表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3596/3944

第3563話 はるかな過去編 ――進撃――

 <<雷鳴の谷>>にある魔族達の大砦。その攻略戦に臨む事になったカイト達と共に戦列に加わったソラ達。彼らを加えて始まった<<雷鳴の谷>>の攻略はしかし、魔族側が丘を爆砕した事により人類側の橋頭堡を構築するという当初の戦略が瓦解。このままでは一方的に砦から砲撃を受けると判断したレックスは現在の総本陣を放棄して、大砦を目視出来る場所への総本陣の移設を決定する。

 その決定を受けたカイトは次の作戦のために身動きの取れない四騎士達に変わって、一人<<雷鳴の谷>>から放たれる無数の砲撃を防ぐべく天へと舞い上がっていた。


「雷凰様! 敵陣より単騎で突出する騎士を確認! おそらく<<勇者>>マクダウェルと思われます!」

「で、あろうな。あの男か<<英雄>>レジディアぐらいしかこの状況を無事に乗り切れる男はおるまい」


 間違いなくなにかを企んでいる。雷凰は人類側にも考えがあると判断していればこそ、この難局を乗り切れるのはカイトかレックスだけだろうと考えていた。そしてこの指揮官もまた、雷凰と同じ考えを抱いていたようだ。


「かの騎士共は相変わらず姿を見せませんが」

「なにか考えがあるのであろうな……あの妙な荷車は?」

「どうやら直前にこちらの戦略を読み抜いたようです。半数ほどは丘から撤退。難を逃れております。ですが多くは降り注いだ岩盤に押されるか、前面を塞がれ行動が困難になっているようです」

「そうか……よくやるものよ。普通の軍であればあの一撃で前線は壊滅したであろうな。あの妙な荷車と良い、やはり彼奴らだけは侮れぬ」


 雷凰が浮かべるのは称賛だ。今回魔族側が打った作戦は非常に時間が掛かるくせに、一度しか使えない非常に費用対効果の悪いものだった。しかも魔術を使えば昨日準備を始めたとしても間に合わせられる。それを、敢えて手間の掛かる方法で行ったのだ。

 だがだからこそ人類側は誰もが想定していなかったし、カイト達も直前で違和感に気付いたから半分程度の被害で抑えられた。しかも実際に使われるまで確証はなかったのだ。これがもし後数瞬判断が遅れていれば、輸送車部隊は壊滅の憂き目に遭いかねなかった。


「魔術を使わず炸薬のみで丘を吹き飛ばす……普通は考えもしまい。大魔王さまがご下知されねば儂とて考えもせなんだ。それを直前とはいえ察知し、被害を最低限に留めたか」

「だからこそ、潰し甲斐があるというものかと」

「うむ」


 この魔術前提の世界において魔術を使わずに岩盤を吹き飛ばすなぞ非効率的も良い所だ。普通は誰も考えないし、やろうとも思わない。資材の準備、人員の準備。全てが費用対効果に見合わない。それを綿密に効果などを計算し、爆薬の設置を指示したのは大魔王その人であった。というわけで大魔王の策にもそれを最低限の被害で抑えてみせたカイト達にも称賛する雷鳳に、報告に来た兵士がおずおずと問いかける。


「あ、あの……雷鳳様。それで<<勇者>>マクダウェルは……」

「ああ、あれは砲撃を射掛け、後は無視でよい。それより白兵戦の準備を急がせよ。彼奴らは必ず突破してくる」

「良いのですか? 主砲も射程に捉えておりますが」

「まぁ、一、二発は撃ってもよかろう。いや、撃っておくか」

「それは良いかと。派手に出来ますから」

「そうじゃな。よし。後で彼奴らが程よく進軍したところで二発ほど撃つこととしよう」

「は、はぁ……」


 基本冷静な雷鳳とは思えないほどに軽く決めたな。報告に来た兵士はあまりの軽さに思わず呆気にとられる。そんな兵士に、雷鳳が告げた。


「どうせ彼奴らは儂らが直接仕留めねば仕留められまい。そして仕留めねば一人でもこの砦を破壊してしまえるじゃろう。こんなものはお互いお遊びに過ぎん」

「そういうことだ……まぁ、遊びだからこそ邪魔をされるのは困るのだ」

「っ」


 完全に忘れかけていた。報告に来た兵士は今自分が前にしているのは最重要の要所を任されるに相応しいだけの知性を有しながらも、魔界でも有数の実力者達であったのだと思い出して震え上がる。

 そもそも雷鳳は魔界で伝説の剣豪として名を馳せたのだ。武人としての忠節。指揮官としての政治的な判断ができようと、魔族としての荒々しさを有していないはずがなかった。そしてそんな彼が大魔王にさえ警戒させる敵を前にして、血が滾らないはずがなかった。


「うむ……死力を尽くせ。此度の戦で彼奴らは存亡を賭けておるが、我らにも退く道はないぞ」

「っ……」


 ぞっとする。この報告の兵士とて決して弱くはない。おそらく人類側の一般兵が数百人で不意を突いても平然と返り討ちにしてしまえるだろう。それにも関わらず、この兵士は思わず心底身震いしてしまっていた。そうして報告に来た兵士がまるで逃げ帰る様にその場を後にして、<<雷鳴の砦>>側での準備が急がれるのだった。




 さて<<雷鳴の谷>>での準備が大急ぎで進んでいく中、一人大空へと舞い上がったカイトは吹き飛んだ丘の上まで移動。遠くに<<雷鳴の谷>>に設けられた大砦を視界に捉えていた。


「前線基地設営予定地点上空に移動した」

『確認しました。サルファ』

『まだ発射は確認出来ません……ですが兄さんが出たとなれば向こうは大喜びで撃ってくるはずです。ご武運を』

「あいよ」


 今は照準を合わせているという所だろうな。カイトは自身に向けた砲撃が始まらない理由をそう理解する。と、そんな彼がノワールへと問いかける。


「……ノワール。壊れて動けない輸送車はあるか?」

『そりゃ、ありますけど……というより残った輸送車の中の3割ぐらいはもう行動不能です。正直笑いたいですねー』

「あははは。オレは笑うわ……使って良いか?」

『構いませんけど……どうするんですか?』

「ま、見せてやるよ……うん。これは間違いなく使えないな?」

『そうですけど……』


 どうやら魔族側の意図は読めるノワールであっても、カイトの突飛な行動は読めないらしい。困惑気味に頷いた。何故使えないか、というと下にあったタイヤが一つは完全に凹み、残る幾つかは完全に脱輪してしまっていた。フレームも歪んでいたし、まだ内部の動力が動いているだけでいつ完全に動力が停止してもおかしくなかった。そんな壊れた輸送車をまるで小石でも拾い上げるかの様に、カイトはエドナを急降下させて拾い上げる。


「……」

『え? あの、お兄さん……? なんかとんでもない事考えてません……?』

「さって、どうだろうなー?」


 ぽんぽんぽん。まるで小石でも弄ぶかの様に、カイトは片手一つで輸送車を軽く上に投げて遊ぶ。そうして数度上に放り投げた後、カイトが雄叫びを上げた。


「おぉおおおお!」

「「「!?」」」


 冗談だろう。雄叫びと共に壊れた輸送車の残骸を<<雷鳴の谷>>の大砦目掛けて投げ放つカイトに、敵も味方も度肝を抜かれる。そうして投げ放たれた輸送車の残骸は一瞬先には音の壁を突破。即座に大気との摩擦で灼熱の業火を纏い、先程の魔弾よりも遥かに速い速度で<<雷鳴の谷>>へと飛翔する。


『やっぱり! しょ、障壁緊急……っ』

『ノワール!?』


 障壁を緊急展開しようとして咄嗟に手を止めたノワールに、サルファが思わず声を上げる。だが、彼女は即座にここでの最善の一手を導き出していたのだ。


『っ、<<雷鳴の谷>>より砲撃再開! ノワール!』

『大丈夫です! お兄さん! こっちで合わせます!』

「あいよ!」


 流石。カイトは自身の意図を即座に読んだノワールに笑い、そのまま再度降下。同じ様に輸送車の残骸を引っ掴むと、再度投擲する。そうして何百発もの魔弾が飛び交う中を輸送車の残骸が突き進み、数瞬の後。その一発に輸送車の残骸が激突する。


「なんだ!? 何故壊れない!?」

「障壁!? あの荷車、障壁を貼れるのか!?」

「だが障壁を貼れようとあれじゃ中の奴も無事じゃすまねぇぞ!?」


 あの勇者にはあり得ない判断だ。中に居るだろう乗員達をも無視した行動に、魔族側が困惑を露わにする。だが数度の激突の末に壊れた操縦席付近を見て、魔族側もこの輸送車が無人である事を理解する。


「無人!?」

「それでか!」

「だがかわりゃ、っ!?」

「「「!?」」」


 無人だろうとなんだろうと壊せば一緒。そう判断した魔族達だが、これ以上輸送車が耐えられないギリギリまで到達した瞬間に輸送車を中心として巻き起こった爆発に息を呑む。そしてこれに、雷凰が声を上げた。


「っ! そういうことか! 彼奴らめ! 無人の荷車による特攻なぞと面白い事を考えおるわ!」

「ということはつまり、マクダウェルは……」

「爆弾を我らに投げまくっておるのと一緒よ。どうやってあのような細かい攻撃をしたかは定かではないが……少なくともあのまま近寄らせておれば危険じゃったじゃろうな」


 おそらくあんな物が何十台と砦に激突すればこちらとて無事では済むまい。雷凰はカイト達の作戦に思わず喜色を隠せなかった。とはいえ、だからこそこれを初手で切る事の意味を、彼は考える事になる。


「じゃが……こんなものこちらに露呈するのは当然じゃ。さて……彼奴らの本命は一体……」

「どうします? 放置もあまり良くありませんし、白兵戦の上であれは邪魔にしかなりませんが」

「まぁ、白兵戦の邪魔になるのは彼奴らも一緒よ。故に護衛はせんじゃろうな。主砲の一撃で蹴散らし、残った細かな部分は他の魔導砲で蹴散らすしかあるまい」

「はっ。その様に指示します」

「うむ」


 とりあえずあの無人の荷車は対応せねばならんか。雷凰はそう考えながらも復帰してくるだろう輸送車の対応を指示する。と、そんな彼に報告に兵士がやって来た。


「雷凰様。主砲、準備整いました。出力、100で調整しております」

「うむ。まぁ、戦いの始まりは派手で良かろう?」

「はっ!」


 雷凰の問いかけに対して、報告に来た兵士――先の兵士とは別でこちらは荒々しい彼の問いかけを喜んでいた――が喜色を浮かべて同意する。そうして雷凰の指示が砦の各所へと放たれて、すぐに主砲の照準がカイトへと合わせられる。


『<<雷鳴の谷>>主砲に動きあり! 兄さん!』

「っと! 遊びは終わりか! おらよ!」


 サルファの報告を聞くや否や、カイトは持っていた輸送車の残骸を投げつけて即座に呼吸を整える。そして彼が呼吸を整えると同時に、主砲の動きが止まり砲門に光が収束する。


「……」


 すでに背後の本隊は総本陣を破棄し、守るもののない状態だ。必然として<<魔風結界>>もまた存在していない。後ろの本隊を守るためには、単騎でこの主砲も受け止めねばならなかった。


『カイト』

「大丈夫だ……休む時間ぐらいはあるだろうし、一発二発ならなんとかは出来る」

『そう……余波と細かいのはこっちに任せて、存分にやりなさい』

「あいよ」


 ヒメアの言葉にカイトは飛来する大小様々な魔導砲の魔弾を彼女に任せる事にする。そうしてカイトは意識を<<雷鳴の谷>>の大砦に設置された超巨大な魔導砲へと集中する。


「……」


 数瞬。あまりの魔力の収束に周囲から音さえも掻き消える。そうして<<雷鳴の谷>>の大砦から先程の魔弾を遥かに上回る規模の魔弾が放たれた。それはただ突き進むだけで大地を大きく焼き払い、周囲の荒野を地獄へと塗り替えていく。


「おぉおおおおお!」


 侵略してくる地獄が自身の眼前に到達する瞬間。大音声と共にカイトが双剣を振りかぶる。そうして巨大な二つの斬撃が、巨大な魔弾と激突した。その二つの激突は空間を裂き、次元を砕いていく。


「……はっ」

「「「……おぉおおおおお!」」」


 この程度でなんとかなるほど甘くねぇよ。カイトはそんな様子で獰猛に牙を剥く。そうして数秒の均衡の後に切り裂かれた空間と砕かれた次元の先に消し飛んだ魔弾に、人類側の兵士達が一斉に鬨の声を上げた。


『今だ! マクダウェル卿が稼いだ時間を使って一気に距離を詰めろ! 改めて本陣を設営するぞ!』

『輸送車の進路を阻害する岩を砕け! 再び輸送車に突撃させる!』

「っしゃ。じゃあ、もう一回……っ!?」


 これで少しぐらいは時間が稼げるな。カイトは再び壊れた輸送車の投擲に戻ろうとして、なにか得体の知れない恐怖が迫りくる事を察知。咄嗟に双剣を大砦の方へと向けた。


「っぅ! っ」

『カイト!』

「助かった!」


 左手が切り裂かれ血しぶきが上がり、しかしそれは即座にヒメアによって治癒される。それに感謝をしつつ<<雷鳴の谷>>の方を見たカイトであったが、思わず言葉を失った。


「なぁ!?」

『なっ……だ、大将軍雷凰!? たった一人でか!?』

『何!? あいつがこんな序盤でか!?』


 サルファの絶叫にも似た報告にレックスが泡を食ったかのような声で驚きを露わにする。だがそんな所に、雷凰が大声を上げた。


「若造!」

「ジジイは引っ込んでろ!」

「「おぉおおお!」」


 雷にも似た魔力が<<雷鳴の谷>>から立ち上る。そうして、カイトと雷鳳は超長距離から斬撃を交えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ