第3557話 はるかな過去編 ――行軍――
カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達はその流れで飛空艇の陽動として使われる事になった輸送車の量産計画にも携わる事になり、北の砦攻略において重要な役割を担う事になっていた。
そうして北の砦攻略に向けて様々な作戦が打ち出される様になりついに攻略作戦が実行に移されたわけであるが、ソラ達は冒険者達の隊列ではなくカイト達の騎士団に混じって行動していた。
というわけでカイト達の騎馬隊に交じる形で地竜に乗る一同だが、そんな中でリィルが瞬を見て少しだけ上機嫌に笑った。
「ふむ……なんというか今まで軽装備しかしてこなかったが……そうしていると騎士とまではいかずとも兵士に見えるじゃないか」
「そう……か? 自分じゃ特に実感はないが……どちらかというと重くて息苦しい。俺もリィルほどの軽鎧が良かった」
「これは一品物だし、防御性能ではそちらが勝る。騎馬兵用の物だしな」
今回騎士団の一員として行動している関係で、いつもの防具ではなくアクストが騎兵隊や竜騎士部隊が着込む鎧を貸与してくれていた。特に今回は彼らが切り札も担うのだ。偽装工作の一環も兼ねていた。というわけで着慣れない重苦しい鎧に顔を顰める瞬は、自身より更に重装備のソラを見て少しの称賛を胸に抱く。
「ソラ、お前はいつもこんなのを着ているんだな」
「そうっすねー。でも着慣れると楽っすよ、これはこれで」
「そうなんだろうか……いや、やはり慣れん」
「まぁ、そのかわり戦わなくて良いってんですから我慢しましょうよ」
「これなら戦った方が楽なんだが……」
どうにも重くて堪らん。瞬はソラの言葉に道理を見ながらも、自分の所感としてはいっそ戦わせてくれと思わなくもないようだ。とはいえ、同盟軍としてみれば彼らが怪我をされて操縦に不足が生ずる方が大問題だ。戦ってくれるな、という言いつけは守らねばならなかった。
「だがそれで言えば……セレスティア。お前は重鎧は慣れているのか?」
「昔は慣れませんでしたが……エネフィアに飛んで数ヶ月で慣れました。元々騎馬や騎竜は嗜んでいたので特に不足はありませんでしたし」
「やはりそうなのか」
元々セレスティアの装備はカイトや瞬と同じく軽装備で、回避を主体とした戦闘を行う。なので重装備は慣れない装備のはずだが、エネフィアで自身の装備を大鎧とした関係で慣れたらしい。
「それに何より、巫女服を使うわけにもいきませんでしたし……偶然出会った腕利きの職人に依頼して大鎧を拵えて頂きましたので、見た目ほど重くはないんですよ、これ。今はもう使う意味もなくなってしまったのでこれに改造してもらいましたが」
瞬の問いかけを受け、セレスティアはかつて使用していてカイトとの戦いで破損してしまっていた大鎧を改良した鎧を見る。
基本今も軽鎧を主体として戦う彼女だが、あの大鎧は元々少し良い品だったらしい。そのまま廃棄処分ももったいない、とフラウらの手により改良が加えられ、グレイスら女性騎士の中でも回避主体で戦う者たちと同じような改良が施されていた。というわけで弓兵である由利を除いてほぼ全員がきちんとした自前の鎧を着ているのを見て、瞬は少しだけ嘆息する。
「そうなのか……やはり一品物になると違うか……」
「先輩はどこからどうみても冒険者っていう装いでしたもんねー。冒険者なんだから正しいんでしょうけど」
「まぁ、な……やはり慣れん」
ソラの言葉に応じながらも、瞬は相変わらず顔を顰めたままだ。と、そんな所に騎士団長かつ今回は流石に戦いに同行する事になったヒメアの警護を務めるカイトが近付いてきた。
「よう……なんだか不満そうだな」
「いや、やはりこの鎧は慣れなくてな」
「そうか……まぁ、防具ばかりは個々に調整しないと駄目なものだから、慣れないのは仕方がない。それより下手に襲撃を受けない様にする方を優先してくれ」
「わかった」
やはりどうあってもこの防具は脱げないらしい。瞬はカイトの言葉にため息を吐きながらも納得を露わにする。というわけで納得した彼がカイトへと問いかけた。
「それでどうしたんだ? わざわざこちらに来るなんて」
「どうにも<<雷鳴の谷>>側で動きがあったらしい。こちらの動きに気付いた……んだろうな」
「そうか……大丈夫なのか?」
「大丈夫か否かで言えば……まぁ、大丈夫だ。相手がやること。こっちがやることは変わらない。それはどちらもわかっている。だから向こうは悠長なもんだ」
どうせ軍を動かす事なんてかなり前から気付かれていただろうし、魔族側にとってみればいつ攻め込まれてもおかしくないのだ。相手が<<七竜の同盟>>だというだけで、なにも問題はなかった。というわけでバレている事に対して気楽に構えるカイトに、瞬が問いかける。
「あれはバレてないのか?」
「多分な……古代の遺物ぐらいはバレているかもしれんが、あれの詳細は守り通せているはずだ」
「そこは厳しいのか」
「そのために復元は殆どノワールとサルファだけでやったし、ほぼ常時地下のあの空間はサルファが見張ってるんだ。これで抜かれたならもう諦めも出来る」
やるだけやっても情報が盗まれたのだ。そして情報局にさえ情報が盗まれていない事はカイト達も知っているし、こちら側に与する情報局の局員達もわかっていない。大丈夫と信じるしかなかった。
「そうか……それでレックスさん達との合流はどこになるんだ?」
「ああ……地図を出せるか?」
「ああ……よっと」
カイトの求めを受けて、瞬は小型の地図を開く。そうしてカイトが現在位置を指し示した。
「今の位置はここ……ここからまっすぐに進めばいくつかの砦を通って……<<雷鳴の谷>>に到達する。だが流石に無策に押し通れるほど砦は甘くない。何より厄介なのは、この直通の経路は狙撃に対して無防備も良い所だ。最短ルートを通る事は出来ない」
「確かに……この経路だと一直線に平地を通るから、狙撃してくださいと言っているようなものか」
「ああ。だからこの砦で大きく迂回。ここでレジディア王国側に集結したレックス達と合流する」
ここから先。いくつかある関所の内の一つで、<<雷鳴の谷>>へ向かう最短ルートから外れてシンフォニア王国や北のエザフォス帝国へ向かうルートへ移動。そこでレジディア王国側から進軍するレックス達と合流。<<七竜の同盟>>という戦力に再編成し、指揮系統などもそれに合わせた形へと再構築。レックスを名目上の最高指揮官――実際には彼も出るので各将軍達が実務を執り行う――として、砦の攻略に取り掛かるのであった。
「この合流までがおよそ一週間……という所か。そこで一度大休止を挟む。それで……これは内々だが、今回の作戦には帝国側も一部兵力を供出する」
「あっちも出るのか?」
「ああ。向こう側としてもあの要塞を座視する事だけは出来ん。何よりあの要塞にある魔導砲はガッツリあっちの国境を捉えているから、最前線に要塞が構築出来ん。ま、出来ないのはどの国も一緒だがな。何よりあれを一国で攻略は流石に厳しい。主導はしないし攻略したという名誉はウチにやるが実益は欲しい、って塩梅だろう」
「なるほど……」
とどのつまりある程度兵力を派兵しておいて、戦いがもし勝利で終わった場合に周辺地域全域をすべて<<七竜の同盟>>に取られる事を防ごうというわけか。
だがそうなると流石に戦いが終わってからでは間に合わないし、大義名分も欠く。なのである程度は兵力を派兵して戦いには参加したと言い張れるだけの兵力の派遣が必要なのであった。
「とはいえ……そうなるということは今回の作戦。あの帝王二人も勝てる可能性はあると判断しているというわけか」
「ということなんだろう。有り難い話だ。おそらく腕利きが来てくれる……んだろうなぁ……そうだと良いなぁ……」
瞬の言葉にカイトは困り顔だ。というわけで腕利きの護衛を出してくれる事を望みながらも期待するだけ無駄と考えるカイトは、すぐに気分を切り替えた。
「そりゃ良いか。ひとまず他人の戦力当てにしても碌なことにゃならん。自分達でなんとかせにゃな……ああ、すまん。それでそういうわけだから、合流後に一度会議を行う。それに同席してくれ」
「わかった……それは良いんだが、どうするんだ? おそらくかなりの人数だろうし、野営地なんて設営してる時間もないだろう?」
「オレの持ってる異空間を使う。あそこなら常時で会議室やらを準備出来るからな」
「そうか」
確かにあそこであれば、会議は出来そうか。瞬はカイトの言葉に応じる。そうして、そこから一週間ほどはただただ移動に時間を費やす事になるのだった。
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