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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3589話 生誕祭編 ――次へ向けて――

 今までずっと沈黙を保っていた過去世をついに知覚したソラ。そんな彼はしかし、その罪もまた知る事になってしまう。そうして彼は自分を絶対に見張っているはずだと考えた千代女と吉乃の協力を取り付けて街へと戻っていったわけだが、その一方で千代女と吉乃もまたエネフィアのどこかにある拠点へと戻っていた。そんな彼女らを出迎えたのは、久秀だった。


「よぉ、こんな夜更けに女二人連れ添ってどっかお出かけか? ちょいと遅い時間のような気もすっけどよ」

「久秀殿。貴殿こそどこかへお出かけで?」

「俺は相変わらずよ……って、おいおい、どうした?」

「はい? っ、千代女。貴方、手から血が……」

「……あ、失礼致しました。お見苦しいものを」


 吉乃の言葉を聞いて、千代女がはっとなった様に大慌てで右手を後ろへと隠す。彼女も気付いていなかったのだが、そもそもかつてソラの過去世の目覚めの萌芽があった時点で彼女は握力だけで魔銃の柄を握りつぶしたのだ。それをついに当人が自覚した事でより強い殺意を抱き手を握りしめた結果、手を傷付けてしまったのであった。そしてそれで、久秀は誰に会いに行ったのかを理解した。


「あの少年に会いに行ったのか?」

「ええ」

「結局のところありゃ、誰なんだ? 多分俺達と同じ時代の奴なんだろう?」

「……ええ」


 一度目は特に隠す事もないとばかりに。二度目はどこか苦笑気味に。吉乃は久秀の問いかけに頷いた。そうして彼女は少しだけ悩ましげにため息を吐いた。


「はぁ……本当に帰蝶にどう伝えましょう。私もですが、帰蝶もあの後は大変でした」

「奥方が? そんな相手なのか?」

「ええ……御身もよくご存知の方です。それこそ付き合いであれば大殿よりも長いかもしれません」

「……っぅ!」


 どうやら久秀は自分もよく知っているという言葉と付き合いであれば信長より長い、という言葉でソラの過去世の正体を理解したらしい。思わず言葉を失って、目を見開いた。


「まさか、奴か!? いや、だが……そうだとすりゃ、千代ちゃんが怒るのも無理はねぇが……あいつ……だよな?」

「どなたの事でしょう」

「そりゃ、お前さん……マジか」


 あっちゃぁ。久秀は吉乃の問いかけにソラの過去世の名前を出そうとして、しかしそれも出来ないほどに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。そうして深くため息を吐いて、彼が問いかける。


「はぁー……最悪だな、そりゃ。そりゃ頭の一つも抱える。御大将は?」

「まだ気付かれてないご様子。自分と相争った同時代の誰かだとは思われているご様子ですが……」

「悪い点だな、御大将の。だが……正解だ。正解だ、小僧。もしお前さんが御大将の前で暴発しててみろ。殿は間違いなく落ち込む。それこそ一瞬、されど致命的な一瞬を生じさせかねん程に、だ」


 何があって自身の過去世を知覚したかは定かではないが、それでもカイトの前でなかった事だけは不幸中の幸いだ。久秀はカイトが同じ魂を持つからかかつても今も変わらぬ性根を有していると理解していればこそ、ソラの過去世が致命的過ぎたと理解していた。


「千代ちゃんが張ってたのはそれ故か。暴発したら殺す気だっただろ」

「……」

「お前なぁ……」

「……」


 むすっ。千代女はどこか不貞腐れた様子で久秀の苦言に頬を膨らませる。彼女はソラがカイトにとって致命的な弱点になり得る可能性を見抜いて、万が一最悪のタイミングで過去世が暴発した場合は全員の非難を覚悟でソラを殺すつもりだった。まぁ、当人が何かしらの理由を付けて殺したかったのではないか、と問われればそうかもしれなかったが。


「はぁ……吉乃ちゃんさぁ。そこらは早めに共有してよ。一応裏切り者同士なんだしさぁ」

「あはは……申しわけありません。ですが我々としても目覚めぬのなら目覚めぬ方が良いと思っておりましたので……」

「そりゃ否定はしねぇわ……特大の時限爆弾じゃねぇか。爆発の仕方次第じゃ御大将が魔王に落ちかねねぇぞ」


 あまりにあまりすぎる。最悪、カイトがソラを斬り殺す事態さえ起きかねない。吉乃が意図的に隠していたのは無理もなかった、と久秀は理解する。そうして再度盛大にため息を吐いた久秀へと、吉乃が問いかける。


「それで伺いたいのです。彼らは?」

「何か動きはあったみたいだな。それがあの小僧に関係しているかはわからんが」

「「「……」」」


 三者一斉に沈黙する。ソラに何が起きたのか、この場の誰も分かっていない。だからこそこれが<<死魔将(しましょう)>>達の意図かがわからない。そしてそれ次第で対応が変わってきた。というわけで一瞬の沈黙の後、久秀は久方ぶりに真面目な顔で二人へと告げた。


「俺の方で探りは入れておく。あの小僧がそうだと知って御大将の周りに置いたのか、それとも単に偶然か……偶然だとすりゃ、そりゃあまりにあんまりだ。だが奴らが知らないならそれはそれで良い。知ってるなら戦略を探る必要がある」

「お願い出来ますか? 我々はあの方のフォローを行います。幸い大殿の下を離れ、遠征に出るそうです。その間にフェールセーフを覚え込ませます」

「やれんのか? 流石にそろそろ隠れて会うにも限界があるだろ?」

「そこですが……千代女」

「はっ」


 ソラへの協力であれば千代女は不承不承であったが、カイトへの助力であるのなら全く話は別。千代女はソラに向けていた怒りはどこへやら、吉乃の問いかけに跪いて頭を垂れる。そしてそんな彼女を見て、久秀が笑った。


「なるほど。確かに千代ちゃんだもんな」


 これなら大丈夫だろう。久秀は無言で跪く千代女に対してそう判断する。そうして彼らは再び闇に消えて、それぞれがそれぞれの為すべき事を為すために動き出すのだった。




 さて久秀達が闇夜に紛れてソラのフォローに動き始めて数時間後。遠く離れたマクスウェルでも夜が明けて、朝になっていた。というわけで朝の訪れと共に動き出した街では公爵達もまた皇帝レオンハルト来訪に備えて忙しなく動き回っていた。


「んー……むぅ」

「ふむ……やはりマクダウェル家の橋渡しは必要になろう」

「ですね」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉にイリアもまた一つ同意する。そんな二人が見ていたのは、とあるリストだった。というわけでマクダウェル家が必要という話が出たと時同じくして、部屋の扉がノックされる。


『ハイゼンベルグ公。天音様がお越しになられました』

「天音くんが?」

「……いえ、呼んではいませんが」


 どうしたのだろうか。そんな様子の視線を受けたイリアも少し訝しげに首を傾げる。とはいえ、このホテルはハイゼンベルグ家が外交でも利用出来る様に手配するホテルでもある。なので従業員の裏は常に取り続けているし、嘘を言われているとは思えなかった。というわけで偽物である可能性を鑑みて僅かに二人は警戒感を滲ませつつ、一つ頷いた。


「……入ってもらってくれ」

「失礼します……天音様」

「ありがとうございます」


 入ってきたのはやはりカイトだ。そんな彼は自分を案内してきた支配人に一つ礼を述べると、それを受けた支配人がすぐにその場を後にする。というわけで彼が去った後にカイトは中を見て、思わず目を瞬かせた。


「なんだよ、爺もイリアも。そんな剣呑な」

「なんじゃ、やはりお主か。唐突に来るから驚いただけじゃ」

「というかアポぐらい取んなさいよ」

「取れるなら取るわ。時間がなくてなぁ」


 そりゃそうだ。ハイゼンベルグ公ジェイクもイリアも揃ってカイトの言葉に笑う。片方は先代とはいえ、ハイゼンベルグ公ジェイクと先代の公爵の会談だ。しかも今はどこもかしこも忙しい。取り次いでもらおうとして取り次いで貰えるわけがなかった。


「ユーディトさんから今日の朝二人が一緒に会談をされるご様子でした、と聞いたから来たんだよ」

「なんで……あぁ、そういうこと」

「「?」」


 それとカイトがここに来る事にどういう繋がりが。一瞬訝しむイリアであったが、ここに来る前に皇都に寄っていた事もあっておおよそを理解したらしい。


「ごめんごめん。ユーディトには確かに聞いたわ。あっちであんたと会う暇とかってあるかな、って」

「それでか。いや、それで昨日ユーディトさんから聞いて今日一緒に居るらしい、っていうから急遽時間が空いたから来たんだよ」

「そ……でもちょうど良かったわ」

「うむ」


 イリアの言葉にハイゼンベルグ公ジェイクもまた同意する。これにカイトは椅子に腰掛けつつ問いかけた。


「そりゃ良かった。で、何があったんだ? オレが必要って聞いたんだが」

「とりあえずこれ」

「っと」


 書類か。カイトはイリアが見ていた書類を受け取って、斜め読みで一気に読み込む。精査している時間はなかったし、その必要のない資料でもあった。というわけでその意図が掴めず、カイトは小首を傾げた。


「これは……商人のリストか? なんでこんなものを」

「あんたが考えてる事と似たようなものよ」

「んぁ? オレが考えてること?」


 イリアの指摘にカイトは再度首を傾げる。


「そ……今後地球との間で国交が結ばれるにあたって、商人達の往来も出てくるでしょう?」

「なるほど……それでこの組み合わせでオレ、ってことか」


 今更言うまでもないが、日本との外交交渉はハイゼンベルグ公ジェイクが中心として動いている。そこらの重要度を鑑みるとこの案件を取り仕切れるのはリデル公か、カイトと親交の深いイリアだろう。

 だがリデル公イリスは現職として皇国全土の経済の取り仕切りが必要だ。なので先代であるイリアが経済関連を取り仕切るのは話の筋が通っていた。そしてそうであれば、カイトが呼ばれる理由も理解出来た。


「わかった。それでオレはどうすりゃ良いんだ?」

「地球側で商取引が出来そうな組織が知りたいのよ。組織というか会社ね」

「それだと天道とか神宮寺が安牌は安牌だが。まぁ、日本系列の企業か。後はイギリス系も強いな。あそこも異族が結構根っこに食い込んでるから、商取引はやりやすいはずだ」

「なるほどね……確か向こうだと迫害対象だったんだっけ」

「そ……だから必要なものが手に入りにくい場合があって、そういう所をフォローするために企業を持っていたりすることもあるそうでな」

「何をするにしてもお金が必要なのはどこの世界も一緒、と」


 カイトの言葉にイリアは楽しげに笑う。そしてこれにカイトもまた笑った。


「そういうことだな……まぁ、かくいうオレも会社は持ってるわけなんですが」

「持ってるの?」

「うん……まぁ、どちらかというと社主かつ周囲に睨みを利かせるための顔みたいな所だけどな」

「ヤクザのケツモチじゃないんだから」

「似たようなもんなんだよ」


 イリアの言葉に今度はカイトが苦笑気味に笑う。確かに実際に働いているわけではないので、そう言われればそうとも言い得た。とはいえ、それが重要なのは地球独特の都合でもあったのだから彼がトップに立っている事が重要とも言える。というわけで笑った彼だったが、すぐに気を取り直して他の候補を見繕う。


「あとは……そうだな。先生に聞いてみるのは一つ手か」

「先生?」

「ああ。ギルガメッシュ王。世界の富の何割かを保有されている裏の支配者……まぁ、支配とかいうんじゃなくてうまく富を分配して文明の底上げをされている文明の育て屋さんかな。あの人、そういうの好きだから」

「す、凄まじい人が居るものね……」


 それはカイトが先生と呼ぶのも頷ける。イリアはカイトの言葉でそのギルガメッシュなる者の凄まじさを理解して頬を引き攣らせる。


「でもそうね。そんな顔役が居るのならぜひ紹介してもらいたいわ。一番最初が肝心だから。そこで商取引をやらせて、ゆくゆくは自由な取引を行いたいし」

「自由で開かれた取引は何年先の話になるかねぇ」

「十年だか二十年だかね」

「呑気なことで……と言いたいが流石にそうなるか」


 あまりにいろいろな物が違いすぎるし、物資の輸送手段なども考えねばなんともならない。リルさえ異世界同士での自由な商取引まで発展した文明をまだ見た事がない、と言う領域なのだ。

 おそらくまだ見ぬ難題は山のように出てくる事は間違いなく、道のりは長そうだった。というわけでカイトはイリア達の問いかけに答える形で、地球との商取引の開始についての意見を交わす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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