第3595話 生誕祭編 ――対策――
カイトの生誕祭に合わせて続々と集結しつつある各国の要人達。そんな彼らの出迎えに、過去から帰って来るタイミングで不調を来してしまったソラのフォローまで様々な活動をしていたカイトであったが、そんな彼は今度は皇帝レオンハルトの出迎えに向かう事になっていた。
そうして領主として皇帝レオンハルトの出迎えを行ったカイトであるが、ホテルまでの道中に寄せられたのは皇帝レオンハルトが大々的な御前試合を開くのでそれへの報奨の提供と、禁足地と呼ばれる場所にて起きている異変であった。
というわけで禁足地での異変は流石に見過ごせないと皇帝レオンハルトからの調査要請を受ける事にした彼は皇帝レオンハルトをホテルまで送り届けると、急ぎ公爵邸に戻っていた。
「ノクタリア、ですか」
「ご存知……ですよねー」
「これでも皇国建国の頃より国の運営に携わっておりましたので」
「それ爺さん達のフォローとして、の意味で良いですよね?」
「以外に何が?」
貴方なら普通に政治などにまで口出ししていそうだから聞いたんです。カイトはユーディトの返答に内心でそうツッコミを入れる。とまぁそんな冗談を挟みながらも、カイトは問いかける。
「そう言えば一度爺さん達と出向いたんですが、その時にここは本来皇国の地ではなかったと聞いたんですが……あの時は詳しく教えてくれなかったんですが、ユーディトさんは何かご存知ではありませんか?」
「存じ上げております。禁足地ノクタリア……旧帝国立第103研究所跡地」
「研究所? 確かに古い文明の建物があるとは知っていますが……研究所とは思えなかったのですが」
「カイト様。先に私がかつてのマルス帝国にて幾つかの命を受けていた事はお話いたしましたね?」
「ええ」
ユーディトの問いかけにカイトは一つ頷いた。この話が出たのは数時間前だ。それを忘れるほどカイトもボケてはいなかった。というわけで彼の頷きに、ユーディトはあくまでも噂だがと前置きして話し始める。
「これはあくまでも噂に過ぎませんが……そこでは不老不死に関する様々な研究がされていたそうです。無論非合法な、と」
「……わかりそうな状態ではありますね」
あそこはあまりに禍々しい場所だ。カイトは正しく怨念渦巻く地とでも言い表される禁足地の様子を思い出して顔を顰める。ただそれでも疑問がないわけではなかった。
「ですがあれはそういった怨念もあるでしょうが、少し毛色が違うような気が。もちろんよほど手荒な扱いをしていたのならああもなるかもしれませんが……」
「謂わば蠱毒の様に?」
「そうですね……まさか蠱毒をしようと?」
「いえ、蠱毒はエネフィアには似たものは存在しますが、それとは別かと。あれは呪う対象が必要ですし、頃合いを考えるとそこまで出来たとは思えません」
「……一応ツッコんでおいて良いっすか?」
「ご随意に」
「なんで蠱毒知ってるんっすか」
てっきり蠱毒なる術式は翻訳の魔術でそう訳されているだけだと思ったカイトだが、明らかにユーディトは蠱毒を知っていそうだった。なお、蠱毒とは端的に言えば様々な毒虫などを一つの容器に入れて最後の一匹になるまで争わせ、その最後の一匹を使って対象を呪うという呪術の事だ。その効力は非常に強く、日本でも有数の呪術であった。というわけでそんな問いかけをしたカイトに、ユーディトが頭を下げた。
「カイト様が日本人ですので。日本語の読み書き、後はそろばんまでは習得しております」
「……」
すらすらすらとユーディトはカタカナで自分の名前を書く。翻訳の魔術でそう見えているのではなく、本当にカタカナだった。これにもう何も驚くまいとばかりに、カイトは遠い目だ。本当に彼女なら日本に行って勉強してました、と言われても不思議に思えなかった。
「……まぁ良いです。とりあえず話はノクタリアです。そうなると奥底の怨念はまた別の可能性は?」
「それは大いに有り得るかと。あれを利用するべく秘密研究所を設立した可能性もあり得るかと思われます。100番以降は秘密研究所ですので」
「ふむ……」
そうなると少し厄介だがホタルは連れて行く方が良いかもしれない。カイトはユーディトの言葉に少しだけ考え込む。と、そんな彼にユーディトが告げた。
「おそらくホタルは連れて行くのが良いかと思われます。あの子であればおおよそどんな秘密研究所でも解錠が可能。コントロールの奪取も見えてくるでしょう」
「そうですが……怨念によるコントロール奪取が怖い」
「それはあり得るかと。ユスティーナ様にご相談されるのが良いかと思われます」
「確かにそうですね……うん。わかりました。一度あいつに相談してみます」
ユーディトの助言が正しいか。カイトは少し考えた後、彼女の助言を受け入れる事にする。そうして彼は次の仕事に取り掛かる前に、先にこちらの用意を終わらせるべくティナの所へと向かう事にするのだった。
さて皇帝レオンハルトの密命を受けて動き出したカイト。そんな彼は公爵邸に戻るなり禁足地の事を思い出していたわけだが、ユーディトの助言を受けて公爵邸地下に居るティナの所へと顔を出していた。そんな彼女はちょうどホタルの調整中らしかった。
「ああ、ここか。ちょうどよかった」
「む? カイトか。何かあったか?」
「いや、皇帝陛下が来られてな。その出迎えに行ったんだが……」
元々カイトが皇帝レオンハルトの出迎えに向かった事はティナも知っている。だがその後はまた公爵邸の執務室で仕事か冒険部の執務室で仕事。夕方ごろには夜会の支度の確認と各地からの状況報告となるはずだった。その彼がなぜこちらに、と思うのも無理はなかった。というわけで彼女の疑問にカイトは道中であった話を共有する。
「なるほどのう……ホタル」
『了解』
「うむ。そちらの情報を資料化出来るか? ちょうど今ならプリンターに接続出来ておるはずじゃからのう」
『検索を開始します。しばらくお待ちください』
ティナの要請を受けて、ホタルは自身に記録されたマルス帝国時代の情報を確認する。そうしてしばらくして、研究室に据え付けられた複合機が起動。数枚の紙を出力する。
「よし……えらく少ないのう」
『申しわけありません。情報はかなり秘匿されている様子。おそらく帝城のデータバンクに保存されているのだと』
「それへのアクセス権限はあるが、というわけか」
ホタルの返答にティナはあり得ると思ったようだ。少しだけ苦い顔であった。というわけでそれを受け取りながら、カイトはティナへと告げる。
「で、さっき言った通り何かしらの影響を受けない様にしておいてもらう事は出来るか?」
「うーむ……内部に搭載は難しいかもしれん。時間が必要じゃ……外付け……なら出来るかもしれんが」
「何かあるのか?」
「その場合ホタルの戦闘力は非常に落ちる。戦闘は無理になるかもしれん。無論ランクA級の魔物相手になら不足は起きまいが」
「構わんよ。それより研究所とやらに自由に入れる様になってくれた方が良いからな」
「それもそうか」
元々カイトは大軍を相手にする事に長けているのだ。しかも冒険者という来歴もあり護衛任務も可能だ。というわけでティナはカイトの返答を受けて、予定を切り上げて急ぎホタルのための装備を新たに作るべく作業に取り掛かり、カイトはカイトでホタルから提供された資料を確認するために執務室に戻る事にするのだった。




