第3568話 幕間 ――魔族側――
魔界への扉を閉じる上で最重要となる開祖マクダウェルが使ったとされる<<雷鳴剣>>。永き時を経て力を失った二つの刃の再活性化のため、是が非でも<<雷鳴の谷>>の大砦を攻略せねばならなくなってしまったカイト達。彼らは未来から来たソラ達の協力を得ながら、偶然元の状態をほぼ維持したまま墜落した古代の飛空艇を復元。更にノワールが手慰みで拵えた輸送車をベースとした輸送車を量産して陽動部隊としてその攻略に取り掛かる。
そうして魔族側の作戦により人類側の第一攻略目標であった大砦付近の丘を吹き飛ばされ本陣を直接狙い撃たれる羽目になるという想定外の事態が起きながらも、カイトの奮戦もありなんとか作戦を修正。人類側はもはや後に引けない状態になり、本来の後詰の戦力も投入した総力戦を行う事になってしまう。
というわけで本陣から大砦が目視可能な距離まで戦線が押し上げられ、人類側は魔族側の策略により半壊させられた輸送車部隊を修繕。輸送車部隊による突撃で大砦の前に広がる地雷原を破壊しながら、大砦までの道を切り開いていた。
「ふぅむ……」
人類側による攻勢を見ながら、雷鳳は眉をひそめる。そんな彼と同様に訝しみを感じていた指揮官の一人が、それを口にした。
「あの八人の騎士達が出てきませんね」
「うむ……何を企んでおるのか……」
当然だが一般兵達だけでこの砦を攻略できるのなら今頃どの国でも攻略出来ている。それこそ総力戦で攻めて攻め落とせなかった結果、兵力がなくなり併呑されてしまった国さえあるほどだ。
この大砦の攻略には兵力は当然のこと、主砲を無力化する<<魔風結界>>や地雷原を破壊出来る技術力。中に控える雷鳳らを倒せる可能性を持つ戦士。それらを無事大砦まで届かせる戦略。それらがあって初めて攻略出来るのだ。雷鳳をカイトが受け持つとしても、それを支援する四騎士達が不在で攻略出来るわけがなかった。というわけで四騎士達が一切姿を見せない状況を訝しむ雷鳳の所に、報告の兵士が駆け込んできた。
「ご報告します!」
「良い。なんじゃ」
「敵陣より鉄の荷車部隊が再出現しました!」
「ふむ?」
「修理していた物か?」
「いえ、そういう様子はありません。<<遠見>>で見ていた兵士いわく、修理していたのではなく最後方で控えていた物とのこと」
「後詰か」
すでに最初に出した輸送車は7割近くが故障している。だが残りの三割の内幾つかはノワールが述べていた通り、万が一の避難所として使うためのもので自爆させるつもりはない。
それを魔族側は知るよしもないが、残り少なくなった事で出てきたと考えるには十分だった。というわけで彼は指揮官の一人に、現状を再確認する。
「地雷原の突破はどの程度じゃ」
「まだ3割という所です。鉄の荷車は凌ぎ切れるでしょう。ただおそらく」
「白兵戦は確実じゃのう」
そこが限界で、後ろの騎兵達は防ぎきれない。指揮官の言外の答えに、雷鳳は楽しげに笑う。そうでなければ。そんな様子がありありと見て取れた。だがそんな彼はすぐに気を取り直した。
「白兵戦の兵力は急ぎ支度させよ。移動式の大砲の準備は?」
「すでに砦正門前に整列しております。ご命令があり次第、いつでも出陣が可能です」
「よし……」
こちらの準備としては順当に整っているし、やはり<<七竜の同盟>>は今までで一番の難敵と見て良いだろう。雷鳳は状況が五分と五分のままである事に満足げだ。彼とて魔族。敵が一息に潰れてしまっては戦い甲斐がない。それは面白くなかった。
「前線の鉄の荷車共がおおよそ吹き飛んだ時点で兵達を出せ。後詰の鉄の荷車はこちらも砲を増やして対処する。決して近寄らせるな」
「はっ! すぐ指示を出してまいります!」
「こちらの地雷原を突破して、更に一気に突破するための物でしょうか」
「じゃろう。彼奴らとてこちらのさらなる一手は気になろう……となれば余力は残さねばなるまいて。やはりこちらも一切合切を投入せねばならんか」
まだ何個か潜ませている切り札をすべて使って、ようやく戦いに勝利を得られるという所になるだろうな。雷鳳はこれまでの戦いで最大の難敵と見定めて笑みを浮かべる。
「あれは準備出来ておるか?」
「はっ……ですが良いのですか? 後の始末が面倒ですが」
「後の始末なぞ彼奴らを片付ければどうにでもなる。儂に、大魔王さまに勝ち得るのは彼奴ら以外にあるまい。いくら人の世の移り変わりが早かろうと、修繕に十年掛けるわけでもあるまい?」
「それもそうですな」
雷鳳の言葉に指揮官が笑う。ここでカイトとレックスを潰せれば、人類側は間違いなく降伏するしかなくなる。後の事なぞ考える必要もなかったし、それがどの国も分かっているからこそ<<七竜の同盟>>に足並みを揃えたのである。
「さて……」
後はまだ暫く待ちになるだろう。雷鳳はカイト達の動きを待つ事にして、更に自分の号令のタイミングを見定める。そうして、暫く。再び報告が入ってきた。
「報告します! 敵鉄の荷車部隊壊滅!」
「よし。兵を出せ。地雷原の突破で足を止める工兵共を狙い撃ってやれ」
「はっ!」
新たに現れた鉄の荷車は地雷原を突破して、大砦へと一気に近寄る算段だろう。雷鳳はそう判断していた。そうして彼の号令を受けて大砦の正門が大きく開かれ、中から砲兵達が一斉に流れ出る。そしてその後ろからは白兵戦を今か今かと待ちわびる兵士達が一斉に進軍。白兵戦の準備が整えられる。
「さて……白兵戦まで秒読み、という所か」
後はもう少し時間が必要か。雷鳳は矢継ぎ早に寄せられる報告を聞きながら、後はただ只管に次の状況へ移る時を待つ事にするのだった。
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