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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3599話 生誕祭編 ――砂――

 カイトの生誕祭に合わせて各地から集った各国の要人や名うての冒険者達。自分の誕生日だというのにその応対に追われていたカイトであったが、皇帝レオンハルト来訪の日の夜。冒険者達を集めた宴会を開いたわけであるが、そこで彼は少し遅れてやって来たバーンタインから道中でのトラブルを聞く事になっていた。


「ふむ……いや、そんな話は聞いた事がないな」

「へい……俺達もですから油断したんでさぁ。確かにウルカの砂漠越えは色々とあるんで、魔導炉に砂が入ったり熱でオーバーヒートを起こさない様にはしてます。ただどうにも、今回の砂はいつもと違ったみたいで……」

「ふむ……」


 カイトはバーンタインの説明を聞きながら、今回の飛空艇のトラブルを引き起こしたのだという砂の入ったアンプルを見る。見た目は黄金色の砂で、ウルカの砂漠を知っていれば見慣れたものだ。何度か足を踏み入れたカイトにとっても特別感はなかった。


「確かにこの砂は妙だな。魔力の含有量があまりに膨大だ。こいつが魔力を吸い取って、飛空艇の動作に異常を来してしまったってわけか。動作の異常が起きたのは魔導炉周辺か?」

「いえ……魔導炉の周辺だけでなく、飛空艇全体で起きてやした。それで原因がわからねぇってんで調べてると各所に砂が入り込んでた、って話で……砂じゃねぇんじゃねぇか、って結論になって、叔父貴達に調べて貰った方が確実だろう、って飛ばしたって話でさぁ」

「ふむ……」


 確かに明らかに普通の砂ではないな。カイトはウルカの砂と異なり白銀色に輝く細かな砂を見ながら、僅かに思考を巡らせる。そうして彼は周囲を見回して、自分達があまり注目されていない事を確認。耳に装着した通信機を起動させる。


「ティナ」

『なんじゃ?』

「妙な砂を入手した。魔力の遮断容器はあるか?」

『妙な砂?』


 妙な砂、だけで詳細がわかるのなら天才どころかもはや異常だ。というわけでティナが小首を傾げたのを受けて、カイトは状況を説明する。これに、ティナもまた不思議な顔だった。


『ふむ……そりゃ吸魔石を砕いた砂、とは違うのか?』

「違う……ような気はする。バーン」

「へい」

「確か異常が起き始めたのは砂塵が吹き荒れた後、って事だったな?」

「へい……確かに最近妙な嵐が吹き荒れている事は噂になってたんですが……」

「あくまでも噂レベルだった、ってわけか」

「お恥ずかしながら……」


 どうやらウルカではこの妙な砂が吹き荒れる奇妙な現象が噂になっていたらしい。その実態の調査には動いていなかったらしいバーンタインが申し訳無さそうに謝罪する。が、これにカイトは笑って首を振った。


「大丈夫だ。その程度で動ける立場でもないだろう」

「すいやせん……」

「こいつ、貰っても良いか? てか、あと何個かあるか?」

「へぇ……それと同じアンプルに後四つほど」

「そうか……後一つ貰えるか?」

「構いませんが、何をなさるおつもりで?」

「調査……といえば調査かな」


 バーンタインの問いかけに対して、カイトはもう一つ同じアンプルに入れられたサンプルを受け取りながらそう答える。そうして彼は今一度周囲を確認。ティナに告げる。


「こっちの状況は問題ない。そっちが問題なければ魔力を抜いてみる」

『もう少々待て……良し。こちらも準備が整った』

「よっしゃ」


 ティナの返答を受けて、カイトは首を鳴らす。そうしてそのまま彼はアンプルを振って中身の砂を均す。


「さってと……ちょいと裏技をやってみますかね」

「裏技……ってぇと……」

「オレしか出来ない裏技」


 怪訝な様子のバーンタインに、カイトは少しだけいたずらっぽい様子で笑う。そうして、彼はアンプルの周囲に常闇を生じさせる。


「……そいつぁ……一体なんですか? 見たとこ普通の闇にゃ見えませんが……」

「普通の闇じゃないな。こいつは無だ。どれだけ吸収率が高かろうが、ゼロにゃ勝てん。調整は手間だが、この砂の中に吸収されちまった魔力もゼロに引き寄せられるはずだ」

「はぁ……」

「あー……そうだな。手っ取り早い話が砂漠だ。砂漠に水を垂らしたらすぐに砂が吸収しちまうだろ? まぁ、こいつが魔力を吸い寄せてるとかそういう話は抜きにして、砂を水。この闇が砂ってわけだ」

「は、はぁ……」


 言わんとする事は理解出来るが、そんな事が出来てしまうのだろうか。一瞬そんな疑問を抱くバーンタインであったが、相手は世界の法則さえ操れるだろうカイトだ。そんな常理を離れた芸当でさえ出来て不思議はない、とすぐに自らの疑問を切り捨てた。


「いえ、叔父貴なら出来るんでしょう」

「ま、オレでなくてもティナあたりなら出来そうではあるが……」

『余も出来なくはないが、簡単ではないのう。やろうとすれば前に『暴食の罪(グラトニー)』相手にやった事をやって、という所か。まぁ、規模が規模ゆえに余一人でも事足りはしような』

「やってる事は同じだからな」


 ティナの言葉にカイトは笑いながら無の中の砂を何度か振る。そうして数分それを繰り返して、カイトは一つ頷いた。


「多分これでおおよそは放出した……はず」

『まぁ、大精霊様のお力を借りるお主が数分やって出来る領域は余らが技術的に再現して数時間やって出来る領域とほぼ同一じゃろう。そのぐらいで良い。何より完全にゼロになると、それこそなんにも残らん可能性も無きにしもあらずじゃからのう』

「それもそうか」


 この砂が本当に砂なのかさえ定かではないのだ。下手に完全に魔力を放出させた結果、全てがなくなってしまう可能性がないではなかった。

 まぁ、その場合は魔力のみで構築された物質だという証明になるのでそれはそれで意味がないかと言われればそうでもないが、その場合貴重なサンプルが一つ失われる事になる。なるべくは避けたい所であった。


「今から持って行く。どこかのタイミングで調査を頼めるか?」

『わかった。こちらで保存容器は整えておるし、計測機器については追って調整しよう』

「頼んだ……バーン。そっちにも後で先輩経由で神殿都市に情報を送らせる。そこから回す様に手配を頼めるか?」

「へい。お願いいたしやす」


 カイトの問いかけにバーンタインは即座に応ずる。そうしてカイトは一旦ティナの所へ向かい、バーンタインはバーンタインで神殿都市を統率するピュリの所へと向かう事にするのだった。




 さてバーンタインから受け取ったサンプルを手に公爵邸の地下の研究所へと足を運んだカイト。そんな彼はティナの前にサンプルを差し出していたのだが、そこは公爵邸の地下に新しく出来た一室だった。


「まーたこりゃエネフィアにあるまじき光景だな」

「それは否定はせんよ。じゃがこういう部屋はあって損はない。そして実際、損はなかったじゃろ?」

「否定は出来んな」


 カタカタカタ。そんな様子でパソコンを触るティナの問いかけに、カイトは微妙な様子で笑う。実際彼の言う通り、今回新しく作られた一室は今回の様に魔力を使えない、もしくは使い難い素材を相手にするのにうってつけだった。


「吸魔石で周囲を覆い、内部は完全科学技術で作られた部屋か。探知は出来んな」

「それを見越しての部屋じゃ。無論それでも大気中には魔素が満ちておるから、専用の容器も拵える必要はあるが……それでも無を創り出すには非常に適した安定した空間じゃ」

「その代わり既存の機器は使えない、と」

「まぁの。余がこんな部屋を作れる様になったのは魔力に依存しない技術を有する地球で物を学べばこそじゃ。地球に渡らねばこんな空間は思い付かなんだじゃろうな」

「そうか……とりあえずこいつの測定やらは任せて良いんだな?」

「うむ」


 そもそもこういう物質を調べるために作った部屋なのだ。せっかく作った以上は役立てねば損だった。というわけティナにサンプルを預けるわけだが、そこでカイトが口を開いた。


「ウルカがかなりきな臭くなってきているな」

「その様子じゃのう……その内一度行かねばならんかもしれんぞ」

「あんま砂漠にゃ行きたくないんだがねぇ……」


 ティナの指摘にカイトは少しだけ嫌そうな様子があった。やはり暑い場所に行きたくはないし、昔から普通の砂漠ではない危険地帯でもあるのだ。そこに更に異変が、となるとカイトも近寄りたくはなかった。


「まぁ、良いわ。なるようにしかならんしな」

「そうじゃな。どうにせよあそこらには古代文明の遺跡もある。何かそこらでの異変の可能性もあろうて」

「そうである事を願いたいね」


 少なくとも遺跡の影響であるのなら何かの悪意が裏に潜んでいるわけではないのだ。それだけで気が楽だった。というわけでそんな話をしていた二人だが、そこでふとカイトが思い出した。


「あ、そうだ。ティナ」

「なんじゃ」

「分かってると思うが、夜会きちんと出ろよ。今日は冒険者達の宴会だから特に何も言わんが、流石に本ちゃんは出んとマズいぞ」

「おぉ、もうそんな頃か」


 流石にティナも自分の立場は弁えている。公式にはカイトはまだ冒険部のギルドマスター。一介の冒険者でしかないが、皇帝レオンハルト以下皇国の上層部や大国の長達はカイトの帰還を理解している。

 曲がりなりにもティナは公爵の妻になる存在だ。それが生誕祭に欠席なぞよほどの事情がなければ認められるわけがなかった。


「此度は久方ぶりに派手になりそうじゃのう」

「派手にはなるだろうな……はぁ」


 そう思うとなんだか急に参加したくなくなってきた。カイトは自分の誕生日に集まっている面子を思い出し、若干辟易とした様子だった。


「まぁ、良い。とりあえず用意だけは忘れない様にな……ああ、そうだ。ホタルの調整は終わりそうなのか?」

「もうちょいじゃ。明日の朝にはチェックも終わるから、昼には修正も終わろう。それが終われば一区切り、という所じゃな」

「そうか。ならそれで良い……そうだ。六号機の報告は?」

「おぉ、それか。今回のメンテナンスはその復元も見込んでのメンテになっておったから、ちょうど報告するべきじゃな」


 カイトの言葉にティナも丁度よいと頷いた。そうしてカイトはその後しばらくの間ティナから報告を受けて、再び冒険者達の宴会へと戻っていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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