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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3572話 はるかな過去編 ――破壊――

 魔界への扉を閉じる上で最重要となる開祖マクダウェルが使ったとされる<<雷鳴剣>>。永き時を経て力を失った二つの刃の再活性化のため、是が非でも<<雷鳴の谷>>の大砦を攻略せねばならなくなってしまったカイト達。彼らは未来から来たソラ達の支援を受けながら古代文明の飛空艇を復元。それを切り札として攻略に取り掛かる。

 そうして幾らかの想定外の出来事は起きながらもなんとか発進に成功した飛空艇は不運が重なった事に即座に雷鳳に勘付かれる事になり、大砦からの砲撃を幾重にも受ける事になる。その中で放たれた大砦の主砲に対して予定通り次元潜航装置を起動。大きく飛空艇は揺れながらも、なんとか難を逃れていた。


「……次元潜航装置安定。ふぅ……」

「ふぅ……カイト!」


 とりあえずこれで一安心。そんな様子で一息吐いた瞬だが、彼は操縦桿を思い切り引き上げ大砦の主砲の範囲から逃れながら後ろを振り向いてカイトへと声を掛ける。


「なんだ!?」

「即興で思いついた事がある! それで良いか聞いて貰いたい!」

「任せると言ったんだが……まぁ良い。聞こう」


 幸い一度次元潜航装置を使ったら三十秒ほどは時間が稼げる。残念ながら移動しすぎると負荷が掛かりすぎてしまうのでこの間に速度を上げたり大きく移動したりが出来ない――おまけに別次元に移動しているので外と連絡を取る事も出来ない――事が難点ではあるいが、飛空艇の中で簡単なやり取りをする分には問題ない。というわけで、現状を受けて瞬が導き出した一つの作戦に、カイトは盛大に顔を顰める。


「……正気か?」

「それはお前に言ってくれ」

「正気か、オレ?」

「知らん」


 簡単に告げられた作戦に、カイトは未来の自分がしたという出来事が到底正気とは思えず盛大に顔を顰める。作戦としては非常に単純だ。だがだからこそ、正気を疑うには十分過ぎた。というわけで笑う瞬に対して、カイトが悩む時間は数秒しかなかった。


「……全員、それで良いな?」

「御身がそれで良いのであれば」

「……」

「俺に拒否権はないし」


 セレスティアは少し苦笑混じりで、イミナは主人と祖先が賛同している以上は口を挟める道理がなく。ソラは逆に瞬の作戦に道理を見ていたからだろう。こちらも苦笑混じりながらも言外の賛同を口にする。というわけですべての賛同を得て、カイトは一つ頷いた。


「分かった。それでやってくれ」

「わかった……ふぅ」


 まさか自分がこれをする事になるなんて。瞬はかつて見た光景を思い出しながら、次元潜航装置の稼働限界までの数秒の間に気合を入れ直す。そうして手を何度か握りしめて深呼吸をして、一つ頷いた。そんな彼に、ソラが報告する。


「次元潜航装置稼働限界まで後3……2……1……アウト!」

「「「っ!」」」


 ソラの合図と共に別次元から急速に元の次元へと浮上し、大きく飛空艇が揺れる。そうして元の次元に戻って数秒の静寂の後、外の状況をカメラ越しに確認していたソラが声を上げた。


「雷撃、来ます!」

「ちっ! やはり撃墜されたと思ってくれるほど甘くはないか! 急浮上する! 全員、しっかり捕まっていろ!」


 飛空艇の真後ろを通り過ぎた雷撃で揺れる船体を元に戻しながら、瞬は出力を最大にして思い切り操縦桿を引き上げる。そうして飛空艇は一気に上昇していく。そんな光景に、ノワールが思わず声を上げる。


『瞬さん! かなり高度上がってますけど!』

「そうするつもりです! カイトの許可も取ってます!」

『そ、そうなんですか!?』

「未来のオレの頭のおかしな作戦だ! まぁ、大丈夫だと思う!」

『えぇ!?』


 あのお兄さんをして狂っていると言わしめる作戦なのか。ノワールはどんな作戦か理解出来ず、盛大に顔を顰める。

 まぁ、この時代のカイトは狂っていると言いながらもこの時代の彼自身がカイトに負けず劣らずの狂気の沙汰としか思えない作戦を何度も立案している。

 というより件数であれば最初から騎士団長かつベルナデットら知恵者の入れ知恵がある分、多いかもしれなかった。その彼が狂っている、と言っている事でノワールは良い印象がなかったようだ。それはさておき。そんなノワールを置き去りに上昇を続ける飛空艇の中で、魔弾の雨を避け続ける瞬がソラへと問いかける。


「ソラ! 砦からの砲撃は!?」

「かなり減ってきています! やっぱ読み通り上は死角になってるっぽいっすね!」

「よし!」


 ソラの返答に瞬が牙を剥いて笑う。これは当然の話だが、飛空艇の存在を雷鳳しか知らない以上いくら強固な大砦と言えど飛空艇には対応していない。もちろん飛竜達による強襲は想定しているのである程度の上空からの攻撃にも対抗出来る様に障壁も魔導砲も対応しているが、それでも限度はあった。


「すでに二つ砦を落としている実績のある作戦だ。やれるはずだ」

「落としてんの!?」

「そうらしい! 一つは知らんが、もう一つは実際に見た! 対抗策があってもお前なら出来ていた!」

「なるほど! 実績ありってんなら安心だ! 思う存分やってくれ!」

「おう!」


 カイトの改めてのゴーサインに、瞬は振り返ることもなく応ずる。そうして、少し楽しくなってきたのかカイトはセレスティアとイミナの二人に問いかけた。


「二人はやったことはあるのか?」

「い、いえ……流石にこれは……」

「軍の教習とかでも?」

「い、いえ……流石に……正気の沙汰では……し、失礼致しました」

「良いよ、別に。オレからしても正気の沙汰じゃない」


 砦の直上にまで移動して、超高空から一直線に降下して砦の破壊を狙う。確かにそれは聞いてみれば道理だし、魔導砲の射角は物理的な制約が相まって真上には対応し難い。

 なので砦や要塞の真上は最も攻撃が手薄な場所で、いくら<<雷鳴の谷>>の大砦であろうと主砲もここまでは狙えない。無論本来そんな超高空まで移動可能な手段がない――精々エドナ程度――ので想定する必要はないし、大魔王でさえそこまで考えればもはや何でもありになるので切り捨てた領域だ。魔族側に対応策がないのは無理もなかった。


「超高空からの急降下による強襲……やれやれ。ん、瞬!」

「なんだ!? 操縦に手一杯だから話はあまり出来んぞ!」

「良いよ! 一個追加で思いついた策がある! 降下の瞬間からオレは外に出る! 五秒前に教えてくれ!」

「わかった!」


 カイトが何を考えているかは定かではないが、それを聞いていられる余裕は瞬にはなかった。というわけでカイトの言葉に応諾を示すのが精一杯で、瞬はソラへと頷きかけるだけだ。そうして魔弾に追撃されながら上昇を続け、主砲の射角からも逃れた所で、ソラがカイトへと告げた。


「カイト! 降下開始まで五秒!」

「開け! 出る!」

「あいよ!」


 カイトの指示を受けて、ソラは上部ハッチを開いた。それにカイトが外へと飛び出して、彼は一つ深呼吸した。


「すぅ……はぁ……やっぱ息が詰まるな。姫様」

『本気でやるのね? あんた正気?』

「それは未来のオレに言ってくれ」

『そーする』


 どうやらカイトの策にはヒメアの協力が必要だったらしい。カイトの返答に彼女が笑う。そうして高度を上げ続けていた飛空艇が急停止する。


「っと……エドナで慣れていて良かった」

『カイト! やるが、良いな!』

「ここまで来て引けるか!?」

『無理だな! じゃあ、行くぞ!』


 カイトの問いかけに笑いながら否定して、飛空艇が一気に急降下する。そうして速度を上げていく飛空艇の上で、カイトは案の定と理解して笑う。


「主砲、来るぞ!」

『撃てるのか!?』

「拡散弾を間近で炸裂させてこっちを狙うつもりだ!」

『っ、そんな事をすれば主砲も無事じゃすまんだろう!』

「ゼロ距離でもなけりゃ人力でなんとかは出来る! だが壊されりゃどうにもならん! 無茶は承知だろうが、向こうもやるしかない! だが避ける事だけに専念しろ! 直撃はこっちでなんとかする!」

『すまん!』


 どうやらカイトが思いついた策はこれに対抗するためのものだったらしい。瞬はカイトの言葉に彼にすべてを託す事にする。

 そしてその瞬間だ。カイトの読み通り<<雷鳴の谷>>の大砦の主砲から巨大な魔弾が放たれて、これまたカイトの読み通り発射直後に爆発。無数に分裂して飛空艇へと一直線に上昇していく。


『っ!』

「姫様!」

『はいはい!』


 複雑怪奇な軌道を描く飛空艇の上で楽しげに双剣を構えるカイトに、ヒメアもまた笑って彼の足を飛空艇へと固定する。そうして完全に飛空艇に固定されたカイトが双剣を振るって、直撃しかねない魔弾を双剣で斬り裂いていく。


「っ! 先輩! 第二射来ます!」

「なに!? いや、わかった! カイト!」

『あいよ!』


 来るなら来るで構わないし、全部を切り裂けば良いだけだ。そんな様子でカイトは楽しげに応ずる。そうしてその直後。先程と同様に、しかし先程よりも大きく主砲は悲鳴を上げながらも第二射を発射する。


「おぉおおおお!」


 どうやら向こうも限界が近いらしいな。カイトはこちらに襲い掛かる無数の魔弾を切り裂きながら、そう内心で考えていた。だが、だ。当然だが簡単に進ませてくれるほど魔族側も甘くはなかった。飛空艇に命中しなかった魔弾が急旋回。雨の様に飛空艇の背後目掛けて降り注ぐ。


「姫様!」

『あいよ!』


 背後から降り注ぐ魔弾の雨だが、しかしこれにカイトは一切気にした様子はなかった。そもそも彼はこの<<雷鳴の谷>>の攻略に臨むのは一度目ではない。何度となく主砲の砲撃は受けており、追尾式の魔弾なぞ何十発と受けている。避けた後に後ろから追ってくる魔弾なぞ見慣れていた。

 そしてそれは彼の支援を主とするヒメアも一緒で、二人は阿吽の呼吸で上下左右前後左右すべての方角から迫りくる魔弾を防ぎ切る。


「よし! カイト! 砦まで後十秒!」

『りょーかい!』


 主砲の二連射さえ乗り切ってしまえば後はなんとかなる。瞬もカイトもそう判断していた。だが、だ。魔族側にもまだ一つだけ、秘策が残されていた。そうして残り十秒が半分を切った瞬間だ。カイトがそれに気がついた。


『瞬!』

「っ!? ソラ!」

「っ!」


 カイトの声掛けで瞬が状況を理解し、そこから一瞬でソラへと指示が飛ぶ。それにソラがずっと手に掛けていた次元潜航装置のスイッチを押し込んだ。ここまでコンマ数秒以下。全員が上位の戦士だからこそ出来た連携だった。そしてそれが、全員の命を救った。


「ぐぁ!」

「きゃあ!」

「っ!」


 次元潜航を行った瞬間。次元そのものが切り裂かれて、飛空艇が強制的に次元の狭間から引きずり出される。その衝撃は凄まじく、飛空艇に大きな亀裂が入っていた。

 だがそんな中でもカイトはエドナと共に駆け抜けてきて、こういう事には慣れていたからだろう。一切苦悶の色は見えなかった。そしてそんな彼だが、次元の狭間から叩き出された直後に自分の真上に居る老将の声が響く前に、双剣を振るった。


「見事!」

「そりゃどうも!」


 がぁん。雷鳳その人が放つ斬撃をカイトが防ぐ。そうして強大な衝撃が周囲を荒らして、飛空艇そのものにも大きな衝撃が襲い掛かる。だが、その際だ。カイトは雷鳳の一撃による衝撃を制御して飛空艇を砦に向けて移動させていた。


「ぬ!」


 してやられた。雷鳳はカイトが飛空艇と自身を固定していた事は見抜けなかったらしい。まぁ、どちらかといえば見誤ったのはそういった衝撃さえ飛空艇を破壊させず移動に利用させたカイトの技量と、それが可能に出来る土台を構築したヒメアの腕だろう。普通はこんな事は出来るわけがなく、激突の余波で飛空艇が壊れるし、雷鳳もそれを狙っていた。


「……」


 やれる。雷鳳は虚空を蹴って飛空艇を追いながら、一瞬で納刀してカイト諸共飛空艇を切り裂く事にする。すでに飛空艇の船体は大きく損壊しており、飛行が可能には思えない。だが壊しておくに越したことはなかった。これにカイトもまた双剣を構える。そうして激突の寸前、カイトが問いかける。


「瞬。頼んで良いんだな?」

「ああ!」

「おし」


 どうせ作戦が作戦どおりに進む事なぞあり得ないのだ。なのでカイトはすでに雷鳳が出てきている状況を鑑みて、自身による大砦の主砲破壊を諦めていた。というわけで彼は一つ笑うと、飛空艇を蹴って雷鳳と激突する。そしてそれと同時だ。飛空艇の船体の切れ目から瞬が飛び出した。


「おぉおおお!」

「ぬ!?」


 何のつもりだ。雷鳳は飛空艇から飛び出した若い戦士が雄叫びを上げたのを見て、思わず目を見開く。力としては自分達に及ぶべくもないが、すでに大きな負荷が掛かっている主砲を破壊するには十分。そう思うが、そんな彼が見ているのは遥か彼方の方角だ。流石に彼にも意図が読めなかった。


「はぁ!」

「なに?」


 全く意図が理解出来ない。明後日の方角に槍を投げた瞬に雷鳳は困惑する。こればかりは仕方がないだろう。これについてはカイトも直前まで聞いておらず、万が一と瞬が独自に準備していたことだった。が、その瞬の動きを確かめる事は出来なかった。


「おぉおおお!」

「っぅ!」


 雄叫びを上げて突っ込んできたカイトに、雷鳳はすべての余念を捨てて刀を抜く。そうして強大な力が激突する。そしてそれと同時に、瞬の投げはなった槍の穂先が遠くを飛んでいた輸送車の残骸へと突き刺さる。


『転移!』

「っ」


 ノワールの声が響いて、ずしりとした重さが瞬の右腕へと伸し掛かる。そうしてそれと共に、上部ハッチから外へ出ていたセレスティアが砦へ向けて巨大な斬撃を放った。


「はぁ!」


 この程度が防がれる事なぞ分かっている。セレスティアは自身の斬撃が何者かに防がれるのを感じながら、しかしそれで良いと判断。そうして防いだ魔族へと、イミナの拳が放たれて撃ち落とすからだ。


「ソラ」

「うっす!」


 おそらく追加で妨害は入るはず。そう判断した瞬はソラにも支援を頼んでいた。そうして飛空艇の操縦を用意されていた簡易の使い魔に任せこちらもまた船体の亀裂から外に飛び出していたソラが、輸送車の残骸へと障壁を張り巡らせる。


「おぉおおおお!」


 瞬は裂帛の気合と共に主砲の砲口目掛けて輸送車の残骸を投げつけ、投げつけられた輸送車の残骸は砲身の内部を何度も跳ねながら、奥まで入り込む。そしてそれと共にノワールが遠隔で輸送車の自爆システムを起動させ、主砲は内部からの爆発により大破する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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