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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3584話 生誕祭編 ――活気――

 過去での戦いを経て元の時代へと戻り付いたソラ。そんな彼はその途中、ちょっとしたミスをきっかけとして自身の過去世の詳細を知る事になる。そうして自らの過去世を知る事になった彼は何かを知った事により自らの過去を自らのものとして受け入れる事が出来ず、動きに若干の精細さを欠く事になっていた。

 それを察したカイトは裏でフォロー出来る様にしつつも、数日後に迫った自分の生誕祭の来賓を出迎えるべく諸侯とのやり取りを行っていた。というわけで公爵らとのやり取りを経て今度は皇帝レオンハルトの使者の相手と相変わらずの多忙さであったが、それが一段落した所で彼はため息を吐いていた。


「てか今更だが」

「なんじゃ、藪から棒に」

「去年までオレの誕生日ってどうなってたんだ?」

「む」


 カイトの指摘に、ティナもはっとなって首を傾げる。彼女はそもそもカイトと一緒に地球に渡っていたので二つの立場で彼の誕生日は見てきているが、だからこそこちらでの彼の誕生日がどうなっていたかはわからなかった。というわけで彼からの疑問を受けたクズハが教えてくれた。


「一応はしてました。ただもちろん、諸侯からの進物などは受け取っていませんでした」

「そこはそれ、か。ということはパーティなんかも?」

「はい……流石に規模は今回ほどではありませんが……社交界デヴューなどをここで、としている子息なども少なくなかったですね」

「そうなのか」


 それは考えてもみなかったな。カイトはクズハからの返答に意外そうな顔をしていた。これに彼女もまた頷いた。


「ええ……生誕祭ではありますが近年はどちらかといえばお祭りという所が強かったですし、我々としてもそこまで堅苦しい場にしたくはありませんでしたので……」

「されても困る」

「あはは……かと思いましたので、多少の無礼は大目に見る無礼講と。<<暁>>から使者も来ていましたので」

「あそこは相変わらずか」


 <<暁>>はギルドの成り立ちからカイトを叔父と捉えている。そしてギルドの本拠地があるウルカではカイトはマクダウェル領と同等かそれ以上に信仰されている。カイト関連の記念行事に関しては必ず使者を出していたのであった。というわけで苦笑気味に笑った彼であったが、すぐに気を取り直した。


「そうだ。それだと今回のパーティで社交界デヴューを考えている奴は居るのか?」

「あ……そういえば何人かはいますね。そもそも我々も最近はそういった面を大きく取り扱っていたので、年頃の子息らに招待状を出したりもしましたので……」

「そうか……まぁ、これを機会として陛下に挨拶をと考える貴族はいるだろう。なるべくはフォロー出来る様にしてやってくれ。こっちもこっちのフォローで忙しくなりそうだしな」

「かしこまりました」


 客に恥をかかさないのもまた、主催者側の仕事だ。なのでカイトの指示は至って普通のものだった。というわけでその後も種々の指示と情報共有を行い、この日の夜もまた更けていくのだった。




 さて段々と近付いてきたカイトの生誕祭。そうなると当然であるが、街は段々と陽気なムードが漂いだしていた。そしてそれは当日が近づくほどに朝から活気づいてきており、この日はついにカイトの朝の鍛錬の時間から活気が伝わってくるほどになっていた。


「……」


 これは思った以上の活気だな。カイトは瞑目して世界の流れを観測しながらそう思う。


(やはり民衆としては抑圧ムードがあった、という所か。開いて正解ではあったし、派手にしてしまおうという判断は間違いじゃなかったか)


 やはりこういった荒れた時勢だと、自粛ムードがこのエネフィアにも存在していた。なので一部には生誕祭を行うのは、という意見もあったのは事実だ。

 だがそれでもカイト達諸侯はこれをある種の決起集会の様に活用する事を選択したのだが、抑圧されていた反動からか、例年以上の盛り上がりを見せていた。というわけで自分の選択は間違いではなかったと間接的に理解するカイトへ、声が掛けられた。


「……今にして思う。自覚的に理解するのと、他覚的に理解するのは異なるのだな」

「はぁ……と、申されますと」


 声を発したのは宗矩だ。まぁ、信綱をして百年単位で弟子を取っていなかったのだ。なのでカイトに兄弟弟子は本来居なかったわけで、それだけは信綱も嘆いていた。

 それが敵の思惑で復活させられたとはいえ、同じ時代に存在しているのだ。カイトは願ったり叶ったりだったし、宗矩も神陰流であれば自分以上の才覚を持つカイトから得られるものは少なくない。

 両者利害が一致した事で、時々だがこうして一緒に鍛錬していたのであった。というわけでカイトの問いかけに、宗矩は苦笑いを浮かべる。


「江戸を思い出したのだ。あの頃の江戸は非常に活気に満ちていた。だがあの頃は活気を理解すれど、熱気は理解していなかった」

「とどのつまり民が太平の世を楽しんでいる事は理解しても、それがどういう感情か理解出来ていなかった、と」

「そうだ。天照大神にはなれなかったのだ」

「なるほど。手力男命(たじからおのみこと)はいなかった、と」

「眼の前にはいるがな」


 カイトの言葉に宗矩は楽しげに笑う。一人の人として人に関わる様々な感情を知る切っ掛けとなったのは自身の嘆きだが、その必要性を理解させたのはカイトとの戦いであった。なので宗矩はカイトを天岩戸を開いた手力男命となぞらえたのだろう。


「それ以前としてかつての俺ならばそれを単なる道理を捉え、興味を持たなかっただろう。親父殿に言わせればつまらん男だ、とでも言われそうだが」

「石舟斎殿は楽しまれそうですが……」

「楽しむだろう。ああ見えて……いや、普通に親父殿は享楽的な所がある。だが楽しめど、結果として剣の道に繋げる事は出来ん」


 これは剣士が前提にあるか、人が前提にあるかの差なのかもしれない。宗矩は人としての自分を手に入れた事で、そう考えていた。というわけで一応生誕祭と理解している彼は、カイトへと問いかける。


「それで一つ聞きたいのだが……生誕祭を派手に祝おうというのは分かっているのだが、何をするのだ?」

「さぁ……それが私もよくわからないのです。昔は私も誕生日なのでのんべんだらりとその日一日は仕事を忘れて飲み歩いたのですが……どうにも私が去った後に派手になっていったらしく。一応噂は聞いているのですが、どうなるか私にも隠されているのですよ」


 これは当然だが、カイトが個人で情報の入手が可能なわけではない。いや、もちろん彼が本気でやろうとすれば一流のスパイ並の情報収集は可能だろうが、そんな事に時間を割くわけがない。

 というわけで彼も報告が誰からも入らなければわからない。なのでサリアや公爵家からの情報が途絶えると、途端普通の冒険者同然の情報しか手に入らないのであった。だがこれに宗矩は意外そうだった。


「ふむ? 横の繋がりを考えれば手に入りそうなものだが」

「それがどうにも旧知の者たちは説明するより見た方が早いと説明をはぐらかせ。新しく知り合った者たちは軒並みこれは名物だから何も知らず見てほしい、と」

「そうか」


 そういう考え方もあるのか。宗矩はカイトからの返答に妙に感心したような様子を見せていた。


「であれば、その心意気に沿う事にしよう」

「はぁ……」


 相変わらず真面目な方だ。カイトは自身との会話を切り上げ、再度世界の流れを読み解く事に集中しようとする宗矩に生返事だ。というわけで彼もまた再び意識を鍛錬へと集中させてる事にする。


(このデカい熱気は氷像の製作会場……か。てか氷像ってなんだよ。いや、言ったことはあるけどさ)


 もうやりたい放題やっているな。カイトは祭り好きで知られる自分の領民達の行動に呆れ返る。一応流石に何も情報が入ってこないわけではない。一般的な観光客が知るぐらいの情報は手に入っていた。 

 だがその大半が派手さに呆れ返るものばかりで、祝われる当人側からすれば人の誕生日に何をしているのだと呆れるばかりであった。というわけで街全域にまで自らの知覚範囲を伸ばしていく彼だが、そうなると色々と近付いてくる飛空艇にも気がつく事になる。


(あれは大型の旅客機か……今回は特別便を何便か出すとサリアさんから聞いていたが)


 先にカイトも考えていたが、やはり抑圧ムードは全世界的な流れとしてあった。だがそれも続けば経済的な萎縮を生じさせてしまう。そこで今回はヴィクトル商会を中心として世界中から特別便を手配して、それに乗ってきた国は少なくなかったらしかった。というわけで上にも下にも感覚を伸ばしていくわけだが、その彼と宗矩が同時に目を開く。


「どこぞの国の猛者か」

「帝国ですね。中心に普通とは違う力がある」

「……これか」


 何度となく言われているが、<<転>>であればカイトの感覚は宗矩を大きく上回る。故にカイトであればそれこそ人の数から力量まで全てを正確に把握出来ることでも、宗矩は少しの集中を要していた。まぁ、それでも相当の距離がある状態から無警戒状態の一団を察知出来る時点で二人共おかしい事ではあった。


「行くのか」

「仕事の時間ですから。それにヴァルタードが到着したとなれば、ラエリアも遠からず来る。流石に仕事着に着替えねば」

「それはそうか」


 カイトの返答に宗矩が笑う。というわけで立ち上がったカイトは宗矩に別れを告げて、今日も今日とて公爵としての仕事に勤しむ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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