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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3590話 生誕祭編 ――連絡――

 生誕祭でエネフィア全土から諸侯や重要人物達が集まった事をきっかけとして行われていた様々な集会。その中でカイトはエネフィアに来て以降最も付き合いの深い先代のリデル公であるイリアと自身の後見人でもあったハイゼンベルグ公ジェイクの求めを受けて日本との商取引に向けた話し合いに同席。地球側で取引が可能な企業の選定に協力していた。


「ってな具合かなぁ……とりあえず最初は日本、イギリスあたりから始めるのが一番良いと思う。利害関係も一致するし、オレの手を入れやすい所がある」

「わかった。とりあえずそれで進める方向にしましょう……後は『転移門(ゲート)』の開発計画の進行という所かしら」


 カイトの総括を受けて、イリアは一つ頷きながら今後を確認する。これにカイトは頷いて認めた。


「そうだな。とりあえずその方向性で進めて良いだろう。向こう側の設置についてはオレ達が戻ってから製造する形で行けるだろうし」

「で、その調整はあんた達があっちこっち移動すればなんとかなる、と」

「そういうこと」


 やはり自力で移動出来る手段を持っているというのは強い。実際カイトは現時点でも地球に単独で帰還可能だし、なんだったら時間のズレにさえ対応出来るからさしたる問題もない。何か問題が起きた時に現地に飛べる人員が居るのは非常に有り難かった。

 まぁ、難点としてカイトがマクダウェル公という最重要人物の一人という点だが、この案件の重要度は公爵が直々に対応するに十分な領域だ。イリア、ハイゼンベルグ公ジェイクがエネフィア側からサポートし、日本はカイトが選定した企業や組織がサポート。両世界の現場指揮をカイトが担うのは理に適ってはいるだろう。というわけで今後の方向性が定まった事でハイゼンベルグ公ジェイクが一つ頷いた。


「わかった。ではその方向性で先方にも話をしよう。話の流れは……どうしたものかのう」

「それなぁ……桜達が知ってるわけでもないから、向こう側から出させたいが……どーっしよっかなぁ……」


 こういう時に役に立つのは地球に残してきた自分の使い魔だが、とある事情でそれも使えない。それに何より彼自身は現在表舞台に立っておらず、実はハイゼンベルグ公ジェイクとの会合にも出席していない状況だった。というわけで地球側の方向性の出し方を悩むカイトだが、そこにイリアが提案する。


「いっそあんたが戻るなり、信頼の置ける人材を出すなり出来ないの?」

「うーん……信頼の置ける人材……ヴィ……やれるわけねぇなぁ……モル……モルガン・ル・フェだもんなぁ……」

「何か駄目なの、その人?」

「日本人じゃないんよ。イギリスの裏を統括する人物の姉なんだが……まぁ、元政治家だから、一番最適任者ではあるんだが」

「なんでそんな超重要人物自陣営に引っ張り込んでるのよ……」


 こいつら正気か。引っ張り込んだカイトもカイトだが平然と他国の重要人物の陣営に引き込まれている元政治家というのも凄まじい。イリアはカイトの日本での活動に顔を顰める。と、そんな彼にハイゼンベルグ公ジェイクが目を丸くする。


「む? モルガン・ル・フェ?」

「ああ……それがどうした?」

「確か……おぉ、やはり。今度の会合にて参加する予定になっておるな」

「マジで?」

「うむ。イギリスとやらの代理人として出席される事になっておる。と言ってもオブザーバー参加の様子じゃが」

「マジか」


 先にもカイトが言っているが、モルガンはそもそもアーサー王の姉。そして現在のイギリスの魔術世界と異族達を統率するのはアーサー王だ。彼の代理としてオブザーバー参加は不思議はなかった。


「それなら話通せるかな……無理か……? いや、神宮寺経由で行けるか……? ん?」

「通信? あら、結構時間経過してるわね」


 流石に一時間経過しているわけではなかったが、すでに30分以上が経過していた。元々カイトも朝の空いた時間に来ただけだから、何かがあった可能性はあった。というわけで彼は二人に断りを入れると、通信機を取り出す。


「ああ、オレだ」

『カイト様』

「んぁ?」

『なにか?』

「いえ、予想外の声でしたので……」


 まさかユーディトさんか。カイトはユーディトの声に思わず目を丸くするわけだが、それを声音で察せられたらしい。とはいえ彼女も用事があるからこちらに来たものの暇らしく、忙しいユハラらに代わってカイトとの連携をしてくれているらしかった。


「それで何が?」

『いえ、地球からの通信機に着信が。メッセージです』

「ん……相手は?」

『日本政府と』

「んぁ?」

「む?」


 なぜ日本政府から。カイトは状況が理解出来ず、ハイゼンベルグ公ジェイクを見る。だがどうやらそちらも分かっていないようで首を傾げていた。


「日本って事は爺の領域だよな……」

「行こう。何かあったかもしれん。イリアも来れるな?」

「かしこまりました」

「今ハイゼンベルグ公とイリアが一緒です。共に向かいます」

『それがよろしいかと』


 とんとん。ユーディトからの連絡が途絶えると共にハイゼンベルグ公ジェイクが机を叩いて通信機を起動。日本から連絡が入った旨を配下の者に伝え、三人は急ぎマクダウェル公爵邸へと向かう事にするのだった。




 さてとんぼ返りにマクダウェル公爵邸に戻ったカイト。そんな彼がハイゼンベルグ公ジェイクとイリアを連れて戻るなり、ユーディトがすぐに出迎えてくれた。


「ハイゼンベルグ公、イリア様。ご無沙汰しております」

「ほ、本当に来てるんですね……」

「メイドたるもの主人が居る場にはいつ何時でも駆け付けられねばなりませんので」

「そ、そうですね」


 それを単身でやってしまえるこの人は本当に何者なんだろうか。イリアはフロイライン家最古参にして皇国最古参のメイドの発言に頬を引き攣らせる。


「ご理解痛み入ります。それでカイト様。お戻りになられる間に通信機が再度連絡を受信。今度は0番です」

「0番……ということはウチのか」


 基本まだ世界間でやり取りするための通信機は数がなく、情報漏えいの観点から番号を割り振っていた。そして0番は日本にあるカイトの私邸――天音邸ではない――に設置された通信機だった。


「わかりました。ありがとうございます」

「いえ」

「……ハイゼンベルグ公」

「なんじゃ?」

「ユーディトって何者なんですか? 公であればご存知かと思うのですが、一回も聞いた事がなかったので……」

「……」


 小声でのイリアの問いかけにハイゼンベルグ公ジェイクが一瞬沈黙する。言われてみればカイト不在時にはハイゼンベルグ公ジェイク、イリアの二人で揃う事はあってもフロイライン家で集まる事はなかったから聞く機会がなかったのだ。そうしてイリアの問いかけに、彼は遠い目で答えた。


「……儂も知らん。叛乱軍の頃にはすでにメイドとしておった。誰に仕えておるのかと陛下が問うても探しておりますとの事でのう」

「ではなぜフロイライン家に?」

「そこが一番自由に出来るからですが?」

「……と、言うわけじゃ」


 どうやら小声だろうと聞こえていたらしい。口を挟んだユーディトにハイゼンベルグ公ジェイクも呆れ気味だ。


「それだったら陛下でも良いのでは……」

「王城は時間が経過すれば経過するほどうるさい方が多くなりますので」

「いえ、そうだけど……それでも好きにする気が……」

「流石に空気は読みます」

「「「え?」」」


 公爵三人――一人は元だが――が揃って目を見開く。どうやら昔からユーディトが空気を読む事はなかったらしい。ハイゼンベルグ公ジェイクまで正気か、という顔をしていた。そんな三人に、ユーディトがむっとした様子で目をすぼめる。


「読みますよ」

「は、はぁ……っと、すんません」

「内線ですね」

「の、様子で」


 一つ断りを入れたカイトに、ユーディトが一つ頷いた。マクダウェル公爵邸内部で使える専用の通信機があり、そちらが着信したのだ。


「ああ、オレだ」

『マスター』

「ホタルか。どうした?」

『届いたメールのチェックが完了しました。ウィルスなどの様子はなし。問題ないかと』

「そうか」


 どうしても魔術を応用している関係で感染型や伝染型と言われる魔術が世界を越えて届いてしまう可能性があった。なので実は通信機にはそういった魔術が仕込まれていないか確認する機能があり、ホタルがそれの精査をしてくれていたのである。


「そうだ。タイトルだけで良いから教えてくれ」

『了解……どちらから読み上げますか?』

「ウチからのメールで頼む。差出人は?」

『そちらはモルガン様となっております。非常に手短に時間があるタイミングで連絡をとのこと』

「モルが?」


 何があったかは定かではないが、連絡を求めてくるという事はカイトの裁可が必要になる事が起きたという事なのだろう。とはいえ彼女らも世界を越える転移術は使える。なので自分で来ないという事は動けない理由があるか、その必要は特にないかのどちらかであった。


「わかった。通信室につき次第、対応しよう。もう一つは?」

『日本政府からは……端的に言えば祝電と』

「祝電?」


 意味が理解出来ず、カイトはハイゼンベルグ公ジェイクと顔を見合わせる。というわけで兎にも角にも本文を確認せねば、と足を早める事にする。そうして到着した通信室では、案の定ホタルが待っていてくれていた。


「マスター」

「ああ……ああ、そうだ。そう言えばユーディトさんはホタルを見た事があったか? あれ? ユーディトさん?」

「こちらに」

「うん? どうして部屋の外に?」

「通信にメイドが入り込んでは邪魔でしょう」


 カイトの問いかけに通路側に見切れているユーディトが答える。確かに日本政府との会談なら必要になるかもしれないが、日本政府が送ってきたのは単なる電報。緊急で会合を開きたい、という事ではないらしかった。なので問題はなく、カイトは笑う。


「いえ、大丈夫ですよ。色々と考えればモルの話を片付けたいし、あいつならウチの身内ですし」

「……」

「……ユーディトさん?」


 なぜそこで黙る。カイトはユーディトの変な反応に困惑気味に問いかける。一応気配などからユーディトがまだそこに居る事は分かっていたのだが、何故かこちらに入ろうとしないのだ。この不思議な反応は今まで一度たりとも見たことがなく、全員が首を傾げていた。とはいえ、おおよそを察した人物が一人だけいた。


「マスター。ユーディトとはマルス帝国第0特務部隊ユーデリット・ゼノ大佐ですか?」

「「「……え?」」」

「むぅ……だからホタルとは会いたくありませんでしたのに」

「マジなんっすか!?」


 どうやらホタルの言葉に姿を現したユーディトの反応を鑑みるに、件のユーデリットという名前は本当だったらしい。とはいえ、彼女もマルス帝国時代に生きていたのだ。そして彼女ほどの才能であれば帝城に仕えていても不思議はなかった。そうして数瞬の後、ハイゼンベルグ公ジェイクが思い切り声を上げた。


「だ、第0……第0ぉ!?」

「ど、どうした?」

「第0特務部隊は当時の帝王直属部隊です。私も配備先というか軍での所属はそちらになるはずでした。ゼノ大佐だと帝王より直接指示を預かる事もある立場かと」

「昔の話です。何より仕えたは良いですがあまり良い国ではありませんでしたし。メイド希望だというのに暗殺者の対応をしたばかりに軍に転向させられて……もう散々でした」


 ホタルの言葉にユーディトはやれやれ、と呆れた様に首を振る。どうやら当人も思い出したくはないらしい。まぁ、メイドである事を希望する彼女だ。それが希望に沿わず軍に送られれば嫌にもなるだろう。というわけでそんな彼女にカイトが問いかけた。


「……あの、ユーディトという名前は」

「そちらは紛うことなき本名です。フロイライン家の皆様は良い方ばかりでしたから、本名で呼んで頂きたく考えております」

「そうですか。なら良いです」


 それだけ信頼してくれているのなら何よりだ。カイトは冒険者の習わしに従って、過去の余計な詮索はしない事にしたようだ。


「ありがとうございます。もしカイト様がマクダウェル公にお戻りになられた暁には、真名を教えてさしあげます」

「期待してます……ん? いえ、オレもうマクダウェル公ですよ!?」

「ふふ」


 一瞬流しそうになったものの、はっとなったカイトがユーディトに慌てて訂正する。それにユーディトはいつもの様に笑うだけだ。というわけでそんなユーディトの過去の僅かな断片が判明したわけだが、それに彼は肩を竦めながらもモルガンのメールを確認する。


「さて……おい、爺。いい加減戻ってこい。一応は外交交渉だぞ」

「う、うむ……あ、あのユーディト殿。一歩離れて頂きたく……」

「むぅ……」


 だから嫌だったんだ。ユーディトは自分の期せずして所属を知られ思わず距離を取ろうとしてくるハイゼンベルグ公ジェイクに不貞腐れていた。まぁ、彼もユーディトが間違いなく自分達の仲間だというのは知っているが、流石に所属が所属過ぎて理解が追いついていないのであった。


「そんななのですか?」

「ゼノ大佐は儂も聞いた事がある……ある時とんと聞かん様になったから死んだかと思うておったが……ま、まさか真横におったとは……」

「なんで知らねぇんだよ……」

「し、仕方がなかろう。第0部隊なぞ帝王直属の秘密部隊じゃぞ。顔も名前も不明。世に知られる名前もほぼほぼコードネームじゃ。王妃殿下でさえ見た事がない、というほどの部隊じゃぞ。それがまさかメイド服なぞという珍妙な格好で旅をしておるなぞ思うわけがあるまい。」

「メイドがメイド服を着るのは至って普通の事と存じますが」

「……」


 それはそうだけど。ハイゼンベルグ公ジェイクはまさかその第0部隊の隊長格が元々メイド希望でメイドをさせてくれないから出奔したとは露とも思わず、しかも当人のデータは最高機密として隠されていたのだ。わかるわけがなかった。というわけでそんなハイゼンベルグ公ジェイクに呆れながら、カイトはモルガンへと連絡するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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