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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3557話 はるかな過去編 ――前夜――

 カイト達主導で行われている北の砦攻略作戦。その重要な要素を占める古代の飛空艇の復元に携わる事になったソラ達はその流れで飛空艇の陽動として使われる事になった輸送車の量産計画にも携わる事になり、北の砦攻略において重要な役割を担う事になっていた。そうして北の砦攻略に向けて様々な作戦が打ち出される様になり、ついに攻略作戦が実行に移される事になる。


「大魔王様」

「良い、下がれ」

「……御意」


 未来のカイトとの会合を唯一魔族側で正確に記憶する大魔王は、魔王城の最奥に控えながらも笑みを隠す事なく伝令に現れた魔族の兵を下がらせる。この魔族の兵もまた、理解していた。大魔王がこの世界侵略における最大の障害たる<<七竜の同盟>>による大反抗作戦の存在を。とはいえ、だからこそ彼は敢えての放置を選択する。


「雷鳳」

『はっ』

「敵が来るぞ」

『御意……随分とご執心のご様子ですが、倒してしまっても構いませぬな?』

「無論だ」


 随分と良い顔をされる様になったものだ。雷鳳は魔術的な映像を介して送られてくる大魔王の魔族らしい獰猛でありつつも、それでいて覇者の余裕さえ感じさせる笑みを見てそう思う。


「貴公で潰えるのであれば、かつて我が先達を倒したかの雷神と並び立つ事なぞ出来はせん。ならば我が戦うに値せぬ。存分に奮え」

『御意』

「策は必要か?」

『必要ありませぬ。奴らの策とておおよそ読めている。後はこちらの手札でそれを凌ぎ切れるか、という程度でしょう』

「そうか……ならば貴公の奮戦に期待する」

『ありがたきお言葉』


 大魔王のすべてを一任するという言葉に、雷鳳は深々と一礼する。そうしてそれを最後に通信は途切れ、<<雷鳴の谷>>に作られた砦の司令室に僅かな笑みがこぼれた。


「随分と変わられたな」

「あん?」

「大魔王様よ。最初、ただ何事にも冷酷非情な御仁であったが……あの戦いでなにかが起きたのであろうな。良い顔になられた。我らの王にふさわしい顔にな」

「あの顔か……確かに随分と俺達に似た顔をされる様にはなられたな。ファクティスに聞かれりゃ怒鳴られるかもしれないがな」


 力こそを至上と捉える魔族達だが、だからと人徳が通じないわけではない。いや、力が強いからこそ、彼らの方が人徳などを重要視する風潮は強かった。自分が惚れ込んだ相手だからこそ仕えるに足る、と考えるのである。


「不思議なものよ。あの戦いを機に、魔族は少し変わったのかもしれん」

「世界が壊れちまったから、俺達魔族という種族的なもんも壊れちまった、ってか?」

「それはあり得ぬであろうが……さてこれが良き事か、悪き事か……それはわからぬが。少なくとも変わった事は事実であろうな」


 少なくとも自分が思う存分、この一戦を最後にしても良いと覚悟するほどには自分も変わった。雷鳳は自身の闘気が今までで一番高まっている事を自覚する。


「おいおい……楽しそうだな」

「うむ……今までは単なる闘争でしかなかったが。気にはならんか? 大魔王様が唯一執心するかの勇者の底力とやらを」

「確かに、な」


 正しく老将というにふさわしい獰猛な笑みを浮かべる雷鳳の問いかけに、ヴアルは少し楽しげに笑って同意する。そうして、彼は眼の前に置かれていたグラスに酒を注いだ。


「おい、雷鳳。もし生きてたら、また飲もうや」

「うむ……そうじゃ。ヴアル殿」

「なんだ?」

「もし儂が死んだら、一族の剣士何名かを魔界に送り返す様に手配しては貰えんか。何名かは儂と共に死ぬには惜しい」

「なんだ。縁起でもねぇな……が、まぁ良いわ。老い先短いジジイの妄言。酔った勢いとして聞いておいてやるよ」

「かたじけない」


 ヴアルの気まぐれにも似た返答に、雷鳳が深々と頭を下げる。そうして両者は魔族にはあり得ぬほどに穏やかに酒を酌み交わし、これが両者にとっての今生の別れとなるのだった。




 さて魔族達が魔族らしからぬ別れを交わしていた一方その頃。人類の英雄二人はというと、こちらはこちらで人類足り得ぬ獰猛さを交わしていた。


「「……」」


 蒼き極光と紅き極光の二つが天高く立ち上り、闘気の激突が空間を引き裂き次元を穿つ。それは常人であれば戦闘前の闘気だけで呼吸停止に陥りかねないほどの力だったが、その戦いを見守る者たちにとってはそよ風の如くであった。


「今回、どちらが勝つと思いますか?」

「さぁなぁ……ウチの大将今回あんま前線出れそうにない、つって残念がってたからその憂さ晴らししそうだしなぁ」

「殿下の事だ。出れそうにない、と言っているだけでどうせまた出るだろう」

「違いありませんね」


 戦いを見守る者たち。すなわち二つの国の四騎士達はまるで戦いを待ちわびるかの様に雑談に興じていた。そしてこの二人が戦う以上、場を整えるのは彼女の役目だった。


「やりすぎて怪我しないでよー。特に赤い方のバカ。私じゃ治療出来ないんだからねー。大怪我するなら青い方のバカだけにしなさいよー」

「聞いてねぇよ、あにぃたち」

「ですねー。特に今回の一戦、<<雷鳴の谷>>の攻略は今後を考える上でもはや絶対勝利が条件になってしまいましたしー」


 なんでこの人たち平然と紅茶――アイクとフラウに至ってはお酒――を飲んでいるんだろう。どういうわけか同席させられていたソラは四騎士達の様子にも八英傑達の様子にもただただ置いていかれていた。そんな彼に、ヒメアの世話を行うメイドの一人が問いかける。


「天城様。お飲み物の方は如何なさいますか?」

「あ、いえ……大丈夫っす……」

「すいませんねー。レックス様もカイト様も出征前夜はこうして模擬戦される事が多いんですよー」

「そ、そうですか……っ」


 ベルナデットの言葉にソラはついに始まった二人の模擬戦で弾け飛んでくる魔力の塊が頭上を飛んでいくのを見て、思わず固まる。というわけで固まった彼であるが、おずおずと周囲を見回してみる。


「「「……」」」


 あ、良かった。自分はおかしいわけじゃないらしい。ソラは自分同様に固まった瞬らを見て、変な安堵を抱く。というわけでもはやただ状況に流されるだけになった一同に、ノワールが頭を下げた。


「まずは皆さん、この度はありがとうございました。お陰で作戦準備は完了。残すは決戦のみとなりました。相手は非常に難敵である大将軍の雷鳳。戦闘技術であればおそらく随一です」

「それと、カイトは戦うんっすよね」

「はい。そして皆さんの役目はその支援です」

「「「……」」」


 その戦いの支援が、今回の戦闘における自分達の役割。ソラ達は改めて自分達が行うこの任務の重要度と危険性を理解し、僅かに生唾を飲む。


「飛空艇の突撃に成功すれば、魔導砲を使用不能に陥らせる事が出来ます。そうなればレックス様や四騎士達であれば一気に攻め上がれる。ですがおそらく敵とてこちらを警戒する。間違いなく雷鳳が打って出る。カイト様は雷鳳との戦いで精一杯。最悪は飛空艇をぶつけてでも破壊してください」


 飛空艇の操縦は瞬とソラの二人に変わりはない。輸送車の操縦で一番適性があったのは確かに由利だが、反射神経はパーティ最速の瞬と鉄壁を誇るソラの二人が高い。無数の魔弾を回避しながら飛ぶという回避行動が前提であるのなら、この二人が適任だった。


「では、後はお願いします。こちらも後方から全力で支援します」

「「はい」」


 ノワールの言葉にソラ達が応ずる。そうしてその日の会合は手短に終わり、その後は細やかな出征の前祝いとして料理が振る舞われる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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