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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3587話 生誕祭編 ――終の王女――

 秋の終わりに行われるカイトの生誕祭。それを利用して各国の要人が集まる簡単な大陸間会議を開こうとなっていたわけであるが、その都合もあってカイトは諸侯の応対に追われていた。というわけでその一環として彼はシャリクとの会食に臨む事になっていたのであるが、その直前。とある確認をリルに願い出ていたのだが、その結果として彼女と話し合いの場を持つこととなっていた。


「それで、どうして貴方があの人の写真なんて持っていたのかしら」

「話せばとても長くなる……ので掻い摘んだ方が良いですかね」


 一言で言えば困惑。そんな様子を見せるリルに、カイトはさもありなんという様子で苦笑する。こればかりはわかるはずもなかった。


「以前お伝えしましたが、私はかつて永劫にも等しい時を過ごした。そこで『七つの大罪(セブン・シンズ)』という七種の魔物と遭遇した事は、お話致しましたね?」

「聞いたわ。世界が最も危険視する魔物。システムに沿った魔物にありながら異常な成長を遂げた結果、システムでは対処不可能になってしまった7つの厄災の種。正真正銘の厄災種」

「ええ……これはその一体。<<強欲の罪(グリード)>>」

「<<強欲の罪(グリード)>>?」


 どういうことかしら。リルはカイトの言葉の意味を即座には理解出来ず、困惑を露わにする。まぁ、彼女でなくても女性の写真を見せられてこれは魔物だ、と言われれば困惑するだろう。とはいえ、聡い彼女だ。すぐに状況を理解する。


「なるほど……失敗したのね」

「それがどういう意味なのかを伺いたく、先の写真をお渡しさせて頂いたのです」

「なるほど……」


 カイトの返答に、リルは再度思考の海に沈む。そうして、彼女は点と点をつなぎ合わせてなぜカイトが知っていて、そして何をカイトが知らないのかを理解。彼が求める答えを口にした。


「彼女の名は申し訳ないのだけど私も知らないわ。ただ私……いえ、私を筆頭にした時の調査団は彼女の事をグラティア……(つい)の王女。<<美しき終の王女(ラスト・プリンセス)>>グラティアと名付けた」

「調査団?」

「ええ……私が彼女を知ったのは、とある世界で滅びた世界を拠点とした超古代文明の遺跡を探索する調査団に加わった時の事よ」

「そ、それはまた凄まじい……」


 流石は数多の世界を渡り歩き、下手をすればこの世界よりも遥かに高度な文明にも接触した可能性のあるリルだ。カイトは明かされた彼女の経歴の一つに思わず苦笑するしかなかった。


「ふふ。あの文明は私が接触した中でも有数の技術力を有していたわね。貴方以外で他の世界を認識し、意識して他の世界への渡航を考えた数少ない文明。といっても交流ではなく探索。冒険の色合いが濃かったわね。そうね。貴方ならわかると思うから、敢えてこの言い方をしておきましょう。王の候補を戴いた世界の一つ、と」

「王?」

「そう。貴方が携える二振りの<<王の剣>>。またの名を<<星の剣(無銘)>>。<<王権>>の担い手……まぁ、その文明でも表の王剣しか手にできなかったみたいだけれど」

「なるほど……」


 リルの返答にカイトはなるほどと納得を露わにする。これにリルもまた頷いた。


「私も真なる王とは如何なる存在かは知らないわ。その候補を抱いた文明は幾つか遭遇したけれど、どれもこれも普通の文明とは格が違ったわね。これはその一つ」


 このエネフィアであれば<<星神(ズヴィズダー)>>。そう呼ばれる者たちが探し求める<<真王>>となる可能性を有する英傑。地球の這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)曰くカイトもまたその一人だ。それが、その世界には存在しているのだという。

 そしてそうであれば、カイトとしてもその文明が普通では考えられないような事業をしていても不思議はないと納得出来た。というわけで彼はリルの言葉に納得すると、彼女に問いかける。


「であればその調査団が見付けた文明の……ん? 王女? 女王ではなく?」

「ではなかったそうね。王女で間違いないそうよ……ただ末路を考えればもう王女というより貴方が言う通り、女王で良いのでしょうね」

「何があったのですか?」


 やはり自分が知り得ない情報をリルは握っているらしい。そう理解したカイトはリルへと問いかける。これにリルは古い記憶を思い出す様に少しだけ目を閉じて、再び目を開くと同時に教えてくれた。


「世界の終わり……という所かしら。私達も推測ではあるのだけど」

「世界の終わり……それは文明の終わり、ではなく我々が住まうこの世界という意味ですか?」

「ええ。永遠にも思える世界の終わり。世界とて生き物である以上、いつかは訪れる死。それにたどり着いた事を彼女が属した国は理解したようね。いえ、どうなのでしょうね」

「と、申されますと?」

「その世界が滅びた事は間違いないのだけど、それが自然の摂理として迎えた死か。それともどこかの愚か者がしでかした結果の自滅なのかはわからない、という事よ」

「それは……そうであるのならはた迷惑ですね」

「そうね。この世界ではそうならない事を願いたいわ」


 カイトの言葉に笑いながら、リルもまたその言葉に同意する。そうして彼女が説いた。


「宇宙船地球号……だったわね。それと同じ。どれだけ枠を拡張しようと、結局の所我々はこの世界に同じく住まう者よ。誰かが船を破壊すれば等しく影響を受けてしまう。お互い、気を付けましょう?」

「はい」


 特に私は。カイトはリルの言葉に笑いながらそう告げる。なにせ彼の場合世界のシステムさえ書き換えられる<<星の剣(無銘)>>を持っているのだ。冗談ではなかった。というわけで一頻り笑った後、リルが脱線した話を元に戻す。


「さて……それでその滅びた世界の王女様……いえ、これはその国全体と言って良いでしょう。当然だけれども滅びるとなって素直に滅ぼされるわけがない。滅びに抗った」

「当然ですね。ですが無理だった、と」

「ええ。その文明の技術は非常に高度な魔術文明であった事が推測されたわ。グラティアはその国で最も優れた魔術師であったようね。だから彼女が、というわけなのでしょう」

「ほう……」


 国一番の魔術師と聞いて、今まで聞く事に徹していたティナが興味を覗かせる。これにリルが笑った。


「そうね。貴方と良い勝負が出来そうなレベル……だったかもしれないわね」

「惜しいですね」

「ええ……もし貴方と彼女が組めば、この世界の文明レベルはもう一つ二つ上がるでしょう。スカサハも合わせればおそらく三つの星の文明レベルの総合は私が参加した調査団の属した国にも匹敵し得る」


 やはり惜しい。ティナはリルの返答にそのグラティアと名付けられた魔術師が失われた事に嘆息する。とはいえ、もはや遠い過去だ。どうすることも出来なかった。そんな残念さを滲ませる彼女であったが、すぐに首を振って謝罪する。


「っと……失礼致しました」

「良いわ。私も色々と思い出す必要があったし……さてそれでグラティア……というよりその魔術文明ね。文明はどう足掻いても滅びは避けられないと悟った。そして彼女らはこう決断を下したようね」


 ティナの謝罪を受け入れたリルは当時を思い出しながら、一度だけ言葉を区切る。そうして魔術文明の末路を、彼女が口にした。


「世界が滅びても生き延びられる生命へと進化する……そう決断し、グラティアを中心として全ての知的生命を一つの生命へと融合させた」

「「っ」」


 そんな無茶苦茶な。カイトもティナもそれが意味する所を理解すればこそ顔を顰め、しかしそれほどまでに追い詰められていたのだと理解する。そうして顔を顰めたカイトが、口を開いた。


「それは……相当な決断ですね。それは合成獣(キメラ)化にも等しい。いえ、まさにそのものだ。それほどの魔術文明であれば、知的生命体相手にそれをすればどうなるかわからないはずがない」

「ええ。相当に重い決断だったはずだし、望まない者は別の手段を模索する事も許可されたそうよ。でも全てが滅びるよりはまだマシ。自分達の文明の痕跡を僅かにでも残すためには、何かはせねばならなかったのでしょうね」

「「……」」


 その時が来ればどういう決断が自分達に出来るのだろうか。カイトもティナも為政者として、かつて存在したという魔術文明の末路に対してそう思う。そしてそんな重い決断をリルは尊重しつつも苦笑していた。


「まぁ、貴方の言葉が確かならばその試みは成功したのでしょう。彼女らは確かに、世界が滅びてなお生き延びられる生命へと進化を果たした。生命、という意味でだけれどもね」

「ですね。その結果を知る者としてはその決断には敬意を表しますが、苦笑いしか出来ない」

「そうね。私もさっきの話を聞いては流石に敬意だけも無理になったわ」


 その可能性は分かっていただろうし、そんな後先を考えられる状況でなかった事は三人も十分承知している。だがその結果、世界さえ危険視する魔物と化してしまったのだ。誰にとってもなんとも言えなかった。というわけで苦笑いを浮かべる二人であったが、そこにティナが問いかけた。


「そういえば先に別の手段を模索、とも仰られておいででしたがそれについては?」

「ああ、そうね。それだけども、あの国が調査団を作ろうとなったのもそれが理由なのよ」

「と、いいますと?」

「謂わばノアの方舟、という所かしら。その文明が持っていただろう最高の金属に自分達の歴史を記した情報端末を入れて流したようなのよ。それが偶然流れ着いて、他世界の他文明の存在を把握。王個人としては弔いの一つでもしてやるか、という所だったみたいね。まぁ、表向きは別の理由だったけれど。それで調査団を立ち上げて、長い時間を掛けて探し当てたというわけよ」


 ティナの問いかけに対して、リルは別案として出されたのだろうその魔術文明の痕跡を語る。そうして、その後も暫くの間カイトとティナはかつて存在したという別世界の魔術文明についてを教えてもらう事になるのだった。

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