第3612話 生誕祭編 ――雑談――
自身の生誕祭の最中に発見されたマクスウェル近郊の空洞。それは魔物が発生した時に生じた巣の一種で、空間そのものが魔物の発生と共に生じたものであった。当然だがそんな物を放置しておく事が出来るわけもなく、カイトは生誕祭の警備や北部での積雪の対応に奔走する軍から要請を受けた冒険者ユニオンの一人として事態の収集に乗り出す事になる。
そうしてそんな空間の中で彼は地球の機械文明をモデルとした新たな魔物達との交戦になったわけであるが、ホタルの増援を受けながらもこれを撃破。後の始末を冒険者ユニオン側に委ねると、空間の収束を見届ける事なく彼は街に戻っていた。
というわけで事態の解決の後。彼は少し遅めの昼を兼ねて今回の一件に関わったエルーシャ、セレスティア、更にはユーディトという三人と共に昼食を食べる事になっていた。
「はぁー……はい、とりあえずお疲れ様でした」
「お疲れ様ー」
「「お疲れ様です」」
カイトの音頭に合わせてそれぞれがそれぞれの労をねぎらう。そうして最初の一杯を口にした所で、カイトはため息を吐いた。
「あー……やっと仕事した感が出た。これで悲しいのはお酒はまだ飲めません、って話なんだが」
「そんな暇だったの?」
「暇よ暇。なーんもする事なしって精神衛生上あんまり良くねぇのな」
エルーシャの問いかけにカイトは盛大に顔を顰めながらため息を吐く。これ以上ないほどに暇をしていたのが今回の一件の前までのカイトだ。先程の討伐任務は適度に強く適度に未知の相手であった事もあり、非常に楽しめた様子であった。というわけでそんな彼にユーディトが助言を口にする。
「人間適度に働いて適度に休むのが一番良いかと」
「ですよねぇ……はぁ。もうちょいと忙しさを減らしたいんですけど」
「無理ですね。そうでなければ私がここに居る事なぞあり得ないのですから」
「ですよねー」
そもそもカイトに出せるサポートがいないからユーディトが動いているのだ。まぁ、その彼女もマクダウェル家に頼まれたからというわけではなく、勝手にカイトのサポートをやっているだけだ。
休日であるはずのカイトにサポートが必要なのかと問われれば微妙に首を振るしかないが、あって損がない立場でもあるだろう。というわけで神妙な顔で笑う彼に、エルーシャが問いかける。
「そういえばユーディトさんってメイドは良いんですけどどこのメイドなんですか? というか勝手にこんな事して大丈夫なんですか?」
「問題ございません。先代の主人が身罷りもう長いですので……次の当主の座に就くべき方は今はもうサポートが不要なほど成長され好きにされておりますので、どちらかと言えば私に頼らぬよう離れるべきかと考える次第にございます」
「はー……」
色々とあるのだろうが、主人の教育さえ任されるほどの人物なのか。エルーシャはユーディトの言葉に感心したように嘆息する。が、そんな彼女の言葉を聞くカイトの目はどこか遠い所を眺めていた。
「はぁ……あ、そうだ。メイドといえばセレス」
「なんでしょう」
「お前の連れてた騎士達ってあれはどれに類するんだ? 神殿の騎士でも色々とあるだろう?」
セレスティアの率いているギルドの冒険者達は全員、本来は彼女が所属する神殿の騎士だ。だがあの世界では騎士と一言で言っても様々な仕事があり、少し興味が湧いたのであった。
「彼女達は私の守護騎士が半分、残る半分は世話役を含めた従者という所です」
「守護騎士?」
「主人を守る事に特化した騎士ですね。イミナも本来はそれになります」
「へー……まぁ、イミナさんほどの戦闘力があったら当然かー」
流石に長い付き合いだし、そもそもエルーシャはセレスティアが地球とも異なる世界から来た事も聞いている。なのでここらの話は自然と受け入れられていたようだ。
「そう言えば初めて聞いた時は驚いたけど、セレスって一応はお姫様になるんでしょ?」
「そうですね。と言っても本流とは異なるので神殿に預けられているわけでもありますが」
「そうなんだ……でも息苦しくない? ずっと神殿って」
「生まれてからずっとでしたし、ある意味では好きな事はさせて頂いていますので……」
元々政略結婚が最後の引き金だっただけで、実家の息苦しさに耐えかねて家を飛び出したエルーシャだ。それはセレスティアも聞いており、エルーシャの問いかけに答える彼女の顔はどこか苦笑が滲んでいた。
「好きなこと、ねぇ……あ、そうだ。すっかり聞きそびれてた」
「はい」
「なんでカイトに様?」
「ぐっ!」
「それなぁ……本当にやめてくれよ。オレに様付けなんて」
「い、いえですが……」
どうやらカイトは今からでもなんとか修正出来ないか考えているらしい。とはいえこれにセレスティアは不満げだった。というわけで事情を知っていそうなカイトに、エルーシャが問いかける。
「なんでなの?」
「オレ、前世でセレスの世界に居たんだ。いや、前の前か? 正確にはオレだけじゃなくてアルとかも一緒だったんだけどさ」
「えぇ!?」
そんな事が起こり得るのか。エルーシャはカイトの言葉に仰天したように目を見開く。
「ま、まぁでも世界を超えたら今度は三百年とかそういうのは微妙に複雑になるなら……あり得る……の?」
「あり得るからあり得ているんだろ」
まぁ実際にはかなりややこしい所になるんだがな。カイトはエルーシャに対して当たり障りのない感じで答えておく。そして事実だけを見れば、起きているのだ。なのでカイトの指摘にエルーシャもまた納得する。
「それもそっか……でもそれがどういう繋がり?」
「オレが仕えた主人がセレスの遠いご先祖様の姉君でな……オレが第二王女に仕えて、それに対してセレスの血筋は第一王子なわけ。それで立身出世はしててな。で、歴史に名前が残っているってわけ」
「へー……」
不思議な縁だがそういうことがあっても不思議はない。エルーシャはカイトの言葉に再度納得する。
「でもそっか。それで様になるのね」
「前世の話だから嫌なんだが」
「前世と申しますが……」
「ま、それはそれということで」
前世ではあるが同時にこのカイトは間違いなく自分達が物語に伝え聞く勇者カイトに違いないだろう。セレスティアの言葉にカイトは困ったように笑い、これ以上この話はおしまいとジェスチャーで告げる。
「でもカイトが騎士ねぇ……どんな人だったの?」
「オレはオレだろ。変わってたら驚きだ」
「あ、あははは……」
「でもそれだったら騎士やってなくない? もしくは真面目に兵士でもやってるか」
「……たしかに」
実際そうなのだからカイトとしてもエルーシャの指摘には反応に困ったらしい。とはいえ、根っこは同じである事は間違いないのだ。というわけで思わず呆気にとられたカイトであったが、丁度そのタイミングで頼んでいた食事がやって来た。
「こちら牛肉の香草焼きと串焼き、それ以外に……」
「っと、飯が来たな。とりあえず飯だ飯。さっさと食わんと夜がまた近くなってくる」
「おっと」
いくら冒険者としてハイカロリーな運動を行っていようと、食べられる量は有限だ。というわけで一同は雑談を切り上げて、食事に取り掛かる事にするのだった。
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