発表された名前に大いに恥ずかしがっていたのであった。
「あはは。まぁ、そういうわけでな。流石に自分の名前が付けられてると恥ずかしいのなんの」
「……そうですか」
「……セレス」
「……なんでしょう」
おそらく気付かれてはいるのだろう。セレスティアはカイトと努めて視線を合わせないようにしながら、その言葉に応ずる。
「……まさかと思うけど。そっちの世界にオレの名前が付いたものとか……ないよな?」
「……」
「……そうか」
沈黙こそ何よりもの答え。カイトはセレスティアの反応に遠い目だ。まぁ、活躍して長い時間が経過すればそういう事にもなってくるだろう。というわけでわずかに気まずい空気が流れるわけだが、流石にセレスティアも居た堪れないままではいられなかったらしい。大慌てで取り繕った。
「あ、で、ですが他の皆様の名が付けられた大会もありますよ!? 他にも四騎士の皆様の大会も!」
「……それ、慰めにはならないよな……」
「あ……す、すみません……」
「はぁ……あはは。まぁ、良いよ。少なくとも悪名高い、ってわけじゃないんだから。それにもし生きてたとしてもそういう物が開かれた事は今ならわかる。特にオレの場合は利用価値が高いだろうしな」
「ご理解痛み入ります……」
カイトは騎士として立身出世したのだ。最後には王族に迎え入れられる事になるわけだが、そこを除けば民間向けの物語としての利用価値は改変のしやすさなどもあり誰よりも高かった。
結果として彼の人気度は高く、その名前を冠した大会が開かれるのは当然の道理であった。というわけで再度沈黙が流れるわけだが、セレスティアが問いかけた。
「えーっと……あの、御身は参加されるのですか?」
「ん? ああ、いや。今回は不参加だ。色々とあって依頼とブッキングしちまってな」
依頼とブッキングというよりも依頼とブッキングさせる日程で御前試合が組まれているのだが。カイトは内心でそう嘯く。
「そうでしたか……てっきりそういう流れだったのかと」
「いや、流石にな。それはそれで陛下は面白がりそうではあったが」
カイトは再度嘯く。というわけでようやく気を取り直せたわけだが、どうやら雑談をしていられる時間もあまりなかったようだ。
「カイト」
「これはシャリク陛下。ご無沙汰しております」
「……そうだな」
一応は昨夜の一幕はなかった事にしておくことにしたのか。シャリクは流石にあの場を大っぴらに出来るわけもないか、とカイトの反応をそう理解する。
「それでそちらがグリムの妹君か。まさかあの時の君がそうだったとはな」
「陛下。ご無沙汰しております」
「ああ」
こちらは言うまでもなく冒険者の総会の際にあったっきりだ。なのでセレスティアの言葉にはシャリクも素直に頷けたらしい。
「君の兄君には世話になった。色々と厄介な手合を片付けてくれた……む。これでは少し危うい言い方になるか。捕縛という意味だ」
「存じ上げております」
「そうか」
まだ残る反乱の目を潰すのにレクトール達はかなり活躍してくれたらしい。その中でセレスティアが義理の妹であると聞いたため、一応彼女とも知己を得ておこうと考えたらしかった。
「そうだ。そういえば二人が居る場だ。話しておこう」
「と、言いますと?」
「先のネックレスは覚えて……ああ、あれではないぞ? 旧文明の遺産の方だ」
「存じ上げております」
笑いながら告げるシャリクに、カイトも少しだけ肩を震わせる。ここで出るネックレスはルナリア文明の遺産の事だろう。邪神の復活も近い今、あれを探す事はラエリア帝国にとって急務になっていたのであった。
「その後、いくつかの遺跡が見付かったのだが、その中の一つで見付かった。こちらについてはユニオンが協力してくれ、なんとかコントロール権を新たに確保する事ができている」
「そうだったのですか……こちらはどうにも見付かっていないようで。あったのでは、と思われる痕跡はあったのですが……」
「そうか。やはりか」
「ええ……おそらくマルス帝国時代に発掘されてしまったのではないかと考えられています」
やはりそういうことなのだろうな。カイトの言葉にシャリクも納得を示す。ラエリア王国時代の大大老達はさほど旧文明の発掘調査には興味を持っていなかったからか、こうやって色々と古い文明の遺跡が今更見付かる事が多かったようだ。
それに対してマルス帝国はユーディトが言う通り何かを求めて遺跡を発掘させていたそうで、古い文明の遺跡がすでに荒らされている事は珍しくなく、そこであのネックレスも密かに集められていたのではないか、と思われたのであった。
「そうか……ああ、すまなかったな。とりあえずそれを伝えておこうと思ってな」
「いえ、ありがとうございます。我々としても気になってはいましたので……」
シャリクの言葉にカイトは一つ頭を下げる。そうしてシャリクは伝えるべきことを伝えた、とその場を後にする。
「ふぅ……」
「やはり多いのですね、こちらでは」
「貴族の知り合いか?」
「ええ」
「そうだな……昔と今なら、おそらく今の方が知り合いは多いだろう」
セレスティアの言葉にカイトは笑う。そしてどうやら再び社交界の場に戻った事を察せられたからだろう。他にも彼に視線を向けてくる貴族や要人達が何人か居る様子だった。
「やれやれ……ま、セレスは適当に楽しんでくれ。オレはまたお仕事だ」
「あはは……御武運を」
「あいよ」
セレスティアの激励にカイトはひらひらと手を振って応ずる。そうして、彼はこの日一日要人達とのコネクションの造成に時間を費やす事になるのだった。
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