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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3565話 はるかな過去編 ――小休止――

 魔界への扉を閉じる上で最重要となる開祖マクダウェルが使ったとされる<<雷鳴剣>>。永き時を経て力を失った二つの刃の再活性化のため、是が非でも<<雷鳴の谷>>の大砦を攻略せねばならなくなってしまったカイト達。

 彼らは未来から来たソラ達の協力を得ながら、偶然元の状態をほぼ維持したまま墜落した古代の飛空艇を復元。更にノワールが手慰みで拵えた輸送車をベースとした輸送車を量産して陽動部隊として、その攻略に取り掛かる。だがその作戦は最初の攻略目標であった丘を魔族側が魔術を使わず吹き飛ばした事により変更を余儀なくされる。

 そうして一方的に総本陣を攻撃される事態を憂慮したレックスの指示で総本陣を破棄し、作戦の第一目標だった前線基地予定地点へと総本陣を移設。というわけで総本陣の移設作業が急ぎ行われる中。その支援に一人最前線で大砦からの砲撃を防いだカイトはそんな自身に向けて行われた雷鳳からの攻撃の治療を受けつつ、急ぎ練り直しが行われる作戦を聞いていた。


「そうか……まぁ、作戦の練り直しは必須だと思ってはいたが。そこまで大枠の変更にはならんのか」

「そうですねー。流石に私もこの丘を爆弾でドッカーン! は思っていませんでしたー」

「ドッカーン! なんて軽い言葉で済ますもんじゃねぇと思うんだがな……」


 カイトは今回もレックスへのアドバイザーとして参加しているベルナデットの呑気な言葉にため息を吐きながらも、同時に彼女にとってこの程度は想定内に過ぎなかったと理解していた。


「だが吹き飛ばすのは想定はしていたのか」

「ですねー。まぁ、やってくるのは前線基地設営後だと思っていたので、その点は少し読み違えましたー」

「想定、もっと悪いな……だが確かに前線基地設営後に吹き飛ばされるよりマシ、か。でも想定していたんならお前の事だ。対抗策も用意はしてたんだろ?」

「してましたよー。ただ爆薬を使われる場合はもう無理と諦めもしましたけどー。あれは察知不可ですからねー」

「うわ……マジで不幸中の幸いだったのか」


 敵がこちらの輸送車を警戒して輸送車に向けて使用したから良かったものの、最悪は手酷い被害を被る事になってしまったらしい。それほどまでに爆弾を使って丘を吹き飛ばすというのは手間が掛かるものだったのだ。それを費用対効果を無視してやってきた魔族側を褒めるべきだろう。

 とはいえ、流石カイトやレックスさえ戦略であれば勝てないと言わしめるベルナデット。なんだかんだ言いながらも、だったらしい。


「ですねー。一応ダメコンは考えてましたけど。被害は確定的でしたー。人的被害が生じなくて幸いでしたねー」

「お、オレ、そろそろお前が怖くなってきた……」

「ふふふー」


 楽しげに笑うベルナデットに、カイトはがっくりと肩を落とす。そんな彼に包帯やらを巻きながら治療を行っていたヒメアが、その背を叩いた。


「はい、オッケ。これで大丈夫」

「いって! ひ、姫様……なんの恨みが……」

「無茶するからでしょ。一応、作戦が始まる前には完全に治癒する様にしてる」

「ありがと」


 ぐるぐるぐる。肩を回しながら、カイトは自身の調子を確かめる。体の各所に走っていた幻痛はだいぶんと収まっていたし、即座に治癒しなければならないほどではない細かな傷もすでに癒着済み、もしくは急速に塞がりつつある。彼女の言う通り、作戦が本格的に始動する頃には完治する見込みだった。と、そんな所に今度はフラウの声が響く。


「なんだ。痴話喧嘩の真っ最中か?」

「なんでそうなんだよ」

「あははは……っと、とりあえず鎧の修繕、終わったよ。全く。あんのジジイ。こっちの入魂の一作をまるで紙の様に斬り裂いてくれちまって。これじゃ鎧の意味ないじゃないか」


 ごとん。フラウは若干乱雑に、雷鳳との戦いで傷付いた鎧をカイトの前に置く。無数の砲撃では傷一つ付かないのに、雷鳳がまるで手慰みの如く放つ斬撃の前にはあまりに無力だった。そんな事実にフラウも呆れ返っていた。


「それがあのジジイだろ。開祖様と同門と思えばさもありなんと言えば、さもありなんかもしれんが」

「ああ、確か開祖マクダウェル……リヒト・マクダウェルに剣技を教えた親父さんと同門なんだっけ?」

「魔族がお父君かどうかはオレ達も知らん。だが親戚である事は事実……らしいな。何度か、あいつも開祖様の名を告げていた。関係を聞いても教えちゃくれなかったけどな」


 一度目の侵攻が退けられ魔族の再侵攻が行われる前。カイトは養父やクロードと共に実家の書庫を読み漁り、リヒトの事を調べ直した。その中で雷鳳という魔界でも有数の剣士――リヒトの時代はまだ伝説的な剣豪ではなかったらしい――の事を知るに至っていたが、それが大将軍に就任し地上を侵略する尖兵となっていた事には大いに驚いていた。


「そうかい……ああ、そうだ。治療終わったらノワールが連絡くれって。状況を共有するってよ」

「そうか……おーい。オレだー」

『はい。治療、終わりました?』


 カイトからの連絡に、ゴーレムや使い魔達を総動員して行動不能に陥っていた輸送車部隊の再調整を行っているノワールが応ずる。ちなみにフラウ達『銀の山』のドワーフ達もそれを手伝っているが、フラウはカイトの鎧の修繕があったのでそちらは不参加だった。というわけでノワールの問いかけに、ヒメアが肯定する。


「今しがたね。で、治療しながらベルから私も聞いてたけど。とりあえず作戦そのものは遂行可能なの?」

『なんとか、という所ですね。実際輸送車もなんとか半分程度は再度使えそうです。ただ当初の予定と異なってもう自爆戦術もバレてますし、色々と少し厳しそうというのはありますねー』

「そこらはさっきベルから聞いたな」


 ノワールの返答にカイトも特攻戦術は無理だろうという話を聞いた事を告げる。おそらくここから先、こちらの戦術を理解した魔族側は輸送車を絶対に近付けまいとしてくるだろう。というわけで今以上に苛烈な砲撃が仕掛けられると踏んだ人類側も無人輸送車による自爆戦術は無理と判断していた。


「で、今はプランBの可能性を探るべく調整中……というのがベルの言葉だったんだが」

「そうですねー。そこの所、どうですか? 出来そうだと嬉しいんですがー」

『はい。とりあえず出来そう……です。ブロック化してたのが功を奏しました。しかもおまけに偽装になりそうなので、プランBダッシュ、という感じですね』

「そりゃ良い。じゃあ、大枠としてはそのまま進行か」

『それで問題ありません』


 カイトの確認に対して、ノワールははっきりと作戦の進行が可能である事を明言する。というわけで総本陣の破棄というそもそもの想定外の事態にはなりながらも、攻略作戦全体としては次の段階へはなんとか進めそうな状況にカイトは少し胸をなでおろした。


「そうか……そりゃ頑張った甲斐がある」

『欲を言えば、もうちょっと残してほしかったんですが』

「ぐっ……すまん」

『あはは。大丈夫ですよ。投げたのは大半がもう動けそうになかった物ばかりなので、いっそ投げてでも使って貰った方が良い物でしたから』

「そう言って貰えりゃ助かる……よいしょっと」


 笑いながら問題ない事を明言するノワールに、カイトは立ち上がってフラウが修理してくれた鎧を手にする。そうして作戦の状況を確認した彼は再び鎧を身に着けると、ソラ達と合流するべく飛空艇へと戻る事にする。というわけで飛空艇に入って早々、ソラが盛大に顔を顰めた。


「カイト。うわっ」

「なんだよ」

「ぼ、ボロボロだな……」

「あっははは。大将軍を相手にしてこの程度で済みゃ御の字だ」


 ソラ同様に顔を顰める瞬に、カイトは一つ笑いながら先ほど同様に貨物エリアに設けられた椅子に腰掛ける。そしてそんな彼の言葉に、セレスティアが同意した。


「ですね……我々ならおそらく今のでも下手をすれば跡形も残っていないでしょう」

「そんなか……」


 やはり大将軍は自分達の世界の<<死魔将(しましょう)>>達と同格か、下手をすれば彼らよりも強いらしい。ソラはセレスティア達が戦い続けているこちらの世界の魔族の中でも最上位の存在達に対して顔を顰めるしかなかった。そんな彼を横目に、瞬が問いかける。


「そういえばカイト。作戦に変更はないのか?」

「一応ないらしい。ただ流石に想定外の状況にはなっている所はあるから、再度の作戦始動まで少し時間は掛かるらしいけどな」


 瞬の問いかけに、カイトは自身も先程聞いた状況を共有する。そうして、暫くの間は再び待機となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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