第3614話 生誕祭編 ――夜会――
決起集会を兼ねて行われる事になったカイトの生誕祭。それはエネフィア全土で朝から盛大にお祭り騒ぎが繰り広げられる様相を呈していたわけであるが、そんな中でカイト当人はというとこの日だけは仕事をさせない、というマクダウェル家一同の考えによりほぼほぼ暇な一日を過ごす事になっていた。
そうして暇にかまけて時に孤児院で過ごし、時に突発的に発生した魔物の巣の掃討作戦に参加し、と暇というか自由な一日を過ごしていた彼であったが、それも夕方になった頃に一旦は終わりを迎えていた。
というわけで主賓でありながら参加者という複雑な立場で夜開かれるパーティに参列する事になったカイトはひとまず礼服に着替えると手ずから邸内の状況を確認していた。
「ふぅ……ティナ。こっちは問題ない」
『うむ。監視カメラの類も問題ない。まぁ、こんな監視カメラに引っかかるような輩であればここに来る前までに終わっておるんじゃが』
「まぁ、これは単なる脅しだからなぁ……」
マクダウェル公爵邸は貴族の邸宅の中では狭い分類に入るわけだが、狭いからこそ警備はその分密度が高く厳重でもある。夜に衛兵が歩き回っている事はないが、だからこそ魔術的な防備は厳重だ。
というより魔術的な防備が厳重過ぎて、衛兵が安易に歩き回ると逆に危険でさえあった。というわけで監視カメラは単なる見せかけに過ぎず、この程度に引っかかるのならカイトなりティナなりに遊ばれるのが関の山でしかなかった。そして何より、衛兵が歩き回るよりより良い見回りが存在している事も大きかった。
「ホタル。邸内のドローンの様子は?」
『問題ありません。超小型ドローン含め正常に作動中』
「よし……使い魔達も問題なし、と」
カイトは邸内に流れる気配を読み取って、使い魔達が正常に行動している事を理解。警備体制に問題ない事を確認する。
「これでひとまず陛下を迎える準備は出来た、か……椿。客の状況は?」
『すでに早い方々は来られ、控室にてお待ちになられている様子。ただ来ている方々の大半は概ね今回をデヴューの場としようと考えていた年若い方々です』
「年若い方々か。想定外の事態になってないと良いんだが」
今回カイトの生誕祭が決起集会の様相を呈する事になったのはかなり突発的な趣きが強い。そして一度参加と言っておいて皇帝レオンハルトやらが来るから、と不参加にするのはそれはそれでかなり印象は悪くなるだろう。というわけで各家としてもこの場を社交界デヴューの場としたくはないものの、下手に避ける事も出来ないとハラハラとしているとの情報がカイトにまで届いていたのであった。
『それはなんとも言えないかと』
「だな……っと、とりあえず屋敷全体のチェックは終わった。クズハ達の状況は?」
『クズハ様、アウラ様共にお着替えは終わられております。また先程ユーディトさんが軍旗の封印を解除。展示場所の再確認を行われていました。予定ではすでに終わっている頃かと』
「わかった。今回軍旗の掲揚は陛下のご希望でもある……持ってきてくれて助かった」
流石に開始直前までなると、ユーディトも常にはカイトに一緒に居るわけにもいかなかった。というわけでカイトが一旦公爵邸に入ると同時に彼女もまた支度に入っていたのであった。
「有り難きお言葉」
「……あの、今しがた確認してたって報告を受けたところなんですが」
「すでに終わったという報告も入っているかと思いますが」
「……あの」
「なにか?」
「オレにマーカーか何かセットしてたりします?」
「いえ? そのような事はしておりませんし、出来るほどの腕はございません」
嘘だぁ。カイトはあまりに的確に現れる――今回は仕事が終わっただけかもしれないが――ユーディトに対して内心でそうツッコミを入れる。とはいえ、今回彼女が現れたのは別に暇になったからカイトの手伝い、というわけではなかったらしい。
「それはともかく、です。カイト様。一度掲揚の状況をご確認頂きたく」
「ああ、なるほど……わかりました」
アウラはすでに来客の応対に入っている。ユーディトの作業に不足があるとはカイトも思えないが、それとこれとは話は別だろう。というわけでカイトは一度ユーディトと共にパーティが行われる大広間へと向かう事にして、その後は再び冒険部のギルドホームへと戻る事にするのだった。
さて公爵と冒険者ギルドのギルドマスターの二足草鞋で活動を続けたカイト。彼は最後のひと仕事となる公爵邸の状況確認を終わらせギルドホームへと戻ると、今度は手配された竜車の到着までに入口で待っていた。というわけで彼はすでに来ていた瞬と話をしていた。
「そうだったのか。それで支部が」
「ああ……にしてもなんだ。休みなのに支部に行ってたのか」
「まぁな」
カイトの問いかけに瞬は少し恥ずかしげだ。とはいえ、そんな彼も一応の訂正を入れておく。
「と言っても仕事に行ったわけじゃない。単にリジェのヤツがこっちに戻ってきたから、支部の連中と飲みに行くか、と誘われただけだ」
「なんだ。それなら良かった。オレみたいに暇過ぎて一戦、って塩梅じゃなけりゃ仕事なんぞ今日はせんに限るからな。まぁ、それでもアルやリィルは仕事だが……夜には来る事になるが、そっちもバーンシュタット家とヴァイスリッター家の仕事と言えば仕事か」
「そうだな……だが本当に暇だったのか」
「まぁな……まぁ、それならそれでデートでも行け、っていう話なんですが。そうも出来ない理由もありまして」
こういう自分が暇な時に限って周りは色々と忙しくあるものだ。カイトは桜らの状況を思い出して苦笑いだ。というわけで少し意外そうに瞬が問いかける。
「何かあったのか?」
「全員揃ってクズハとアウラのサポートに回ってるそうでな。桜とかが今こっちに居ないのはそういう理由だ」
「もう公爵邸に行っているのか?」
「らしい……オレもさっき知らされるまで知らんかった。まぁ、一部には遊んでるヤツもいるんでそいつらと一緒に、というのもありはありだったんだろうが……」
全員が全員サポートに入っているわけではなかったらしい。例えば暦ならアリスと一緒に街を散策しているそうだが、だからこそカイトも今どこに居るかは掴んでいなかった。そんな感じで全員とうまく時間が噛み合わず、一人暇になってしまったというわけである。
「ま、たまにはこういう日も良いでしょう……という塩梅だ。灯里さんに至っちゃ何? 祝って欲しいのー? とかニマニマ笑顔で言ってくる始末だしな」
「あはは」
その光景は容易に想像出来るな。瞬はカイトの言葉に笑う。一応研究所に寄ったついでに灯里の所にも寄ったらしい。そこで今日は一応祝日だぞ、と伝えた所そんな反応が返ってきたとの事であった。
「っと、それはそれとして。すまん。助かった。支部の連中も急にあたふたとして何がなんだかわかってないヤツも居たんだ。俺が一緒に飲んでたヤツもお前はもう今日は帰れ、と言われて帰らされたそうだ」
「そんな手間になる事じゃなかったしな。それで良いんだろう」
誰があの案件に関わったか、というのはあの空洞の近くに設けられたユニオンの臨時司令部にて確認されている。ああいった創造系の空間の場合、誰が入ったか確認しておかないと救助もなにもないからだ。
というわけで瞬が来た丁度そのタイミングでそちらから持ってこられた情報を元に報酬の準備やらを急いでやっていたそうなのだが、その時間が昼時であった事もあり情報が上手に共有されず、となったそうであった。
「らしいな……だがそうか。そういう事態があったなら俺ももう少し詳しく聞けば良かった」
「何だ。行きたかったのか?」
「どうにもこうにも訓練もほとんどしていないと身体が鈍ってな」
「あはは。わからないでもない」
やはり冒険者とはいえ根っこは武芸者に近い所がある。なので瞬もカイト同様に鍛錬をしていないと何か精神的に気持ち悪い感覚があるらしく、今日はお祭りという事でどこか浮ついた空気が漂っており、瞬も少しだけ鍛錬に身が入らなかったらしい。
カイト然りだが実戦ともなれば話は別だ。なのでそれならいっそ実戦で身を引き締めよう、と考えたとて不思議はなかった。というわけで適当に今日あった事を話しながら時間を潰していると、ソラがやってくる。
「あ、すんません。待たせてました?」
「ああ、いや。こっちも竜車が来るまで時間を潰していただけだ……お前も一人か?」
「あはは……いやぁ、どうにも由利もナナミも公爵邸の調理室に見学に行ってたらしくて。そのまま今日は一日見学してたら時間過ぎちゃった、ってさっき連絡が……」
瞬の問いかけにソラが少しだけ困ったように笑う。そんな彼の手にはカバンが2つあった。
「それは?」
「というわけでドレスっす……カイト。悪いんだけど部屋とかって借りられるか?」
「はぁ……わかった。用意させておこう。まぁ、何かあってドレスが汚れたりした場合に備えてそういう部屋はある。そっちを準備するようにさせておくよ。幸いかなり早めに到着するようには時間を設定しているから余裕もある。向こうで着替えで良いだろう」
「すまん」
カイトの言葉に対して、ソラが半笑いで謝罪する。というわけでカイトは公爵邸に連絡してその支度をさせるように連絡し、それが終わった頃に竜車が到着。男三人で公爵邸へと向かう事にするのだった。
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