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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3602話 生誕祭編 ――進捗――

 カイトの生誕祭に合わせて集っていた各国の要人達。そんな彼らはカイトの生誕祭に合わせて民衆の慰撫と共に、決起集会じみた集会にしてしまおうと計画する。そしてそんな皇国の思惑を受けたカイトは、各地から続々とやってくる諸侯や要人達の対応に追われる事になっていた。

 そうして生誕祭前日に行われた冒険者達の宴会に皇帝レオンハルトを連れて行った事で朝一番からハイゼンベルグ公ジェイクよりお説教を受ける事になるという、なんとも彼らしくもある締まらない一幕で生誕祭は幕開けとなってしまっていた。

 というわけで皇帝レオンハルトへのお目通りを終わらせ外に出た彼は、鳴り響く祝砲の音を聞きながら神妙な面持ちだった。


「……」

「なんじゃ、自分の誕生日を祝うお祭りじゃというのに物憂げじゃのう」

「物憂げ……ではないがねぇ……なんというかかんというか。誕生日ではあるんだが。なんだかこの時期に祝われるのが久しぶり過ぎてなぁ」

「……なるほど。久方ぶりで小っ恥ずかしいか。三年一昔とは言うたもんじゃが。地球でも騒動に巻き込まれ続けて本当にそう感じても無理はあるまいな」


 くすくすくす。カイトの様子でおおよそを理解したらしいティナが笑う。そしてこれにカイトもまた笑った。


「そうなんだよ。あの頃のオレに日本に帰るとか言っても信じなかっただろうしな。慣れてたつもりだったんだがなぁ」

「質素な祝いも悪うはなかったと思うぞ。余はああいう方が物珍しくもあった」

「流石生まれも育ちも王族」

「生まれの頃の事はほっとんど覚えとらんがのう」


 いくら過去の記憶の封印が解けたからと言って、過去の記憶が取り戻せたわけではない。そもそも彼女にとって物心がつくか否かというレベルの頃に封印されているのだ。普通でもおぼろげにしか覚えていないだろうに、封印の結果ほとんど覚えていないのは自然な話だった。とはいえ、封印されて覚えていないのはそれはそれで少し癪ではあるようだ。


「むぅ……今であれば幾つか対策もあるんじゃがのう。流石に幼少期ではどうにもならんか」

「ちなみに今ならどうするんだ?」

「無論記憶のバックアップは多重に用意してある。万が一の最後の最後の秘策に関しては絶対に、それこそ過去の改ざんが起きても対処出来る様にしておるぞ」

「お前……頼むから魔法とかはしないでくれよ……」


 時乃の領域でも対処出来ると断言するのだ。ここまで言い切る以上かなりの自信があるのだろうが、逆にそれがカイトには良い事とは思えなかったようだ。


「そんな顔をするでない。方法論としては非常に簡単じゃし、もし万が一そのような事になればお主の手を借りねばどうにもならん。ま、そうはならんがの」

「死亡フラグっすね、それ」

「う、うむ。言うておいて余も気付いた」


 流石にこれはあまりに油断も過ぎる。ティナは自分で言って自分であまりに傲岸不遜な発言だと思ったようだ。


「ま、それは良かろう。どうにせよ今年は派手な祭りで我慢せい。それに良いではないか。年に二回も誕生日を祝われて」

「……そうだった。そうなんだよなぁ……」


 今更だが、この生誕祭は勇者カイトの生誕を祝うお祭りだ。だが今のカイトはあくまで表向きは天音カイトという日本人の少年で、勇者カイトとは別人だ。

 というわけで彼は天桜での誕生日の法則に則って冬の12月24日と設定されていたのであった。そうして盛大に頭を抱え込んだ彼に、ティナは再度楽しげに笑った。


「くくく……ま、余もお主もすでに年齢を数える事に意味なぞない存在となっておるがのう」

「それはそうなんよな。オレの体感時間だともう年単位でかさ増しされてっし。一年か二年ぐらいは影の国でしごかれてたりしたなぁ」

「あれは驚いたのう。まさかギリシア神話の神界に赴いたはずが何故かケルト神話の冥界じゃからのう。じゃがあれは良縁が多き騒動であったな」

「そうだな」


 ぽんぽん。カイトはあの冥界で幾星霜の時を経て再会を果たしたアル・アジフを軽く叩く。これを取り戻したのが、イギリスの冥界と現世の境目だった。というわけで少しだけ上機嫌になった彼は、再度眼下に広がる自らの街を見る。


「もう自分が何歳かとか完全にわからんが……ま、楽しんでくれるのなら何よりか」

「そういうことじゃ。為政者の生誕祭なぞ民にとって祭りを開く口実として使えれば良いという程度よ」


 そうだな。カイトはティナの言葉に笑って同意する。と、そんな彼がはたと気が付いた。


「……ん? そう言えばお前なんでここに」

「ん? あぁ、すまんのう。本来仕事の話は今日一日は避けてやろうと思うておったんじゃが」

「別に構わんよ?」

「すまん……さしてトラブルなどではないが……あまり長引かせる必要もないものじゃからのう」

「うん? っと」


 ばさっ。カイトはティナから投げ渡された一束の報告書を受け取ると、そのまま中身を確認する。が、確認する必要はほとんどなかったようだ。


「六番機の再生計画か」

「うむ……ようやっと設計図が組み上がった」

「そりゃ良いんだが……なんか楽しそうね」

「そりゃ余のバカ親がホタルの後継機を二体保有しておるというんじゃ。舐められては困るのでのう。ちょいと興が乗った事もあり、エンテシアの魔女の技術を結集してみる事にした」

「ほぉ……」


 そいつは少し面白いな。カイトはティナの返答に少しだけ口角を上げる。


「あの書庫は非常に有益じゃのう。そして流石はエンテシア家。マルス帝国の歴史を任された家よ。ホタルの設計に使われた技術も残されておった」

「あったのか?」

「うむ……といっても流石にカスタムに関しては執念の産物じゃ。基礎技術の範囲という所じゃったがのう」


 やはりホタルを作った技術者が抱いた恨みは狂気の域に到達していたのだろうな。ティナはマルス帝国の技術の終端を理解すればこそ、ホタルがそれを遥かに上回るオーパーツの領域にたどり着いている事をはっきりと理解していた。


「それは良いわ。いや、良くはないか……む? もしやホタルの眠っておったあの遺跡。暴走したのって……余の所為?」

「うん。お前のエンテシアの魔女の血に反応したっぽいな」

「……」


 ぱちくり。ティナはカイトの即答に数度目を瞬かせる。そうして数秒後。彼女は平然と話し始めた。


「それで六番機の復元じゃが、それをベースにして再生計画は完了。それで一つ頼みがあってのう」

「あ、なかった事にした」

「……」

「はいはい……それで頼みって?」

「ちょいと探したい物があってのう……それがなんともならん場合は基礎研究の分野からやらにゃならんのじゃが」

「お前が? 今から基礎研究?」


 エンテシアの魔女の中でも有数の天才として名を馳せるティナだ。その修めている分野は帝王学、政治学、経済学といった為政者に必要なものはもちろん、魔術全般は幅広く修めている。

 地球の数年でデジタル技術もおおよそを理解しているという知性の面であればカイトが到底及ぶべくもない、という領域だ。その彼女が今から基礎研究。カイトが驚くのも無理はなかった。


「うむ……まぁ、単純じゃ。そろそろ以前話しておった例の計画を実行に移すかと思うてな」

「例の計画?」

「ホタルの身体じゃ。今回の場合は六番機にも同様のシステムを取り付けられる様にしたいとは思うておるんじゃが」

「前に言っていた奴か。バイオロイド計画だったか」

「うむ。今のホタルはどこまで行ってもゴーレムの括りは出ん。さっきも言ったがホタルに使われている技術はもはやオーパーツの領域。いっそ芸術品とも言える。じゃが、そこ止まりじゃ」


 ゴーレムとしては今後数百年先を見通しても出ないだろう領域の傑作。ティナはホタルの素体の事をそう褒め称える。だがだからこそ、同時に彼女は惜しんでもいた。


「しょせん、ゴーレムなんじゃ。成長性がない。その有益性は認めるが、同時に無益にもなる」

「生命ゆえに許される成長と本来命の宿らぬゴーレムの身は相性が悪いか」

「そこらはお主の方が詳しかろう」

「オレも詳しくはねぇよ。ただ道理を知るだけだ」


 機械は成長しないからこその機械。あくまでも定められた行動を繰り返す、もしくは定められた法則に従って動く事を得意とするものだ。変化、即ち成長には弱かった。というわけでそこらを理解したカイトはティナへと問いかける。


「まぁ良い……とはいえ、用件は分かった。それで探し物は?」

「エンテシアの魔女にゴーレムとホムンクルスの両方に長けた魔女がおるそうでな。ティエルン殿がご存知じゃった。何やら肉体の分野で協力した事があったそうじゃ。後はリル殿も面白そうという事で手を貸してくださる事に」

「あの人も色々と面白そうでやるなぁ」


 だからこそエンテシアの魔女の師とでも言えるリルという所かもしれないが。リルの様子が想像出来たからだろう。カイトは半ば呆れ、半ば楽しげに笑っていた。これにティナもまた同じ顔だった。


「そうじゃのう……とはいえ、そういう事でバイオロイドの技術を研究したいのでのう。基礎技術を有する魔女を探したい」

「なるほどね。分かった。目安はあるのか?」

「なければ言うておるまい。数日じゃが離れようと思うておったんじゃが……」

「じゃが?」

「これがどういうわけかノクタリアに近い所に潜んでおるようでな。最後の情報では、という所じゃが……工房の一つがあそこらにある事は間違いないらしい」

「なるほど……あり得るな」


 確かにノクタリアの近辺であれば生命に関する何かはありそうだ。カイトは今自分が保有する情報を踏まえて、道理に適っていると判断する。


「うむ。調査の最中、一日で良いので時間が欲しい。余が赴けば招聘は無理でも協力は得られるかもしれん」

「わかった。それについてはお前に任せる。ああ、そうだ。六番機の復元はゴーレムベースで進めるのか?」

「それはその予定で進める。兎にも角にも優先度としては魂の定着。その後、の話じゃからな」

「分かった。それで頼む」

「うむ……と言ってももう始めてはおるんじゃがな」

「そ、そうか……まぁ、それなら起動時にでも言ってくれ。オレも立ち会った方が良いだろう」

「その時はまた告げよう。そこまで時間は掛からん」

「あいよ」


 魔道具の作成で一番時間が掛かるのはこの設計図を引くという所だ。後は技術さえある程度保有していればそこまで時間は掛からない。そしてティナの場合はホタルの修理と改修で同程度の技術は持っている。設計図さえ出来てしまえば後は早かったようだ。というわけでカイトはホタルの姉妹機である六番機復元計画を承認し、生誕祭で賑わう街へと降りていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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