第3578話 はるかな過去編 ――時の道――
長く続いた過去の世界での騒動。それは最後の最後まで騒がしい形で終わりを告げる事になっていた。というわけで時乃に導かれ未来の世界へと足を踏み出したソラ達であったが、そんな彼らは即座に元の時代に送られるわけではなかった。過去の時代から離れた一同がたどり着いたのは、宇宙にも近い変な場所であった。
「これは……」
「過去と未来。時間の流れの中に拵えた道じゃ。ただ当然じゃが流れに流されるだけじゃと変な時代にまたたどり着いてしまう。目的の時間軸にたどり着くにはこうやって道を作ってやる必要があるわけで、これを作るのに非常に苦労するんじゃ」
「へー……つまりこの中を乗って進めば未来に進めるっと」
「そういうことじゃな」
詳しい理解は出来ないものの、とどのつまりそういうことなのだろう。そういう様子でのソラの理解に時乃はそれで良いとしたようだ。と、そうして時間の流れの中に出来た道をしげしげと観察する彼であったが、そこでふと気になった様に告げる。
「なんか遠くにも色々と同じような光の道? みたいなの見えるけど……もしかして同じような道があるのか?」
「まぁ、そうじゃな。『時空流異門』で他の時代に送ったり、送られたり……無論送るのは我ら大精霊じゃ。なのであそこにも吾はおる」
「へー……あ、そうだ。そういえば結局誰なんだ? 名前もないと呼びにくいし」
「おぉ、そうじゃったな」
そういえばここに来れば教えるという話だったか。時乃はこの状況だし、カイトの知り合いだから良いかと思っていたようだ。というわけで、彼女は自らの正体を明かした。
「吾は時を司る大精霊。主様より与えられし名は時乃。世界を象る根源四精が一人の時乃じゃ」
「「「……え?」」」
なにそれ。ぼんやりと話を聞いていた一同が固まる。なにせ自分達の常識では大精霊は八人だし、カイトの周辺で騒いでいるのも八人だ。そこに来て出てきた九人目に全員が困惑するのは無理もない事であった。
「い、いやいやいや。流石に冗談はやめてくれ。あ、シルフィちゃん……とか?」
「違う。吾は吾。シルフィとは違うのはお主も見ておったじゃろ」
「……ってことは、マジで大精霊様って八柱じゃ……ないの?」
「そうじゃぞ。常識ぶっ壊れる上に、司っているものがもの故に巫女らも一切語らぬがな」
「「「……」」」
あ、どうやらこれは冗談じゃないらしい。時乃の楽しげな様子に一同これが事実なのだと理解する。こちらの困惑や青ざめた顔を楽しむ様子には、そういう真実味があったのだ。
「くくく。言うでないぞ? 主様に消させるからな?」
「怖いこと言わないでくれよ……」
「くくく……ま、それは良い。とりあえずはこの道を果てまで進まねばならんが……まぁ、わかろうものじゃがいくら吾と言えど完璧に元の時間に戻すには微修正が必要になる。一度どこかの時間軸に降り立って、主様に協力を求める事になるが、下手な事を言うでないぞ」
「わ、わかった。そっちでやってくれるんだよ……な?」
「当たり前じゃ。時を操る術なぞ魔法の領域を超えておる。今のお主らでは到底出来んよ」
ソラの問いかけに時乃は笑いながら請け負う。そうして、一同はその後暫く経由地を目指してどうしたものかと考えながら進む事になるのだった。
さて時間なぞほぼあってないが如くの時の道を進むこと暫く。一同の前に真っ白に輝く変な壁が現れる。
「おぉ、元の時間が近づいたな。ここから先がどこに繋がるかはわからんが、少なくともお主らの知る主様の時間軸ではある」
「でも経由地なんですよね?」
「そうじゃな。どこかはわからんから、一応注意だけはしておけ」
最前列を進んでいた瞬の問いかけに時乃は頷いた。ここにたどり着く少し前にも最悪は戦闘中の可能性もあるから気を付ける様に言われていた。なので一同完全武装だったし、ソラはナナミを守れる様に最後尾にて待機していた。というわけで一同が頷いたのを見て、時乃は指をくいっと曲げてまるで手招きする様に白い壁のような空間で一同を包み込む。
「うおっ……うおっ!」
光り輝く白い壁に包まれたかに思われたその直後。足元に土の気配を感じると共にまるで太陽の如く輝いた天を見て、瞬が思わず身を固くする。
「なんだ!? 太陽!?」
『いや、違う。あれは……むぅ?』
「どうしたんだ?」
<<偉大なる太陽>>の困惑した様子にソラが首を傾げる。その一方、時乃は出た直後にここがどこかおおよそを理解したらしい。<<偉大なる太陽>>に告げた。
『気にするでない。そして気づいても口にするでない』
『は、はぁ……わかりました。その様に致しましょう』
言うまでもないが神と大精霊であれば大精霊が格上なのだ。なので主神以上の相手の指示に<<偉大なる太陽>>が従わないという選択肢があるわけがなく、この違和感に対して<<偉大なる太陽>>は気になりながらも考える事をやめる。そんな彼の一方、周囲を確認していた瞬は時乃の声はすれど姿が見えない事に気が付いた。
「あれ? 時乃さん?」
『すまぬすまぬ。吾はおってはおらぬ場所じゃからの』
「はぁ……それでここはどこなんですか? どこかの野営地? 野戦の陣地みたいですが……」
『そうじゃな。その認識で間違っておらぬよ』
どうやらなにかの戦闘の真っ只中に叩き込まれてしまったらしい。一同はここはカイトの過去。<<無冠の部隊>>かマクダウェル公爵家の部隊の陣地で、カイトはこれを指揮しているのだと認識する。
「それだとカイトは指揮所にいそうですか?」
『じゃと思うが……む』
「若様ー! わ・か・さ・まー!」
「な、なんだ!?」
「うるさっ!」
響いたのは誰かを探す女性の声だ。それは陣地全体に響くような大きな声だった。それに顔を顰める一同であったが、その声を聞いたセレスティアが目を丸くする。
「この声は……え? ですが……」
「ええ……この声は……」
なぜ彼女の声がここで。セレスティアの視線を受けたイミナもまた困惑の表情を露わにする。と、そんな声は何者かを探しながら段々と近づいて来て、ついにこちらまでたどり着いた。
「若様ー! おや?」
「あ……どうも」
「おや、一条殿……あれ?」
まずい。どうやら相手は自分達を知っている状態らしい。瞬は現れた褐色肌の着物に似た服を着た女性に冷や汗を掻く。幸い本当に当人なので気配などで偽物と思われて斬り殺されるなどという事はなかったものの、次の一手に困る状態だった。その一方で褐色の女性は後ろに続く面々を見て小首を傾げていた。
「天城殿? あれ? 今しがた……」
「あ、いや。まぁ、色々とありまして」
「はぁ……まぁ、確かにセレスティア姫までご一緒ですからなにかったのだとは思いますが……」
どうやら自分達を全員見知った状態らしい。大慌てで執り成すソラに対して、上を見上げていた褐色の女性は少し困惑しながらもそうかと思うだけだ。とはいえ、状況としては最悪に近い。なのでセレスティアは即座に機転を利かせた。
「セイラン様は相変わらずカイト様をお探しで?」
「あ、失礼致しました。そうです。若様を探しておりまして……何処かご存知ありませんか? また勝手に指揮所を抜けられて……」
心配で心配で堪らない。そんな様子でセイランなる女性はため息を吐く。
「そうだったのですか。申しわけありません。我々もカイト様を探しているのですが……」
「そうでしたか。全く……まだたかだか数十歳ですから落ち着かれていないのは無理もない事なのですが」
たかだか数十歳。つまりこの人は数百数千の時を生きる長命の種族というわけか。瞬はセイランの言葉にそれを察する。というわけで見つからないカイトに、セイランが再び声を発した。
「はぁ……わ・か・さ・まー!」
「聞こえてるよ! あとユーディトさん! 拡声までしないでください!」
「あ、そちらでしたか」
カイトの声が聞こえるなり喜色満面という様子で声がした方へと駆け寄っていくセイランに対して、近くのテントからカイトが何故かフロイライン家最古参のメイドであるユーディトを伴って現れる。
「若様。ご無事でしたか」
「だからオレももう良い歳だぞ。そりゃセイランさんからからすりゃたかだかだけどなぁ……ユーディトさんから政務の報告を受けてたんだよ」
「そうでしたか。失礼致しました……ですがそれでしたら一声掛けてくださればよかったのに」
「一応クオンには告げて出たんだがなぁ……かといってあっちもあっちだしなぁ……まぁ、どっちもどっちだったか」
「あ、そうでしたか」
入れ違いに出ていったので聞けておりませんでした。カイトの言葉にセイランは自分が知らなかった理由を理解する。と、そんな彼はどういうわけか腰以上もある長髪をポニーテールに結っていたし、未来の彼の様に黒髪ではなく本来の蒼い髪で蒼い目だった。というわけでどういう状況か理解が出来ず声を発せられなかった一同に、カイトが気が付いた。
「ん? って、ソラか。セレスまで……どうした? なにかあったか?」
「え? あ、あぁ、いや……どう説明したもんかなぁ……」
「うん? ん? どうしたんだ、そんな古い鎧で」
「え? あ、そういうことなのか……」
どうやらここは自分達の時代より未来だったらしい。最後尾に居た事で声を掛けられたソラはカイトが見慣れぬ状態である事や、セイランという見知らぬ女性の存在などからそれを理解する。というわけで一瞬の沈黙が流れたその瞬間、時乃の声が響いた。
『主様』
「どうした? あ……あぁ、そういうことか」
どうやらカイトの方も時乃の声掛けやどう説明したものかと困惑するソラの様子でおおよそを察したらしい。楽しげに笑っていだす。
「お前らも災難だったな。よりにもよってここに飛んだのか。どこかわからない所でオレに会った、って聞いてたけど」
「そ、そうなのか?」
「当たり前だろ? 報告は貰ってるよ。あははは」
このカイトはおおよそを知った上でだった事もあり、ソラ達の状況を正確に理解しているようだ。ソラはそんな相変わらず楽しげに笑う彼の様子に安堵する。と、そんなところに。再び天高くに太陽が発生する。
「っ!」
「あはは……<<偉大なる太陽>>」
『はっ』
「見ろよ。お前の目は狂ってないぞ」
『では、やはりあれは……』
カイトの言葉に<<偉大なる太陽>>は天高く生じた太陽を見る。それはどこか嬉しそうでもあった。その一方、状況が理解出来ていないセイランが目を丸くする。
「あれは……え? ですが……」
「大丈夫だよ。あっちも本物だし、こっちも本物だ。色々とあるんだよ、こいつらにも」
「は、はぁ……若様がそう仰られるのでしたらそれで構いませんが……」
「……え? もしかしてあれ……えぇ!?」
あのぶっ飛んだ力はまさか。ソラは天空に浮かぶ太陽と自身を交互に見るセイランの視線でそれを理解したらしい。
「そ。頑張れ、<<太陽の騎士>>くん」
「なにそれ!?」
「はは……ま、このぐらいで良いかな。時乃、調律はこっちでやれば良いか?」
『いや、主様が楽しんでおる間に終わらせた。主様という第三者が必要じゃっただけじゃからの』
時乃自身言っていたが、カイトが必要なのは彼を基準として本来の時間軸へと繋げるための微修正のためだ。なので本来は会う必要もなかったし、彼がなにかをする必要もまったくなかった。というわけで話している間に調整は終わっていたようで、それに彼も一つ頷いた。
「あいよ……あー、まぁ、なんだ。まだまだ大変な事は続いたと思うが、とりあえず頑張れや」
「お、おう……えっと、これどうなってるんだ?」
「うん? あぁ、ちょいとな。ま、セレスはおおよそ察してるだろうが」
「では、やはり」
「ああ……ま、オレ達の尻拭いだ。気にするな」
「いえ……それでもありがとうございます」
カイトの言葉にセレスティアが深々と頭を下げる。
「あはは……そうか。ま、頑張れ。オレもだけどな」
「はい」
『うむ。じゃあ、調律は終わった。では再び時の道へ戻るぞ』
「はい」
未来の更に未来のカイトとの会話を終わらせ、セレスティアは時乃の言葉に頷いた。そうして一同は今度は遥か彼方から巨大な雷が迸るのを横目に、元の時代への旅を再開させるのだった。
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