第3600話 生誕祭編 ――宴会――
カイトの生誕祭に合わせて各地から集った要人達。その出迎えに東奔西走となっていたカイトであるが、そんな最中。やって来た皇帝レオンハルトから寄せられたのは、皇都での御前試合の開催と皇国内に幾つかある禁足地の異変発生だった。
というわけで急遽その対応に追われる事になったカイトであったが、それも一段落。堅苦しい夜会を好まない冒険者達のために開いた宴会に参加する事にしていたわけであるが、それに遅刻していたバーンタインからもたらされた奇妙な砂の調査を進める事になり生誕祭の前の一日は結局あたふたとした状態で終わりを迎える事になっていた。が、結局の所彼である。バーンタインのサポートが終わったら終わったでまた別のサポートをしていた。
「ぐぁ……っぅ」
「<<暁>>はなぁ。豪快に呑むだろうからなぁ」
「わかっている……いや、分かっていた。それに付き合った俺が馬鹿だったというのも分かっている。だから今は少しだけ静かにしてくれ……」
「あははは」
頭を抱えた様子の瞬の言葉にカイトは笑う。というわけで彼は懐に忍ばせておいた薬を二錠取り出した。
「ほら、飲め。水も」
「すまん……」
酔い覚ましの薬か。瞬はこの状況で差し出された薬が何かをすぐに理解。半ば奪い去る様にして薬と水を受け取った。そうして勢いよく両方を飲み干して、一息吐く。
「はぁ……」
「片方は即効性。もう片方は遅効性の酔い覚ましだ。少しすると楽になる」
「すまん」
カイトの言葉が聞こえているのかいないのか。瞬は目を閉じて長椅子に横になる。そうしてしばらく沈黙していた彼であったが、そこで一つ問いかける。
「……いつもこんななのか?」
「いつも、と言うとオレもわからんが……少なくともオレが居た頃よりは盛大になったな」
「そうなのか」
「ああ……飛空艇の発達でエネフィア全土を横断するにしても一年も必要ない。昔は、というと懐古に聞こえるが一度ラエリアに行けば一年二年はざらだったそうだ。クオン達ぐらいだろう。神出鬼没なのは。いや、あいつらは今もか」
カイトは離れた所で楽しげにお酒を飲んでいるクオンの姿を見て笑う。
「ま、オレとしてもこっちの宴会の方が有り難い。気が楽で済む」
「それは俺もそうだな」
なにせ貴族達が集まった夜会だ。宴会とは程遠く、権謀術数渦巻く場だ。腹の探り合いなぞ普通で、夜会の場で誰かを貶めようとする者も少なくない。前者はまだしも後者は下手をすれば主催者にとって赤っ恥。全体に目を向けて暗躍が横行しない様にする必要もあった。
無論それはカイトだけだが、瞬とてそんな腹の探り合いの場に好き好んで参加したくはない。が、立場で参加せねばならないのだから気楽な冒険者の宴会が良いのは当たり前だった。
「ふぅ……少し楽になってきた」
「そうか……ふぅ」
「今何時だ?」
「さぁな。真夜中である事は間違いないが」
一応宴会の開始は20時に設定していた。が、早く来た者は19時ごろには来て飲んでいた。なのですでに酔い潰れて転がっている者もおり、かなり時間が経過している事が察せられた。無論酔った勢いで食べ物飲み物は散らかっているし、状況だけを見れば冒険者達が多用する酒場同然だった。というわけでそれを見て、瞬は思わず顔を顰めた。
「……この後始末、大丈夫なのか?」
「伊達にマクダウェル公爵家じゃない。色々と手段はある」
「そ、そうか」
元々冒険者から立身出世した身だし、昔からこういう家ではあったのだ。他の貴族達からすると酸鼻を極める光景だろうが、マクダウェル家にとってはいつもの事だったらしい。ここから明日の朝には元通りにする手段があるらしかった。
「ま、酔い潰れて地面で寝なくて良かったじゃないか。地面に寝っ転がるとあんな風になる」
「……あはは」
カイトが指さしたのは地面に寝っ転がっている大柄な冒険者だ。後に聞けば彼は早々に酔い潰れて寝ていたそうだし、それそのものは珍しくもない。だがそれをまるでこれ幸いとばかりに椅子にして豪快に上で酒を飲んでいる者が居たのであった。
なお、幸い女性だったからか軽いらしく寝ている当人は全く気付いている様子はなかった。というわけで周囲の状況を見て笑う二人であったが、そんな彼らに声が掛けられる。
「マクダウェル公」
「陛下」
「陛下? 陛下!?」
一瞬だけ瞬は理解が追い付かなかったらしい。声の主が皇帝レオンハルトとは思わず一瞬困惑し、慌てて椅子から飛び降りていた。
「はははは。良い。随分と飲まされたようだな」
「は……はい……御見苦しい姿を……あいたっ……」
「良い良い。こんな場だと知った上で入れろと言ったのは俺の方だ。珍しいものが見れたし、そういう者たちだとは知っている。軍の高官達は頭を抱えているがな。ま、公なので問題はないと今は胸を撫で下ろしている様子だが」
どうやら皇帝レオンハルトは楽しんでいるらしい。酔いが回って頭を抱える瞬の姿を見て楽しげだった。とはいえ、いつまでも楽しんでばかりもいられない。彼は少しだけ真剣な顔を浮かべる。
「あはは……お楽しみいただければ何よりです。それで如何されました?」
「いや、ヴァルタード、ラエリアの長と少し話をしておきたくてな。どうせ夜会では会うとはいえ、先に面識を得ておくのが良いだろう。となると公に仲介を頼むのが一番最良だろうからな。夜会では頼めまい? いや、公の場合は出来そうか」
「まぁ、出来ますが……かしこまりました。確かに先にお引き合わせさせていただく方が良いでしょう。すぐに場所を用意させます。ここだと流石にね」
「ここでも良いと思うが……」
「酔っ払いに絡まれますよ。主に私が」
「そうか」
それはあり得るな。カイトの言葉に皇帝レオンハルトは再度楽しげに笑う。そうしてカイトは今度は彼を両国の帝王達に引き合わせるべく動く事にして、皇帝レオンハルトへの応対は瞬に頼む――皇帝レオンハルトが楽しげにそれで良いと言った事も大きい――事にするのだった。
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