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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3573話 はるかな過去編 ――決戦――

 魔界への扉を閉じる上で最重要となる開祖マクダウェルが使ったとされる<<雷鳴剣>>。永き時を経て力を失った二つの刃の再活性化のため、是が非でも<<雷鳴の谷>>の大砦を攻略せねばならなくなってしまったカイト達。彼らは未来から来たソラ達の支援を受けながら古代文明の飛空艇を復元。それを切り札として攻略に取り掛かる。

 そうしてなんとか飛び立った飛空艇はしかし、古代文明が存在した時代に生きた魔族を師と仰いでいた事により雷鳳が偶然にも飛空艇を知っていた事。彼がカイト達の意図が掴めず外を見ていたという偶然が重なった事により発進直後に発見され、大砦からの攻撃を想定より遥かに早い段階で受ける事になってしまう。

 というわけでそうこうしながらもなんとか砲撃を掻い潜り、最後は魔族側が最後の秘策として用意しつつカイトの不在を警戒し使用してこなかった次元の断裂により飛空艇の船体を大きく破損させつつも、カイトが雷鳳を防ぐ事により瞬によりなんとか主砲の破壊に成功。ひとまず戦略上の最重要課題を解決するに至っていた。


「むぅ……してやられたか」

「にしちゃ焦ってねぇな、ジジイ」

「はん。所詮ただの巨大なだけの砲よ。壊れたものは直せば良い。それだけに過ぎん」


 確かにこれまで大砦の主砲を破壊した事はなかったし、そもそも大砦への直接攻撃さえ出来てこなかった。それを考えれば大砦の主砲の破壊に成功するというのは人類側にとって大金星だと言える。

 だが、雷鳳の言う通りそれだけといえばそれだけだ。確かに主砲が爆発したので大砦にも被害は出ているが、その被害は大半が工兵達。副砲や小型の魔導砲は全部無事だ。

 戦闘継続が不可能かと言われればそんなわけがない。単に今までほぼ絶対に攻められなかったのが攻められる様になった、というだけに過ぎなかった。というわけで負け惜しみでもなんでもなく単なる事実として手札の一枚を失っただけという様に、雷鳳は獰猛に笑う。


「それに……お主、なにか勘違いしとりゃせんか? まさかこの程度でこの<<雷鳴の谷>>を攻略出来たなぞと腑抜けた事を抜かしておるのか?」

「何を馬鹿な事を言ってやがる……誰が、いつ、腑抜けた事を抜かしたって?」

「っ!」


 そうでなくては。自身の挑発に対して一瞬にして眼前まで肉薄し斬撃を叩き込むという行動で示してきたカイトに、雷鳳が荒々しく笑う。そうして獰猛に牙を剥いた両者の剣戟が交わった。


「はぁ!」

「おぉ!」


 まるで今までの鬱憤を晴らすかの様に、両者の斬撃の威力は凄まじかった。特に雷鳳はカイトが撤退なぞという腑抜けた考えを有していないか確かめるが如くの強撃で、膂力であれば全人類最強と言って過言ではないカイトをして弾かれる力であった。


「っぅ!」

『カイト』

「大丈夫。この程度で腕が痺れるなんてこたぁない」

『ん』


 少しだけ不安そうなヒメアの声に、カイトは楽しげに笑いながら応ずる。だがそんな彼も内心理解していた。


(ジジイ、マジでここで死ぬつもりか)


 この荒々しさ。何度か戦場で相見えた際に見た本気の一撃に匹敵する。それを初手から繰り出してくる意味なぞ一つ。雷鳳はここを死地と見定めた。生きるか、死ぬか。人類側を皆殺しにして砦を死守するか、砦と共に死ぬか。どちらかしか彼にはなかった。そしてそれを理解した彼へとまるで示すかの様に、雷鳳は剣戟を叩き込んだ。


「ふっ」

「っ」


 小さな呼吸音と共に繰り出される剣戟の鋭さは、速度だけであればカイトをも上回っている。特に大太刀と大剣というただでさえ二刀流という常軌を逸した戦い方の中でも更に異質なカイトより数段上だ。だがそれでも回避を間に合わせられるのは、その速度でさえ本気になったレックスには及ばないからだった。


「おら!」

「むっ」


 身を捩る動作を利用して放たれる右足からの回転蹴りに、雷鳳は次の一撃を叩き込む事をやめてその場を飛び退く。カイトの蹴りは単なる蹴撃ではない。未来のカイトと比較してさえ身体能力であれば上回ると言われる彼が放つ一撃だ。

 もはやその一撃は蹴り飛ばすではなく刈り取る斬撃にも等しい。雷鳳もまた超常の猛者である事を鑑みても、直撃は大ダメージは免れないだろう。そうして回転蹴りにより生じた斬撃に対して、雷鳳は一瞬の後に着地。剣戟を放って食い止める。


「っぅ。はぁ!」

「っと」


 一瞬の鋭い痛みに顔を顰めるカイトであるが、その痛みが激痛に変わる前に即座にヒメアにより治癒。治癒と破損を急速に繰り返し、その反動で意識を喪失する前に逆側の足で蹴りを放つ。それに雷鳳は今度は大きく跳躍。距離を取る。そうして幻痛を抑え込む僅かな隙間をまるで狙い撃つ様に、レックスからの念話が届く。


『カイト! 今どこだ!?』

「大砦の前でジジイと戦闘中」

『他は!?』

「……」


 レックスの問いかけにカイトは一瞬だけ視線を周囲に巡らせてソラ達の状況を確認する。そうして、少しだけ顔を顰める事になる。


「銀髪野郎に……墨女(すみおんな)まで一緒だ。こーりゃ、まーずいな」

『銀剣卿に……この黒い亀裂は<<(くろ)>>の雅か! 二人だけか?』

「そりゃお前やアイクまで残ってるのに全部出すと思うか? 他の連中、この状況下の癖に楽しげに見てるよ」

『そりゃそうだ』


 人数差はほぼ倍。ソラや瞬もエネフィアでは上位クラス。セレスティア、イミナはこの世界の未来の時代においてトップクラスの猛者だ。

 しかしその四人であっても、銀剣卿一人にさえ勝てるかというとまず無理だろう。そこにもう一人最上位の魔族の戦士――しかも雷鳳麾下の武芸に長けた魔族――まで加わっているという。正直生き延びられるかどうかさえ怪しい領域だった。


『すぐ向かいたいが……ちょいとこっちも厳しいな。次元断裂で分断されちまってる』

「あん?」


 レックスの苦みの乗った言葉に、カイトは更に視線を動かして人類側の陣地がある方角を確認する。するとそこにはまるで星空のような亀裂が空間に生じており、人類側の前線と後方を分断していた。


「<<雷剣隊>>もここで討ち死に覚悟か」

『だろうな』


 おそらくこれは二つの騎士団とその他の兵士を分断する目的もあるだろうが、何より雷鳳直属部隊である<<雷剣隊>>の決戦を邪魔しないためのものだろう。カイトは魔族側の動きが<<雷剣隊>>を邪魔しない様に動いている事を見てそう判断する。

 ここら、やはり魔族だからという点が大きい。戦術的に見れば二つの騎士団を孤立させ殲滅が上策だ。だが猛者との戦いを求める魔族にとって、そんな事をすればみすみす自らの獲物を逃すだけだ。包囲殲滅はあまり好まれない戦術だった。


『俺の方でこれは叩き潰す。前線を立て直した後すぐにそっちに向かう』

「ソラ達が死ぬ前に来てくれよ。雅が出てきている理由なんて明白すぎる。ジジイの後に雅なんてオレは死んでもゴメンだぞ。いや、マジで死ねるだろ」

『お前本当に魔族にも好かれてるよな』

「うるせぇよ」


 楽しげに冗談を口にするレックスに、カイトが僅かに肩を震わせる。この雅という魔族であるが、雷鳳の弟子の一人だ。それも一番弟子やそこらに類する有数の剣士で、腕前は銀剣卿以上という立ち位置であった。

 まぁ、軍として見れば戦略的、戦術的な判断から兵士の指揮まで出来る銀剣卿が上回るし未来ではそれが重視されて銀剣卿が大将軍の一つ下。将軍級になっているわけであるが、単体戦闘能力であればこの雅こそが雷鳳麾下ではトップと言って過言ではなかった。


「くっそ。なんで雅まで出てきてるんだよ。お前は最後の最後だろうがよ」

「あれは堪え性はないが故な」

「っ!」


 このジジイ、笑いながら音を置き去りにして突っ込んでくるんじゃねぇよ。カイトは自分のボヤキを聞いていたのだろう雷鳳が一瞬で肉薄してきた事に思わず目を見開く。そうして雷鳳の剣戟が自身の首を刎ねるよりも前に、カイトもまた大太刀を振るって迎撃する。


「ちぃ! ジジイもジジイだろうが!」

「ははははは!」


 弟子が弟子なら師も師だ。カイトは猛烈な勢いで攻め立てる雷鳳に悪態をつく。その一方ここを死地と定めている雷鳳は楽しげに笑いながら、まだまだ戦いは始まったばかりと毎秒数十の速度。それも威力は最初の一撃と同等というあり得ない速度と威力の剣戟をカイトへと叩き込んでいくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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