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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3562話 はるかな過去編 ――進撃――

 カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達はその流れで飛空艇の陽動として使われる事になった輸送車の量産計画にも携わる事になり、北の砦攻略において重要な役割を担う事になっていた。

 そうして数ヶ月にも渡る準備期間を経て<<七竜の同盟>>やそれに共同する国々による連合軍が集結。<<雷鳴の谷>>にある砦の攻略作戦がついに開始されることになり、ソラ達はカイトと共に飛空艇に乗って最後方にて待機。ひとまず輸送車部隊による突撃を見守る事になっていた。


「……止まった?」

「流石に遠距離じゃ無駄玉だと理解したんだろうな。出力も半分程度とさほど影響がないレベルだった」


 二発目の発射後も放たれていた<<雷鳴の谷>>からの砲撃が停止したのを衝撃波で感じて呟いたソラに、カイトは少しだけ険しい顔を浮かべる。そしてそうであるのなら、次のフェーズへ移行したと考えて良かった。


「ノワール。レックスは?」

『作戦の第二段階への侵攻を承認。これから第二波が発進します』

「そうか……ここからが本番だな」


 どちらも今の所お互いの戦力を測り、様子見を繰り広げていただけだ。なので<<雷鳴の谷>>側は数発分の主砲のエネルギーを使用した程度。人類側は数十台の遠隔操縦の輸送車を失った程度とどちらも戦力を失ったと言えるほどではなかった。というわけで二人の会話を聞いていたソラが呟いた。


「第二波、か……ここからが本番だな」

「ああ……向こうからの攻撃も本格化してくるだろう」

「でも暫くは待ち、と」

「ああ……頼んだぞ」


 ソラの言葉に応ずるカイトの顔が先ほどより更に険しくなる。そして彼の顔が険しくなったと同時に、飛空艇の少し前。人類側の総本陣から信号弾が打ち上がる。


『総員、突撃!』

『突撃ぃいいい!』


 レックスの号令と共に、騎馬兵達を先頭に歩兵達が一気に出陣。砦へと攻め上る。魔術前提の戦略だ。喩え十数キロ先の地平線の先であろうと、歩兵たちも一時間と掛からず到着出来る。


『<<雷鳴の谷>>より砲撃確認!』

『<<魔風結界>>展開!』

『小型の<<魔風結界>>の展開も急げ! 破片に焼かれるぞ!』

『第二輸送車隊、発車準備急がせろ!』

「「「……」」」


 ただ見ているしか出来ないというのも辛いものだ。一同は通信機の先で響く怒声に対して、少しだけじれったい感覚を抱く。だが今飛空艇を発進させた所で即座に撃墜されるのが関の山。敵の力を削り、可能な限り突破の可能性を上げるしかなかった。そうして再び地平線の彼方から閃光がほとばしり、巨大な魔弾が飛来。今度は騎兵隊目掛けて直進する。


「っ、さっきよりデカい!?」

「出力を上げてきたな……だが、その程度なら」

「「「!?」」」


 <<魔風結界>>の展開と同時に巨大な障壁が展開され、その一切を完全に防ぎ切る。


「……」

『『『ぉおおおおお!』』』


 あまりに自分が展開する障壁や結界と格が違いすぎる。ソラは自身も守りを得手とするからこそ、その障壁に圧倒される。これがなにか魔道具で展開されたものではないと彼は理解出来たのだ。


『第一目標まで進撃するぞ!』

『橋頭堡を確保する! 一番槍は我らがもらうぞ!』

『第二隊に遅れを取るな! 全隊、死ぬ気で走れ!』


 いくら強大な魔導砲だろうと、対策ができれば現実的に防げないわけではない。それを見た兵士達は止めていた足を再び動かして前へと進んでいく。その一方、先に進んでいた輸送車部隊は丘の上へと到達しつつあった。


「雷凰様。敵の荷車部隊、丘の上へ到着しつつあります」

「そうか……騎兵共は?」

「かなり後ろです」

「そうか……準備は?」

「出来ております……待つ事も出来るかと存じますが」

「それよりあの妙な荷車部隊が怖い。魔導砲で蹴散らせる騎兵共を待つ必要はない」

「はっ」


 かなりの物資と労力を投じたし、使えるのは今回限りだ。だがそれが大魔王が唯一警戒していると言える<<七竜の同盟>>による総攻撃であるのなら、惜しむ必要はない。雷凰は自分の言葉に同意する様に頷くのを見て、号令を下した。


「丘の上に到達すると同時に、奴らに目に物見せてやれ」

「はっ! 点火準備急げ!」

『『『はっ!』』』


 雷凰の指示を受けて、砦の各所で準備が一気に動いていく。それを魔眼で見ていたサルファが即座に報告した。


『<<雷鳴の谷>>側に動きあり! 砦各所の魔導砲が動いています!』

「なに? どういうつもりだ? ノワール」

『わかりません。あの丘があるかぎり、射程距離的にも届くのは主砲だけです。あれは主砲により生まれた丘。単なる丘ではありません。一応主砲の最大出力であれば貫通も可能ですが……』


 そういう兆候も見られない。ノワールは魔族側の奇妙な動きに顔を顰める。


『っ、まさか! サルファ!』

『どうした?』

『丘の中を見れますか!?』

『丘の中? っ、すまない! 確認は無理だがおそらく予想は当たっている! レックスさん!』


 先にもノワールが言っているが、人類側と<<雷鳴の谷>>を隔てる丘は<<雷鳴の谷>>の大砦の主砲により生まれた丘だ。なので普通の丘とは違い魔力を豊富に含んでおり、しかも度重なる戦闘で周辺には複雑な力場が生じているらしく、魔眼でも奥底は見通せないらしい。だがノワールの言葉でなにかを理解したサルファが即座にレックスへと報告を上げる一方、ノワールもまた即座に対応に入っていた。


『輸送車隊、下げます! お姉さん!』

『りょーかい! カイト!』

「あいよ! 持ってけ泥棒!」

『お姫様に随分な言葉ね!』


 何がなんだかは情報が入ってこないカイトには理解出来ていない。だが少なくともヒメアが動く事態だとは理解していた。そうして輸送車が急制動を掛けて後進するとほぼ同時に、人類側と魔族側を隔てていた丘で大爆発が発生する。


「「「なっ!?」」」

『奴ら、やりやがった! どんだけ労力を掛けたんだよ!』

『わかりません! けど、多分年単位で時間を掛けたと思われます!』

『ちぃ!』


 だがそれだけ費やした秘策を簡単に切って良いと思わせるほど、俺達は敵として考えられているというわけか。レックスは舌打ちしながらも、敵もまたこちらを難敵と認識している事に獰猛な笑みを浮かべる。そんな彼であったが、しかし即座に指示を飛ばした。


『アイク! 砲撃戦だ! 超長距離での戦闘になる! 完全にしてやられた!』

『おう! お前ら、気張って行くぞ!』

『『『おぉおおお!』』』


 本来の想定としては丘の上を確保すると、そこを橋頭堡として前線基地を設営。現在の総本陣を後の備えとして、攻略戦を本格化させていくつもりだった。だったのだが、その橋頭堡が土台ごと吹き飛んでしまったのだ。しかも両者を隔てていた壁とも言うべき丘が吹き飛んだ結果、一直線に砲撃出来る様になっていた。そしてこれを行ったのが魔族側である以上、向こうの行動は迅速だった。


『<<雷鳴の谷>>より砲撃飛来! 全砲門容赦ない! ヒメアさん! こちらでも支援します!』

『お願い』


 先ほどまでの荒い返答から一転して、ヒメアから聖女と言うにふさわしい荘厳な声が響く。そうして直後。まさかの事態に呆けて足を止めた騎兵隊に向けて放たれる無数の砲撃の前に巨大な障壁を展開。一斉砲撃をすべて食い止める。


『総員に通達! 本陣は破棄する!』

「破棄?」

「レックス!」

『このままじゃ一方的に狙い撃たれるだけだ! 本陣を破棄して、前線基地の資材を使って奴らを目視可能な場所まで一気に攻め上がる! あれだけの事をしたら流石に他に罠は仕掛けられないだろうからな! 元とは少し予定が異なったが、ある意味予定通りだ!』

「なるほど……ちっ。しょうがない」

「おい、カイト!?」


 舌打ち一つで何かを決めたカイトが踵を返したのを受けて、瞬がその背に声を投げかける。そんなこちらでの騒動に、レックスが困惑を露わにした。


『なんだ!? 何があった!?』

「オレが出る! 前線を押し上げさせろ! あいつらに今無理させるわけにもいかんだろ!?」

『いや、こっちから誰かを出す! いや、駄目か! 俺が!』

「お前は前線基地の設営を急がせろ!」

『……ちっ! わかった! だがわかってるな!? お前が切り札だぞ!』


 現状レックスが出れば本陣の再設営に不足が生じかねない。だが四騎士達は四騎士達でなにかをしているらしく、動かすのは得策ではないと判断されたらしい。


「ソラ、瞬。二人共、いつでも発進出来る様に準備を整えておけ。少し戦線を押し上げる」

「敵、来るのか?」

「いや、まだ来ない。だがオレが出れば、出てこざるを得ん。オレに無策に主砲を撃っても当たらんし受けもせんからな。そして兵が出てくれば主砲も少しは抑えられる。自軍に当てるわけにもいかんからな」


 ぐっ、ぐっ。どうやらカイトとしても相当危険な任務になるらしい。何度か両手を握りしめて感覚を確かめて、数度とんとんとジャンプ。全身の筋肉をほぐす。


「姫様」

『了解。支援に回るわね』

「おう……お前ら」

『『はっ!』』


 ヒメアの承認を受けたカイトが飛空艇から降りる。そうして双剣の精霊の返答を受けて、双剣を抜き放った。


「おぉおおおお!」


 雄叫びと共に、天を穿つほどに強大な蒼い閃光が立ち上る。そうしてその横に白銀の天馬が舞い降りた。


『カイト・マクダウェル卿……<<勇者>>カイト! 出陣します! 総員、戦闘に備えてください!』

「えぇ……?」

「そ、それほどなのか……?」


 味方の出陣が警告として出されるレベルなのか。ソラも瞬も思わず頬を引きつらせる。そんな彼らに、後ろから声が掛けられた。


「すみません! 上を開けて貰って良いですか!?」

「え? あ、良いけど……どうするんだ?」

「直に見たいんです」

「あ、セレスティア様! 私も!」

「お、おう……」


 セレスティアの要請に、ソラは備え付けられていた上部ハッチを遠隔で開く。そうして外に出た二人を、強烈な魔力の波が襲った。


「「っ!」」


 息が出来ない。あまりの力に二人はカイトの近辺では呼吸さえ困難な状態である事を理解する。あまりに強い力に、呼吸という動作さえ奪いかねなかったのだ。そんな二人に、カイトが顎で指図する。


「おい、下がってろ。飛ばされても知らんぞ」

「「っ」」


 カイトの指示に、二人は大慌てで身体を飛空艇の中へと引っ込める。そうして二人が顔だけ出した状態になったのを見て、カイトはエドナに跨った。


「レックス。何分掛かる?」

『……わかんね。すまん』

「あいよ……さっきはああいったが、あんま時間掛かると最悪は二人で踊るしかないぞ?」

『なーんかなぁ。結局こうなんのよな……はぁ』

「いつものことだろ。オレ達の作戦が最初から最後まで完璧に、なんてことあったか?」

『俺、魔族以外なら結構完勝するんだけど』

「メイン魔族なのに魔族相手に完勝出来なきゃ無意味だろ」

『そうなんだよなー。ま、こっちはなんとか頑張る。10分。それだけ耐えてくれ。それで無理なら俺も出る。さっきも言ったけど、お前に過度に消耗されると本命本丸が攻略できなくなるからな』

「あいよー」


 本当にこれからこの男は一番危険な場へ進むのだろうか。そんな風に思わせるほどに軽い様子でカイトとレックスは笑い合う。


「さて、やりますか! はぁ!」


 カイトがエドナの腹を蹴ると、白銀の閃光となって音さえ置き去りにして一気に天へと昇る。その姿は正しく天馬。天を掛ける馬であった。そうして、作戦の根底から大きく狂わされた人類側の立て直しのため、カイトは単騎<<雷鳴の谷>>へと突撃を行うのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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