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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3613話 生誕祭編 ――支度――

 自身の生誕祭の最中に発見されたマクスウェル近郊の空洞。それは魔物が発生した時に生じた巣の一種で、空間そのものが魔物の発生と共に生じたものであった。当然だがそんな物を放置しておく事が出来るわけもなく、カイトは生誕祭の警備や北部での積雪の対応に奔走する軍から要請を受けた冒険者ユニオンの一人として事態の収集に乗り出す事になる。

 そうしてそんな空間の中で彼は地球の機械文明をモデルとした新たな魔物達との交戦になったわけであるが、ホタルの増援を受けながらもこれを撃破。後の始末を冒険者ユニオン側に委ねると、空間の収束を見届ける事なく彼は街に戻っていた。というわけで街に戻って同じく事態の収拾に務めたエルーシャ達と少し遅めの昼食を食べてしばらく。再び彼は暇な時間を過ごす事になっていた。


「やれやれ……また暇な時間が出来ちまった」

「休日はそんなものかと」

「それはそうですが」


 ユーディトの言葉にカイトは苦笑いだ。確かに何も仕事をせず休むからこその休日だ。何か出来る事を探して歩き回る、という方がおかしいだろう。


「暇なのでしたら読書でもされれば如何でしょうか」

「読書……ねぇ。確かに読みたい本がないわけではないですが」

「公爵邸に戻るのも憚られる、と」


 どこか言い淀んだ様子のカイトの言葉をユーディトが代弁する。これにカイトは頷いた。


「そういうことですね。かといって冒険部の執務室は執務室ですし、冒険部の自室も自室だ。読書、も少しし難い。何より祭りやっててその横で読書を、というのも若干阿呆の所業と言いますか」

「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ、ですか」

「だーらなんで知ってんっすか……」


 そんな慣用句、天桜の学生達が滅多に使うもんじゃないのに。カイトは日本の慣用句を諳んじてみせるユーディトにがっくりと肩を落とす。相変わらず博識にも程があった。


「まぁ、それはそれとして。確かに屋台の練り歩きなども出来ませんのでこの時間からの時間の潰し方はさほど考えられませんね」

「でしょう? 流石に夜に立食形式のパーティだってのに飯をかっ食らうわけにもいかない……何よりねぇ」

「まぁ……そうですね」


 一応は建前上は自分の生誕祭だ。主催者側ならまだしも主賓が始まる前から満腹です、は料理人達に失礼も過ぎる。しかも料理人は自分のお抱えの料理人だ。いくらカイトでも空気は読んだ。というわけで良い匂いのする屋台は避けて、やることを探さねばならなかった。


「いっそ地球にでも戻られれば暇の一つでも潰せるのでは」

「あっははは。そりゃ良いですね。ただそうしようにも今度は帰れる時間の調整に苦労する。そこまで言うほど時間があるわけじゃない」

「ですか……はてさて」


 これは困った状況だ。ユーディトはカイトの言う通り何かをしようとしても出来るほどの時間もなく、さりとて何もしないにしても時間が余っている状況に少し困った様子だった。


「……いっそ久方ぶりにボードゲームでも致しますか?」

「どこから出しました、それ」

「それは聞かぬお約束です」


 ユーディトがどこからとも無く取り出した――異空間から飛び出した様子もない――遊技盤にカイトは思わず困惑する。とはいえ、それは彼にとって懐かしいものではあった。というわけで懐かしげに笑う彼が三百年前を思い出して笑う。


「懐かしいですね、それ。オレがこっちに来て一番最初にやったボードゲームだ。ボッコボコにされましたね」

「何も考えぬからです」

「あははは。中坊のガキに考えてボードゲームなんて土台無理な話ではありましたね……良いですね。あそこのカフェなら飲み物さえ飲むなら時間を潰せるし、今なら比較的店も空いてそうだ」


 そうと決まれば。カイトはユーディトの提案に再度乗る事にしたようだ。というわけで彼はユーディトを伴って喫茶店に入り、一応店主に断りを入れて夕方過ぎまでユーディトと将棋にも似たエネフィア独特のボードゲームを楽しむ事にするのだった。




 さて夕方になり流石にこれ以上ボードゲームで遊ぶのも、となったわけであるが、流石にその時間にまでなると彼も公爵邸に戻る事にしていた。理由は言うまでもなくパーティが開かれるからだ。というわけで彼は公爵邸の執務室で一度汗を流すと、椿から状況の報告を受けていた。


「ふぅ……パーティの進捗は」

「すでに会場の準備は完了。先程クズハ様へ何人かの方々がご挨拶にお見えになられました」

「わかった……ああ、そうだ。今回が社交界デヴューの予定になっている子息達のリストを送ってくれ。顔と名前は覚えておく」

「かしこまりました」


 カイトの指示を椿が手帳に書き留める。そうして書き留めた後、彼女がカイトに更に報告する。


「それでお召し物ですが、冒険部側の私室にご用意しております。その他桜様などの分も合わせてご用意させて頂いておりますが、それでよろしかったでしょうか」

「ああ。今回変な話だがオレも表向きは参列者側になる。天桜学園の名代として桜と先輩。冒険部側の名代としてオレとソラ……そんな塩梅か」


 今回は決起集会という物が追加になっているが、一応は単なる誕生日会というのが本来の話だ。なので貴族の誕生日会の常として様々な関係者が招かれるわけだが、カイトは公爵家の庇護を受ける冒険部というギルドのギルドマスターとして招かれていたのであった。

 といっても招かれたのがその四人だけで、別にこの四人以外参列してはならないというわけではない。だからこそティナも参加するのだ。

 そこらは一応は誕生日会という前提があるらしく、比較的緩いパーティとは言えた。まぁ、だからこそ子息達もそこまで堅苦しい場ではない、として子息達の社交界デヴューの場の一つに選んでいたわけであった。


「そう言えば馬車か竜車の手配は? 流石に徒歩での来場はあまり良くはない」

「すでに。開始の1時間前には到着出来るように手配しております。また道路の保全なども問題ないと警邏より報告が」

「わかった。陛下も竜車で来られる。そこには絶対に問題ないようにしてくれ。またオレ達は最低でも陛下の到着よりも前に到着する。もし陛下の予定に変更があればすぐに共有を」

「かしこまりました」


 一応は主催者ではなく主賓の側になるのだが、それでもカイトが関わらなくて良いというわけではない。マクダウェル家が開いている以上は彼がある程度関わらねばならないのだから、結局はここからは仕事と言っても過言ではなかった。というわけで彼はその後しばらくの間は公爵としての顔をして、公爵としての仕事に取り掛かる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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