第3558話 はるかな過去編 ――合流――
カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達はその流れで飛空艇の陽動として使われる事になった輸送車の量産計画にも携わる事になり、北の砦攻略において重要な役割を担う事になっていた。
そうして作戦の始動から数ヶ月の月日を経て、シンフォニア王国にて数百台にもなる簡易量産型の輸送車の準備や古代の飛空艇の復元を終えた<<七竜の同盟>>は一路<<雷鳴の谷>>と呼ばれる特殊な地形に砦を築いた魔族軍との交戦に向けて出立。<<雷鳴の谷>>からの砲撃を避けるべく迂回してレジディア王国側に結集した戦力と合流したその戦力は、同盟の総戦力の3割以上という大戦力となっていた。
「すっげー……なんだ、この数」
「同盟の兵力のおよそ3割強を持ってきたんだ。残りだって何割かは中央からの増援を防ぐべく動いているから、この攻略戦全体でみれば半分以上の兵力は動かしている」
「プレッシャー掛かる事言うなよ……」
「あははは……ま、そんなもんオレ達にとっちゃいつもの事だ」
負けられない戦いを何十と繰り返してきて、そして最後まで立っていたからこそ未来で八英傑という英雄として称えられているのだろう。ソラはカイトの本当に慣れた様子に半眼になりながらもそう思う。
「まぁ、まだ俺の方は良いんだけど……あれは最後尾も最後尾に用意するんだよな?」
「ああ……といってもあれは最後の最後ギリギリまで調整を重ねるから、今も超大型の輸送車の中だ」
「あれね……やっぱでかいよなぁ」
カイトの視線の先をソラも見て、少しだけ苦笑が溢れる。二人が見る先にあったのは大型トレーラーにも匹敵するだろう十数メートル規模の巨大な輸送車だ。その内一台に、今回の切り札である飛空艇も収納されていた。というわけで何台か並ぶ超大型輸送車に、カイトは盛大にため息を吐いた。
「はぁ……未来のオレってのはどこまでぶっ飛んだ思考をしてるんだ、本当にさ」
「まぁ……俺らもこうして見ているから納得はするけど、ぶっちゃけこれを作り出せるかと言われりゃ無理かもなぁ……」
この超大型輸送車だが、元々はソラ達の意見で作られたものだ。当然だが飛空艇をむき出しのまま運べば情報は簡単に露呈する。なので最初は巨大な荷車を作って大型の地竜に引かせるかと考えていたのだが、ソラが輸送車に乗せれば良いと発言。ノワール達も何故そんな事を思い付かなかったのか、と笑ってそれに賛同してこの大型の輸送車が作られる事になったのだ。
製造する台数が両手の指も必要なかったので、元々の設計がさらなる大型化――どうせフラウが要求するだろうという想定――も念頭にしていた事もありノワール一人で数日で組み上げられたらしかった。
「陛下が非常に喜んでいたぞ。アクスト将軍の強い後押しもあり、今回の作戦が終了したら勲章を授ける、って意気込んでらっしゃった」
「マジかよ……俺ら単に未来のお前の発想をパクってるだけだぞ。俺達からすりゃいつもやってることだしな」
「そのいつもやっていることが今出来る様になってる事が重要なんだ。まぁ、ここまでの大動員がめったに無いから、あれを出すのはこの戦闘ぐらいだろうが……今後、小型の指揮車は重要になってくるだろう。色々と形は変えるんだろうがな」
カイトが飛空艇を運ぶ超大型輸送車についで見るのは、その横の少しだけ形が違う大型の輸送車だ。これもまた、ソラ達の意見により作られたものだ。その用途はカイトの言う通り、作戦全体の統括的な指揮を担う指揮車だった。
これはもちろん、冒険部がいつも作戦全体の統括的なオペレーションを行うための飛空艇や専用の荷車を参考にして組み上げられたもので、輸送車以外は技術だけであればこの時代でも普通に再現可能なものだ。ただ誰もそういった専用の物を作り移動させられる様にしようという発想がなく、陣地設営の際にテントなどで簡易の指揮所を作るのがせいぜい。何故作らなかったのか、とこちらもまた誰もが目からウロコという状態だった。
「レックスの奴も驚くだろうな」
「視察から数日空けたらいきなりこれだもんなぁ」
「あははは……」
この超大型の輸送車や指揮車はレックスの視察のときにはなかったらしい。というよりあの時には話しも出ていなかったようだ。というわけで数日目を話した隙に出来上がっていた大型の輸送車数台にレックスが驚く事は当然だっただろう。そうしてソラの言葉に笑うカイトだが、そんな彼が気を引き締めた。
「だが……だからこそこれで無理ならもう無理だな。未来のオレの発想に、この時代のほぼほぼ総戦力。これ以上はもう捻出出来ん」
「……どれぐらいが生還出来そうなんだ?」
「……わからん。今回はこの戦いが始まって最大の反攻作戦だ。正直同盟に帝国まで戦力を供出してくるとは思わなかった。さらには幾らかの国からの増援もある」
「ほかも?」
「覇権とかそういうのはどうでも良い、って国は多いんだよ。それより戦争を終わらせてくれ、って国はな」
「そっか……そうだよな」
こんな情勢だし、攻めて来ているのが異界からの侵略者だ。しかもその魔族達が色々な所に忍び込んで暗躍しているせいで、どの国も疑心暗鬼に陥っている。だがその内部には戦争の終結を望む国は少なくなく、対魔族での戦闘に戦力を供出する国が多いのは当然の事だった。
「そうだ……だからそういった国の希望も背負ってる。プレッシャーを掛けるようで申し訳ないが、頑張ってもらうぞ」
「……おう」
カイトからの期待に、ソラは少しだけ緊張しながらも応ずる。と、そうこうしていると、だ。少し離れた所から一つの巨大な黒い馬が走ってくる。そしてその背に乗った男が、こちらに気付くや否や声を張り上げた。
「おーい! カイト!」
「おう! って、来る奴があるかぁ!」
「あはははは! ま、俺達の仲だ。気にすんなよ……それにあんなの見せられりゃなんだこりゃ、ってなるって」
総司令官が直々に出迎えに来るなんて馬鹿はやめろ。そう告げるカイトの言葉に、レックスが楽しげに笑う。そんな彼の視線は先ほどカイト達が見ていた超大型の輸送車に注がれていた。
「はぁ……まぁ、来たんだ。そこらの話をしちまうか。そっちの将軍達とか必要な奴は?」
「集めてる。いつでも会議を始められるぞ」
「よっしゃ……じゃ、やるか」
「おうよ」
カイトとレックスが拳を突き合わせ、改めて気合を入れる。そうして同盟各国の軍勢が終結し、北の砦攻略の最後の打ち合わせが開始されることになるのだった。
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